六十四話 ロリコンの嫉妬
一月八日
「ただいま」
と、いつもの挨拶と同じくアムール宝狼二〇三号室の扉を開けた。
返事は無い。
リリィはいない。
しかし前回の様に悲しさには包まれていない。
冷凍室からラップで包んだご飯を取り出し、電子レンジに放り込む。
机の上に置かれたメモに目を通し、冷蔵庫を開く。
そこにはタッパーに入った里芋とイカの煮物があった。
「助かるぅ……」
感謝っ……圧倒的感謝っ……!
食事の心配はこうして解消されたのは凄く助かる。
さて、飯を食ったら仕事だ。
新しく始まった生活は一人暮らし。
リリィは俺の実家で生活をすることになっている。
理由としては劇の完成に向けて集中するのと、ロペス社の仕事を始めることになったのだ。
マルチタスクとか、ごく普通の高校生がやるもんじゃねぇよ。
マシューさんは俺の過去をいつの間にか調べ、文章力を認めて商品紹介文を考える仕事を頼んできたのだ。
大丈夫なのかなぁ。と心配しながら、商品の資料と類似品の紹介文を参考に、文を書き始めた。
これをメーカーの担当者に送り、承認されれば実際に使われるらしい。
アルバイトだってしたことが無いのにいきなり仕事だと言われても実感が沸かない。
まぁ……やるだけやるさ、認めてもらう為にはそれ相応の力を示さなければならないから。
カタカタとキーボードを叩き、感覚を研ぎ澄ます。
与えられた叡智は最大限に利用してやろうと心の奥底で叫び文に起こす。
誰もを惹き付ける為じゃない。目的の誰かを惹き付ける為の文を魅せるのだ。
楽しい。明らかな悦が快感を与えた。
興奮して体が火照る中、仕事を終え、二重に保存をしてからパソコンを閉じた。
次は舞台図を広げ、休み前に指摘があった箇所を虱潰しに確認していく。
芽衣と俺の掛け合いの立ち位置と距離。
過去を示した際の裏方の動きが間に合うか。
それと、天国先輩に圧倒された中盤の静かな語り。
舞台上には先輩が一人。他に何もないはずなのに……満天の星が風に吹かれ一つ、また一つと消えていく様子が見えた。
雲は一つも無いのに、どうして星が見えなくなるのだろう。
……月光のせいだ。
と、興奮したあの時に決めた照明変更を記入していく。
あぁ……。
先輩たちとの最後の劇か。
もっともっと一緒に劇を――
――いや、最後に最高で送ろう。
演出からの視点が足りなくなってきたこと認め携帯端末を手に取った。
時間を確認してから、まだ大丈夫だろうと思い柊花に電話をかけた。
発信音が長めに耳元で鳴り、出ないだろうかと思った時に応答があった。
「はっ……はい」
「あ、もしもし柊花? 今大丈夫?」
ドアを閉める音が聞こえた後に、少し息を切らしたように声が聞こえる。
慌てた様子を感じ、決まった台詞ではあるが心配を一つ。
「うん、だっい、大丈夫だよ」
「本当に大丈夫?」
ドタドタ……ゴンッ……。
鈍い音が聞こえた。
電話越しでも聞こえる強い音。
「問題ないよ。ところで用事は?」
ここで柊花はまるで演技をしているかのように平常心を取り戻していた。
いつも通りの応対に安心感を覚え、次の言葉を考える。
「えっと、台本のことで確認しておきたいことがあって」
「ちょっと待ってね、台本持ってくるから」
その声の次に聞こえてくるのは立ち去る足音。
とても小さな音でさえ敏感に反応してしまうのは電話の欠点だろうか?
それとも利点だろうか……?
お待たせ。と短く戻ったことを知らされ、最初の指摘から打ち合わせを始める。
煮詰まる……程は行かなかったが、長考も数回ありつつ、最後の題になった。
「――ここで神田と星宮の距離をもっと開けたいんだけど」
「ん……と。ここは近くあった方がいい。このふたりの距離は見ている側が前向きに見えて安心するくらいにして、その後の展開で裏返して、グッと引き寄せたいんだ」
「そっか……ん。照明で両サイドから少し影を落とす……と、どう見えるかな?」
柊花は視点が多い。
これは演出としてとても良いことだ。
だが、演者の間合いはまだ理解し切れていない点があり、最後の題には多少否定的であった。
そこで、見る側と魅せる側の折衷案……いや、最善に近い案を提示する。
「……っ! それは……見てみたい」
一瞬の静寂。思考が回る間が数倍に伸ばされた感覚。
その後、ワクワクした、無邪気さを覚える声が返ってくる。
良かった。
「明日、確認してみるか」
百聞は一見に如かず。
その言葉が適切過ぎて笑いそうになったが、堪えて、予定も擦り合わせた。
「うん。そうしよう」
「一応……これで全部だな。いきなりでごめんな」
ペラペラと指摘事項を再確認し、全て話し終わったと告げつつ、感謝を。
何だかんだ白熱し、とても楽しんでしまっていて柊花の迷惑になっていないかと最後に危惧してしまう。
「ううん。もう時間もないしいつでも大丈夫だよ。……それよりも二千翔先輩はいいの?」
「羽衣石先輩? んー……本気で来いって言われたからさ、情で加減したらそれこそボコボコにされかねないよ」
冬休み明け早々の部活で頭を抱え込ませてしまうまで追い詰めた……と言うか、本気でぶつかったのは俺だ。
挫けてしまわなければいいな、と思いながらも、それが羽衣石先輩の意思であることを思い出し、逃げのような発言をしてしまった。
「確かにそうだね、芽衣と一緒に殴りかかる様が目に浮かぶよ」
笑い声。
その光景は凄く楽しいのだろう。と、言う柊花に同意してしまいそうになる。
「勘弁してくれ。でもね、先輩は俺が本気で折ろうと思ったって絶対に折れないよ。その点で負けているのは凄く悔しいよ」
「翔太……私は負けてないと思うよ」
「そう、か?」
「勿論。それじゃ」
「うん、ありがとね」
心地良い時間が終わり、音のない空間に一人であることを再認識させられる。
ふと思い出す柊花の言葉。
「…………グッと引き寄せる。感覚、いいなぁ」
嫉妬だった。
羨ましくて羨ましくて仕方がなかった。
貪欲でも……いいじゃないか。
こんにちは、
下野枯葉です。
モンハン!モンハン!モンハン!
楽しいですねモンハン。
追う差は下手だって、楽しいものは楽しいんです。
マイペースにソロプレイしています。
未だにマルチは恐怖心がある俺は弱いですか?
さて、嫉妬という題です。
嫉妬を経験したことがある人は結構いるよ思うんですよね。
あの感覚はとても気持ち悪いんです。
自分の弱さを認めて、それが自分になかったり、得られないとわかってしまったが故です。
でも、この世には心地の良い嫉妬もあるそうで……それを描きたいなぁと思った次第です。
そろそろ英断編も終わります。
本編では詳しく触れもしないし、触れる気も無いのですが、今回の序盤にあった翔太の独り暮らしも十分な英断です。
十代半ばにしてこの決断は称賛に価すると思っています。
まぁ、絶対に本人には伝えませんけどね。
その他にも、様々な英断を散りばめています。
あ、このタイミングでいうのもなんですが、この作品自体、作者が気持ち良くなるために書いているので悪しからず。
あと数話となっていますが、楽しみにしていただけると幸いです。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




