表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PRIDE or BRIDE  作者: 下野枯葉
英断編
62/121

四十七話 金髪幼女はシスコンの過去を手に取る

十二月二十日


 アパートの部屋に紙をめくる音が響く。

 リリィは宮代翔太の遺したノートを次々読み耽る。

 その中の一冊には『文芸部 濔霊』と記されていた。

 中を開くと様々な物語が……世界があった。

 中世を舞台にした冒険譚、異世界で近代科学を応用する物語、老父の逆襲劇……。

 一つ一つにコメントが残されており、筆跡は二種類あった。

 乱雑でぶっきらぼう、要点は忘れないようにしているがバラつきのある文字。

 箇条書きをしつつ文字の大きさが統一された綺麗な文字。

 ふたりの人間によって添削されたのだろう。

 最後の物語は綺麗な文字で『好きだった』で締められる短いものだった。




一年前。

 相牟田唯は西宮高校に入学し、文芸部を探していた。

 廃部になったと噂され、宣伝の張り紙も一切なかった。

 校内を端から端まで探したが全く見つからず彷徨う。

 一番北の棟、専門学科の授業で唯一使われる教室に向かう階段。

 それ以外では使われないとされている階段を上る。

 疲れを隠しきれず、大きな溜息をしながら教室を眺めた。

 勿論施錠されていて中を知ることはできず、もう帰ろうかと振り返った時……扉が一つあることに気付いた。

 そしてボロボロの紙に文芸部の文字があり、貼られている。

 その横には物置の文字も見えた。

 奇妙な体験が心臓を高鳴らせ、小説のようなトキメキを与えた。

 大きく深呼吸をしてから三度ノックして扉を開ける。

「失礼します」

 ゆっくりと中を覗くと男子高校生が一人本を読んでいた。

 小さな部屋。

 学校にある部屋とは思えない位狭い。

 中央に机が六つ繋がるように並び、その周りは人がギリギリすれ違えるほどの隙間、東側には出入り口の扉、北と西は窓があり南はカラーボックスが壁一面にある。

「あのー……文芸部ってここであってますか?」

「はい。入部希望ですか?」

 男子生徒は本にしおりを挟んでから閉じて、唯を見る。

「そうです! 一年の相牟田唯です」

 落ち着いた雰囲気に圧倒されつつ、文芸部の一員として認めてもらう為に丁寧に挨拶。

「俺は宮代翔太。同じ一年だよ」

「えっ?!」

 完全に先輩だと思っていた唯は意表を突かれ口を開く。

「というか、同じクラスだよ」

(……やっば)

 追加情報に気まずさを感じ、開いた口をゆっくりと閉じてから視線を下げる。

「ヤバくないよ……俺、特徴無いし」

「……顔に出てた?」

 考えを見透かされ、口元を手で隠す。

「まぁ……うん、そんなとこ」

 歯切れの悪い返事に少々の違和感を持ちつつも、頬を何度か叩いて表情を自然に戻す。

「いやーごめん。で、文芸部って廃部じゃなかったんだ」

「うーん、今は部員は俺だけだね」

 三つ上の代が卒業し、部員がいなくなってしまったことを捕捉し、唯に呆れ笑いに似た表情を投げる。

「じゃあふたりだよ! 私も入るから」

 そんな笑みに対し、唯は満面の笑みを返す。

 一時は絶望的に思えた文芸部への入部も叶い、物語ることができる喜びが表情に出たのだ。

「そっか、よろしくね相牟田さん」

「あ、苗字禁止で! それと敬称も」

 唯は苗字で呼ばれることに対しあまり良い想いが無い為、提案をした。

「はぁ……じゃあ唯、よろしく」

 女子を名前で呼ぶことに対する気恥ずかしさを隠しつつも快く返した。

「よし! よろしくね翔太!」



 唯が手を伸ばし、それを翔太が取る。

 西宮高校文芸部が再始動した。



 翔太の瞳には明るいオレンジが見えた。

 物語に対する愛を見た翔太は、高校生活での部活が最高のものになると確信した。


 翔太と唯、ふたりきりの部活は探り探りの状態で始まった。

 先代の部員は毎月部誌を発刊していたが卒業と同時にその歴史に幕を下ろした。

 つまり今の文芸部には何もなかったのだ。

 唯はこれを好機と捉えた。

 人間関係の拗れもなく、部誌に対する思い入れも一からであることを誇りにできると。

 翔太は新しい部誌に濔霊と名付け発刊し部活を軌道に乗せた。

 普段の部活は静謐な空間で本を読むだけの日もあったり、互いの書いた小説を読み合い、議論をしたり、充実した部活を送る。

 唯は翔太の描く世界が酷く美しいことを髄まで思い知り、悔しさとその倍の興奮を覚えた。

(あぁ、翔太はどんな本を読んで、どんな体験をしてこの世界を創ってるんだろう? 明日は小説を書いてきてくれるのだろうか?)

 そんな好奇心は次第に変化し恋心となる。

 中が深まると帰りがてら買い物を一緒にしたり、ファミレスで食事もした。

(やっぱり好きになっちゃったな)

 互いの関係が壊れてしまうことを恐れて程よい距離感を保ち続ける。

 段々と翔太の身の回りのことを知り、一人暮らしと妹の存在も知った。



 夏のある日、唯は翔太を夏祭りに誘った。

 部活の仲間としての声ではなく、真剣な声での誘いだ。

 翔太は妹を連れて行かなければならないと断り、その後に一転表情を合わせた。


 語るのは共感覚。

 入部してからずっと考えを知っていたこと。

 途中からその気持ちに変化が起こったことも知っていたと続ける……いや、知ってしまったと翔太は口にした。

「ずっと色が見える。目と目があえばより鮮明に見える。その色は考えに影響して変化し、見ちゃいけないものも見せてくる。それでも唯は同じことを言ってくれる?」

「……あ………………」

 声帯は上手く震えない。

 現実味のない話だが、真実と確信できた。

 恐怖。

 その感情が身を包んだ瞬間に、目が合う。

(……目が)

「怖いよね、ゴメン。忘れて」

 悲しい表情と共に笑った翔太は頭を掻いて、帰り支度を始めた。

「…………翔太」

「これ、内緒な。今日は先に帰るわ」

 部室の扉がゆっくりと閉まる。

 唯の伸ばした手は虚空を掴み、扉の閉まる音がいつもより大きく部室に響いた。


こんにちは。

下野枯葉です。


コロナ、第三波ですか……。

どんな影響が出るのか不安しかありませんが、仕事がなくなったらずっと書いていられるじゃん!

とかアホなことを考えました。

どうやって食っていくんだ……。


さて、今回はシスコンさんの物語です。

その過去に、共感覚を持った過去に、何があったのか。

リリィにはよく知って頂かなければなりません。

即ち、宮代翔太の物語が始まります。

つまり、あのキャラクターの過去も描きます。

そんなことを考えたら興奮してキーボードを打つ手が止まりませんでした。

続き、結構良い出来になっています。

期待して下さい。

少なくとも、私は大変興奮しました。


今回はこの辺で。


最後に、





金髪幼女は最強です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ