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PRIDE or BRIDE  作者: 下野枯葉
選択編
17/121

十一話 ロリコンは幻想に思いを馳せ、現実にしがみつく

「翔太さん、お帰りなさい」

 リリィが笑みを浮かべながら荷物を受け取る。

「ご飯にしますか? それともお風呂が先でしょうか?」

 俺は少し悩んだ後に、夕食にしようと言った。

「すぐに準備してしまいますね」

 リリィは、俺の荷物を部屋に運びすぐに台所に戻る。

 手際よく料理を皿に盛り付け、机に綺麗に並べる。

 何か手伝おう。

 そう思い立ち上がろうとするがリリィに「翔太さんはゆっくりなさってください」と言われてしまい、待つことにする。

 身に着けているエプロンも、見慣れてきた。

 ……。

 見慣れてきた。

 そう、水色のエプロンだ。

 ……。

 あれ?

 いや、ピンクのエプロンだ。

 違う。

 違う違う。

 フリルが付い……て。

 ……。

 何で、何で思い出せないんだ。

 視界がぼやけ、リリィが見えなくなる。

 ……リリィ。


「……う…………た」

 何だ?

「しょ……た」

 リリィ………………じゃない?

「翔太? おーい……聞い……る」

 この声は。

「聞いてるー? おーい!」


 視界が安定する。

 目の前には芽衣が体操服を身に纏い、立っていた。

「翔太、聞いてる?」

 顎に手を当て、俺の顔を覗き込む。

 ここは……部室か?

 そうだ、部室だ。

「お、おう、どうした?」

 明らかな動揺。

 さっきまでの光景は一体?

「どうしたも何も、基礎練終わったよ」

「そうか。えっと……えーっと、始めよう」

 頭を掻き、呼吸を整えた俺はそう声を出す。

「はいよー」

 忘れろ。

 今は、集中するんだ。

「それじゃあ、昨日の最後にやった中盤のシーンから」

 俺はやらないといけないんだ。

「部長」

 同じく体操服を着た柊花は、俺と目を合わせ数秒してから声をかけてきた。

「どうした?」

「今日も……頼んだよ」

「……おう」

 柊花の気迫を感じたのだろうか?

 俺の中で『本気を出せ』という言葉が反響する。

 覚悟か。

 あぁ、やってやるさ。

「任せとけ!」

 柊花は口角を少し上げ、いつもの立ち位置へ向かう。

 芽衣は、何か思いつめた表情をしていた。

 その日、柊花は何かを纏っていた。

 演出をする立場の俺が思わず見入ってしまう程に。

 しかし、途中で生徒会との打ち合わせの為、抜けなくてはならず、残念な気持ちで一杯になった。




 翌日。

 土曜の十時過ぎ。

 ピンポーン。

 チャイムの音で目を覚ました俺は、寝癖をそのままに玄関へ向かった。

「よう! ……って、寝てた?」

 扉を開けると、芽衣がいた。

「まぁ……って、今日は集合する予定だったっけ?」

「いや、そうじゃないんだけどさ」

「じゃあどうした」

「本番まで時間もないし、詰めれる時に詰めようかなーと」

「はぁ。左様で」

「というわけで、おじゃましまーす」

「あっ、ちょっと……まじか」

 芽衣は慣れたように、洋室に入り台本を広げ始めた。

 まったく……そう思いながらも、俺は台所でお茶を用意し洋室へと持っていく。

 この急須も久しぶりに使われて喜んでいるのだろうか?

 そうならいいな。




 改めて台本を二人でブラッシュアップし、昨日の生徒会の打ち合わせ内容を確認した。

「ねぇねぇ、翔太」

「なんだ?」

 俺が上手側スポットライト、芽衣が下手側スポットライトを担当することになったと伝えた時、芽衣が声をかけてきた。

「リリィちゃんはさ……戻ってくるの?」

「……わからないな」

 なるべくいつも通り返事をしたつもりだ。

 でも、声のトーンは明らかに落ち、俯いてしまっていた。

「そっか」

「おう……それよりも、劇だ。先輩も見に来るだろうから頑張らないと……それに! 芽衣もうかうかしてられないだろ?」

 意地悪く頬を上げながらそう問いかけた。

「そうだね……柊花っち、すごいもんね。負けないよ」

「その意気だ」

 その後、二人で体を動かしながら細部の表現を詰める。

『外を眺めても、私には全てが無彩色に見える』

 胸の前に両手を当て、憂いを帯びた瞳を覗かせる。

 芽衣の演技が小さな洋室で始まる。

『昨日までは青い空が広がり、人々の活気が美しかった』

 下手方向へゆっくりと三歩進む。

 その間に噛み締めるような小さな溜め息。

『でも今は……鉛色の空、人々は私を咎め蔑むような視線を突き刺すの』

 視線を大きく左右に振り、体を震わせながら怯える。

『私は……独りよ』

 違う。

 俺の脳内との差異を認めた。

 けれどもそれは柊花と芽衣の違いなのだろう。

「どう……だった?」

「そうだなぁ……『でも今は』からセンターに少し寄りながら後方に移動するけど……スポット当たるかな?」

「んー、学校のスポットがどんなものなのか知らないから……どうなんだろうね」

「月曜にでも見せてもらうしかない……か」

 俺は慣れない設備での劇の難しさを改めて噛み締め、溜め息を漏らす。

 自然と伸ばした右手が湯呑を手に取り、お茶で喉を潤そうとする。

 しかしお茶は入っておらず、お湯を沸かさなくてはならない。

「リリ……」

 そこまで声に出し、笑いながら立ち上がった。

「……翔太」

 気付かれてしまったか。

「いやー……いなくなって気付くよ、すごく頼ってたんだなーって」

「……」

「まぁ、それも今月で終わりだからね」

 台所でやかんに水を入れ、火にかける。

 再び洋室に戻り、ソファに腰掛ける。

「ぶっちゃけ寂しいなぁ」

 弱音が一つ。

「ありえない状況なんだけどさ、意外と楽しかったし……その反動が大きくてさ」

 もう一つ。

「って、何言ってるんだか――」

 瞬間、俺はソファに寝転がっていた。

 正しくは倒されたのだ。

「――なら、私でいいじゃん」

 芽衣は俺の上に覆い被さる。

「リリィちゃんがいなくなって寂しいなら、私が寂しくないようにしてあげるよ」

「……芽衣」

「毎日一緒にいてもいいよ、隣にいてあげるよ」

 鈍感な俺でもわかる。

 この状況の意味はわかる。

「私は翔太と一緒がいいな」

 でも、どうして芽衣は泣いているんだ。

 芽衣の涙が、俺の頬を濡らした。

「お願い……私を翔太のものにしてよ」

 芽衣は震えた左手で俺の右腕を掴み、引き寄せる。

 呼吸の音が耳に響く。

 その震えが伝わる。

「何をしてもいいよ……私は受け入れるよ」

 俺の右腕は芽衣の小さな胸に触れていた。

「動かしていいよ」


 何で泣いているんだ。どうして俺なんだ。


 これが普通の恋愛なのか? これが正常なのか?


 芽衣はどうして震えている?


 これも一つの青春じゃないか。


「リリィちゃんの代わりで構わないよ」

 芽衣と視線が合う。瞳がほんの少し揺れる。

「私は翔太が――」


 ――ピィーーーーーッ!


 台所のやかんが湯が沸いたことを知らせた。

 その音に驚いた二人は距離を取り、気まずい空気を作り出してしまった。

 俺は火を止めに台所へ向かう。

 処理しきれない情報。

 俺はどうしたらいいのだろうか?

 芽衣はどうしたいのだろうか?

 纏まらず、頭を抱える。

「翔太、今日はもう帰るね……また月曜日」

 いつの間にか支度をした芽衣は早口でそう告げ、出ていった。

「……」




 芽衣は何も考えず歩き、駅に着いた。

 そして、自分のしたことを思い出し葛藤する。

 どうして私はあんなことを……。

 リリィちゃんがいなくなって弱くなった翔太……チャンスと思ってしまった。

 最低な行為だ。

「最低…………だよ」




 そして次の月曜日。

 放課後の部室。

「うーっす」

 いつも通り。いつも通り。

 そう意識しながら部室に入ると芽衣と目が合った。

「……」

 芽衣は気まずそうに視線を落とす。

「よーし、部活始めるか」

 何もなかったかのように俺はそう声を出す。

「うん、本番まであと少しだ。頑張ろう」

 柊花は気合を入れ立ち上がる。

「……そうだね」

 少し悲しげな顔をした芽衣はそう言いながら台本を取り出す。

 俺は芽衣との間に明確な壁ができてしまうのを恐れている。

「それじゃあ先週見つけた問題点から片付けていこうか」

 二人に等しく、同じように視線を送り平常運転。

 そう、いつも通りやろうじゃないか。

「……うん」

 笑顔の戻った芽衣の奥底にある、壁だけは取り払うのに時間がかかりそうだ。


こんにちは、下野枯葉です。


先日ラノベを買いに行ったら学生時代の同級生に会い、「お前、ずっとアニメとか好きだよな」と言われました。

一途っていいと思うんですよ。どうでしょうか?


今回はやっと登場人物を大きく動かし始めた感じです。

因みに、エンディングまでの道のりが見えて(もっと早くから展開作ればよかったぁ……)と思いました。

いやー、難しいんもんです。

特に、芽衣ちゃんには頑張って頂きました。

こういったシーンを書くのは苦手であると気付きました。どうしよう薄味。

段々と上手になれればいいなぁと思っています。


そうそう、最近なろう関係のスレを見たのですが、意外と面白いですね。

様々な人がこのサイトで書いているんだなぁと、あらためて実感しました。

私も、負けていられませんね。


では、

今回はこの辺で。




最後に、

金髪幼女は最強です。

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