T・P 黒髪幼女の決別
これはとある兄妹の物語。
これは幾度の決別の物語。
宮代花音はごく普通の家庭に生まれた。
愛情を沢山受け、蝶よ花よと育てられた。
そのおかげか、もとよりそうであったのか……今となってはわからないが、慇懃に育った。
宮代花音には兄がいる。
七つ歳の離れた兄……名前は宮代翔太。
花音は翔太に恋をした。
ただ純粋に恋をした。
その想いは大人の決めた『やくそく』で縛られ、受け止められもせず、伝えられもせず、八年の時を数えた。
そして転機。
翔太の一人暮らし。
ふたりきりの場所は八年間隠し続けた想いを呼び起こすには十分だった。
そこから募る想い。
ゆっくり、ゆっくりと月日は流れ、遂に花音は決意をする。
二〇三四年十二月二十四日。
聖夜。
花音も翔太もクリスチャンではないが、日本に生きる者として祝い、大切な人と過ごしていた。
覚悟。
花音もその言葉を刻んだ。
翔太の懐に座った花音は右手を胸に引き寄せ、紡ぐ。
「……兄さん」
それは甘い言葉。
「好きです」
それは熱烈な想い。
「愛しています」
それは溢れ、零れ落ちるが誰も受け止めることなく続く。
「兄妹として……なんてことは言いません」
紡ぐ。
「どうか、どうか……私の気持ちを聞いてください。素直な気持ちを聞かせてください。もし……応えてくれるのなら、私は『貴方』に全てを捧げます」
引き寄せた右手を頬に移し、瞳と瞳を繋いだ。
翔太の左手は、もう片方の頬に乗り、項へ。
大きな手。
抵抗なく受け入れる。
刹那。
翔太は花音の肩を押し、遠ざけた。
そして涙を溢しながら紡ぐ。
「愛してる」
出会う定めと結ばれる定め。
どちらかしか選べない悔しさが、怒りが……互いを傷つけた。
翔太の涙の意味を理解できたからこそ……否、理解できてしまったからこそ、花音は慟哭と共にこの世界と、愛する人と決別すると決め、走り出した。
その日の天気予報は雨。
夜のうちに雪へと変わり、翌日も降り続けるとのこと。
そんな寒空の中、花音は走っていた。
鮮やかなイルミネーションの眩しさを嫌いながら走った。
闇へ闇へ。
誰もいない一人の場所へ。
「さよなら」
辿り着いたのは小さな橋の上。
西宮市に十数個流れる河川の中でも小さい川の上を架ける橋の上。
水面までは十メートル程。
小さな体ならば容易に絶えることができる高さ。
ここから落ちれば全てと決別できる高さ。
手は震える。
その理由を知る必要はない。
決別の時だ。
決別の時だ。
ゆっくりと柵によじ登り、深呼吸を一つ。
唇を引き絞った瞬間、全身から力を抜き、倒れる。
「花音!」
声が聞こえた直後、体は包まれた。
迷いなく飛び込んだ翔太は花音を抱き、逆さまに落ちた。
衝撃の全ては翔太が引き受け、花音が感じたのは冷たい水の感覚。
直後、抱えられた花音は岸に運ばれた。
「怪我は?」
「兄さん……どうして…………どうして!」
心配の声に答えるより先に疑問を投げる。
「そりゃ、か…………あぁ」
胸を抑えながら翔太は膝をついた。
「……にい、さん?」
「ガッ……あぁあっ……っ! ひゅ…………う、がっ」
咳と共に血を吐き、呼吸が乱れる。
肩は苦しく震え、不規則な呼吸をしていた。
「兄さん!」
数度揺れた後、ゆっくり横になり仰向けになった。
「かのっ……か、かのん」
「はい……ここにいます」
翔太の顔を見た花音は驚愕した。
寒雨が降りしきる中、曇天の空を呆然と見つめていた……が、その焦点は定まっておらず、蒼白。
「あぁ……あいし――」
寒雨の音に負けてしまいそうな声は途中で途切れた。
「……兄さん、兄さん?」
何度も何度も声をかける。
しかし何も返らない。
何度も何度も体を揺らす。
しかし何も……。
「翔太! 花音!」
声の主はふたりの父親だった。
花音がアパートを飛び出したと連絡を受け、翔太と共に花音を捜索していたのだ。
大人たちは次第に集まり、然るべき処置を行う。
「嫌……嫌っ! ごめんなさい、ごめんなさい…………ごめんなさい。私、いい子になるから、いい子になるからぁ……行かないで……兄さん」
周りで響く大人の怒号と悲鳴が聞こえないくらい心臓が脈打つ。
頬の冷たさは雨のせいか、絶え間なく流れる涙のせいか。
もう覚悟の火は消えていた。
そして約一年が経過する間、兄の死を強引に受け入れた花音は、片時も兄のことを忘れることなく日々を過ごしていた。
いつか、いつの日か兄の想いを受け入れる為待ち続ける。
叶わぬ願いと知っていても、夢を見続ける。
しかし想い続けて、想い続けた後に非情に大人が現実を叩き付けた。
幼く小さな心に突き刺す。
苦しむことがわかっていてもなお、突き刺した。
他の方向から解決を模索するべきなのに、それをせず自分たちの傷心を癒すことを優先した結果の暴挙。
二〇三五年十二月七日。
宮代翔太の一周忌は、花音の心を八つ裂きにしながら恙無く執り行われた。
大人たちは「あっという間ね」「翔太は偉かったな」「自慢のお兄ちゃんね」などと口にしながら花音を気遣う。
短く「はい」と答え続ける中、内側で『うるさい』と叫ぶ。
壊れた花音は何処へ行く?
愛する人の元へ歩き続ける。
こんにちは、
下野枯葉です。
今回紡いだのは、花音の過去と想い。
酷く拙い言葉を揃えてしまった気がします。
心に響くか不安が大きいです。
しかし、下野枯葉が今持っている全てを捧げました。
決別への舞台は悲劇的に語らねばなりません。
最善です。
そしてこの花音の物語は『決別編』の鍵です。
さぁ、舞台に光を。役者に華を。観客に万感を。
新たな舞台を魅せましょう。
頑張ってくれよ? ロリコンさんよ。
俺は杠葉翔太君に期待と嫉妬を込めます。
最低に最高なロリコンめ!
では、今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




