ねました。
夕食も終わり、やっぱり、寝床で揉めた。
「ダメだよ。床で十分」
「椅子でも大丈夫だから」
「聞き分けないなら、抱いて寝るよ?」
「……うぐぅ」
などというやりとりの末、私は寝台に、彼は床にと言う話にはなったのだけど。
どこからそんな言い回しがでてくるのだろうか。
記憶は喪失していても学習した言葉は失われていないと考えると大変興味深い。
「これから、どうするの?」
火を弱めた暖炉が忘れた頃にぱちりと音を立てる。外で虫の音が聞こえてくる。
今までなかった他の誰かの息が聞こえることに緊張していた。
何かされるのではないかという恐怖心もないわけではないが、それを気にするならば、さっさと追い出すべきだった。
「ここに置いてくれたら嬉しいけど、このままじゃムリなのもわかってる」
「一人が精々だから、ずっとはちょっと困る」
「ん」
ぱちりと薪がはぜた。
「まあ、明日、考えましょ」
私だって整理がつかないことばかりだ。どうせ来るなら一ヶ月後くらいの方が良かった。
……いや、即この家を出た気がする。思い出がありすぎて、いることができない。
そんな自分に失望する。
まるで、彼らのようではないか。
血迷って何かしでかす前に死んだ方がよいのではないか。
「……大丈夫?」
少しためらったような気配を感じる。
ごそごそと身動きするような音にぎくりとした。
「うん、明日も早いからもう寝るね」
「ん、おやすみ」
良い場所をさがしているのかしばらく、ごそごそしていたようだった。
私は睡魔にすぐに誘われてしまった。
とても小さな頃、見つけた石がある。
白と青が混じった綺麗なそれを飾るように台座が作られ、庭に飾られた。
私だけの庭。
すぐそばのちいさな家に母様と二人で住んでいた。
少し離れた大きな家に父様が住んでいると聞いていたけれど、そのころは会ったことはなかった。
時々、母様がひとりでいく日があったけれど、その日は別の人がやってきた。
子守と兄だと名乗る少年。
そのうちにその友人と名乗る少年が増えて。
最後に見知らぬ少女が増えた。
それがおしまいの始まり。
いつしか、母様と大きな家で暮らすようになった。
嫌なことが、いっぱいあった気がした。
良い事が少しあった気がした。
泣いて庭に行けば、慰めてくれるように、見えない誰かが頭を撫でてくれた。
涙をぬぐう指を。
聞いたことのない言葉を。
確かに、覚えている。
妖精かなにかと思っていた。
それが精霊であったと知った時、笑いがこみ上げてきた。
あとのことはそんなに覚えていない。気がつけば、ここにいて、宥めるように。
どうしたのだろう?
「……んー?」
朝だった。
懐かしい夢を見た気がする。外はもう明るいのか窓の隙間から光が漏れている。
「あ」
寝台から降りて一歩踏み出して思い出した。
それは既に踏んだから思い出したとも言う。
「……むぐぅ」
などと呻いてそれはもぞもぞと端に避けた。
「ごめんなさい」
「大丈夫じゃないから、ちょっとほっといて」
どこを踏んだんだろうか? 知るのが恐いような気がして、もう一度謝罪して離れる。
窓を開けて外に出る。
今日も快晴だった。