二十一・五話 金髪幼女は、金髪幼女はっ……負けないっ!!!
こんにちは、星奈柊花です。
えーっと。
翔太君が小学生に告白されていました。
んー……ちょっと、混乱してます。
あれ? いや、うん。
やっぱり翔太君は小学生が相手じゃないとダメなんだろうか?
犯罪者……じゃないか?
いやいや、今回は小学生の方からの告白だから違うはず。
でも、告白できる勇気、凄いなぁ。
今の私にはそんな勇気ないから。
うぅぅぅ……翔太君はロリコンだよね。
幼女になりたい。
すみません! 嘘です! 嘘! 幼女にはなれないし、なりたくないですよ?
あぁ! もう! 変になってる!
これ以上喋ると余計なことを言いそうです。
じゃあ行きますよ!
もう喋りません!
二十一話の裏側、二十一・五話行きます!
十一月三十日。
花音は通学路の途中で、学校とは逆の方向を向きながら佇んでいた。
「……んっ!」
足を動かそうとするが、動かない。
強く、無理矢理一歩前に出ようとする。
しかし、どうしても動かない。
俯いた花音は、諦め、学校へ向かって歩き始めた。
(もうすぐ一年。一年も経ってしまう。私は行かないといけないのに)
己の無力さ、覚悟の無さを噛み締めながら歩く。
(一年前は笑顔で歩けたのに)
過去を思い出し、唇を噛み締めた花音は愁いに満ちた表情を浮かべた。
それは去年の春のこと。
兄が高校入学を決め、一人暮らしを始めた日。
引っ越しが終わり『父さんと母さんの言うことを聞くんだぞ?』と残し、家を出た兄の背中を見ながら涙を溢したあの日。
それは去年の夏のこと。
近くで夏祭りが行われ、ふたりで楽しんだ日。
ふたりっきりのアパートの部屋で、空に咲いた花火の余韻に浸りながら他愛の無い会話をしたあの日。
それは去年の秋のこと。
何をするでもなく、ふたりで静かに時の流れを感じていた日。
本を読み終え顔を上げた時に見た兄の横顔。花音の視線に気付き微笑んだその顔に胸が高鳴り、恋をしたあの日。
それは去年の冬のこと。
冷たい、とても冷たい雨が降るクリスマス。
愛を伝え……決別したあの日。
嫌……嫌っ! ごめんなさい、ごめんなさい…………ごめんなさい。
私、いい子になるから! いい子になるからぁ……。
行かないで……兄さん。
周りで響く大人の怒号と悲鳴が聞こえないくらい心臓が脈打つ。
頬の冷たさは雨のせいか、絶え間なく流れる涙のせいか。
花音はその日を境に涙を流さなくなった。
「花音ちゃん、おはよう」
声を掛けられ、ハッとした花音は何度も首を振り周りを見た。
教室。
いつの間に着いていたのだろう? と考えながらも声の主を確認する。
「どうかしたの?」
リリィが心配そうにしている。
「いえ、なんでもありません。おはようございます」
「……」
何を話すべきなのだろうか?
そう考え、沈黙を作ってしまう。
この一週間、見えない壁が出来てしまった。
「リリィちゃんは……」
重く、苦しい時間を進めたのは花音の声。
「好きな人はいますか?」
「え?」
「好きな人です。その人のことを考えると何も手につかなくなる。その人の全てを知りたくて堪らなくなる……愛を伝えずにはいられなくなる。そんな人です」
小学校の教室には似つかわしくない台詞がリリィの耳に届いた。
ふと思い出される柊花との会話。
(とっくに覚悟は決まっています)
ほんの少しの苦しさがリリィに突き刺さる。
「います」
絞り出された声。
前回、柊花と話した時とは比べ物にならない程苦しい。
心臓を鷲掴みにされて動けない。
辛うじて声が出るだけだ。
「……っ!」
「互いが全てを捧げた、愛していて、愛するべき人が、一生守ると誓ってくれた人が……私にはいます」
(もう頽れてしまいそう)
「それは――」
(これ以上は、心が――)
――キーンコーンカ……。
チャイムの音が朝の会の開始を知らせる。
「では、また」
教室に担任の先生が入ったのを確認し、花音は自分の席に戻った。
「うん、また」
笑顔で答えたリリィ。
しかし心は疲弊し切っていた。
その日の学校でリリィと花音は話すことは無かった。
互いに距離を掴めずにいた結果だ。
(リリィちゃんには話さなくてはならない。兄さんのことを……兄さんとの過去を)
(花音ちゃんにあんなこと言っちゃった……どうしよう、もう隠し続けるのは無理だよね)
だが、互いに距離を零に戻したいとも考えていた。
「「「先生、さようなら」」」
児童達はその挨拶を皮切りに、来る週末の為、友人に声を掛け帰路に就く中、リリィはいつも通りに金曜日の放課後を迎えようとしていた。
しかし今日は特別だ。
夕食の支度をしなければならない。それも母の分も追加で。
学校での出来事を思考の端に置き、今夜の食事会を楽しみに、スキップしながら帰宅する。
「今日は……すき焼き。ふふっ、すき焼きだぁ」
もう、それはふにゃふにゃの笑顔。
「材料は揃ってるから、下ごしらえだけして……翔太さんのお迎えに行かないと」
後回しは嫌いなリリィだが、今回だけは特例と言い聞かせた。
その背後には花音がリリィを追いかけていた。
「待って……くだっ…………リリィさん、速い……です」
いくら追えども距離は縮まらず、大きく開くばかり。
「待って……えっ?」
曲がり角を曲がった時、リリィを見失った。
「嘘……。あれっ? ここは……どこでしょう?」
(次の角を曲がった先に?)
見当たらない。
(えっと、次を右?)
見当たらない。
知らない土地。
巡り巡る。
回り回った。
陽はゆっくりと沈む。
来た道も忘れ、舞った。
小学四年生に通学路以外の場所と言うのは未開拓の地、新天地である。
つまり。
迷子女子小学生の誕生だ!
「え? あっ、あ……こういう時は……えっと」
いくら優等生と言えど、緊急事態に対する実践はその身には早すぎる。
「えーっと……」
悩みに悩み、花音はその場に留まる決意をした。
不意に空を見た。
空は赤く染まり始めていた。
(最近、上手くいきません。何もかも空回り。……助けて兄さん、兄さん)
空はいつだって変わらない。
そう、いつだってそこにあって、そこで俯瞰して、そこで何もしていない。
「あぁ……兄さん」
空に声を掛けた。
花音は兄に聞いて欲しかった。
悩みを、葛藤を、悲しみを……そして、恋心を。
風が凪いだ。
花音の視界の端にリリィを捉えた。
「いたっ!」
次こそは見失うまいと花音は走り出した。
一方のリリィも走っていた。
「あぁあ……! 急がないと! 気を抜いてしまいました」
すき焼きの下ごしらえ……予定よりも長くなってしまった。
食材を切り、椎茸には凝った飾り包丁、人参は秋を思い出した紅葉の形に、昆布と鰹の合わせ出汁を丁寧に引いた。
料理好きのリリィにとって至福の一時であった為、時計を見るのを忘れていた。
急いで外出の支度をして、駆け出したのだ。
「今日は来なくて言いと言われましたが、そんなことできません」
駆ける速度を上げるに連れて、冷たい空気が頬に刺さる。
金色の髪を揺らし、住宅街を駆ける。
部活終わりの学生がまばらに歩く中、リリィは全ての人間の目を惹いた。
追いかける花音は周りの視線を頼りにリリィを追った。
西宮高校校門前。
息を切らし、胸を押さえるリリィはスマホを取り出し時間を確認した。
「そろそろ来る頃でしょうか?」
乱れた髪を整え、チラチラと校門から出る生徒を見る。
愛する人を待つ姿は斯くも美しい。
「いた……リリィちゃん、追いつき……ました」
汗を拭きながらリリィに声を掛けたのは花音だ。
「花音ちゃん?」
「あ……はぁ……やっと、んっ……あのっ、うん、はは……」
息切れをしながら言葉を出す。
「どうしたの? 落ち着いて」
突如現れた花音に驚きつつ、息を切らしている様子を見て呼吸を整えるように促す。
「んっ……ありがとうございます……。あのっ、話したいことがあるんです」
「は、はいっ」
真剣に見つめられて、緊張を感じたリリィは背筋を伸ばす。
「私の兄についてです。私、リリィちゃんはとても大切な友達だと思っています」
「うん、私も花音ちゃんはとっても大切な友達だよ」
「ありがとうございます。なので、その友達には私の大切な人を紹介しておかないと、と思っています」
「それがお兄さん?」
「はい。私の初恋の相手。今でも愛している人。そして――」
一瞬の静寂。
「――私のことを命懸けで守ってくれた、今は亡き人です」
「……」
どう返せばいいのだろう? どんな言葉を使えばいいのだろう?
そんな考えで満たされ、リリィは黙るしかできなかった。
「リリィちゃんが愛している人は……どんな人ですか?」
重くなってしまった空気を変えようと答えが返ってきそうな質問をした。
「えっと……あの、私の――」
リリィが答えを選ぶようにしていたとき、声が聞こえた。
「――お待たせ……その子は友達?」
悠太の声だ。
「あっ! 翔太さん……えっと、友達の花音ちゃん――」
リリィは金色の髪をふわりと揺らしながら振り返る。
そして演劇部メンバーを見て驚く。
年上の人が五人、一歩だけ後退ってしまう。
「――噂通りだね。可愛い、目が青い!」
「あぁ、ヨーロッパ系? ハーフ? 失礼かもしれないが、お人形さんみたいだな」
物珍しそうに、リリィを覗き込むふたり。
片方の女性は制服を身に纏っている為高校生だとわかるが、背丈はリリィよりも少し大きいくらいなので、威圧感は少ない。
しかし、一方の男性は背丈も大きく見下ろされ、緊張してしまう。
「リリィ、演劇部一同です。畏まらなくていいよ」
翔太は半身だけリリィの前に立ち、守る。
何気ない行動。
リリィは愛した人の魅力を再確認した。
「そうですか? えっと、花音ちゃんが偶然……」
状況を説明するが、言葉が不足していることを認め、言葉を選び直そうとした刹那。
「兄さん」
花音が静かに紡いだ。
信頼する人を見る目。
安心しきった目。
その視線は間違いなく翔太を刺していた。
「えっ?」
驚いたのは翔太だけではない。
その場にいた全員が、花音自身までもが驚きの表情を浮かべていた。
(翔太さん……妹が? いえ、花音ちゃんのお兄さんは亡くなったと聞いて……)
「両親に隠し子はいないと聞いています」
動揺の末、滑稽な言い訳の台詞が翔太から出た。
「ごめんなさい、兄に雰囲気が似ていたもので」
花音は慌てて間違いを正す。
良かった……。と周りの何人かが胸を撫で下ろしていた。
「あぁ……そういうこと。リリィの友達? 俺は杠葉翔太って言います。俺のことはリリィから聞いてるのかな?」
優しい自己紹介。
翔太はリリィの友人と聞きいいたが、失礼の無いように、そして年上としての優しさを合わせながら質問を一つする。
それと同時にリリィに視線を送った。
リリィはその行動が、ふたりの関係を確認するものだと即座に認識し、否定の意味を込め小さく首を横に振った。
「えっと、私は宮代花音と申します。今日は偶然ここにいるんですけど……」
丁寧に頭を下げ、自己紹介をした花音は深呼吸をして、真剣な眼差しを向けた。
「あのっ、翔太さん」
「何だい?」
「私と付き合って下さい」
空間が丸ごと凍った。
翔太は自信の頬をビンタする。
その行動に驚き翔太を見たリリィ。
しかし、花音の言葉が頭から離れない。
ビンタの味を噛み締め、痛みを確認した翔太は、今の状況が現実であると認識した。
「ん?」
声帯が震えず、最短の疑問の声を漏らす。
「いえ……」
花音から否定とも捉えられる声が聞こえた。
もう一度、花音は深呼吸。
「私と結婚してください」
リリィの頭は『結婚?』と『浮気?』という言葉で埋め尽くされ、動くことができなかった。
「え? 何て?」
翔太は頭を地面に叩き付け、質問をしている。
どうやら動揺しているのはリリィだけではないようだ。
「結婚です」
「「「「「「えええぇぇぇぇぇえ?!?!?!」」」」」」
絶叫。
大きな声を普段出さないリリィでさえ、お腹の底から声を上げた。
というか、自然と出た。
(一カ月で浮気?!?!?!)
翔太とリリィの会議が決定された瞬間である。
こんにちは、
下野枯葉です。
GWが本格的に終わります。
さぁ、明日から社畜です!
うん、会社の経営大丈夫かね? ウチの会社潰れないかね?
そんな心配を抱え、この緊急事態を乗り切りたいですね。
因みに、最近色々と考えています。
三密の空間で壇蜜さんと濃密な時間を過ごしたら、濃密な四密なのか? 五密なのか? 四密空間の壇蜜さんなのか……気になって、昼と夜しか眠れません。
前回に引き続き、タイトルを感情爆発(文法ヤバい)で決めました。
そうです!
金髪幼女は負けませんっ!
最強に可愛くて、見るだけで心臓を鷲掴みにされて、苦しくなって、もーーーーーーーー!
強いんだよぉ……。
だから書き続ける!
最強の存在をっ!
では、今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




