晴れ舞台
「あら?まだ全部覚えてないの?こっちは完璧よ」
「ただ覚えただけじゃない。もっと感情込めないと意味ないと思うわよ」
とある幼稚園。今日はお遊戯会で保護者も沢山来ている。
小さな体育館のど真ん中で、人目を気にせず競り合う二人。彩香の母、麻美と咲菜の母、紀子だ。オドオドしながら止める園長を無視して競り合う母達の姿を、遠くで見ている綾香と咲菜。同じ妖精の役。色違いのフリルのワンピースを着て、小さい羽を背中にチョコンと付けている。
「ねぇ、咲菜ちゃん。この頃ママ達いっつも喧嘩してるね」
「彩香ちゃんと咲菜はこんなに仲良しなのにね」
二人は手を繋ぎ、ママの所に行こう、と走り出した。
「本番で足引っ張ったら承知しないからね」
「こっちの台詞よ!まったく・・・何で二人が同じ役なの?一人で充分じゃない!」
「ええそうね!お宅がいなくても充分だわ」
「何ですって?」
「ママ!」
彩香と咲菜がやって来た。二人共目にいっぱい涙を溜めている。
「喧嘩しないでママ」
「そうだよ・・仲良くしてママ」
そんな娘達の姿を見た麻美と紀子は、ようやく我に返った。
「ご・・ごめん紀子。ちょっと言い過ぎた・・」
「ううん・・私こそ・・」
園長が控えめに拍手をしながら、よかったですよかったです、と喜んでいる。
「ママ達仲良し?」
「ええ、仲良しよ」
「ほら、おてて繋いでるでしょ?」
しっかり繋いだ手を見た彩香と咲菜は、涙を拭いてニッコリ笑い走って行った。
「ちょっと紀子?手痛いんだけど」
「麻美が強く握るからじゃない」
「嫌だったら離しなさいよ」
「そっちこそ離しなさいよ」
園長がまたオドオドし始めた。
『はーい、いちご組さんよく頑張りましたー』
彩香と咲菜のいちご組の発表が終わった。仲良く手を繋いで戻って来た二人は、客席にチョコンと座った。隣に居た園長が頭を撫でて褒める。
『じゃあ最後は、先生達とお母さん達の発表でーす』
劇が始まった。お姫様と王子様の結婚式。森の動物達が二人を祝福して歌いだす。客席の子供達も一緒になって歌い、体育館内は大盛り上がりだ。
舞台上で一番後ろに居た二本の木が前へ出て来た。木のデュエットが始まった。左の木と右の木が違う歌詞を歌った。デュエットが終わり、それぞれ左右の舞台袖に捌けようとした時、枝が絡まって同時にこけた。枝はなかなか外れず、もがくうちに根っこも絡まった。
見兼ねた先生達に担がれて舞台袖に捌けていく二本の木。
園長は彩香と咲菜にどうフォローしていいのか分からず、頭を抱えた。
「やっぱりママ達仲良しだね」
「うん、おててもあんよも繋いでたもんね」
その言葉を聞いて安心した園長は、再び彩香と咲菜の頭を撫でた。
「木がね、ボクシングやってたよ」
トイレから帰って来た男の子が大きい声で言った。