表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PRIDE or BRIDE  作者: 下野枯葉
選択編
23/121

十五話 PRIDE or BRIDE

 体育館のステージ。

「朝起きると、世界は一変していた」

 中央には一人の少女。

「私は世界に嫌われ、孤独になった」

 薄暗い舞台。

 スポットライトが少女を孤独にする。

「母も扉越しに謝ることしかしない。理由がわからない。どうして……どうして!」




 俺は走る。

 大通りは信号で待たされると思い裏道に入る。

 距離は伸びるが、信号で止まらない。

「走れ……走るんだよ!」

 単純に走る速さのみ。

 運動が得意ではない俺にとっては過酷だが、そんなことはどうでもいい。

「間に合え!」




「私の恋人も泣きながら……謝った」

 舞台を右へ左へ歩き、時折泣きそうになるのを堪える。

「どうして……」

 次の台詞を口に出そうとした刹那、翔太の顔が浮かぶ。

(リリィちゃんに負けたら……)

「孤独は……嫌」

 その表情は体育館にいた全ての人を魅了するには十分だった。




 走りながらスマホの画面を点灯し、時間を確認する。

「三十分……改札くぐるなよ、面倒だ」

 俺は足を動かすことにだけ集中する。

「はぁ……あぁ! ……くそっ! 間に合えっ……走れ、走れよ!」

 縺れる足を無理矢理動かし、走った。

「リリィ……」

 求める人を、妻を――

「リリィ!」

 ――愛する人を取り戻すために。




「あぁ、貴方がいなければ――」

(……負けない)

「――私は泣いてしまうわ」

 柊花は間違いなく主役だった。

 その小さな劇場は万雷の拍手と喝采に包まれた。

 しかし、柊花の表情は憂いに沈んでいた。




 駅に着き、行き交う人を見つめる。

 土曜の昼間だというのに何故こんなに人は多いのか。

 しかし、リリィを見つけるのは容易かった。

「リリィ!」

 周りの目など気にせず声を出す。

 隣にいた女性を認識し、息を呑む。

「見つけた……帰ろう」

 ゆっくりと近付き、そう言う。

「君が杠葉翔太だな」

 リリィの隣にいる女性……恐らくアリサ・ロペスだろう。

 アリサさんは静かに呟く。

 駅の喧騒の中でもその声はハッキリと聞こえた。

「時間が無い。ままごとは終わりだ」

 アリサさんの顔を見る。

 ……。

 なんだろう。

 美人、なんだけど……何かが引っかかる。

 美人な普通の女性だ。

 普通だった。

 隣にいるリリィは俯いたままだ。

「ままごとなんかじゃありません」

 アリサさんはごく普通の女性だった。

 じゃあなぜ……リリィはこんなにも怯えているのだろうか?

 考えろ。

「ロペス家の意向だ、無関係の君に何ができる」

「リリィはそれを望んでいません」

「君に娘の何がわかるというのだ? 娘のことはリリィにしかわからないだろう?」

 アリサさんはリリィに視線を送った。

 リリィは動かなかった。

 ……。

 引っかかる。

 何だこれ。

 考えろ。

 ……。

 あぁ。

 そうか。

 わかった。

「……知っていますか」

「何?」

「リリィっていう女の子のことを」

「当然だ」

「ダウトです。だから、リリィを返してもらいます」

「戯言を。……行くぞ」

「娘の名前を呼べ! 顔を見ろ!」

 人目を憚らず叫んだ。

「……」

「俺は知っています。貴方の知らない……リリィを!」

 こんな御伽話みたいなことがあるのだろうか?

 だが、あるのだ。

「貴女の知っているリリィは諦めます。でも、貴女が知らない、俺の知るリリィは返してもらいます」

 ロペスという呪い。

 第三者から見れば滑稽だろう。

 しかし当事者は苦しんでいるんだ。

「構っていられない」

 いつまでも目を背けるアリサさんに、教えてやる。

「俺は知っている、家に帰ると笑顔で出迎えてくれることも、料理は和食が得意なことも」

 記憶は尽きない。

「コスプレをしたらとても可愛いことも」

 三カ月、短かった。

「本当は学校祭に行きたかったことも」

 でも、充実していた。

「九歳なのに一人で何でもこなしてしまうことも」

 ありえない状況もいつの間にか楽しくなっていた。

「俺のことが好きだということも……貴女は知っていますか」

「……っ! 行くぞ!」

 耐えきれず、リリィの手を引いたアリサさんは、無理矢理連れ去ろうとする。

「リリィの意思を聞け!」

 引き留めるためにもう一度叫ぶ。

 周りの人は『何の修羅場だ?』と言った雰囲気でチラチラとこちらを見ながら去っていく。

「私は……私はっ」

 怯えた声。

 こんな声は初めて聴いた。

 スカートの裾を握り締め震える。

「お前はロペス家の人間だ」

 アリサさんは冷たくそう言う。

 リリィはその声を聞いて震えが止まった。

 恐怖がなくなったのではない。

 感情がなくなったのだ。

「私……お母様に――」

 ゆっくりと顔を上げたリリィの瞳に、光がないのを認識した瞬間声が出た。


「――愛してる」


他意は無い。

「っ!」

「行こう」

 伸ばす手。

「お母様……私はここに残ります」

 リリィはアリサさんの手を振り払い、俺の手を取る。

 強く握られ、俺は握り返す。

「まさか!」

「私はロペス家を出て、翔太さんのお嫁さんになります!」




 んは?! ここは駅だぞ! 何を叫んで!

「……本気か?」

 アリサさん……返答がおかしい、本気かよ!

「えぇ……。お母様、目を見てください」

 互いに怯えながら瞳を合わせる。

「リ……リリィ」

 音は合っているだろうか? そう確認するように声を出す。

「……お母様」

「……行ってこい」

 母の囁き。

「はい、行ってきます」

 希望に満ちたリリィの宣言は、満開の笑顔だった。

 リリィは俺の腕に掴まりながら涙を流していた。




 あぁ……もういいや。

 公衆の面前で九歳の女の子と結婚宣言したし、誰に何と言われようと関係ないな。

 そうさ。

 そうさそうさ!

 プライドなんて知ったことか!

 絶対にリリィを幸せにして見せる!

 何でかって?

 単純だ。


 俺はロリコンだぁ!


 駅から学校へ向かい歩く。

 ちょっと前までは一人で歩いた道。

 まぁ、学校から駅へ向かっているから逆なんだけどね。

 今は、二人で歩く道。

 都会とも田舎とも言い難い、駅前の通りの裏道。

 川沿いの道では、枯れ始めた桜の葉が地面を覆う。

 きっと、学校を抜け出したことを教師たちに叱られるのだろうなぁ。

 そんな憂鬱な思い。

 羊雲を見上げながら考えた。

 溜め息を一つ。

 その時、手を引っ張られる。

 俺の手を引くのは勿論リリィだ。

 リリィの顔を見る。

 優しく微笑む。


 嫁……か。受け入れようじゃないか。


 少年はロリコンを認め、九歳の金髪幼女との婚約を受け入れた。

 世間からの暖かい視線に屈することなく少年は一歩前に進んだ。


皆さんこんにちは。

下野枯葉です。


驚いたことに最終回です。(2019/10/13現在)


いやー……終わってしまいましたね。

とりあえず、書きたかった駅での告白シーンを書けました。

あ、ネタバレですね。


次はまた違うものを書こうか、続きを考え始めてもいいのだろうかと悩んでいます。

とりあえず、なにかしら書き続けたいなと思います。

とても楽しい趣味ですから


それでは、

今回はこの辺で。




最後に、

金髪幼女は最強です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ