八十三話 主柱の少年は世界に触れる
五月三十日
桂は教師の授業をBGMに台本を読み込んでいた。
これまで桂は台本というものを深く読み込むことはせず、脚本家や演出、役者同士での話し合いを重視していた。
しかし、今回は違った。
一度読んで圧倒され、何度も何度も読みたくなる感覚に襲われた。
自分の持つ感情次第で微細な変化を感じてしまう。
登場人物の本当の心はなんだ?
と、脚本家に聞きたくなる。
だから翔太に聞いた。が、返ってきた答えはキャストには教えられない。
だった。
『まずは登場人物の気持ちを考えて……とか雑なことは言わないけど、正解だけを見てると駄作になるから気を付けて』
と念まで押された。
「なんだこれ……」
感覚と思慮。
それを合わせなければならないという持論は決して間違っていないと信じ、桂は再び最初からページを捲り始める。
五月中旬に決まった台本と配役。
舞台に立つことが決まった桂は再び最初から劇の世界に潜る。
どこかに、柊花の劇を見たときの敗北感を感じながら。
放課後
桂が部室の扉を開けると柊花がいた。
窓を開け換気をしつつ、何かを読んでいた。
「あれ? 柊花ねーちゃんだけ?」
「うん。翔太君は飲み物を買いに行ったよ」
部屋を見渡し、本当にふたりきりであることを確認した桂は、ごく当たり前のように扉を閉めた。
「へー。で、何読んでるの?」
演出担当になった柊花に聞きたいことがあったので、このチャンスを逃してはならないと考えている桂は、何としても台本の話になるように。と思考を回していた。
「んーとね『グスタフ』っていう台本。先代が書いた台本だよ」
「今回のじゃないんだ」
「そっちもちゃんと読まないといけないんだけど……こっちの方が気になってしまってね」
とても集中している柊花は、自分の髪が視界に入り邪魔をしているのにも関わらず、それを気にすることなくグスタフを読み続けていた。
ページを捲り、また捲る。
その捲ったタイミング、なるべく邪魔にならないタイミングで桂は声を出す。
「ところでさ、柊花ねーちゃん」
「ん?」
「……」
呼んだところで、次の言葉が出てこない。
どう聞くべきなのかと考え、自分の不安を全て吐き出そうと考えたが躊躇った。
それは桂の矜持が許さなかったからだ。
「桂?」
いつまでも変わらない笑顔で聞いてくる。
何年も前からずっと知っているあの優しい笑顔だ。
「演出、どう?」
無理矢理絞り出した話題で苦しさを紛らわす。
「どう? って言われても。うん。難しいなーって」
「やっぱり先輩に聞いたりしてるの?」
「ううん。今日聞くつもりだよ」
「そうなんだ」
「答え合わせとは言わないけど、私の考えがどれだけ一致して、翔太君を超えられたかを確認しないといけないから」
「超える?」
「脚本家だけの考えで劇を作るのも正しいのかもしれない。でも、翔太君は色んな人の考えの良い部分を反映させたいと思っているから」
「それは、うん。俺もそう思う」
「それともう一つ。詳しくは言えないけれど、翔太君に『こんな感じだと思う』は絶対に通じない。特に『気持ち』とか『考え』とかはね」
「そんなの――」
「――有り得る。一時間程度の人間ではなく、そこに一生がある」
桂の言葉が続くより先に柊花は否定する。
そして杠葉翔太が創る劇に対する絶対的な考えを加える。
「……」
桂が言葉を失ったのを見て柊花は言い過ぎてしまったかと少し自責した。
それは演劇の経験が少ないにも関わらずという考えがあったからだ。
「桂が演じるその役が『一人の人間』になれれば、翔太君が導いてくれるよ」
「…………人間」
桂は今行われた会話の全てを思い出す。
どうして。
どうして。
どうして。
「……あぁ。そういうことか」
呟いた桂はほんの僅かな欠片を掴み、本質を手繰り寄せようとしていた。
こんにちは、
下野枯葉です。
さて、突然一カ月くらい経過しました。
その間のお話は、後々やります。
今書いてしまうとややこしくなってしまうので……。
さて、次回から新しい台本にもっと触れていきますが、ざっくりお話すると
『天気』のお話です。
はい『今から晴れるよ』とか考えましたが、使いません。
パクリだもん。
でも、似た感じになるんじゃないかなーと思います。
楽しみだなぁ。
でも、台本と本編を書くのはキツイよぉ。
よっしゃ、書きますか。
それと、どうやら。
第百部らしいですね。
すげー。
まぁ、節目として受け止めて、続きも頑張っていこー。
では、
今回はこの辺で。
最後に、
金髪幼女は最強です。




