十九話 ロリコンは金髪幼女との時間を噛み締める
やぁやぁ諸君!
羽衣石二千翔だ!
あっ……こんな挨拶だと、紫雲に怒られちゃう。
こんにちは、羽衣石二千翔です!
いやぁ……ゆず君も大変だねぇ?
金髪幼女と婚約した、という噂を聞いて会ってみたら驚き桃の木山椒の木、校庭の桜の木ですよ!
めーちゃんとも色々あったみたいだし……多分とーちゃんとも何かあったよね。
私もそろそろ卒業だから、みんなには笑顔でいて欲しいな。
……。
久しぶりに先輩みたいなことしますかー……。
私の活躍、期待して下さいね!
それじゃあ行きますか?
よし、行っちゃうよー!
十九話、始まります!
「リリィ、お待たせ」
『すみ☆ロリ』最新刊を手に入れ、ホクホク顔の俺は校門前で待つリリィに声を掛けた。
「翔太さん、お疲れ様です。では行きましょうか」
一方のリリィは浮かない表情で俯いていた。
が、俺の声を聞いて顔を上げて笑顔を返した。
「何かあった?」
いつもとは違う表情に不安を感じ、状況を聞く。
「いえ……。先程、柊花さんに会いました」
「へー、何か話したのか?」
「翔太さんならもう少しで来ますよ、と教えて頂きました」
「他には?」
「…………お礼を言って、それで、帰られました」
「そっか……じゃあ行こうか」
「はいっ!」
金曜日。
アリサさんに会いに行く。
電車で一本の隣の市、ロペス家の別荘があり、そこで食事を一緒にする。
駅までの十数分の道を歩く。
この道はふたりにとっての思い出の道。
街灯が灯り始め、他愛の無い会話と共に手を繋ぎながら歩く。
小さな手。弱々しい手。
絶対に守ると決めた手。
駅の改札を過ぎ、電車を待つ。
「やっと慣れてきたよ」
九番ホームで溜め息と共にそう声を出した。
毎週の駅までの道とアリサさんとの食事、その両方に対しての感想を一言。
「それは良かったです」
「でもまだ緊張するけどね……端的に言えば威圧に負けそう」
「あはは……最近は笑顔も見せてくれるようになりましたけどね」
「えっ……笑顔? うっそ……だよね?」
「えっ……前回もとても笑ってましたよ?」
「…………えっ」
『間もなく九番ホームに電車が参ります。黄色い線の内――』
「――えええぇぇぇ?!?!?!?!」
認識の齟齬の中、電車が目の前に現れる。
一昔前までディーゼルエンジンを積んだ車両が走っていたらしいが、流石に今は電車だ。
電車に乗り込み、腰掛ける。
シートヒーターが電車に揺られる時間を快適なものに変える。
一定のリズムを刻みながら電車は走る。
そのリズムを心地良く感じ、ゆっくりと瞳を閉じる。
朝から騒がしく、学校の授業、部活……疲れが来た。
だが寝てはいけない……。
乗り過ごすと大変なことになる。最果ての雪山……戻れない四時間。
本当に……大変だぁ。
ゆっくりと目を開け次の駅を確認。
視線を隣に移す。
「休んでいても大丈夫です。着いたら起こしますから」
とても魅力的な提案であった。
「じゃあ――」
その提案を受け、ゆっくりと休もうと思った。
だが、人の多い電車の中……リリィを独りにするわけにはいかない。
「――いいや、起きてるよ」
笑みを返し、退屈な数十分を過ごすことを決めた。
ん?
退屈?
いいや、最高に幸せな時間じゃないか。
ただただ静かに揺られる数十分。言葉は交わさない。
俺とリリィはそれで満足だった。
電車を降り、駅前に停車している黒塗りのセダンに乗り込んだ。
運転手はクリスさん。
あの一件の後、再度雇用されたらしい。
「よろしくお願いします」
「かしこまりました」
一度目を伏せ口の端を上げたクリスさんはハザードランプを切り、右折ウィンカーを出す。
静かに走り出した。流石はハイブリッド車。
毎週金曜日のこの移動。
慣れてきてはいるが、体には負担が大きい。
それはリリィも同じで、クリスの運転という最大の安心感に包まれ微睡んでいた。
「来週からは西宮駅まで迎えに行きますよ?」
その様子を見てクリスさんはそう声を掛けてくれた。
「いえ、電車での時間はとても気に入っているので」
「これは無粋なことをお尋ねしてしまいましたね。失礼致しました」
「お気遣い……ありがとうございます」
「いえいえ……老輩の無用なお節介です。そて、もう着きますよ」
別荘の門を抜け、玄関へ向かう。
先日、敷地面積が東京ド〇ムと同じくらいだと聞いて驚いていたが、門から車で二、三分かかるのだから納得だ。
「リリィ、起きて」
停車したことを確認した俺は車を降り、反対側の扉を開け、リリィの肩を揺する。
「……んぅ。ふぅん……ん」
「リリィ?」
「ふぇ? あ……あっ、はい、起きてますよ」
何度か目を擦り、周りの景色を確認。
理解したリリィはハッとして笑顔を返してくれた。
「ほら、行こう」
手を伸ばす。
「はい。一緒に」
手を取ったリリィは言葉通り一緒に歩き始めてくれた。
さぁ、ドキドキの食事会だ。
ドッキドキだ……プレッシャー感じまくりだ!
両開きの扉はお洒落なレストランとか、高級ホテルとかでしか見ないと思っていた。
だけど毎週毎週見るようになったのは、婚約相手の別荘だった。
別荘の扉は開かれ、圧倒される。
リリィの手を少しだけ強く握り、覚悟を決めた。
無言で目を合わせ、頷いたふたりは食堂に向けて歩を進めた。
食堂では俺とリリィとアリサさんが食事を始めていた。
豪華絢爛。
マジで豪華すぎ。
ただテーブルマナーとかちょっと触ったくらいだったから覚えるのが大変だった。
気にしなくても大丈夫だ。
とか言われたけどそうは問屋が卸さない。
めっちゃ勉強した。
何とか覚えたテーブルマナーで食事をしつつ、俺とリリィは近況報告をした。
「そうか……リリィも体調に気を付けて勉学に励むんだぞ」
「はいっ」
目を見て話すことに慣れたふたり。
日常の些細な事の報告でさえ破顔しながら行う。
それを見るのが最近楽しいし、とても嬉しい。
「それはそうと、今日は一つ重要な話がある」
「重要な話……ですか?」
身構えた俺だったが、アリサさんの雰囲気に一切変化がないことから悪い話ではないのだと思った。
「あぁ、ふたりはアパートに戻る気は無いか?」
「アパート……」
咄嗟に理解ができず、復唱する。
「同棲を再開する気は無いか?」
アリサさんは俺とリリィの顔を見て、わかりやすく言葉を直した。
「あ、えっと……同棲したいです」
何も考えず、自然とその台詞が出た。
「はい、一緒に暮らしたいです」
リリィも同じように声を出す。
「そうか……クリス」
静かにクリスさんを呼ぶ。
アリサさんの横に現れ、目を伏せるクリスさん。
「はい」
「手配を進めろ」
「かしこまりました」
クリスさんは頭を下げたまま数歩下がり、インカムを操作。
「予定通りに」
小さく呟き、待機の姿勢に戻った。
「えっと、前と同じ部屋ですか?」
アムール宝狼二〇三号室。
一月前まで住んでいた部屋。
可能ならば同じ部屋がいいと思っている。
あの部屋にはリリィとの思い出が沢山詰まっているから。
「あぁ」
肯定の言葉を聞き、胸を撫で下ろす。
「次の人が決まってたりは……」
リリィは次の心配を呟く。
「そこは『交渉術』だろう?」
口角が大きく上がり、視線が絞られ、妖しく横へ流れる。
「「……」」
(あっ……この笑顔は、食べられないお菓子をあげる感じの交渉術だ)
そんなアリサさんに近付き、クリスさんは耳打ちをした。
「十二月一日には準備できる。すぐに引っ越すか?」
アリサさんはアパートの確認を済ませ、提案をした。
断る理由は一つもない。
「「はい!」」
俺とリリィは声を合わせ、頷いた。
再び始まる同棲生活。
期待に胸を膨らませながら、新生活を想像した。
完全に婚約を受け入れた今……どんな生活になるのだろうか。
『すみ☆ロリ』よりも最高の生活にしてやるぞぉぉぉ!
こんにちは、下野枯葉です。
今回、ふたりは電車に乗ります。
電車ってどんな感じだっけ……と思い、休日に乗ろうと思いました。
コロナを思い出し、断念。
いや、マジで、外に出かけられない。
普段、家に引き籠ってばかりで、外出なんてしないと思っていたんです。
でもこういう時に限って外出をしたくなります。
くそぅ。
あと、テーブルマナーを書きました。
あ、書いてないよ。
うん。
テーブルマナーとか思い出せねぇよ。
でも無理矢理思い出したよ!!!
俺、頑張ったな!!!
偉い!!!
称賛して!!!
では、今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




