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想い~天使の涙~ファデット

  天使の涙~想い~ファデット

 とおい とおい

 とどく とどかない 

 とおい とおい

 もっと とおい

 とどく とどく

 いいえ とどかない


 とおい とおい

 とおく とおい

 とどかない とどかない

 とどかない とどかない

 とどく


 とおい とおく

 もっと とおい 

 とどかない 

  とどかない 

   とどかない

 いいえ いいえ

  きっととどく

   いいえ

    とどく


冬のはじまりを告げる空の下、1台の馬車が、落ち葉の積もる道をゆっくりと進んでいる。

先頭に、牧師。その後ろに、少女と男の子。おばさんが続く。

少女の名前は、ファデット。先日、ファデットのおばあさんが亡くなった。

今日は、おばあさんの葬式である。

馬車の上には、おばあさんの魂が、座っている。となりに、天使のエリカがおばあさんを抱きかかえるように、いた。


田舎の中、道の横の畑の人達が、手を止めた。

おばあさんの死を悲しむ人々。

教会に逆らえない人々は、後ろを向いて、通り過ぎるのを、待っている。

畑にいる人々は、道に出て、おばあさんの死を惜しんで、見送ってくれている。


別れは、墓地での祈りとなった。

牧師は、天上の父上、母上の祈りがあるだけでもいいだろう。

身体で言っている。


墓の前、姉弟と、おばさんが立っている。

おばあさんとエリカは、棺の中を触っている。

(私、死んだんだね。)

顔をなぜている。

まだ、死を受け入れられないおばあさんを、エリカは、見ている。

(頑張ったね。。この身体で、娘を、孫たちを育てたんだ。)

おばあさんは棺の中のおばあさんを見ている。

寂しいお葬式だ。

(私、村の人から、嫌われているんだね。)

と、呟いた。

おばあさんに、エリカが言った。

(愛されていますよ。)

牧師がいなくなった後、多くの村人が集まった。

畑や、庭で作った花を紐でくくって持ってきた。

「おばあさんに。」

姉弟の見ているなか、棺は花で埋また。

おばあさんと最後のお別れを惜しんでいる。

「もういいかな。」

墓守が来て、言った。土をかけられて、墓石をのせられた。

(私、本当に死んだんだね。)

おばあさんが。

「俺達、何度、世話になったか。」

「ばあさんみたいな人、いるかな。」

言う村人。

ファデットは、村人にお礼を言った。


お葬式を終えて、家に帰った、ファデット。ジェフネと、おばさん。

迎えてくれたのは、家族同様暮らしている、牛、ヤギ、ニワトリ、アヒルなどであった。


この動物達は、貴重な現金収入、労働力だった。


イスに座ったおばさんは、怒り出した。

姉さんにさんざん世話になりながら、別れに来る人が少ないことに。

ファデットは聞きながら、昨日作ったスープを温め直している。

水を加えて、土手で取れた草を入れた。味付けは、塩だけ…。


動物達に食事を与えたジェフネが、乾燥した黒パンを、3つに切って、木の皿に置いた。

「みんな、静かだったよ。」

「おばあちゃん、死んだって、解るのかな。」

「だと思うよ。家族だもの。」

「……。」

「お姉ちゃん。今晩、雪が降るかも。」

「星がきれいだった。」

「本当かい。おばさん、雪に見送られて、天上界に行くね。」

「雪の精霊に見送られて…。」


ジェフネは、皿をテーブルに置いた。鍋の底まですくって、皿に分ける。

おばさんは、村の人々を怒っている。

「おばさん、それはしかたないよ。」

ジェフネが言った。

「…。わかっているけれど、姉さんがかわいそうで。」

と、言っては、黒パンを割って、スープの中に入れた。

「教会が相手だから。」

「お別れの祈り、してくれて、よかったよ。」

「姉さん。おばあちゃん。天上界に逝けるかな。」

「そうね。」


ファデットが生きた時代。教会の勢力は強かった。

メシア様のおかげで、人々も動物も、作物も、生きているのだと、教えだった。

町や村の政事にも、教会が手を出した。

教会は、病人を見て、薬を調合して、高いカネを取った。

そして、高い税を教会と国に収めた。


その中、ファデットのおばあさんは、教会から嫌われて、村人から、慕われて、嫌われた。

教会や、地主は、魔女と呼んだ。

しかし、彼女を敵にする事は、多くの村人を、近隣の村や町を敵にする事だった。


黙って、スープにパンをつける、ファデット。

「姉さん。おばあちゃんの仕事、続けるの?」

弟のジェフネが聞いた。 

手をとめるファデット。

ふたりの視線を受ける、ファデット。

スプーンを、スープの中に置いた。

顔を上げてふたりの目を見て、答える。

「まだ、わからない。」

「教会にも、薬師様がいるし、村にも、何人もいるから。」

「でも、姉さんから、色々教えてもらっているのに。」

「お前さんは、いい腕しているって、話だよ。」

「本なんかないのかね。」

聞く、おばさん。

「教えてもらったけど、本、ないの。」

「へー。字書けるのに。」

「姉さん。本、あれば、カネ持ちになれるのに。」

ジェフネが言った。

「そうね。でも、その本を見て、素人が治療して、人が死んだら。」

ジェフネを見て言った。

「考えたことある? ジェフネ。」

「私、魔女にされるは。」

「そして、殺される。」

「それでもいい?」

ふたりは黙った。


この時代。薬は、草や木の実、根っ子など、潰して粉にするか、煎じて飲むことだった。

草木を潰して、肌に塗るシップや、毒虫などの、毒出し。針、灸などだった。

そして、病気を見て、薬を調合して、治療を行える人を、薬師と呼んだ。

薬師の祖母を頼って、遠い村からも来た。

薬師、病を直す人は、権力者でもあった。

権力を持つ者は、教会や、国王、でなければいけない時代。

ファデットのおばあさんは、魔女と言われた。


「本当にいいの? 姉さん。おばあちゃんから教えてもらったのに。」

「でも、おばあちゃんの孫の私を訪ねに来た人は見るよ。」

ジェフネは、少しきげんが良くなった。


夕食をすませたジェフネとおばは、寝床に向かった。

ジェフネは、干し草の中。

おばは、祖母のベッドを使った。

「姉さんが、夢の中に出て来てくれたら嬉しいね。」

おばさんが笑って言った。


薪を取りに外へ出た、ファデット。

凍える中、月の光が、村を照らした。

「感謝。」

月に手を合わせる、ファデット。村の方を見ると、いろりやランプの灯りが。

月明かりが、教会や、村の家々を照らしている。

その中、ランドリーの家を見る、ファデット。


ファデットは、薪を両手いっぱいもって、いろりの隅に置いた。

明日のスープを作る。

痛んだイモ。干からびた人参。ニンニク、タマネギなど、入れて、火にかけた。

鍋をゆっくりと混ぜる。

薪を継ぎ足し、火を大きくする。

温めた石を取り出して、布にくるんで、ベッドに持っていく。

おばは、起きて、礼を言った。

ジェフネは、藁に布を引いた寝床で、震えながら寝ている。

温玉を置くと、抱え込んで、気持ちよさそうに眠り始めた。

スープの中の野菜が煮くずれしていく。

味付けは、塩だけ…。

後は、山や道ばた、畑の食べられる、草。

鍋をゆっくりと混ぜる。

明日の1日の食事が、鍋のスープと、黒パン、ふたつ。


雪が、隙間から入ってくる。

薪がはぜる。


ファデットは、箱の中から、布に包んである、赤いマントンを羽織った。

ファデットの身分では、手が出せないものだった。


焦げないように、弱火にして、混ぜる。


おばあさんの事を思い出した。

死は、突然だった。

体調を崩して、すぐだった。


子供の頃から、祖母と山や草むら、畑に入って、草や、根っ子、タネ、キノコを取った。

虫。魚、動物を、潰しては、食べた。

食糧にしたり、保存、薬にする方法を、覚えた。

家では、小さい時から、食事を作ったり、洗濯、掃除を叩き込まれた。

少しでも汚いと起こられた。

母親は、弟を生んで、家を出た。弟にも、怒っていた。

今になら、怒る訳がわかるけど、子供の時は、つらかった。

家を出たかったが、弟を残していけなかった。


教会の礼拝の日や、村人が集まる日。おばあさんとファデットは、早くから行って、人々の噂話を聞いた。

良い話や、悪口を聞く事もある。

そして、村人が、おばあさんに相談しに来た時、教会や村内会の何気ない噂話を組み立てて、占い師のように、見せて話をする。

そのような事が何度もあって、祖母は、心を読む魔女として、恐れられた。

しかし、教会には、誰も言わなかった。

人々は、言葉にすれば、呪われると、思った。


大きくなって、ファデットは薬師のことを学んだ。

病気か、薬草の調合、灸や針も学んだ。

よく、おばあさんは怒った。

ある日、ファデットは診断を誤って、病状を悪くしてしまった。

ファデットは、震えてなにもできなかった。

おばあさんは、なにも言わずに、処置してくれた。

数日が経って、症状がよくなった。

今は、ジェフネが見ている。

夜、おばあさんはファデットに言った。。

「薬師は、人の生き死にかかわる仕事だよ。」

「辛くて、嫌だったら、やめていいんだよ。」

やさしく、言い聞かせた。

「おばあさんは辛くないの?」

ファデットの手を取って、外に出た。

手には、やかんとコップを持っている。

薪山に座ったふたりは、ホットワインを飲んだ。

「星がきれいだね。」

「うん。」

ファデットは、初めてワインを口にした。

「おいしい。」

「あたたかい。」

それを聞いて、おばあさんも飲んだ。

「温まるね。」

星空を見ながら、おばあさんは、口を開いた。

「私も何回もやめたいと、思ったことか。」

「人を助けられないと、知った日は、とくに。」

「長くしていると、わかるんだよ。」

「生きられる人と、死ぬ人が。」

「私はそんな私が嫌いでね。」

おばあさんは黙りこんだ。

「お前の気持ちもわかるよ。」

「私も失敗ばかりしたから。」

「村の人も死なしたし。」

「そんな時、いちばん苦しいよ。」

「子供が、家族が泣いているから。」

ファデットは、静かに聞いていた。

「辛かったらやめていいよ。」

ファデットはうなずく。

「おばあさんは、なぜ続けているの?」

「なぜだろうね。」

ワインを見ながら言った。

「村の人達が、苦しんでいるのを助けたいから。」

「私ならできる。助けられる。と思うから。」

「そう思わないと、やっていけないんだよ。」

「薬師の多くは、そう思っているよ。」

「死ぬ人も?」

「死ぬ人は、苦しいんだよ。心も身体も。」

「だから、私は薬で身体を楽にして、話しすることで、死を受け入れるようにしてあげるのだよ。」

「でも、それって、牧師様の……。」

「そうだよ。でも、何年かしたら、ほかの教会に行く牧師を、村人は信じるかい?」

声がつまった、ファデットである。

「よく、考えて決めたらいいよ。」

秋空に、星々が輝いている。

グラスのワインは、冷たくなっている。


ファデットは、おばあさんから文字の読み書きも学んだ。

ある日、村の地主の娘が、おばあさんを訪ねて来た。

ファデットは、仕事を言いつけられて外に出た。

薪小屋に入って、穴からふたりを見ていた。

娘さんは、恋文を読んでもらうために来た。

娘は、読んくれる言葉、ひとつひとつに喜び、笑って、泣いている。

おばあさんに恋文を書いてもらって、帰った。


「ファデット。いるんだろう。出ておいで。」

石を取り除いて、薪小屋からごそごそと出て来た。

体中、煤だらけになって。

「悪い娘だね。聞き耳を立てて。」

おばあさんは笑っている。

「おばあさん。あの娘。字読めないの?」

「読んで、書くことがないからだよ。」

「今までも、これからも。」

「読めたら、私に聞かれなくていいのに。」

「そうだね……。」

「黙っおくんだよ。お前、おしゃべりだから。」

「わかった。」

ドアを見つめた。


この時代、文字の読み書きができない人が多くいた。

知られたくない秘密もある。

人に言えない手紙は、おばあさんが読んで代筆した。

教会に、地主に知られて、終わった恋も多い。

おばあさんは、人の恋路に口をとざした。

若者や、娘さん達は、おばあさんに恋文を読んでもらっている。

恋する人への思いを言葉にして、出ただけの言葉を文字にして、地面に書いた。

おばあさんの力を借りて、まとめて、羊紙に書いた。

終わったら、笹ぼうきで掃いた。

知っているのは、その娘と、おばあさんだけ。

娘は、多くのカネを出して、帰った。

そして、ファデットは、恋文に、恋路に、聞き耳を立てるようになった。


いろりに薪を継ぎ足す。

動物達は、身を寄せ合って、寝ている。

寝間を見た。いろりの光をたよりに、おばさんとジェフネのかけ布を直した。隙間から、雪が入ってくる。

『明日、川から泥を取って、隙間を埋めないと。』


いろりの薪をいじる。火の粉が飛ぶ。

  チリチリ。

    リンリン。

赤いマントンをかぶり直して座る。


ナベの野菜が煮崩れていく。


火の子が踊る。


  チリ チリ

    リン リン 

 

  とおい とおい

  とどく とどかない

  とおい とおい

  もっと とおい

  とどく とどく

  いいえ とどかない

  とおい とおい

  とおく とおい

  とどかない

    とどかない

  とどかない

    とどかない


炎を見ながら、口づさむ。


『こない……。』

『わかっている。』

ファデットは、自身に言い聞かせた。


『会いたい。』

涙が浮かんでくる。

誰も見ていない。

マントンに顔をうずめた。

『わかっている。』

彼は、地主の息子。

作物もできない土地に住む、村の嫌われ者の私。

つりあわないこと…を。


いつも、いつも、あの人を追いかけていた。


村の子供達に、いつもいじめられていた。

子供の中では、許されることでも、いじめのタネにされた。

父親も母親もいないと、言うだけで。


その中、いつも、ランドリーは、支え力になってくれた。

いつも、生きる楽しみを教えてくれた。


人目を避けての、夜中のデート。

月明かりの中、森や石切り場。倉でのデート。

ランドリーをいつも追いかけている、ファデットに気がついた。

ランドリーに好かれたい。

ただ、ひとりの人だけに、愛されたい。


古くシミだらけのダボダボの服を、薬草を使って、白くして、縫い直した。

日焼けして、そばかすだらけの顔を、薬草できれいにした。


彼は、恋をした。私に。

名前の通り、妖精の私に。

その恋は、業火のごとき、激しい恋。

ファデットは、身も心も、焼きつきそうな恋の炎に殺されてもいいと思った。

しかし、燃え尽きた後、どこにいくのだろうか……。

ランドリーを失いたくなかった。

  絶えられなかった。

ただ、ひとりの友として、秘めた愛の炎を燃やし続けた。

ファデット自身、業火を抑えて。


小さな村でのふたりの恋。

人々に知れわたった。

ファデットが、今までしてきたいじめの仕返しや、行動が、ふたりの愛を拒んでいることを知っていた。

ランドリーの為、ファデット自身のため、村を離れて、住み込みで働いた。

ランドリーに会いたい。

胸がつぶれそうな日々を送った。


おばあさんが倒れた。病気になった。

ファデットは、村に帰ってきた。


おばあさんは、死んだ。


ファデットは、帰って来た事を伝えてなかった。

言えなかった。

ランドリーの心を知ることが怖かった。


村を離れた間、恋人ができたかもしれない。


村を離れたことは、よかった?


ファデットはうたた寝をしていた。

いろりの火が、小さくなっている。

風が窓の戸板をたたく。

目が覚めた。鍋を火から降ろした。

いろりに、薪をくべる。風が窓をたたく。

風が? 窓の音?

ドアを叩く音が。

呼ぶ声が聞こえる。

「ファデット。」

  「ファデット。」

ドアを開けて、いろりの光越しに、見た。

「ファデット!!」

涙がこぼれ落ちた。

胸に飛び込んだ。

声を殺して、いつまでも泣きつづけた。


雪の中、エリカと祖母の霊が立っている。

(行きましょうか。)

ふたりを見ていたおばあさんは、うなずいた。

(ファデットなら、うまくやるよ。)

(ランドリーなら、幸せにしてくべる。)

(ふたりなら、うまくやっていくよ。)

笑ったおばあさん。


「おばあさん?」

ファデットは、雪を見た。

ランドリーも。

「おばあさんが見ている。」


ふたりの前で、雪が舞い上がった。


雪が、エリカとおばあさんを包むように舞い上がった。





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