六十五話 ロリコンと大団円へ
一月二十五日
舞台の中央で声高々。笑いながら叫ぶのは天国先輩演じる創地。
「大団円! 大団円だァ! 若さの前の無力さにあのふたりは立ち向かった! 嗤われる恐怖……それはそれは辛い! でも……それでも! 背中を押してやらなきゃならないんだ」
舞台袖で最後のシーンを見る俺は満足感に包まれていた。
流石だ……。
来週の本番に向けてのリハーサル。
劇を通して演じることで、不具合を確認するのだが……まぁ一週間前ともなれば特筆すべきことは何もない。
「だから、喝采を以って未来への序幕の大団円を盛り上げて頂きたい! 直上の星から掴むんだ! 何処へだって行ける! 何だって掴める! さァ……さァさァさァ! 喝采を! 止むこと無き喝采を!」
静かに、静謐さを愉しみながら閉幕した。
余韻を目を閉じてゆっくりと味わいたいところだが、一歩踏み出し、指示をする。
「よーし、緞帳開けて。んじゃあ柊花から順……」
集合してから劇を研ぎ澄まそうとするが、客席中央で羽衣石先輩が一切動かずにいることを認めた。
「羽衣石先輩?」
放心状態と表現したのは正しい。
誰もが静かになってステージの灯りのみを頼る中、羽衣石先輩だけは直上を見上げていた。
「もう卒業でいいかなぁ」
消えてしまいそうな声。
消えてしまいたいと思える声。
全てを成し遂げたと、そう表情から伝わる。
「ダメでしょ」
本番はまだまだ先なのに何を言ってるんだ、と呆れと共に天国先輩がツッコミをする。
自由過ぎやしないか?
「だって、こんなに凄い劇ができたんだよ?」
嘲笑しなければ。
勘違いの否定をしなければ。
「何を寝ぼけたことを言ってるんですか? 決まった日に最善を描かない世界でなければ、送り出すものとして不十分ですよ」
そうだとも。
こんなところで置いて行くなんてことはしない。
最後の最後まで羽衣石先輩には付き合って頂かなければならないから。
「じゃあ……もっともっと凄いの?」
期待。純粋な期待が俺の目を奪う。
未知。恐れながらも未知へ手を伸ばす。
紫紺。
単なる知識への欲求は斯くも美しい。
己が上限と見据えた先に、何かがある。
輝く目はそれを欲する。
それを見ているだけで興奮してしまいそうになる。
「先輩だってできるでしょう?」
けれどここで絶頂を迎えても仕方が無いから、誤魔化す意味も込めて上から目線で声を投げた。
「安い挑発だね! 乗ってやろうじゃないか! ね、紫雲!」
まさしくその通り。挑発だ。
羽衣石先輩はわかりやすく乗ることを宣言し、仲間を集めようと小さな歩を速く回し、駆け寄る。
「俺はもう乗りまくって、乗りこなしてる。さながらビックウェーブ」
足にしがみつき、俺を指す姿を見て天国先輩はどこからかサングラスを取り出しそう言った。
「……つ、つよいぃ」
「二千翔。ラストスパートの殴り合い、手伝うぞ」
ニヤッと拳を突き出し、それに応える。
ふたりの先輩は瞬間の思慮を肯定し、色を変えた。
長い時間があったのだろう。
俺には見えない、知り得ない、ふたりだけの時間が流れる。
表情を一気に変えた羽衣石先輩はその小さな体から大きな威光を示す。
そして、先代の部長の姿を見せた。
頼りがいがあって、飽きさせず、憧れの対象で――
――俺達、演劇部の一員だ。
そう……演劇部なのだ。
「よし来た! ……何せ私達は期末試験もない身だからね」
「「いいなぁ……」」
ズルいズルい!
癇癪を起こしてやろうか?
あーもう、試験なんて消えてしまえ!
と、最低な呪詛をバラ撒く。
「柊花、こいつらヤバいの?」
「……えぇっと、そんなに。えぇ、はい」
同級生の威厳を保とうとするが、現実がそれをさせない。
心なしか息切れ始め、眉間に指を当てた。
そこは即答で否定していただきたい。
「留年だけはしてほしくないね。さぁ翔太、続きだ」
閑話休題。と拍を打った天国先輩を見て、演劇部としての姿を思い出しゆっくりを全体を見直した。
「はい。……そんじゃあ柊花から順にいこう」
高校一年間の集大成。
そして、送る為の物語。
今、考え得る最高のメンバーでの最高だ。
片鱗はたった今見た。
来週……別れの言葉と、演劇部の全てを決めなければならない。
こんにちはー、
下野枯葉です。
決別編を書き始めて一年が経ちました。
時勢が騒ぎ始めてから一年と考えると速さを感じることができると思います。
時々、一週飛ばしてしまったり、一週間のうちに二回投稿したりとバラバラでしたが、大きく見ると毎週投稿出来たと思っています。
いやー、楽しかった。
そして、英断編の決着と共に、一区切りとなります。
翔太達の二年生編は妄想の範囲でできてはいますが、投稿するつもりは今のところありません。
来週になって気変わりするかもしれません……悪しからず。
さて、大団円へ。
ほんの序幕です。
最終章なんて呼べるものは遥か彼方の夢の先です。
劇が一つ終わろうともその先があるのです。
日常系のアニメを見て、最終話を見るとその先を見たいと嘆くことがあると思います。
私は最終話は大嫌いなんです。
その人生に幕を下ろすまで書いてあげます。
それがキャラクターに対する礼儀だと、そう思うからです。
翔太。
その人生の最後まで書いてあげるから。
と、いつかの日までを誓ってやろう。
では、
今日はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




