七十二話 ロリコンと新しい劇団
四月十七日
「え、なに? どうしたの?」
部室に入り、何気なく質問をした芽衣は、その場の空気の異常さに気付いた。
俺と柊花は目の焦点を合わせることなく、虚空を見つめながら笑う。
桂は蟀谷をグリグリと押し、考える。
「五年制の高校があったはず? ……気のせいとかそんなとこだな。うん多分」
思考を纏めつつ、先輩のプライバシー的な部分は侵すまいと目を瞑ろうとする。
「リリィちゃんのこと話さないつもりなの? 流石に無理じゃないの? 明日とか絶対に会うよ? それに不意に気づかれたときに説明しても変態としか思われないよ? あぁ変態か」
マシンガンの様に浴びせられる指摘の全てに反論ができない。
……変態を認めるのはマズいかも。
「わかったわかった。言った方がいいのはずっと前から考えてたよ。でもタイミングとか色々さ、ね?」
「じゃあタイミングを作った私はさしも英雄ね」
「ジュース一本で手打ちで」
「よろしい」
満足そうに『いちごオレ』と言った芽衣は何度か頷いた。
そんな安い手打ちをしたところで、本題に戻る。
何処から話そう。
全てを曝け出しても仕方がない。
ならば、と口を開いた。
「それじゃあ桂、話そうか」
「あ、はい!」
「まず、俺には婚約者がいます」
「お、おぉ」
「リリィという名前で、歳は十歳」
「……え」
マジかよ……と隠せない表情。
ここで止まると流れが崩れる。
そう思い続けた。
「ハーフの子で金色の髪の小さな――」
「――その話」
「私達も聞きます」
ガラガラ……。
部室の引き戸が開かれた。
「何奴!」
「奇襲か!」
俺と芽衣は抜刀の仕草をして構えをとる。
顔を覗かせたのは雅と光。
まさかの敵対行動で雅は驚き、光は身構える。
「……っと、ふたりとも来てくれたんだね」
今日も見学に来てくれたことを素直に喜んだ。
「はい」
「それと」
「私も来たわよ」
アンナが腰に手を当て堂々と入る。
「……まあ明日の帰りにはバレてしまうことだから言うか」
深呼吸。
法に触れてしまうギリギリを歩いている俺だ。
誠実な説明をしなければならない。
ゆっくりと正確に。
必要な事だけを抽出して話した。
「と、こんな感じ。俺の婚約者について」
「あの」
「質問が」
張り詰めた空気をゆっくりと解く。
説明が全て終わり、見渡す。
俺とリリィの関係を知る者は不備はないと認め、桂は『スゲー』と表情に出していた。
雅と光は話の途中から何度か目を合わせ、そわそわとしていたが、終了直後に手を挙げ質問をしてきた。
「どうぞ」
「リリィちゃんは」
「今日会えますか?」
「え? まぁ、呼べば来てくれるかもしれないけど。どうして?」
「どうしても」
「会いたいんです」
「そうか……じゃあ」
時計を確認しリリィが下校しているかどうかを確認する。
まだ学校であると思い、携帯端末を取り出し、部活終了の時間に来てくれないかとメールを送る。
その後、入部を決めてくれた桂には練習メニューの詳細を伝え、見学の三人には練習の様子や劇について説明を続けた。
このメンバーで劇を作りたい。そう、このメンバーで作る舞台が脳裏に浮かんで、考えていた台本に修正を加えなければという焦燥感に駆られる。
心が叫んで、集中力を欠いてしまったその時。
部活の終了時間の間際になっていることに気付いた。
片付けの指示を出し、携帯端末を確認する。
リリィ……来てくれるんだ。
「と、終わったけどさ……みんなで来る必要ある?」
部室の鍵を顧問に返してから昇降口に向かうと全員が待っていた。
桂と雅、光はわかるけど他は……。
と見渡すと唯単に楽しそうだから、という表情を浮かべていた。
見世物ではないんだけどなぁ。
「杠葉さん」
「行きましょう」
「お、おう。ところで何でそんなにリリィに?」
「それは」
「会えばわかるはずです」
「はぁ……」
頭を掻きながらゆっくりと校門前まで向かう。
少し肌寒い春の夕刻。
金色の輝きを見つけた。
薄手のコートに身を包み俺の姿が見えるなり頭を下げる。
軽く右手で応える。
平常心を保っているように見せてはいるが、少しだけ足早になる。
「翔太さん、お疲れ様です」
「リリィも。ごめんね、いきなり呼んじゃって」
「いえいえ」
嫌な表情を一つも浮かべることなく、それよりも喜びの表情を浮かべていたリリィに謝罪を一つ。
その謝罪は必要ないと目を伏せた。
そして俺の周りを確認する。
「やっぱり」
「この前の」
リリィの姿を認めた雅と光はグッと顔を近づけた。
「あ……昨日は失礼しました」
ふたりの顔を見て驚いたリリィは深々と頭を下げた。
「ん? ありゃ? 知り合い?」
芽衣がそんなやり取りをしているのを見て不思議そうに聞いた。
「昨日、買い物の際に転びそうになったところをおふたりに助けて頂いて」
と、簡潔に関係を教えてもらったところで、雅と光が目を合わせた。
おふたり、と言う言葉に反応したのだ。
「私は蒼万雅」
「私は蒼万光」
「リリィ・ロペスと申します」
自己紹介もまだだったのだろう。
会釈と共に挨拶を交わし、双子がぐるぐるとリリィを見る。
「昨日はとても驚いて」
「楽しかった」
「私も今、とても驚いています。まさか翔太さんと同じ演劇部の方だったとは」
「あー……リリィ、まだ入部してないんだ。今は見学に来てくれて」
正確な説明をと、気持ちが急いた。
前のめりに話した俺をクスっと笑いながらふたりは抑えた。
「いいえ、杠葉さん」
「入部しますよ」
「え?」
「私達が見たいと思った」
「その景色が見られると確信しました」
「そっか、そっか……大歓迎だよ」
嬉しさで舞い上がりそう。
だが、ステイステイ。
落ち着きながら笑顔を投げた。
「これで三人、行けそう?」
柊花は俺が飛び上がりそうなほど嬉しいのを察して落ち着かせるように問いかけてくれた。
「あぁ。あと、アンナも入ってくれればね」
四人入ればもっと可能性が広がると思い、アンナに視線を投げた。
「……まだ、少しだけ考えるわ」
瞳を伏せてからほんの少し笑った。
何か考えなければならないことがある……劇を作りたい気持ちに対する何らかの葛藤があるように見えた。
だから、それ以上……奥深くに踏み込まないように。
「そっか、前向きに検討してくれれば」
「えぇ、劇は好きだから。でも期待はしないように」
「さて、みんな解散だ。また明日な」
これで婚約者に対する誤解は生まれなくなったと安心し、柏手を一つ叩いて解散を促した。
それぞれが帰路に就き、俺とリリィ、アンナの三人になった。
「ねぇ、翔太」
「なんだ」
「リリィにも聞いて欲しいの」
「はい、何でしょう?」
アンナの問いかけがとても重要な事であるのは声のトーンからよくわかった。
雰囲気が三人になった瞬間、大きく変わったのだ。
俺はいつもと変わらない返事をあえてした。
リリィはその空気を感じ取り真剣に応える。
「実はね――」
開かれた口からアンナはゆっくりと身の上の話をした。
短くありながらも重要なことを紡いだ。
「――それでも演劇部に入ってもいい?」
最後に、俺の瞳を真っ直ぐ、真剣に見つめながら懇願するように尋ねてきた。
「……あぁ。劇が好きなのに断る理由はないよ」
「そうね。ありがと」
「おう! 俺だって伊達に演劇部の部長をしているわけじゃあないさ」
「頼りにするわ」
いつもの威勢はなく弱々しい声。
悲しい瞳。
そして青緑の色が滲む。
「……任せろ」
静かに一言だけ。
そう一言だけ、いつの間にか見え始めた星を眺めながら呟いた。
こんにちは、
下野枯葉です。
六月。
今月が終わってしまえば、一年の半分が過ぎ去ってしまうということです。
悲しくなりました。
一年が軽く感じてしまう事実に。
さて、新劇団です。
前回までのお話で察しはついているとは思うのですが、新劇団が決まりました。
まぁ、決まるまでの過程が重要なんですけど。
この新劇団で創り、描く世界はとうに決まっているので、そこにどうやってストーリーを乗せるかが重要です。
今更気付いたんですけど……劇の台本と本編を両方考えるのって結構厳しいですね。
脳が破裂しそうですよ。なにそれ気持ちよさそう。
閑話休題。
二つの物語を交差させつつ決まった道程は辿る。
最高に気持ちのいいこの作業は、この趣味を始めたからこそ味わえた快感です。
物語も、リリィと雅と光。桂、アンナ、柊花。
そしてこれから書きますが咲菜と優奈。芽衣はまだどこと絡ませるかは内緒ですが、翔太と絡ませるのは確定です。
と言うか、主人公だし、全部に絡めるんですけどね!
薄給になった今だからこそ、出かけずにゲームをしつつ趣味に興じます。
見えた結末が『二つ』なので頑張ろうと思います。
さて、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




