十一話 ロリコンは幻想に思いを馳せ、現実にしがみつく
「翔太さん、お帰りなさい」
リリィが笑みを浮かべながら荷物を受け取る。
「ご飯にしますか? それともお風呂が先でしょうか?」
俺は少し悩んだ後に、夕食にしようと言った。
「すぐに準備してしまいますね」
リリィは、俺の荷物を部屋に運びすぐに台所に戻る。
手際よく料理を皿に盛り付け、机に綺麗に並べる。
何か手伝おう。
そう思い立ち上がろうとするがリリィに「翔太さんはゆっくりなさってください」と言われてしまい、待つことにする。
身に着けているエプロンも、見慣れてきた。
……。
見慣れてきた。
そう、水色のエプロンだ。
……。
あれ?
いや、ピンクのエプロンだ。
違う。
違う違う。
フリルが付い……て。
……。
何で、何で思い出せないんだ。
視界がぼやけ、リリィが見えなくなる。
……リリィ。
「……う…………た」
何だ?
「しょ……た」
リリィ………………じゃない?
「翔太? おーい……聞い……る」
この声は。
「聞いてるー? おーい!」
視界が安定する。
目の前には芽衣が体操服を身に纏い、立っていた。
「翔太、聞いてる?」
顎に手を当て、俺の顔を覗き込む。
ここは……部室か?
そうだ、部室だ。
「お、おう、どうした?」
明らかな動揺。
さっきまでの光景は一体?
「どうしたも何も、基礎練終わったよ」
「そうか。えっと……えーっと、始めよう」
頭を掻き、呼吸を整えた俺はそう声を出す。
「はいよー」
忘れろ。
今は、集中するんだ。
「それじゃあ、昨日の最後にやった中盤のシーンから」
俺はやらないといけないんだ。
「部長」
同じく体操服を着た柊花は、俺と目を合わせ数秒してから声をかけてきた。
「どうした?」
「今日も……頼んだよ」
「……おう」
柊花の気迫を感じたのだろうか?
俺の中で『本気を出せ』という言葉が反響する。
覚悟か。
あぁ、やってやるさ。
「任せとけ!」
柊花は口角を少し上げ、いつもの立ち位置へ向かう。
芽衣は、何か思いつめた表情をしていた。
その日、柊花は何かを纏っていた。
演出をする立場の俺が思わず見入ってしまう程に。
しかし、途中で生徒会との打ち合わせの為、抜けなくてはならず、残念な気持ちで一杯になった。
翌日。
土曜の十時過ぎ。
ピンポーン。
チャイムの音で目を覚ました俺は、寝癖をそのままに玄関へ向かった。
「よう! ……って、寝てた?」
扉を開けると、芽衣がいた。
「まぁ……って、今日は集合する予定だったっけ?」
「いや、そうじゃないんだけどさ」
「じゃあどうした」
「本番まで時間もないし、詰めれる時に詰めようかなーと」
「はぁ。左様で」
「というわけで、おじゃましまーす」
「あっ、ちょっと……まじか」
芽衣は慣れたように、洋室に入り台本を広げ始めた。
まったく……そう思いながらも、俺は台所でお茶を用意し洋室へと持っていく。
この急須も久しぶりに使われて喜んでいるのだろうか?
そうならいいな。
改めて台本を二人でブラッシュアップし、昨日の生徒会の打ち合わせ内容を確認した。
「ねぇねぇ、翔太」
「なんだ?」
俺が上手側スポットライト、芽衣が下手側スポットライトを担当することになったと伝えた時、芽衣が声をかけてきた。
「リリィちゃんはさ……戻ってくるの?」
「……わからないな」
なるべくいつも通り返事をしたつもりだ。
でも、声のトーンは明らかに落ち、俯いてしまっていた。
「そっか」
「おう……それよりも、劇だ。先輩も見に来るだろうから頑張らないと……それに! 芽衣もうかうかしてられないだろ?」
意地悪く頬を上げながらそう問いかけた。
「そうだね……柊花っち、すごいもんね。負けないよ」
「その意気だ」
その後、二人で体を動かしながら細部の表現を詰める。
『外を眺めても、私には全てが無彩色に見える』
胸の前に両手を当て、憂いを帯びた瞳を覗かせる。
芽衣の演技が小さな洋室で始まる。
『昨日までは青い空が広がり、人々の活気が美しかった』
下手方向へゆっくりと三歩進む。
その間に噛み締めるような小さな溜め息。
『でも今は……鉛色の空、人々は私を咎め蔑むような視線を突き刺すの』
視線を大きく左右に振り、体を震わせながら怯える。
『私は……独りよ』
違う。
俺の脳内との差異を認めた。
けれどもそれは柊花と芽衣の違いなのだろう。
「どう……だった?」
「そうだなぁ……『でも今は』からセンターに少し寄りながら後方に移動するけど……スポット当たるかな?」
「んー、学校のスポットがどんなものなのか知らないから……どうなんだろうね」
「月曜にでも見せてもらうしかない……か」
俺は慣れない設備での劇の難しさを改めて噛み締め、溜め息を漏らす。
自然と伸ばした右手が湯呑を手に取り、お茶で喉を潤そうとする。
しかしお茶は入っておらず、お湯を沸かさなくてはならない。
「リリ……」
そこまで声に出し、笑いながら立ち上がった。
「……翔太」
気付かれてしまったか。
「いやー……いなくなって気付くよ、すごく頼ってたんだなーって」
「……」
「まぁ、それも今月で終わりだからね」
台所でやかんに水を入れ、火にかける。
再び洋室に戻り、ソファに腰掛ける。
「ぶっちゃけ寂しいなぁ」
弱音が一つ。
「ありえない状況なんだけどさ、意外と楽しかったし……その反動が大きくてさ」
もう一つ。
「って、何言ってるんだか――」
瞬間、俺はソファに寝転がっていた。
正しくは倒されたのだ。
「――なら、私でいいじゃん」
芽衣は俺の上に覆い被さる。
「リリィちゃんがいなくなって寂しいなら、私が寂しくないようにしてあげるよ」
「……芽衣」
「毎日一緒にいてもいいよ、隣にいてあげるよ」
鈍感な俺でもわかる。
この状況の意味はわかる。
「私は翔太と一緒がいいな」
でも、どうして芽衣は泣いているんだ。
芽衣の涙が、俺の頬を濡らした。
「お願い……私を翔太のものにしてよ」
芽衣は震えた左手で俺の右腕を掴み、引き寄せる。
呼吸の音が耳に響く。
その震えが伝わる。
「何をしてもいいよ……私は受け入れるよ」
俺の右腕は芽衣の小さな胸に触れていた。
「動かしていいよ」
何で泣いているんだ。どうして俺なんだ。
これが普通の恋愛なのか? これが正常なのか?
芽衣はどうして震えている?
これも一つの青春じゃないか。
「リリィちゃんの代わりで構わないよ」
芽衣と視線が合う。瞳がほんの少し揺れる。
「私は翔太が――」
――ピィーーーーーッ!
台所のやかんが湯が沸いたことを知らせた。
その音に驚いた二人は距離を取り、気まずい空気を作り出してしまった。
俺は火を止めに台所へ向かう。
処理しきれない情報。
俺はどうしたらいいのだろうか?
芽衣はどうしたいのだろうか?
纏まらず、頭を抱える。
「翔太、今日はもう帰るね……また月曜日」
いつの間にか支度をした芽衣は早口でそう告げ、出ていった。
「……」
芽衣は何も考えず歩き、駅に着いた。
そして、自分のしたことを思い出し葛藤する。
どうして私はあんなことを……。
リリィちゃんがいなくなって弱くなった翔太……チャンスと思ってしまった。
最低な行為だ。
「最低…………だよ」
そして次の月曜日。
放課後の部室。
「うーっす」
いつも通り。いつも通り。
そう意識しながら部室に入ると芽衣と目が合った。
「……」
芽衣は気まずそうに視線を落とす。
「よーし、部活始めるか」
何もなかったかのように俺はそう声を出す。
「うん、本番まであと少しだ。頑張ろう」
柊花は気合を入れ立ち上がる。
「……そうだね」
少し悲しげな顔をした芽衣はそう言いながら台本を取り出す。
俺は芽衣との間に明確な壁ができてしまうのを恐れている。
「それじゃあ先週見つけた問題点から片付けていこうか」
二人に等しく、同じように視線を送り平常運転。
そう、いつも通りやろうじゃないか。
「……うん」
笑顔の戻った芽衣の奥底にある、壁だけは取り払うのに時間がかかりそうだ。
こんにちは、下野枯葉です。
先日ラノベを買いに行ったら学生時代の同級生に会い、「お前、ずっとアニメとか好きだよな」と言われました。
一途っていいと思うんですよ。どうでしょうか?
今回はやっと登場人物を大きく動かし始めた感じです。
因みに、エンディングまでの道のりが見えて(もっと早くから展開作ればよかったぁ……)と思いました。
いやー、難しいんもんです。
特に、芽衣ちゃんには頑張って頂きました。
こういったシーンを書くのは苦手であると気付きました。どうしよう薄味。
段々と上手になれればいいなぁと思っています。
そうそう、最近なろう関係のスレを見たのですが、意外と面白いですね。
様々な人がこのサイトで書いているんだなぁと、あらためて実感しました。
私も、負けていられませんね。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




