三十五話 Visual to Synesthesia
十二月十一日
俺は昨日と今日、学校を休んだ。
と、言うのも流石に疲れを隠すことができず、ダウン。
昨日に関してはほぼ寝ていて、リリィの作り置きしてくれたご飯を食べるだけだった。
「……あぁ」
昨日も今日も、心配の声を漏らしながら学校へ行ったリリィ。
本当は少しでも一緒にいたかったけど……。
と、考えながら起き上がった時、チャイムが鳴った。
「誰だ?」
勧誘だろうか?
玄関を開けると、花音ちゃんがいた。
「えっ」
「おはようございます」
丁寧に頭を下げて挨拶。
時間は午前九時を回っている。
「うん、おはよう……って学校は?」
単純な疑問が浮かび、それを確認する。
「『サボり』というやつです」
きっと『サボり』なんて言葉は初めて使ったのだろう。
言葉の音を確認しながらの爆弾発言だった。
でも理由に見当がついてしまい、俺は花音ちゃんを家に上げた。
「一昨日はありがとうございました」
お茶を淹れ、対面に座ったタイミングで花音ちゃんは頭を下げた。
「え? あぁ、大したことは何もしてないよ」
お礼を言われることにくすぐったい感覚があり、謙遜を一つ。
それを聞いて頭を上げた花音ちゃんは、次の台詞を考えるように目を左右に動かす。
「……」
「そうだ。これ、返すよ」
沈黙の中、預かっていた台本とメモ帳の存在を思い出した。
それらを丁寧に机の上に並べた。
「えっ?」
「これのおかげで劇は成功したも同然だからね。花音ちゃんの想いが沢山書いてあったよ」
手に取った『グスタフ』をペラペラとめくりながら、率直な感想を口にした。
「……やはりそうですか」
「ん?」
「私は兄に想いを伝えたことはありません。あの日の唯一度を除いて」
「でもこんなに」
嘘だよね?
そう思い、声を大きくする。
だってあんなにも綴られていたふたりの思い出が、一度も伝え合っていないとは思えない。
「兄には何も隠せません。兄の持つ共感覚は全ての人の『感情』を『色』として見ます。そして私に対しては特に強く見えたそうです」
「……共感覚」
シナスタジアとも呼ばれる知覚現象。
文字や音に色を感じたり、物体に数字が見えたりする。
「兄に与えられた唯一の能力。詳しくお話しすると、その瞳は心を色や形として捉える。……そして匂いも読み取ります」
全てに合点がいった。
宮代翔太が描いた数々の世界が客観的という言葉で説明できない程、様々な視点を持っていたこと。
メモ帳の所々に書かれた妹からの愛。
相牟田さんの『悪い奴』の意味。
人間の感情に対して特に反応したその感覚は、神の与えた能力と称して差し支えない。
その瞳は“見えてしまう”。
「そっかぁ」
嫉妬心が煽られるその能力。
しかし、強く羨むことはなかった。
苦悩していたことは承知していたからだ。
「翔太さんもその苦悩を理解してくださるのですね」
憂いの瞳が俺を突き刺す。
見透かされた感覚が俺を襲った。
「えあっ? 花音ちゃんも共感覚を?」
兄妹だからか?
という疑問はすぐに否定される。
「いえ、メンタリズムと呼ばれるものに近いです。所詮、兄さんの真似事です」
複雑に感情が混ざり合った笑みを浮かべながら花音ちゃんは俯いた。
それが兄と同一視されることへの喜びと悲しみを孕んでいることを理解した。
「ふーん……お兄さんに憧れてた?」
俺はとうに振り払った悲しみを、思い出させるようなことを言ってしまっただろうか?
杞憂であってくれ。
そう思いながら、花音ちゃんの瞳を見た。
「憧れ……それよりも」
「同じ場所にいたかった」
花音ちゃんの抱いた純粋な気持ちは、六畳の部屋で静かに語られた。
この気持ちを宮代翔太という少年は見ていたのだろうか?
今となってはもうわからない。
『暴こう』という暴挙は誰であっても許されないのだから、ふたりの胸の奥底に仕舞って置いて貰おう。
一年越し……いや、ふたりの出会った日から今日まで、長い時間をかけた決別は、今果たされた。
そして、互いの気持ちは明確になり、愛し合うことができたのだった。
こんにちは、
下野枯葉です。
お盆休みってなんすか?
さて、
『決別編』完結です。
私が描きたかった世界。どのくらい伝わっているのでしょうか?
三割くらい伝わっていればいいなぁ。
花音ちゃんは初登場からこういった結末もアリだなと考えていました。
他のお話に登場させようと思ったのですが、この後、咲菜を活躍させる際にこのお話を響かせたいので突っ張りました。咲菜ちゃん、君も翔太とリリィをかき乱してしまうのかい?
楽しみだね。
そして次のお話は、芽衣と柊花をメインにしたいなーって思ってます。
まぁ、予定ですけど。
因みに、芽衣と柊花のお話の前に花音ちゃんのお話をしたのには海、程深くはないけれど、深いワケがあります。
本編に絡むのでお楽しみに。
ちょっと雑談を。
連日の猛暑で、冬の物語を書くのが苦しいです。
寒くねぇもん。
あちーもん。頭バグってるもん。
つら。
寒くならないかな。
さて、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




