表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PRIDE or BRIDE  作者: 下野枯葉
英断編
82/121

六十六話 Appllause AND Greed

二月一日

 本ベルが鳴り、体育館から音が消える。

 体が覚えたタイミングで舞台に向かう。

 

 緞帳よりも前に現れたのは翔太と芽衣――否、これは『星の語部』……ならば現れたのは神田と星宮。

「ご覧頂こう、ご覧頂こう」

 神田は大きく両腕を広げ幕開け前の観客席からの注目を集める。

「星の下に生まれた少年少女が織り成す、光のように真っ直ぐな物語」

 星宮も同じく声を上げた。

「時に挫折し、時に導かれた軌跡は夢を見る」

「夢を見るのならば星座と神話をその身に感じ、目を輝かせるだろう」

 堂々と見得をしたふたりは示し合わせたように視線から鋭さを消す。

 そして、小さく笑みを浮かべて瞬時に場の空気に心地良さを与えた。

「さて、みなさんに夢はありますか?」

 左右への視線と表情の動き。

 疑問を投げたと同時に注目を星宮に渡した。

「それとも……夢が“ありました”か?」

 言葉に抑揚をつけることで、簡単に意味を見せた。

「夢を追う人、捨てた人、諦めた人……」

「叶えた人、叶えた先に次の夢を見た人」

「夢とは人にあらゆる窮地を脱する力を与えます」

「夢とは人に生きる価値を与え、一歩踏み出す勇気となります」


 劇が始まってほんの数分で前提を認めさせた。

 この物語における前提条件。


「少年は星に与えられた物語を知り、新たに紡ぐことを夢とした!」

「少女は星の存在を知り、新たな星をその瞳で捉えることを夢とした!」


 この劇では演出をした者が飽きを嫌っていた。

 故に、何度も雰囲気を変え、疲れてしまいそうになる劇を望んだ。

 大きな声の余韻が消えぬうち次の台詞が放たれる。

 優しく呟く為、その差から観客がグッと前のめりになる。


「星々の神話は聞いていて心地よかった……あぁ、俺だって物語を書きたい」

「見上げた空にはいつだって星があった。誰にも知られていない星が可哀そうに思えた」


 再び転じる。


「ならば、少年は天文学を学び、星の性質と物語の繋がりに歓喜する!」

「そして、少女は愚直なまでに星を追い、闇に呑まれてしまいそうな星を探すことに昂る!」


「さァ! 間もなく幕が開きます!」

「この輝きをその瞳、その心に焼き付けて頂きましょう!」


 先輩。

 俺達はまだ先を目指しますよ。




 幕開けだ。




 それぞれの想いを乗せ、劇は進む。

 創地が紐解く星々の世界は神田と星宮の夢を育てる。

 その知識はふたりに必要な全てを備えていたが、全てを曝け出すという愚行だけは犯すことなく、物語が進んでいった。

 星座の物語を紡ぐ為、神田の興味を惹く神話を教えた。

知られることが無く、秘められた物語を探るのは最高の興奮。

自分で作るのとは違うこの感覚を知るのは、創地の星への探求心が過去にあったから。

星を探す為、星宮に観測とその意味を教えた。

存在しているかどうかは観測者次第。

その目で捉えなければ存在すらしない星々は、きっと、きっとそこにある。

そう語り、直上を見上げるのは、創地が星に魅入られた過去があったから。

ならばと創地はふたりに互いの目指すものを理解しろと言う。

手を取り合えば道が開くと高説を垂れ、それを馬鹿馬鹿しいと笑う。

チラリと見せた常人ならざる様子に呆れた神田。そして無視した星宮。

その選択が正しいと思ったのはふたりの過去から。

悲しい過去。

嗤われた過去。

見下された過去。

 それらの要因で決めた判断の愚かさにすぐに気づいたふたりは手を取り合う。

 美しく、あまりに美しく描く。

 ファイナルイメージ。

 夢想した、妄想した、渇望した結末がそこにある。

 俺、杠葉翔太が本当に求めていた世界があった。

 閉幕が近づく。

 場転はもう無い。

 創地が語るのみ。

 創地が叫ぶのみ。

「大団円! 大団円だァ! 若さの前の無力さにあのふたりは立ち向かった! 嗤われる恐怖……それはそれは辛い! でも……それでも! 背中を押してやらなきゃならないんだ」

 迫真。

 最後のシーン。

 羽衣石先輩は言葉通りの大団円を見届けるべく、客席に一人立っていた。

 裏で見ているよと言っていたが、時間が経つにつれてウズウズとしていたので、声をかけたのだ。

 天国先輩の最後の劇、見ないんですか?

 そう言うとゆっくりと客席のど真ん中、特等席の位置に立った。

「だから、喝采を以って未来への序幕の大団円を盛り上げて頂きたい! 直上の星から掴むんだ! 何処へだって行ける! 何だって掴める! さァ……さァさァさァ! 喝采を! 止むこと無き喝采を!」

 描かれた世界は予定通りに進み、その幕をおろそうとしていたが天国先輩が大きく吸い込んだのを見て、緞帳の操作を止めた。

「あァ!」

 完全に注目を集めきった中であるにも関わらず、再び釘付けにするきっかけを放つ。

「互いに忌み合おうとも! 周りから蔑まれようとも! ふたりならば叶う! 手を取り合うことを恥じたとしても! 共に歩む姿を笑われようとも! ふたりが求め合うなら、それを貫き通せ! 偉大なる神々でさえ、聡明なる学者でさえ、そこに意思があり、選び続けた結果だ!」

 涙を堪え言葉を噛み締めながらアドリブが続く。

 それに合わせ、羽衣石先輩はゆっくり、ゆっくりと舞台に近付きステージの面から三歩程の位置で立ち止まる。

「この喝采がふたりの……誰かの力になる! 序章はこれにて閉幕だ! 果てなく広がり、続くこの先の物語は、これから選ばれる!」

 創地の強張る程に力の入った全身から力が抜け、スッと瞳が閉じられる。

 全ての視線が安堵を覚え、舞台の熱量を再確認した刹那。

 最後の叫びが轟いた。

「さァ! 喝采を!」

 西宮高校演劇部、二〇三五年度最後の劇が閉幕した。


 余韻をしっかりと味わい、放心に近い状態で数秒、数十秒を過ごす。

 劇の世界から全員の意識が戻ったであろうタイミングで送る言葉の為、緞帳を開ける。

 客席には卒業生が一人。舞台にも卒業生が一人。

 互いにスポットライトに負けない程綺麗な向日葵色を纏い、涙を溢していた。


 最後に叫ばれた言葉は一体誰のものだったのだろうか?


 脚本家だけでは知り得なかった、作り得なかった物語になったのは確かだ。


 下手側から俺、柊花、芽衣の順で現れる。

 それに合わせて天国先輩は羽衣石先輩をステージ上に引き上げた。

 優しく包むように引き寄せ、全てを任せるように包まれる。

 恋人。と稚拙な言葉で纏めるのが恥ずかしく思える程にふたりの姿は綺麗だった。

 見惚れてしまう前に姿勢を正す。

「羽衣石先輩、天国先輩。どうでしたか?」

「うん、とっても良かったよ。本当に、本当に良かった。ゆず君、とーちゃん、めーちゃん……ありがと」

「悔いなんてない。このメンバーで劇をしたことは誇りだ」

「俺もです」

「特にゆず君。君に部長を任せて良かったよ。その腕でこれからも最高の劇を作ってね」

「勿論です。まだ誰にも言ってませんが、来年度は地区大会を目指してもいいなぁ、と思ってますから」

 驚きの表情を浮かべたのは柊花と芽衣。

 ごめん。

 出たいと思ったのは先週のリハーサルを見てからだもん。

「そっか。もしそうなったら教えてね。絶対に見に行くから」

 涙を拭き、満面の笑みを返してくれた。

 まるで自分の喜びであるかのようだ。

「はい」

 返事を聞き、区切りを迎えた。

 天国先輩がいつも通り、話を切り出した。

「それじゃあ片付けるか」

「いえいえ先輩。主役であるふたりが劇に出てる時点で異例なんですから先に部室に行っててください。片付けは私達でやりますから」

「それもそうだね」

 芽衣にそう言われ、先輩ふたりは出口に向かった。

 その途中で天国先輩が踵を返した。

「翔太。……アドリブ、すまん」

「いえ、最高でしたよ」

「ありがとう。やっとだよ、もう五年以上何もできなかったから……最善だ」

「え?」

「いや、なんでもない。本当にありがとう」

 疑問を多く残した会話だったが、幸せそうに背中を向けた天国先輩が遠くに感じた。

「先に行ってる」

 そう言い残して羽衣石先輩の横に並び、手を取り合った。

 ふたりの後ろ姿は何度も見たはずなのにどこか違うと思った。

 そうか。

 互いが互いを選んだ。

 そしてその先へ行くと決めた。



 俺とリリィよりも先だ。



 目を奪われてしまう程美しさが視界を揺らし、脳を揺らす。

 藍色の威光。

宙を照らす星の光と未来の景色。

 そして、まだ見たことのない境地。

 この瞬間に俺の目指す場所が決まった。

 全てを取り入れて手に入れる。

 強欲。

 昂ぶりが冷めぬまま笑みを浮かべ振り返る。

 体育館のステージでは小さすぎると肩を落とした。

 あぁ……楽しみだ。


 俺は指示を飛ばし、体育館の片付けを始める。

「次の劇……決まった」

 ふと零れた声に柊花と芽衣は目を輝かせた。

「新入生、三人欲しい」

 久しぶりに見せた欲のおかげで目標が定まった。

 さぁさぁ、始まるぞ。


 俺は全てが欲しい。






 そして時を同じくしてリリィは父であるマシューと相対していた。

「リリィ、君はどうするんだい? 彼は手に負えないよ?」

「お父様が恐怖を感じるなんて珍しいですね」

「いや、素晴らしくて……素晴らしすぎてね。高校なんて辞めて働いて欲しいくらいだ」

「ふふっ、いくらお父様でも翔太さんはあげませんよ」

「そうだね。……話は変わるがアンナが西宮高校に進学が決まってね」

「アンナ姉様がですか?」

「リリィの夫の監視をしたいと張り切っていたよ」

「あはは……」

「それじゃあ五年生になっても頑張るんだぞ」

「はい。失礼します」

 遠回しに投げられた父親からのスカウトを遠ざけることには成功したが、新たに刺客を送ってくるとは……などと、翔太のアニメ好きの影響を受けたのかそんなことを考えながら別の部屋に向かった。

 この後合流する夫を想い、胸に手を当てる。

「翔太さん、お父様は負けず嫌いですから……でも、乗り越えられますよ」

全身から力を抜き、今日から再開する翔太とのふたりの生活に心を躍らせていた。





この時のリリィは新年度に始まる騒動なんて知る由もない。


こんにちは、

下野枯葉です。


春眠暁を覚えず。

という言葉は最近の悪天候から思うことが少ない今日この頃。

さて、去年の今頃「コロナ? 来年の四月くらいには落ち着くんじゃない?」

とか言っていた下野ですが、もうそんなこと言ってる場合ではないですね。

やばい。

生活に影響があからさまに出てきた。

でもこの趣味だけは続けたいから、食費を削り、食費を削り。

電気代は削らねぇよ!!!

と、やってきました。

誰だよ、自宅のPCに850W電源付けたの。バッカじゃねぇの???

俺だよ。


さて、今回は閉幕。そして強欲。

欲無き者に先は無い。そんな言葉を聞いてこんな結末になりました。

柊花と芽衣の話を最初は書こうと思っていたのですが、まぁ、共感覚から入った時点で路線変更でしたね。

最初から路線変更だと方向転換とか言ってほうがいいのかな?


続きですが、とりあえず一週休みます。

その後書くと思います。

凄く書きたいので書くはずです。


とりあえずは、一段落です。


これにて英断編。

完結です。


喝采を。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ