超能力なんかバラしてしまえ!改訂版
超能力なんかバラしてしまえ!の改訂版です。大幅にオチを変えました。
唐突だが、僕は超能力者だ。又はサイキッカー。
「はい、じゃあ次佐藤くん、読んで」
「……え?」
教室にどっと笑いが起こる。
「おいおい……52ページの3行目だぞ。」
「は、はい。すいません」
こんなのでも超能力者だ。
それを自覚したのは、中学一年生の冬休みの事だった。
こたつから出たくない一心で頑張ったら、手が届かない所のみかんが取れた。それだけだ。ちなみにちょっと酸っぱかった。
それから色々試してみて、それは使えば成長することを発見した。
中二病まっさかりの当時の僕は、僕でも物語の主人公になれると思ったんだ。
秘められた強大な力を持つ、主人公に。
つまり、それを鍛えに鍛えた。吉田沙◯里と渡り合えるぐらいになったんじゃないかと思う。
でも、特に平和を脅かす敵が現れたり、謎の美少女が僕に助けを求めたりはしなかった。
普通の学生と同じように勉強し、普通の学生と同じように遊んで、普通の学生と同じように生きてきた。そう言ってもまあ、たった16、7年くらいしか生きていないんだが。
そして。高校生である現在に至る。
まあ、普通にストレスも溜まるわけだし、英雄願望だって人並み程度にある。
超能力を持ってるなら、何か特別なことが起きてもいいんじゃないかと俺は思うんだ。
もう待つのはやめだ。自分から探しに行ってやる!
と、いうわけで。今から僕は、この秘密をバラそうと思う。
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家族は……病院に連れて行かれそうだ。
なら……。まずは、信じてくれそうなノリのいい親友、川村か。
「よお、川村」
自分の席で1人で漫画を読んでいる川村に、俺は話しかけた。
「よお」
「ちょっと耳貸してみろよ」
「なんだニヤニヤしやがって、気持ち悪りぃ」
「うるせー。……あのな、僕。超能力者なんだ」
僕は小声で言う。
「は?……中二病?もう高校生だろ」
川村は信じていない様子だ。まあ、仕方ないだろう。
「見てろよ……」
僕は超能力者の味方、金属のスプーンを取り出した。
ぐにょ。
「ほれ」
「すげぇ!」
「だろ?」
「どうやったんだ?」
目を見開いて川村は言う。
「だから、超能力だよ」
「はぐらかすなよ、親友だろ?」
「いやだから」
「そっかー、そんなに教えたくないかー。ほら、こんどラーメン奢るから」
「若干気持ち悪いよその言い方」
「仕方ないか、タネも仕掛けもないようにしか見えなかったもんな……」
「いやいや勝手に落ち込むなよ」
「もっかい!もっかいやってみて!」
「いいけど。ほれ」
うにょん。
「やっぱみえねー!おれ太鼓の鉄人で動体視力鍛えてるはずなんだけどな」
「あれ動体視力鍛えられるんだ!?」
川村は考える人のポーズで一拍おいて、顔を上げる。
「お前、天才マジシャンだったんだな」
「なんだよその理解の仕方!?僕超能力者なんだけど!」
「ちょっとしつこいぞおいー」
「ええ……なんで僕が責められてんの?」
「2人とも。もうチャイムなるわよ」
川村の隣の席の女子が話しかけてきた。
時計を見ると、あと1分。
「やっべ、俺次の時間の準備してないわ」
次の時間の国語の先生、怖いんだよな。
「しっかり準備してる俺、勝ち組〜」
「うっざ」
あの後、色々な人にバラしてみたが。結局、変わらない、か。
僕は溜息をついた。
まあ。世界を救うなんて重役は僕には似合わないし、超能力があったってラブコメなんかできやしない。
変わらない日常。自分からバラしておいて、なんだが。
少し、ほっとした。
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夕焼けの屋上。日がもう隠れてしまっている。
1人佇む男子生徒の携帯が鳴る。
「はい、川村です」
『《蠍座》、次の任務よ』
「ああ、あなたでしたか。気軽に海斗って呼んでくれて良いんですよ?《アンドロメダ座》隷子さん」
『はいはい……集合場所はアジト、夕飯食べてから来なさい。少し時間がかかると思うわ』
「分かりました」
彼はスマホをカバンに滑り込ませ、黄昏時の屋上から飛び降りた。
「超能力者、か」
降りた先の自転車置き場には誰もいない。
「人知れず怪人と戦う秘密結社があるんだ」
「居てもおかしくはないか」
そう言って、自転車に乗り、そこから去っていった。
一応隷子さんに報告しておこう、と独り言を残して。