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PRIDE or BRIDE  作者: 下野枯葉
悲叫編
85/121

六十九話 ロリコンと金髪美少女の怒り

「あの……さ、入部やめようかな」

 西宮高校からアムール宝狼までの道のり。

 アンナは俺の隣でそんな言葉を吐いた。

「どうして?」

 疑問の言葉を返したが、心当たりはある。

 というか、何が問題なのか知っている。

「だって……いきなりビンタはねぇ?」

 あの後。

 アンナが一緒に帰るといった後、芽衣が『浮気者!』とビンタを俺にかましてきた。

 一閃。

 おかげで左の頬が痛い。

「ツれぇわ」

 心はもっと痛い。

「暴力は嫌いよ」

 ムッとした表情。

 本当に嫌なんだろうな。

 纏っていた色が悲しさを表し、雰囲気も大きく変わった。

「あれは、なんだ。一種の愛情表現とか……うん、そんなもんだよ。きっと、多分」

「酷く曖昧ね。まぁ本人が気にしていないならそれでいいのだけれど」

「あはは……」

 何とか状況を誤魔化して、悲しさを消す。

 俺の悪癖だ。

 その場を誤魔化す。

 逃げの一手だ。

「ところで、リリィとはどうなの?」

「……そのセリフ聞いたことあるなぁ。順調だと思うよ」

 スーッと息を吸い込み、以前にも尋ねられたその台詞を思い出す。

 皆それしか聞かねぇのかよ。

「そ。まぁ、実際に見ればわかるけどね」

「あのさ、アムール宝狼に住むってどういうこと?」

「英語がいいのかしら? ポルトガル語? スパニッシュ?」

 何その煽り。イラっとした。

「日本語でおk。流石に三人は住めないし、初対面の女性と……なんて、婚約相手がいるのにさ……」

 そんな地獄のような状況の二〇三号室を想像して、目を回しそうになる。

 嫌だよ、婚約相手以外の異性がいる家なんて。

「は? 何で一緒に住むことになってるのよ。一〇三号室よ」

「あっ、すみませんでした」

 赤面。

 羞恥に包まれてしまった。

 とんだ勘違い。

「一緒に住んであげてもいいけど」

「勘弁してください」

「願い下げよ」

「なんだこいつ」

 さっきからほんの少しだけムッとしてしまう煽りを挟んでくる。

 一種の天才なのではないかと思う。

 でも、こうしてみるとそれを差し引いても美人だな。

 リリィの透き通った青い瞳とは違い、濃くも鮮やかな蒼の瞳。

 髪を耳にかける所作の一つでさえ、目を奪われてしまう。

 スカートから伸びる脚もとても長く、スタイルがいい。

 リリィもあと数年もすれば、負けない程美人になるんだろうな。

「……リリィは、幸せかしら?」

 ゆっくりと開いた口から小さく声が漏れた。

 憂い。

 俺への疑いも見え隠れした。

「ん? …………あぁ。保証する」

 俺の言葉でどこまで安心るるのかわからない。

 けれど、リリィへのことは自信をもって語れる。

「あの子は笑わない子だったから……心配せざるを得ないわ。結婚だなんてマシュー叔父さんが勝手に決めたに違いない、アリサおばさんも表情を一切変えずにそれを受け入れたのよ……えぇきっと。だからアナタの言うことを信じられない」

「ふーん」

 杞憂だ。

 そう確信した。

「今日からリリィは私と一緒に住むわ。アナタから奪ってでもね。異論は認めないから、そのつもりで――」

 と、強い口調で次々に言葉を並べ続けた。

 そんなことをしている内にアムール宝狼二〇三号室に着いた。

 ドアを開けて静寂を覚える。

「――えぇ?」

 笑顔で料理をする、リリィとアリサさんの姿を見てアンナは硬直した。

「アリサさんこんばんは。今日はどうされたんですか?」

 俺も驚いた。

 普段ならリリィに出迎えられるはずが、それは無く、親子の姿が見えたのだから。

「アンナがいると聞いてね。仕事も抜けられそうだったので来たんだよ」

「そうだったんですね」

 理由を聞き納得して居間へ。

 アンナも招き、炬燵に入った。

 まだ肌寒い日は続いていて炬燵は片付けられない。

 リリィの淹れたお茶を飲んで一息。

「久しぶりだねアンナ。大きくなったな」

 アリサさんが笑顔でアンナの頭を撫でた。

 優しく、優しく。

「おっ、お久しぶりです!」

 アンナは少し怯えるように言葉を返す。

「アンナ姉様。お久しぶりです」

「うん、リリィも……元気そうで」

 とても嬉しそうにしているリリィにも、不思議そうな顔をしながら言葉を。

 スススッと俺の隣に近付いてきた。

「どうした」

「あのふたり……誰?」

「お前の親戚だ」

 きっと数年前との違いが大きすぎて戸惑っているんだろう。

 有り得ない言葉を投げてきたのはあまりにも滑稽だった。

「ところでふたりはどうして一緒にいるんだい?」

 アリサさんは再会の挨拶を終えたタイミングで聞いてきた。

「アンナさんが演劇部の見学に来まして、帰り道も同じですし話しながら、というワケです」

 まぁ、不審に思っても仕方ないよね。

 丁寧に説明をして俺とアンナの関係を明確にする。

「えぇ……それにしてもリリィ、明るくなったわね」

「そうですか? えへへ……そうですよね」

 チラッと俺の顔を見てから、照れる。

 恋する乙女。恥じらいを知って隠しきれない。

 そう、まだ十歳の少女なのだから当然だ。

「ここでの生活を始めてから、毎日が楽しくて……自然と笑顔が増えた気がします」

「増えたってレベルじゃ……」

 唖然としながら俺にしか聞こえない声で呟く。

「そんなことを言ったら私も最近は笑顔になる回数が増えたな」

 アリサさんも一言。

「だから増えたとか……えぇ?」

 頭を抱え始めた。

 もう、一人で悩んでくれよ。

 一旦、無視しますから。

「夕食は食べていかれるのですか?」

「いいや、もう帰るよ。アンナの顔も見れたし、リリィとも話せた……十分だ。また明後日」

 満足そうに笑う。

 本当に楽しかったのだろう。

 仕事さえ忙しくなかったのなら……いや。

 言うべきではない。

「はい」

 最大の敬意を以って頭を下げた。

「リリィ。また」

「はい、お母様」

 別れの挨拶も済んだ刹那。

 アンナが勢いよく立ち上がった。

「あのっ! 婚約ってなんですか? リリィの気持ちはどうなっているんですか? マシュー叔父さんは――」

「――落ち着きなさい、アンナ。全てリリィと翔太君の意思だ」

 乱れる。

 錯乱とまでは行かないが、混乱していることは確かだった。

 それを止めたのはアリサさんだ。

 威厳と圧がアンナに冷静さを与えた。

 そして短く事実を告げる。

 それが受け入れ難いものだとしても、告げる他ない。

 冷徹に、冷酷に。

「あっ……そう、です、か」

「詳しくはふたりから聞くといい。それでは失礼する」

「はい……また」

 瞬間的に冷たさを消して、大人の優しさをみせる。

 アリサさんもとても柔らかくなった。

 再びアンナの頭を撫でてから部屋を出た。

「俺も色々聞きたいんだけど……どうする?」

 俺は、ペタンと座り呆然とするアンナに声をかける。

「そう、ね。じゃあ……まずは私とリリィの関係から」

「従姉妹とは聞いているけど……」

「えぇ、それに関しては今日説明した通り、私からすれば妹みたいなものよ」

「私も実の姉のように思っています」

「姉妹、か。……リリィ」

 リリィに視線を送る。

 アンナはどんな人なの?

 と尋ねる視線。

「……はい」

 一度頷く。

 淡いオレンジ。

 リリィのアンナに対する想いが明確になり、安心した。

「んん!」

 ふたりの時間を切り裂くように咳払いが一つ。

「ん?」

「あのさ! 婚約ってなんなの?」

「英語の方がいい? フランス語? ゲルマン?」

 どうよこの煽り。イラっとした?

「日本語でいいわよ! なんで婚約なんてしてるのよ! しかもこんな平民だし、理由が見つからないんだけど?」

「確かに俺は平民だけど。人と人が愛し合って、祝福を受けたのならば結婚になるでしょ?」

「私の歳が足りないので婚約という形になっていますが」

「そう! 年齢よ! 犯罪じゃないの!」

「愛は法を超える」

 指を鳴らし、キメ顔。

「住んでる国の法は守りなさいよ」

「まぁ、ちゃんと手順さえ踏めば犯罪じゃあないさ」

 多分。

 と心の中で呟いて、無理矢理安心させる。

「それじゃあ手は出してないのね?」

「「…………」」

 静寂。

 無音。

 静謐。

 粛然。

「えっ」

「あるわけないじゃあないかまったくこまったひとだねきみはあははははは」

 クソ早口で言葉を放つ。

 捲し立てまくる。

 変な汗が出てきた。

「……」

 あぁ、これロリコンを見る目だ。

 うっひょぉー! 背筋がゾクゾクしちゃうよ!

「リリィが選んだのならば文句はないけれど……何かあったら許さないわよ」

「言われるまでもない」

 これだけは即答した。

 何かあった時、それが自分のせいであったら自分でさえ許せないのだから。

「……そう」

 強い言い方をしてしまっただろうか?

 身を引くように、アンナが目を伏せた。

「じゃあ帰るわ」

 立ち上がり、バッグを持つ。

 どうしたものか……と考えを巡らせているように見える。

 瞼を細めた表情を見て、踵を返す姿を見て、俺の中の強欲さが現れた。

 欲しい。

「なぁ、アンナ」

「なにかしら?」

 振り返る。

 金色が揺れる。

 リリィの優しさとは違う、鋭く強い美しさが俺にぶつかってくる。

 欲しくて……堪らない。

「演劇、やってみないか?」



「……考えとくわ」



 楽しそうな笑顔だった。

 好きなことに対する年相応の明るい笑顔。



「おう、待ってるぞ」


こんにちは、

下野枯葉です。


テンション上がって、ちょっと長くなってしまいました。


怒り。

今回の題です。

怒りという感情は結構感じます。

特にこんな時勢ですから怒りを感じてしまうことは多々あります。

しかし、それを表面に表すかどうかはその人次第です。

アンナは感情を素直に表す子です。

書いていてちょっと抑えろよ。とか思いましたが、この子書いてて楽しいわぁ。

もう、失礼な子でいいかな。ダメだけど。


次回以降に、雅と光、桂のことも少しずつ書いていきます。

それと並行して、今回の悲叫編のゴールも提示していきたいなと思います。


楽しくなってきたぁ。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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