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PRIDE or BRIDE  作者: 下野枯葉
英断編
66/121

五十一話 ロリコンになれなかった者と導の星

十二月二十一日

 この日の演劇部の活動が終わり、それぞれが帰路に就いていた。

 二千翔と紫雲もまた駅への道を並んで歩いていた。

「もう手に負えないよ」

 大股でゆっくり歩きながら二千翔は空を仰ぐ。

 隣を歩く紫雲はペースを合わせつつ同じ空を一瞥した。

「ありゃ……もう怪物だな」

「非才、凡才との違いがハッキリとし過ぎててね。稚拙なテーマ、容易に思いつく背景でも全くの別物に仕上げてくる。心が折れちゃうよ……うん、本当に」

「Slabyy……二千翔は強いから」

「…………」

 ゆっくり瞼を閉じ、思い返す。



 数年前の出来事である。

 山城中学校。

 天国紫雲はその容姿と性格から周りから好かれていた。

 その好意は思春期特有の恋への好奇心を掻き立てるには十分だった。

 演劇部に所属する彼の姿を見ようと多くの女子が体育館に集まり、ステージを眺めた。

 同じく演劇部に所属していた羽衣石二千翔はその光景を快く思っていなかった。

 嫌悪を示す顔は集まる女子達に向けられているが、紫雲はどこか違和感を覚えていた。

 ある日紫雲は意を決し、二千翔に尋ねることにした。

 部活終わりの薄暗い昇降口。

 各学年五クラスあり、クラスの離れているふたりはかなりの距離を開けていた。

「羽衣石さんはやっぱり嫌かな?」

 薄暗さの中に夕日が差し、伸びた影がふたりの間をより伸ばす。

 ティーンエイジを迎えてから数年しか経っていない……体も心もまだまだ子供な、少年の率直な言葉。

「……だって劇を見てないもん」

 一切目を合わせず、不貞腐れた印象を与えながら小さな声で呟いた。

「そうかな? 感想を聞くけど色々と言ってくれるよ?」

「天狗だね。私は天国さんが嫌いだよ」

「ふーん……そう」

 素っ気なく返し、外へ出た紫雲の背中を目で追いかけ、キッと睨み付けた。

「下手くそ」

 短い罵倒の言葉は酷く心がこもっていた。

 そして紫雲の耳にハッキリと届いていたのであった。



 悔しさが込み上げて仕方がなかった紫雲はそれから劇に対してより一層本気になった。

 一年間。

 先輩が卒業し、新入生が入部する中、ひたすらに打ち込んだ。

 徐々に変化する紫雲の演技に感嘆の声を隠す二千翔は、負けじと対抗した。

 そしてある夏の日。

 いつぞやの罵倒の言葉を零した昇降口にふたりはいた。

 対面し、一冊の台本を挟む。

「なぁ、これ……視線は相手に向けてでいいのか?」

 紫雲の問いは二千翔が脚本を担当した劇のこと。

「演出の都合も聞かないといけないけど……私は前を向いて欲しいな」

 強い意志を纏う瞳がしっかり相手を捉える。

 掴み離さない。

「――あぁ、わかった……よ」

 声が漏れる。

 興奮が紫雲を襲い、歳に似合わない昂ぶりの刺激は依存性が高かった。

 それがきっかけで普段の学校生活でも紫雲は二千翔を気に掛けるようになった。

 休み時間も部活の話と託け、その感性と魅力を知りに行く。



「ねぇ、紫雲君と話してる女の子ってさ……」

 紫雲と同じクラスの女子達が、授業の合間の休みに談笑していた。

「確か演劇部の……」

 彼女達や他の人から見れば談笑だが、一部の人はそれを陰口と言うだろう。

「ねぇ、狡くない? 同じ部活だからってさ」

「わかるー」

「ちょっとさぁ――」

 妬み。

 元来持つ単純な感情に突き動かされるのは若さ故。

 誰も責めることはできないし、それを間違いや咎と知るのはこれからの経験次第だ。

 その後のことは想像に容易い。


 いつも通り、紫雲は二千翔を訪れ、台本を手に声をかけた。

「部活以外では話しかけないで」

 普段の会話からは想像できない程小さな声が二千翔から漏れる。

 瞳には紫雲を惹き付けた力は消え、小さく震える体に戦慄した。

 怯え。

 立ち去る姿を追う前に、クラスの女子が紫雲を囲み占有する。

(あぁ。そういうことか)

 落胆。

 解決策を探したが、守る力は生憎持っておらず、最良で最悪の手段を選ぶしかなかった。


(……嫌いか)


 その日の午後。

 二千翔は数時間前のことを悔いて謝らなければならないと思いつつ、助けも求めたいと思っていた。

 しかしそれを伝えることはカースト上位が許さないと思い、隙を見計らって声をかけた。

 普段使われていない階段の陰。

「天国さん……そのっ、昨日は――」

 意を決した刹那。

「あれ? 紫雲君こんなところでどうしたの?」

 短いスカートを纏った少女が口角を上げながら現れた。

 カースト上位者。

「いや、なんでもないよ」

 紫雲の表情に威圧感を感じ、二千翔は胸を締め付けられる感覚に震えた。

 もう元の関係には戻れない。

 そんな確信。

「もう終わりだろ? 二千翔」

 名前を呼ばれた。

 いつもと違う呼ばれ方。

「えっ」

 紫雲が次の言葉を放つ直前……呼吸が聞き慣れた音を出した。

 それは部活中の紫雲の癖。

「nenavidet`……嫌いだ」

 下手糞なロシア語の発音と、嫌悪を意味する言葉。

 二千翔は昔のゲームで聞いたことのある話を思い出し、その真意を知る。

「da……紫雲、私も嫌い」

 同じくロシア語で返事をしてから同じ嫌悪を示した。

 本当に気が合うことを知ってしまいふたりはより惹かれ合った。

 足早に紫雲は立ち去りながらもっと話したいと心の奥底で叫んだ。

 それに付いて行く女子は疑問の表情を一瞬浮かべたが『嫌い』という言葉が互いに投げ合われたことに悦を感じ、隠しきれない笑みを浮かべた。

 その笑顔が滑稽に思えたが、一切表情を変えず見送った二千翔は静謐さの中で顔を赤く染めて身を捩った。


 早く……ふたりになりたい。


 その想いは紫雲も同じだった。



 その日の部活が終わり昇降口でふたりは相対する。

「どうして知ってるんだ?」

「どんな物語も知りたい欲張りだからね」

「ロシア語では逆の意味を使う……だったか?」

「確か」

 頬を掻きながら二千翔は視線を逸らす。

 恋は知っているし、何度も読んだことがある。

 けれども、実際に経験したことはない。

 だからどうしていいのかわからない。

 そんな二千翔を引き寄せ胸に抱く。

「…………好きだ」

「私も」

 嬉しさからの涙が零れそうになりながら二千翔は言葉を返す。

「これから守るから」

「ううん、嫌いなままでいいの。私達は忌み合って過ごす……邪魔されるのは嫌だもん」

 紫雲の誓いを拒絶したその真意は単純だった。

 カーストと呼ばれる鬱陶しいものに立ち向かう愚行は犯さず、全く別の場所で過ごしたい。

 邪魔な存在がいる場所は居心地が悪いのは明白だから、そこでは何もしない。

 そういうことだ。

「ゴメン」

「Slabyy……私は強いから」

 悲しい表情を消そうと『弱い』と言った。

 これから続く生活を想像し、折れそうになったが……決意は満ちている。



 信念と誓いは忘れられることなく続き、華の咲かない青春を描き上げた。

 何とも歪んだ青春は他の誰も知り得ず、流れていた。



 これ以降は思い返すだけで互いを傷つけるだけなので終わりにしよう。

 そう思い瞼を開く。

 何十分閉じていた? いや、何秒だろうか。

 紫雲が目を開くと雲はほんの少しだけ動いていた。

 数メートル先にはこちらを見る二千翔の姿。

 幼さが瞬間消え去り、表情、瞳、仕草……二千翔の全てが全てを魅了した。

「怪物に負けないように……ね?」

 高校生活最後の目標は、青春の集大成。

 最高の仲間であり、最強の存在を前に全身全霊を以って挑むと決めた。

「――あぁ」

 それに呼応し紫雲は頷き、心に火を灯す。

 中学時代は二千翔に、高校時代は翔太に圧倒され頽れる直前まで傷を負ったが……今はそのふたりと肩を並べられると確信している。


 再び歩を進め始めたふたりの上には導の星が輝き始めていた。


こんにちは、

下野枯葉です。


今年ももう終わりか……と毎年恒例の言葉を呟きつつ、年末の過ごし方を考えています。

まぁ、コロナで引きこもり……いや、毎年そうじゃないか。

変わらないなぁ。


さて今回はロリコンになれなかった者。ですね。

紫雲と二千翔の関係を浅くではありますが、書いています。

中学時代。ふたりの誓いを照覧あれ。

そして内容のロシア語。

導の星の意味。

下野の大好きなゲームのリスペクトが入っていますが、わかってくれましたかね???

わからずとも、楽しんで頂きたいです。

そして、星を冠する物語と並行し、翔太とリリィにはロペス家に相対してもらいます。

いやー、書けるかね?

書くのが楽しみになってきた。

さて、続きを書いてきます!!!


では、今回はこの辺で。





最後に、

金髪幼女は最強です。

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