四十九話 金髪幼女と愚者
アムール宝狼二〇三号室。
リリィは複数の物語を辿り、一つの物語を知った。
締め括りのクリスマスの物語だけは読んでいて胸が苦しくなった。
その苦しさが何かを掻き立てる。
震えた右手を見つめ指先を何度か確認する。
もう時間はない。
帰宅した翔太は何本か糸の切れた傀儡のようにふらつきながら荷物を降ろした。
流れに身を任せ食事と風呂を済ませ、一言投げる。
「リリィ、もう寝るね」
瞳の七色の光。
虹彩がその名に恥じぬ輝きを宿し、リリィを認めない。
何処を見ているのかは本人でさえも解らない。
ならば打つ手は一つだ。
リリィは翔太を押し倒し、その指先を伸ばす。
「翔太さん。その目……潰しますね」
キラリと瞬くリリィの瞳が次第に色を変える。
青い。
元来の青さより深い青……紺。
黒を交えるそれは心臓を鷲掴みにされる感覚を孕んでいるということである。
翔太はそれを捉えた瞬間に恐怖と自責の感情に襲われた。
黒は全てを飲み込む。
その恐怖は計り知れない。
気持ち悪い……陳腐な言葉では言い表せない。
全て侵され飲み込まれ、消えてしまう。
醜い感覚と憎悪の感情。
それを宿したら最後……そう思った時に翔太は覚醒する。
リリィの右手を取り、強引に目元に引き寄せる。
「いいよ」
短く肯定と笑顔を返す。
「贖罪は必要だよね」
指先が睫毛に触れても瞬きをすることなく引き寄せ続ける。
虹彩に触れる刹那。
「――ダメですっ!」
強く戻され、胸元に据えられた手は震えている。
明らかに変化した翔太の感情に合わせてリリィの心境も大きく揺れる。
「……できません」
震えた唇。
己の愚かさを咎める。
「いや……ゴメン。もう見えるよ」
大の字に手足を広げ天井の節を数える。
翔太は恥じらいを隠す時に他の場所の何かを数える悪癖がある。
「何色ですか?」
正気に戻った翔太を見て安心したリリィは目と目を合わせて自分の感情を訊ねる。
「ライトイエロー……その金色と魅せるそれはとても綺麗だよ」
上体を起こし、ゆっくり腕に包み背中を軽く叩く。
「本当は潰してもらいたかったんだ」
リリィの耳元から聞こえたその台詞はどこかで聞いたことのあるもの。
その理由はどれだけ考えても答えが出ずにいる。
ならば……聞くだけ。
「どうしてですか?」
数秒の静寂。
引き延ばされる感覚は心地良さを与える。
吸い込み……声を選ぶ。
「……見えるのは………………狡いからさ」
「ふふっ、翔太さんらしいです」
答えは至って単純だったが、らしさ、があり嬉しかった。
らしさを定義し、悦に浸るのは野暮だと一蹴し、感覚だけで嬉しさを噛み締める。
やっと戻ってきたと実感し、体から力が抜け、完全に翔太に身を預けた。
「愚者……か。似合うなぁ」
「決して逆位置ではありませんよ」
独創性を伴った旅人のカードが翔太の脳裏に浮かび、何度も回転する。
どちらで止まるのかは誰にも解らない。
だが、笑う愚者を見て笑みを返す翔太はどちらで止まろうが手に取り、利用してやると睨み付けている。
人に色があり、星に色がある。
未来視という理を超えた存在に色を見出したい。
再びの昂ぶりに抱く力が強くなる。
「天文学の道にアルカナを……ってね」
「今回の台本ですか?」
短い言葉であり、普通の高校生には縁のなさそうな言葉であったが、リリィは即座に理解して疑問を返す。
「うん。稚拙な考えで設定過多だけどね。一旦考えてみるのもアリだなーって」
翔太はリリィを抱いたまま立ち上がりそう話す。
「無理はなさらずに」
何度も似た状況に遭遇した為の心配の声。
杞憂であると知っていても言わずにはいられなかった。
「なるべくは」
その日、アムール宝狼二〇三号室の灯りは早々に消えた。
暗闇の中で翔太は、緊張を意味する深い緑色を認めていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
本格的に麻雀にハマった下野はアニメを見ながらこれを書いていたせいで、
「嶺上開花」とか「槍槓だ」とか書いていて、麻雀をやめようかと思いました。
当該箇所は完全に修正しました。
嫌だもん。
リリィがいきなり「翔太さん……ツモ、嶺上開花」とか言い始めたら。
作品変わっちゃうし。
さて、今回は愚者がテーマです。
凄くありきたりなテーマです。
そして「うわー、小説書き始めたらそこに行くよね^^」って感じのテーマです。
でもね、コレ、凄く書きやすいんですよね。
取り入れないと。
完全に操るのは不可能と思っていますので、上手いこと、旨味だけ引き出していければな……と考えています。対戦よろしくお願いします。
そして、次回からリリィの家族と、演劇部の波乱を『英断編』という題に相応しい内容で描いていきます。
とりあえず、リリィと翔太は一回ずつ英断をしましたが、まだあると思ってください。
というか、幼女に手を出した時点で一生英断を続けてもらいます。
失敗は許されません。
さて、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




