00 始まりと終わり
季節は巡る。
規則正しく、狂いもなく。
そしてそれぞれの国の民は、己の季節が終われば次の巡りまで深く眠る。
それぞれの国には巫女が存在し、彼女らの眠りと目覚めが巡りの合図。
祈りを捧げ続けた春の巫女に、その兆しが訪れた。
「おはようございます、夏巫女」
『おはよう、春』
『お疲れ様、おやすみ』
遠く離れた夏の国から声だけが届く。
久しく会っていない、もう会うことが叶わぬ古き友の声を子守唄に、春巫女は意識を手放した。
寄り添っていた春の聖獣、青龍もまた巫女の傍らで守るように眠り始めた。
それを見届けた巫女の側付からの御触れは春の国に広まり、民もまた、巫女と共に眠りに付く。
彼らは夏も、秋も、冬も体験したことがない。
眠ってしまうのだから、国を移ることもない。
けれど誰も、それを疑問には思わない。
これが世界の理なのだから。
「ねぇ秋」
『なぁに?夏ちゃん』
「冬は、元気にしてる?」
巡りの時にしか声が届かぬ。
つまり、隣り合わぬ季節では会話すらできない。
『キミの妹は元気だよ、夏ちゃん』
いつも寂しそうだけれど。
そう続いた言葉に、まだまだ幼かった妹しか知らない夏の巫女は、痛む心を静めようと目を閉じた。
会いたいと願うことは、もう諦めてしまった。
喚び出されてしまったあの日から、もうどのくらいが経っただろう。
『夏ちゃん、おやすみ』
寄り添う朱雀に身を寄せて、夏巫女は深く眠る。
秋の巫女には、他の季節よりもほんの少し仕事が多い。
実りの多い秋には、食料の収穫と他国への供給が任されている。
秋の巫女には、そのために国を駆け回って見守る義務があるのだ。
「……?」
冬との境に差し掛かった秋巫女の目が、冬の国で蠢く影を捉えた。
他の季節には国全てが眠る筈。
心を過る不安を飲み込み、白虎に跨がりその場を後にする。
他国に干渉するには、それなりの理由が必要になる。
それ程の大事ではないかもしれないから。
「夏ちゃんが心配してたよ」
『…』
「冬ちゃん」
代われるなら、代わってあげたかった。
彼女が泣き続けた最初の100年、ずっと願った。
けれどそれは聞き届けられることはない。
「冬ちゃん、ごめんね」
『…あき、ねぇ』
泣き虫そのままの声に、ほんの少し秋巫女は微笑んだ。
慰めるように頬を舐める白虎と共に、秋の役目は終わっていく。
『あきねぇ、はるねぇ』
『会いたい、どうして、なつねぇ』
「こんな世界、いらない」
「おねえちゃんに会いたいだけなのに」
「いらない、いらない、いらない」
壊れてしまえばいい。
「あ、あ、あああああああああああああああ!!!!!」
『…冬?』
悲鳴と、世界が壊れる音がした。
全ての巫女が同時に目覚め、終わらぬ冬が訪れる。
スローペースに更新していきます。




