二十一話 ロリコン……このっ、ロリコン!!!
西宮高校、多目的室兼演劇部部室。
そこには学校指定の体操服を身に纏った五人の少年少女がいた。
しかし、その少年少女が立つのは教室ではなく、台本の中の世界。
羽衣石先輩が作り出した世界は天文学を志す少年と少女の物語。
『君達はこれからの人間だ……と周りの大人は口々に夢を、未来を託すだろう。それを漫然と受け入れるのを是とし、天文学の道を諦めるのか? それは滑稽だ』
天国先輩は時折台本に目を落としながらも、俺と目を合わせながら台詞を言う。
教師役の天国先輩。
『先生は淘汰されることなく、正しいことを言うから困ります』
掛け合いが行われる。
天国先輩との関係性を台詞の文字だけでなく、口調や視線の移動を用いて表現する。
『正しいことは嫌いか?』
『酷く辛い道を選ばなければならなくなるので嫌いです』
俺の演じる少年は、幼少期に見た星空を、その物語を解き明かすことを夢見る少年だ。
『私は難しいことは解りません。ただ、押し付けられた【正】は存在しないことは確かです』
芽衣の演じる少女はもう一人の主人公。
星に魅せられ、その存在の全てを自身の瞳で見ると決めた少女。
『もう一度聞こう。その憧れ……星々から目を背けるか?』
教師は現実を突き付け、ふたりの気持ちを試す。
『答えを知っていて聞くのはどういう了見で?』
『そうですよ、愚問です』
『では、嘲笑され、理論で殴られ、何もない世の中を前に歩き続けろ。君達の掴む星々は未来に繋がらなくとも、君達の人生には最上の輝きを与え、未知を解き明かすだろう』
『えぇ、自己満足ですよ。空を眺め、ロマンを語り続けます』
『解き明かす……そう、私は全てを解き明かします』
『その覚悟、受け入れよう……行ってこい! 天文学のその先へ!』
ここで舞台は一変。
袖幕が閉められ、上手と下手にスポット。
少年と少女はそれぞれスポットに入り、掛け合いとも捉えられる独白を始める。
その様子を見つめる羽衣石先輩は顎に手を当てながら、台本に加筆修正を行う。
隣では柊花が、舞台図を広げながら三人の読み合わせに釘付けになっていた。
舞台図とは、舞台を上から見た図面である。
机や椅子などの舞台装置、役者の立ち位置、スポットライトの位置などを書き込むためのものである。
「……すごい」
偽りのない称賛の声が柊花から漏れた。
「この三人は私が知っている最高の役者。でも学校祭でのとーちゃんはこの三人を超えてた」
羽衣石先輩は三人の読み合わせから目を逸らすことなく柊花にそう告げる。
「えっ、私はそんなに――」
「――とーちゃんは努力家だから挫けてしまいそうになることが多々あると思う。でも、その努力は天性の才能を超える」
ここで初めて羽衣石先輩の瞳は柊花を捉えた。
「相手が自分の憧れた、目指すべき天才でも、ですか?」
柊花は受け取った言葉に疑問を呈し、確認をする。
「うん。紫雲を見て」
「……」
「紫雲に演技の才能は無い。……贔屓目でも才能は無いと言うしかなかった」
「それは」
流石に嘘ですよね?
と、その言葉が発せられる前に羽衣石先輩が遮るように次の言葉を放つ。
「嘘じゃないよ。本当に下手だった。でも、魂を削って努力をした。その結果が今の紫雲。ゆず君やめーちゃんのような天才を凌駕している」
「努力」
「とーちゃんの本気、見せてもらうからね」
受けた期待、立ちはだかる試練。
柊花の覚悟はとうに決まっているので迷うことは無かった。
「はいっ!」
快く答えを返し、舞台図に印を書き始めた。
そして……その日の部活は順調に終わり、演劇部メンバーは昇降口から校門に向けて歩いていた。
「天国先輩。もう諦めました、逃げません」
俺は脱力気味にそんなことを言う。
天国先輩は俺の右腕を掴み、離さない。
別に天国先輩は俺と腕を組んで仲良く歩いているワケではない。逃亡を阻止する為だ。
「念には念を……ってな?」
「……はー」
どうしてこんな状況になっているのかと言えば、羽衣石先輩が、ゆず君の婚約相手を見たい。と言い出したのが始まり。
最初は『写真は無いのか?』と聞かれた。
俺は正直に無い。と答えたが『嘘だ! 見せてよ!』と、先輩が食い下がったのだ。
そこへ柊花が『毎週迎えに来てるみたいですよ』と言った。
『それは会うしかないな』と天国先輩まで悪ノリをした。
リリィに高校生の集団を会わせるのを嫌い、逃亡を図ったが捕獲された。と、まぁ、そんな流れだ。
「噂に聞く金髪幼女……この私の観賞眼、審美眼、ショットガンで見てあげるよ!」
羽衣石先輩は飛び跳ねるように歩きながらニヤニヤと笑みを浮かべる。
ショットガンは撃つものですよ。それと、ショットガンで撃ち抜かないで頂きたい。
「もー……」
左手で頭を掻きながら、重い足を動かす。
「あっ、いた」
校門が見えた瞬間、芽衣はリリィを見つけた。
「ほう?」
「おっ、あの金髪の」
天国先輩、羽衣石先輩が続けて反応する。
校門前には金髪幼女……俺の婚約相手、リリィがいた。
その隣には黒髪の幼女もいた。因みに二千翔先輩より幼女だ。
「お待たせ……その子は友達?」
見たことのない幼女を認め、率直に声を漏らした。
「あっ! 翔太さん……えっと、友達の花音ちゃん――」
リリィは金色の髪をふわりと揺らしながら振り返る。
そして演劇部メンバーを見て驚く。
「――噂通りだね。可愛い、目が青い!」
「あぁ、ヨーロッパ系? ハーフ? 失礼かもしれないが、お人形さんみたいだな」
物珍しそうに、リリィを覗き込むふたりの先輩。
戸惑うリリィは、押され気味だ。
「リリィ、演劇部一同です。畏まらなくていいよ」
自然と半身だけリリィの前に立ち、守る。
「そうですか? えっと、花音ちゃんが偶然……」
花音ちゃんと呼ばれた幼女は俺の顔を見つめている。
「兄さん」
そう紡がれた。
信頼する人を見る目。
安心しきった目。
その視線は間違いなく俺を刺していた。
「えっ?」
驚いたのは俺だけではない。
その場にいた全員が、花音ちゃんまでもが驚きの表情を浮かべていた。
「両親に隠し子はいないと聞いています」
動揺の末、滑稽な言い訳の台詞が出た。
「ごめんなさい、兄に雰囲気が似ていたもので」
慌てて間違いを正す。
良かった……。と周りの何人かが胸を撫で下ろしていた。
「あぁ……そういうこと。リリィの友達? 俺は杠葉翔太って言います。俺のことはリリィから聞いてるのかな?」
優しく自己紹介。そしてリリィとの関係をどう説明しようかと思い、リリィの顔をチラッと伺いながら尋ねた。
リリィは小さく首を横に振った。
それが、何も説明していないという意味だとすぐに理解した。
「えっと、私は宮代花音と申します。今日は偶然ここにいるんですけど……」
丁寧に頭を下げ、自己紹介をした花音は深呼吸をして、真剣な眼差しを向けた。
「あのっ、翔太さん」
「何だい?」
「私と付き合って下さい」
空間が丸ごと凍った。
一度、自分の頬をビンタする。
痛い。
現実であると認識。
「ん?」
声帯が震えず、最短の疑問の声を漏らす。
「いえ……」
花音ちゃんから否定とも捉えられる声が聞こえ、次の台詞で間違いを修正するのだろうと思い、少しだけ安心感を覚えた。
もう一度、花音ちゃんは深呼吸。
「私と結婚してください」
思考は完全停止。
ゆっくりと四つん這いになり、思いっ切り頭を地面に叩きつけた。
「え? 何て?」
小学生相手に言葉が汚くなったが、そんな場合じゃない。
「結婚です」
花音ちゃんは胸の前で両手を握り、聞き間違えられないように、正確に発音した。
「「「「「「えええぇぇぇぇぇえ?!?!?!」」」」」」
絶叫。
小学生の女の子一人に全員が混乱させられ、思考を乱し、絶叫。
一難去ってまた一難。
勘弁してくれぇ……。
こんにちは、下野枯葉です。
作品の中には感情をたっぷりと込める私ですが、タイトルは色々と考える派の私です。
唐突な告白に戸惑いましたね。
今回は、タイトルにも感情込めまくりです。
だって、この話を考えた時点で、『翔太……うらやまけしからんんんんん』と叫びました。
書きながらも叫んでました。
私怨ですか?
いいえ、妬み嫉み嫉妬です。
まぁ、楽しく書けたからいいや。
では、今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




