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「私、悪役令嬢になるわ!」




「は?」




 公爵令嬢であるリラ・オーウェンは決めた。



 私はある小説にハマっていた。

 王子と平民上がりの男爵令嬢が恋に落ちる。

 2人は色々な障害物を乗り越え、幸せになるというお話。


 そこで、本題に戻る。




「転校してくるの、ついに」




「一から分かるように説明して」




 呆れ顔で優雅にお茶を飲みながら足を組む、それすら絵になるような、目の前の男性。

 それが、この国の第二王子エドウィン・アルバート。

 エドとはお茶飲み友達で、王子だけど気さくで話しやすくて、敬語もとっぱらって話している。




「なんでそんな面倒臭いことするわけ。だって、その悪役令嬢だっけ、最後にはひどい目にあうんだよね?」




 その小説の内容を話したら、フン、とエドは鼻で笑い、目の前のクッキーに手を伸ばした。




「私が楽しいから。だって間近で見られるのよ、恋愛小説みたいな恋愛を」




 紅茶にお砂糖をぽとん、ぽとんと五つ入れてかき混ぜる。

 ティーカップの底でじゃりじゃり音がするけど気にしない。

 これが美味しいんだから。




「悪役令嬢ったって、小説みたいに虐めたりはしないわよ。平民上がりだと、貴族の振る舞いが完璧には身についてないかもしれないでしょ。だから、教えてさしあげるの。ちょっと嫌な顔をされるかもしれないけれど、それだけでは罰されることもないはずだわ」




「君って、見た目だけだと冷酷なように見えるし、虐めてるように見えなかったらいいけどね」




「失礼ね、こんなに可愛いのに」




 けど、確かに。

 砂糖の音がしなくなった紅茶に口をつける。

 腰まである銀髪のさらさらの髪に、空を映したかのような青い瞳。目はぱっちりとした二重だが、それが少しだけつり上がっている。少しだけよ。

 この容姿のせいで、初対面の方には怯えられることも多い。




「まあ、もし罰されそうになっても助けてくれるでしょう」




「誰が」




「エドが」



 目の前の友人は普段は憎まれ口ばかり叩くけれど、私が困っている時にはいつも手を差し伸べてくれる。

 にっこり微笑むと目の前の男は深い深いため息をついた。




「君は僕を信用しすぎだよ」




「あら、エドにとっての一番のお友達って私でしょう。その私が無実の罪で断罪されるのを黙って見ているなんて貴方には絶対出来ないわ」




「そこまでの絶対的な自信はどこから来るんだろうねえ。一番のお友達か。それはどうだろう」





 わざとらしく肩をすくめる彼。

 それは聞きずてならない。





「私よりも仲の良いお友達がいるの?」




「妬いてるの?」




「そんなわけないわ。話を逸らさないで」




「逸らしたつもりはないんだけど。うーん、いると思う?」




「思わないわ。貴方とっても性格が悪いもの、そんな貴方と友人関係にあるのなんて私くらいしかいないわ」




「急に悪口かあ、傷付くなあ、で、それ誰が言ってたの」




 ぎくり。

 傷付くと言いながらも彼は全く悲しそうな素振りはせず、それどころかにこっと笑ってみせた。

 その笑顔が爽やかであるのに、どこか黒く見えるのは気のせいだろうか。

 しかし何故分かったのだろう。

 言っていたのは友人のアリア・フーチェ侯爵令嬢である。

 彼女は何故かエドをとっても毛嫌いしているのだ。




「ふうん、やっぱりね。大方アリア嬢あたりかな」




「なっ!違うわ!私が常々貴方は性格悪いなあって思ってるだけよ!」




「嘘をつく時耳触る癖、昔っから変わってない」




 気づかなかった……

 言われて慌てて耳を触っていた右手を下ろし、膝の上に乗せた。



 すると呆れたように彼は、ま、この話はもういいよ、と言った。

 そうね、脱線しすぎよ。おもにあなたのせいで。そう思ったが、口には出さなかった。

 けど彼には筒抜けだったらしい。

 君のせいでもあるよ、と一言。




「そもそも君は兄上の婚約者でしょ。兄上のこと、好きじゃないわけ」




「うーん、アル様は私のことお嫌いでしょう。だから、そのような方のことを私もあまり好きにはなれないわ。まあ、元々政略結婚だしね。それもあって、今回男爵令嬢を推すのよ」




 頭に彼の兄であり、私の婚約者の第一王子を思い浮かべる。

 アルフレッド・アルバート。

 金髪のふわふわした髪に深い青の瞳。

 容姿だけなら完璧な王子様だ。容姿だけならね。

 彼は会う度に私を睨みつけてくるのだ。





「ふうん」




「なによ」




「なんでもない」




 ふっと目を逸らされた。




「あら、いつの間にかもうこんな時間。今日は帰るわね」




 夢中になって話し込んでいたらしい。

 もう夕方になっていた。




「うん、また学園で」





 第一王子と私の関係は冷めきっている。

 所詮政略結婚だが、私も最初は歩み寄った。

 しかし向こうが拒絶の態度しかとらないのだ。




 それだったら、本当は私だってゆくゆく王妃になんてそんな重責背負いたくもないし、だからそこで、学園入学予定の男爵令嬢に頑張ってもらう。

 エドには2人の恋愛を見守りたいなどと言ったが、本当は打算的な考えがあるのだ。

 例の小説では、平民上がりの彼女は貴族にはない天真爛漫さで殿下の心をわし掴む。

 そして学園卒業パーティーのときに、私は婚約破棄を言い渡される。

 一家の恥になる、それは我が家には申し訳のないことだけど、父様も私を王妃にはしたくないと言っていたし、というか嫁に出したくないみたいなので大丈夫だろう。学園卒業したら領地にひっこんで、領地経営でも勉強しようかなあ。




「早く月曜日がこないかしら。」




 私は例の男爵令嬢について調べた書類と例の愛読書を横に並べてじい、と見つめた。





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