大きな赤い点の正体は
地球語(英語/日本語)での会話(聞き取り)を「」で、グラウギリスの言葉での会話を『』で表記してます。
音を立てないように走りながら通路を進み中央の大きな空間に向かう。
姿消しの効果もあり、途中すれ違うワルノー団構成員達には全く気付かれていない。それにしたって、警戒体制がしかれているようでいて結構ゆるゆるだ。ここまで入って来られる奴はいないと高を括っているのだろう。
難なく進む俺達。通路の両脇には部屋があり、幾つかの部屋の中から呻き声や泣き声が漏れ聞こえて来る。マップ上にはそれぞれの部屋に赤い点と白い点が表示されている。ワルノー団構成員と捉えられている人だ。
アーテルが『シュバルツ隊長、私にこちらの対処をお任せいただけないでしょうか』と言う。
この辺りのマップ上の赤い点はどれもそれ程強くはないようだ。彼なら一人でも問題はないだろう。シュバルツの『よし』という言葉と同時にアーテルが動く。別行動で捉えられている人達を救う為だ。
俺は視覚の左上にアーテル視点の映像を映し出し録画を開始する。
各部屋に鍵は掛かっていないようだ。アーテルはまず大きな叫び声があがった部屋にするりと侵入した。中は実験室、或いは処置室の様だ。大小の器具があり2〜3人の男達が檻に入れられている。
そしてベッドに仰向けに寝させられている男が一人。その周りを数人が取り囲んで呪文を唱えていた。ベッド全体が青い陣から出る光に覆われていて、寝ている男の脚を切り取りそこに何か動物の脚を繋げようとしているらしい。
取り囲んでいる奴らは呪文を唱える事に集中していて、ドアが開いて閉じた事に気付いていない。脚を切られた男は顔を歪めて叫び、やめろやめろと繰り返している。
『痛みはなかろうに。心配するなすぐに新しい脚を繋いでやる』と一人の魔道士が笑いながら言った。
呪文が高まり傷口と動物の脚が嫌な紫に光りながら近付けられる。呪術的な結合手術か。何のためにそんな事をしているのか。
アーテルはすぐに手近な所からベッドの周囲に立っている奴らの意識を刈り取って行く。呪文が止まるまでに僅かな時間しか掛からなかった。脚をつけようとしていた者達は、急に呪文が止まり陣の光が消え始めた事に慌てて周囲を伺ったが、何が起こっているのかは理解出来ないままアーテルに殴られ意識を失った。この者を生かして捕らえておけば尋問が可能だ。
俺はアーテルに『被害者の切られた脚はあるか?』とインカムで尋ねる。周りを見回しすぐに下に落とされていた脚を見つけ、アーテルが『ある。どうする?』と聞いて来た。
元のあるべき位置に並べて置いてもらう。『左右間違えないように』と言うと、すぐに『置いたぞ』と返って来た。『了解』と言って俺は脚を元通りに戻す。さっきの呪術の嫌な紫色ではない明るく熱い光で、完全に元通りに機能する脚を繋げた。まあ、数秒の事だ。
そしてベッドの上で泣き叫んでいた男は気が抜けたのか意識を失った。
『…これは』とアーテルが呟いた。
目の前で起こった事が信じられないのか、数秒黙って完全に修復されている男の脚を視覚に収めていたアーテルは、すぐに意識を切り替えたのだろう。城に来ている黒騎士団に通路の奥の情報を伝え、それから他の部屋にも侵入をし次々と制圧して行く。出来る男だな。
アーテルの動きと共に、マップ上の赤い点がそれぞれの部屋でまとまって動かなくなって行くのがわかる。うん、素早く的確に行動する、やっぱ出来る男だ、アーテル。
『君の手持ちの回復飴を強化して数も補充しておいたから被害者達に使ってくれ。足りなければ言ってくれれば更に補充する』と伝える。
『まさか、空間転移魔法か!?』
『まあ、不思議なビスケット魔法ってとこだ』
『フシギナビスケット…それが呪文か。なるほど!』
違うが、まあいいだろう。
「普通に空間魔法とか転移魔法だって言えばいいのに。アーテルきっと後でフシギナビスケット!って言いながら魔法の練習するぞ」と史朗が日本語で言う。
いいじゃないか、俺はあの歌が好きだったんだ。ワクワクしたんだ。
それより、やがて黒騎士団も乗り込んで来るはずだし、あそこは彼らに任せてこの先に意識を切り替えようじゃないか。
ーーーーーーー
中央に向かって進むに連れてとても嫌な臭いがし始めていた。大きな扉の前まで来ると悪臭はここから漏れて来ている事がわかる。あの魔道士達から臭って来た腐臭と同じ臭いだ。だが、より強烈に臭ってくる。全員が無言で素早く透明丸ヘルメットを作動させた。『これがあって良かった…』という呟きがインカムから聞こえた。
分厚い大きな扉を、すぐさま史朗が蹴破る。派手に音がして扉が跡形もなく砕け散った。シュバルツとネロが驚いたのか、『レベル600越えだとこのでかい扉もこんなもんか』『しかし、蹴破らなくても開いたのでは?』『…だよな』と小声で言っていた。まあ、そこら辺は史朗のロマンの問題だから目を瞑ってやって欲しい。
俺達はそのまま止まらず中に侵入する。最早、姿消しは有って無きが如しだが、取り敢えずこのまま続行だ。中にいた魔道士と思われる奴等が扉の方を見上げて固まっている。扉が爆破されたようなものだ。しかもそこには誰の姿もない。
俺達は室内を見回す。中は天井が高くかなり広い空間になっていて、入って来た所は中央の広い場所を囲むようにある二階の通路の位置だった。更に三階、四階、五階の通路もある。格納庫のような作りだ。
『あれは一体なんだっ!?』とグレゴリーが小さく叫んだ。
部屋、いや格納庫の中央には、でかいでかい植物、いや花の魔物がいた。高さが俺たちのいる二階よりもずっと高い。15メートルはあるだろう。そして毒々しい赤と紫の巨大な花が咲いている。花の直径は4〜5メートルはありそうだ。そして周囲には小さめ…と言っても直径1メートルはありそうな花や蕾が数個ある。
花魔物の周囲に魔道士達が複数の魔法陣を展開し檻のように囲ってある。封じてあるという事か。管が何本も繋いであり、そこから樹液や蜜を吸い出して採取しているようだ。
こいつがマップに出ていた大きな赤い点の正体か。
一階部分には檻があって閉じ込められている人達がいる。では、小さな赤い点、魔道士達が運んでいた白い点が消えていったのは、まさかこの花魔物のエサとして与えていたということか!?
追記:
もちろん、ワクワクする「あの歌」の曲名、「不思議」なのは「ポケット」です。確か曲名そのものや歌詞が出てはいけなので。
ちなみに、ビスケットは叩かれると増殖する系の、ただの魔物の一種ですよね。←(違)




