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PRIDE or BRIDE  作者: 下野枯葉
英断編
77/121

六十一話 ロリコンは未来も過去も視ない。

十二月三十日


 俺はナイフとフォークを食事終了の意味になるように丁寧に揃えた。

 ここはロペス家の所有する別荘の一室。

 パーティーに関する諸々の所作を学び、五日目。

「……」

 間違っていないよな? と姿勢を正し、ゆっくりと背後を見た。

 クリスさんと目を合わる。

「……」

 静寂。

 息苦しくて居心地の悪い……緊張感の包む静寂。

「よくできました」

 ゆっくりと笑みに変わったその顔と、その言葉を聞いて全身から力が抜けた。

 椅子に全身を預けタイを緩めた。

 スーツも五日間も着続ければ多少は慣れるが、タイだけはそうはいかない。

 もうこのままジャケットを脱いでしまおうか。

 とボタンに手を伸ばしたが、即座に引き戻し、タイを締め直した。

「五日間ありがとうございました」

 立ち上がり、正した俺は深く頭を下げた。

「今日御教えしたテーブルマナーは立食パーティーでは使えませんが、基礎ですから是非覚えてください」

「そう……ですね」

「明日からはご指導できませんが、忘れぬように三日をお迎え頂ければ」

「はい」

 五日間のマナー指導で俺は一皮剥けた。

 大変なことは多かった。

 歩き方の指導から始まり、礼、言葉遣い。

 基礎を広く学んだ。

 歩き方一つで何度転んだのか覚えていないし、凄い恥ずかしい。

 安心……とまではいかないが、心構えを持って迎えられるのは心強い。

 その後クリスさんの運転する車に乗り、実家に帰った。

 ……そう、実家だ。

 一昨日から年明けまでは実家で過ごすことになったのだ。

 年末年始のバタバタを各家庭で乗り切るよりも集まってしまえばいいではないか。ということだ。

 その裏に料理をリリィに任せてしまおうという母さんの思惑があったのかは定かではない。

 いや……多分あったんだろうな。

「ただいま」

 引き戸をガラガラと開けて、帰宅を告げた。

 足音が近づき、リリィが出迎えてくれた。

「おかえりなさい」

 いつもと変わらないはずだが、スーツ姿の状況に少しだけ非日常を感じ、口角が上がった。

「お食事もお風呂も用意できています」

「それじゃ――」

「――リリィ、お前にするよ」

 リリィの背後に近付いていた姉さんは、声を低くし、俺に似せながらそう呟いた。

「殴ってやろう食事にするよ」

 適当にあしらい、荷物とコートをリリィに預けた。

 俺の部屋に向かうリリィを横目に姉さんは一度首を傾げた。

「家庭内不和? 相手は九歳よ。大人になりなさい」

「殴りたい。姉を殴って。殴りたい」

 良い句ができた。賞に送ろう。

 寒さに体を震わせ続けるのを嫌い、茶の間に向け玄関の段をあがる。

「グー?」

「チョキでもいいよ」

「突き指にしてやる」

 炬燵に入りながら久しぶりの姉弟の会話をする。

 懐かしい感覚。

 テレビは特番ばかりで飽き飽きしていた。

「これはヒドイ。それで、大学は?」

「今年はもう行かなくてもいいの、後は家で纏めるだけ」

「今日の今日までって、居残り?」

 今年も二日しか残っていないにも関わらず、姉さんは今日まで大学に籠っていたのだ。

 一昨日戻って驚いた。

 母さんから「引き籠り」と言われた時は不登校と勘違いした。

「まさか、優秀だからよ」

「その大学教授は見る目がないね……Fラン?」

「はいブロック」

 そう言いながら蜜柑を投げる。

 受け取り、皮をむきながら思考を巡らせた。

 勉学に励む姉さんの姿が思い浮かばない。

 何度やっても鼻をほじりながら「ごはんたべたい」とか言う姿しか見えない。

 でも、このアホ面は似合うなぁ。

「で……結局、大学で何してるの?」

 流石にアホ面のままの放置しておくわけにはいかないので、直接聞いてみた。

 これで「鼻ほじって飯のこと考えてるわ」とか言われたら泣こう。

「未来視と過去視」

 冗談を言っている感覚は無く、一瞬思考が停止した。

「机の引き出しから未来や過去に行けるって?」

 青ダヌキ――ではなくネコ型ロボットだったか。

 眼鏡の少年と飛び乗るそれを思い出した。

「それはタイムトラベル」

「二ターン後にダメージ?」

 ポケットに収まりそうなモンスターを思い出す。

「それは未来予知」

「じゃあ未来視と過去視? って何?」

 これ以上ネタが思いつかない。と、溜め息をつきながら蜜柑の皮をゴミ箱に投げ入れた。

「未来視は文字通り未来をこの目で見ること。過去視はその逆よ」

「そいつは凄い。どうやるのさ」

 二個目の蜜柑に手を伸ばそうとしたが、夕食前であることを思い出し手を引き戻した。

 冗談だろ? と笑いそうになったのは隠していた。

「光と音、電気の差。光年の利用だよ」

 両手の指先で三つの点を示し、前後に移動させた姉さんは限界まで腕が伸びたタイミングでパチンと指を鳴らした。

「できるの?」

「理論上は」

「そういう台詞を吐いて失敗する学者を多く見たよ」

「小説脳め!」

「でも実現したら特殊機関に消されたり」

「小説脳め!」

「タイムパラドックスで織田信長が本能寺で死ななくなったり」

「小説脳め!」

「俺が総理大臣に――」

「――小説脳めぇ!」

「お待たせしました」

 コントまがいのやり取りの途中でリリィが台所から顔を覗かせた。

「さぁさぁ、小難しい話は置いといて飯だよ」

 続けて母さんが顔を覗かせ、片付けを命令した。

「「はーい」」

 机の上に転がる蜜柑や新聞、リモコン等を片付ける。

「白菜たっぷりの寄せ鍋。シメはうどん」

 途中で姉さんがそんな言葉を呟いた。

「え?」

「どいたどいた。白菜たっぷりの寄せ鍋が通るよ。因みに今日のシメはうどんよ」

 リリィが取り皿と鍋敷きを持ち、母さんが鍋を持って現れた。

「知ってたの?」

 未来視などと言う話を聞いた後だったからだろうか。

 驚愕と疑問が襲い、不快な汗が背筋をなぞった。

「さぁ?」

 右目を閉じながら笑う姉さんはどこか遠い存在に感じた。

 思えば、俺が帰る前に聞いていた可能性だって大いにあるのだ。


「それと翔太。正しい敬語は考えず、タイは深い青。父さんと最初に話してみるといいかも……ね?」


 そう、未来視なんて不可能…………ね?


こんにちは、

下野枯葉です。


桜の開花宣言があったらしいですね。

どこだっけ?

まぁ、春の兆しを感じているのは事実ですから開花宣言が身近になるのは時間の問題ですね。


今回は未来と過去についてです。

別に今回のお話は必要ないのですが、書いてみました。

というのも、サイドストーリーを書いてみるのも悪くないと思いはじめまして……。

その先駆けです。

この英断編が終わり次第、優奈の不思議な側面を書いていきたいと思います。

もしかしたら書かずに隠し続けるかもしれません。


優奈と咲菜。そこにある翔太、リリィの繋がりが今後に活きるはずです。

現段階では英断編の次の展開もある程度は考えていますが、その次……まではハッキリ見えていません。

次の次がどんな展開になるのか……それとも途中で終結するのか。

きっときっときっと、あぁ、昂るに足るはずです。


次回は年が明け、一月三日に挑みます。

さァ!

父という立ち位置に感嘆を。

父という存在に同情を。

未来を乗り越えるのに多少のズルをしたっていいじゃないか。

頑張れ……翔太。


では、

今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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