鉄砲と花ーマリア-天使の涙
鉄砲と花-シリーズです。
天使の波-シリーズの中、鉄砲と花、マリアさんが、どのように生きていたか、(鉄砲と花)が、どのようにして、生まれたか?考えてみました。
とうさんも、かあさんも、死んだことがわからない、デーブの為。マリアの為。唄い続ける、マリア。いつの間にか、難民キャンプの人々を、戦場の兵士達の、唄になって、広がっていきました。
ただ、平和を望んだ少女の唄を。
ある日、軍隊が、難民キャンプに来ました。ひとりの妊婦と、何人かの、負傷兵を連れて。
兵士のひとり。アリスとの出会いが、マリアとデーブの世界を変えました。
マリアから教わった、唄が、アリスの腕の中で、光輝いていったのです。
人々の心に打つ歌として。そして、アリス達、軍隊は、難民キャンプを後にします。
「どう?来た?」
聞く、兵士が。
「イヤ、まだだ。」
赤外線暗視スコープを覗いている兵士が言った。
「今日はダメかも。」
言う兵士に、しのび笑いをする多くの兵士が。
壊れた家の跡に隠れている兵士達。
誰かを待っているみたいだ。
ガムが回って来た。
「きれいだな。」
ガムをかみながら言う、ひとりの兵士。
星が見える。
地平線にかかる、満天の星の海。
「俺が死んでも輝きつづけるんだろうな。」
目を見広げる、兵士が。
周りから、笑いが。
バシッ!
「なにするんだよ!姉キ!」
「べつに。」
石ころが落ちた。
ピー
ピー
ピー
ピー
ピー
ピー
みんなが崩れた壁を見る。
子供?が、壁に上がった。
もうひとり、登ってきた。
水筒の水を飲む、ふたり。
星空を見る、ふたり。
家の跡から、顔を出して見る、兵士も。
「姉ちゃん。とうちゃん、かあちゃん、いつ来るの。」
「今、デーブを探しているのよ。」
女の子が言った。
「だから、ここにいるよって、教えてあげないと。」
ピー
ピー
ピー
唄が聞こえた。
とうさん どこに
かあさん どこに
わたしは ここよ
おとうとも いるよ
女の子は、何度も唄いつづけた。
いつのまにか、抱かれて寝てしまった、デーブ。
声が泣いている。
いつまでも、いつまでも。
星々が、静かに聞いている。
壁の外の兵士達は、軍隊は、いなくなった。
砂が、彼らの行き先を消した。
ジープが、走ってきた。
後ろにトラックが数台、続いている。
男達が、村の入口で迎えた。
女性達は、子供たちは、隠れている。
ジープから、ひとりの兵士が降りた。
指令官らしい、その男。
土色の迷彩服を着て、つばの広い帽子をかぶっている。
指令官が、村人達に歩いて行く。
ジープから、トラックから、降りた兵士達が、成り行きを見ている。
帽子を外して、村の長に、挨拶した、隊長。
「ドクター、ドクターはいるか?」
聞いた。
女の兵士達が、トラックからタンカを降ろした。
急ごしらえのタンカに、女の人が、寝ていた。
兵士のひとりが、タオルで、汗を拭いている。
「途中で見つけた。男と子供はダメだった。」
白い服の人々が、かきわけて走ってきた。
「病院へ!」
女兵士が、男達が、運んでいく。
「ドクター。後、ふたり、見てくれ。」
隊長が、言った。ドクターは、村人達を見た。
うなずく、村の長。
トラックから、降ろされた、兵士、ふたり。
「薬、無いよ。それでいい?」
隊長に聞いた、ドクター。
「それでいい。」
村の長が、言った。
「招かざる客よ。できれば、このまま去ってほしいのだが、」
言う、長が。
「友を救ってくれた。」
「お前たちの仲間が、動けるようになるまで、村にいてくれていい。」
「すまない。老人よ。」
「難民キャンプか!」
赤十字の旗が、風に泳いでいる。
赤や青の派手な色のテントが、いくつも、立っている。
ソーラーパネルで動く扇風機が、気休めに動いていた。
「誰か来て!」
ナースが走ってきた。
病院に走る、兵士達。
ここが病院? 名ばかりの建物。
銃弾の跡が、砲弾で、壊れている。
道端に、通路に、患者が座っている。寝ている人々も。
苦しみに、耐えている人々。
兵士達をにらみつける、人達も。
治療室の棚には、薬が無い。
「ドクター。薬は。」
「来ないのよ。」
ベッドとは、名ばかりのものに寝かされた、大男。縛っている、
ベルトを、引きちぎって、暴れている。
跳ね飛ばさされる、ナース達。
「元気ね。大丈夫よ。」
「こ、殺すぞ! テメェ!!」
「押さえて!」
両手、両足を押さえる、兵士達。
「女か!」
メスを持つ、ドクター。
「悪い? イヤなら出ていっていいけど。」
「私は、うれしい。」
メスを見せながら、笑う、ドクター。
わめき出す、兵士。
「あんた!男でしょ。暴れない!!」
「く、薬は!」
「無いよ。こんなの、弾入っているんだから。」
切って、弾を出す、ドクター。
「アラ! 膿んでいるんだ。」
膿を絞り出す、ドクター。その上から、液体をかける、ドクター。
「アッ!無くなった。」
ビンの底にあるアルコールを、絞り出して、飲む、ドクター。
「治療費、酒でいいよ。」
ビンを、ゴミ箱に。
「ムチャだな。」
隊長が言った。
「そうよ。薬もない。器具も、使い回し。」
「ここにいる、ナース達、何日、休んでないと思う?」
ドクターが。
「持って帰って。後で、薬を持っていくから。」
「薬なんて、無いと。」
言う、兵士が。
「草を、薬草を、潰して、塗り薬に、煎じて、作るの。」
言う、ドクター。
気絶している、兵士ふたりを放り出した。
カーテンの奥から、赤ん坊の鳴き声が響いた。
ナース達が顔を見せた。
「ドクター。母親も、子供も元気です。」
ドクターが微笑えんだ。
「助かった。女と言ったことを謝る。」
手を止めた、ドクター。
「礼なら、患者さん達に言ってよ。」
「遠くから、歩いて来るのよ。」
「死ぬほど、苦しいのに。」
ドクターが言った。
「人を殺すのって、楽でしょ。」
ナースが、ナース達が、患者たちが、聞いている。
「人、ひとり、助けるのに、私達が、どれだけ、がんばっているか!」
「どれだけ、苦しい思いしているか!」
「どれだけ、悲しい思いしているか!」
ドクターの目から、落ちた、水が。
ナース達も、泣いている。
若い兵が、怒った。
「国のためにしているのに!」
「止めろ! アリ。」
隊長が、出ていった。兵士達も、続く。
子供たちが、働いている。
シスターや、教師達に教えてもらって。
兵士達が、見ている。
シスター達は、子供たちを、教会に、入れた。
「嫌われたね。」
「いつものことさ。」
女の兵士ふたりが、話ている。
難民キャンプを、兵士達が、回っている。
長が、抗議していた。
夜遅く、キャンプの周りを歩く、兵士達が。
「あのナース、いい娘だな。」
「やめてよ。」
「シスターも。」
「止めろ! 隊長は、その話、嫌いだからな!」
にらまれた、兵士達。
「止まって!」
ピー
ピー
ピー
音がする。
「誰だ!」
ライトが、光る。
男の子をかばう、女の子。
砂に、身体をまかせた。
「なにしているの?」
女の兵士が、聞いた。
「デーブが、寝ないから。」
男の子をかばう、女の子。
「これ?なんだ?」
兵士のひとりが、拾った。
「返せ!」
男の子を押さえ込んだ、女の子。
「薬莢?」
サビた薬莢を見る、兵士が。
「なんだ!こんなもん!」
投げようとする。
カチッ。
「返しな!」
女の兵士が、ピストルを構えた。
「本気か!」
「………。」
「わかったよ。」
男の子に、薬莢を返す、兵士。女の子が、ひもを直して、首にかけた。
「ありがとう。」
男の子が、吹く。
「なんなの。それは?」
「とうちゃんとかあちゃんに教えているの。」
「ここにいるよ。マリアとぼく。」
デーブが言った。
「これが?」
笑う、兵士達。
「あなたのとうさんと、かあさん、どこにいるの?」
黙ってしまった、マリア。
「じゃ、誰が教えたの?」
「私…。」
「マリア。」
黙る兵士達。
「なんで、ここに来たの?」
「デーブが吹くから。大人の人達、怒るの。」
「だから……。」
「どこに行くの。」
指をさした。
黒い壁が。その奥に、星々が輝いている。
「アリス。」
「なによ!」
女の兵士が、言った。
「この子たち、頼むは。」
「は~。な! なんで、私が?」
「面倒見てやれよ。護衛もかねて。」
「あんたが、1番多く話をしているし。」
笑う、兵士達。
「隊長に言っておくは。」
消えた、兵士達。
マリアとデーブが歩き出した。
「まったく! 押しつけて!」
追いかける、アリス。アリスの左手を掴む手が。
薄明かりの中、歯が見えた。
デーブを押し上げる、マリア。
アリスは、デーブを持ち上げた。
マリアも、壁に乗せた。
アリスが、登ってきた。
「私、男の人と思っていた。」
「なにが?」
握った手を見る、マリア。
「みんな、言うのよ。」
暗やみの中、笑っているみたいだ。
デーブが吹く。
ピー
ピー
ピー
マリアが唄う。
とうさん どこに
かあさん どこに
わたしは ここよ
おとうとも いるよ
何度も、何度も。
デーブが、マリアにもたれて寝ている。
その上に、コートをかける、マリア。
「どこから来たの?」
「知らない。とうさんは、村と言っていた。」
マリアが言った。
「村の外には?」
「怖いところだから、出てはダメって、かあさんが。いつも言っていた。」
「そう。」
星空を見ている、マリア。
「あの日、マリアはデーブと枝を拾いに行ったの。」
「多くの友達と、一緒に。」
「枝、紐でくくった時、村が燃えたの。」
「私達、走った。」
「でも、デーブがこけて、みんなについて行けなかった。」
「友達がきたの。」
「友達、赤いものを出して倒れた。」
「マリアとデーブ、滑って、川に落ちた。」
「川から上がったら、友達、目を開けて、死んでいた。」
「家、壊れていて、デーブを外に置いて、入ったら、かあさんもとうさんも死んでいて…。」
「どれだけたったのかわからないけど。」
「デーブが呼んで。」
「暗くなって、炎が見えた。」
「行くと、男の人達、笑っていて、女の人の泣く声が聞こえた。」
「見たの?」
アリスが聞いた
「見ていない。逃げたの。」
「でも、何かに引っかかって、見つかった。」
「それで?」
「トラックに入れられた。」
「朝、先生や、シスターが、トラックで行ってしまった。」
「そう…。」
「マリア。友達と、いっぱい呼んだの。名前を。」
「シスター、笑っていた。」
アリスの胸で泣く、マリア。
「たまんないな。」
壁にもたれた、兵士が。
「行くぞ!」
影が、ひとつ、ふたつと消えた。
翌日の昼。
「アリス。客だ。」
警備に立っている、アリスに、声をかけた兵士が。
兵士の指さしたところを見る、兵士達。
トラックの影に隠れる子供がふたり。
「行ってこいよ。」
アリスが子供たちのいるトラックに。
「おはよ。」
「おはよう。」
手を出すと、握る、マリア。デーブは、マリアとケンカを始めた。
「ハイ!」
右手に、デーブが両手で握る。
外の騒ぎに出て来た隊長。
「誰だ!」
上半身裸で、頭がツルツル。ゴリラがマリアとデーブの前に現れた。
大騒ぎして、泣いて、アリスにしがみつく、マリアとデーブ。
周りの兵士達は……。
笑うな、笑うな。と、思いながら、涙が流れる。
「隊長! 服!!」
女兵士が投げる。
「まったく!!」
「こわいおじさん。行ったから。」
アリスの言葉に顔を上げた、マリアとデーブ。
兵士達の見ているなか、マリアはイスに、デーブは、テーブルに座らせた、アリス。
「報告されていないぞ!」
ふたりの後ろのテーブルに座る、隊長。子供たちに泣かれたのが、ショックだった。
「どうしたの?」
アリスが聞いた。マリア。肩かけしている水筒を、アリスに出した。
「えっ!」アリスが声を出した。
隊長も、兵士も、兵士達も、見ている。
「ダメよ!あなたたちのでしょ。」
マリアが、出す。デーブが、笑っている。
ふたりを見る、アリス。
「ありがとう。」
水筒の水を、キャップに少し入れて飲んだ、アリス。
「見たか!」
「信じられんな!」
言う、兵士達。兵士は、水筒を見る。
「この水筒ひとつで、1日動くのに。」
「あれじゃ、子供ひとりでも足らないだろうに。」
「アリスに、水を出すなんて。」
兵士達の見ているなか、アリスは、マリアに掛けた。
「ありがとう。マリア。デーブ。」
「おいしかったよ。」
マリアとデーブを抱いた、アリス。
笑う、マリアに、デーブ。
「行こうか。デーブ。」
マリアは、デーブの手を引いて、教会に歩いた。
その夜も、マリアとデーブは、ベッドを抜け出した。
「いつものことだけど、ピーピー眠れないね。」
「仕方ないよ。」
「あの子たち、出てくれたから、眠れるさ。」
笑う、女の人達。
「いびきはダメだよ。」
言って、眠りに入った。
壁には、人がいる。
「来たね。マリア。デーブ。」
「アリス!」
走ってくる、ふたりが。マリアが、デーブが、抱きついた。
「力、強いね。マリア。デーブ。」
デーブが壁に登った。マリアも、アリスも。
デーブが吹いている。
ピー
ピー
ピー
アリスに抱かれて、マリアも抱かれている。
話をしている。村のこと。キャンプのこと。
アリスも、話を。今いる部隊のことを。
しかし、他の部隊、軍隊のことになると、アリスはマリアに唄をねだった。
夜中、テントに、女兵士が何人も入って来た。緊張が走る。
「静かに。マリアとデーブのベッド、どこ?」
起きた女性たちが、マリアとデーブを受け取った。
靴を脱がして、ベッドの中に入れる、女兵士と女性たち。
「ありがとう。」
アリスが言った。
驚く女性たち。暗やみの中、女兵士達が出て行った。
「おやすみ。」
と、言って。
マリアとデーブは、朝、教会で、または、学校で、教えてもらっている。
何人もの、子供たちと混じって。そして、
昼から、子供たちは、シスター達と、教師達と、働いている。
デーブが、いなくなった。マリアが、シスターが、探している。
アリスが、デーブの手を握って来た。
マリアが怒っている。
アリスにしがみつく、デーブ。
「マリアなんか、きらいだ!」
ケンカを始める、ふたりが。
長が、キャンプの責任者達が、怒っている。
マリアと、デーブに。
ドクターが、言った。
「いいのでは。」
ドクターを見る責任者達。
「なにもしないで、ここから消えてほしいけど、
私達の安全を、守らないといけない。」
「何を言うか!」
「マリアとデーブは、ここに来て、日が浅い。」
「私達と接していない。」
「そうだが…。」
「あのふたりから、聞き出せばよい。」
「反政府軍の規模、人数、アジト。」
「私は反対です。」
シスターが言った。
「あの子たちを裏切るなんて。」
「じゃ、シスターが聞きますか?」
「キャンプの為に。私達の為に。」
下を向く、シスター。
「相手も、あの子たちから聞いているだろう。このキャンプのことを。」
テントの中には、絨毯を引いていた。
「奴らもプロだ。」
長が、杖で叩いた。
「何があるか!」
「1番は、何もせずに、去ってもらうことだ。戦いもなく。」
「じゃ、なにも情報を取らずに、帰せというのですか!」
「そうじゃ。ここは、難民キャンプだ!!」
「戦う場所じゃない。」
長の言葉に、みんなが口を詰むんだ。
「しかし、」
口を開いた男が、
「私は、反政府軍に、妻も、子供たちも、村も……。」
「わかる。」
「じゃ!」
「でも、この難民キャンプにいる人々は、政府軍、反政府軍に、家族を、身内を、仲間を、殺された人達だ!」
うなずく人が。
「マリアとデーブも、村を焼かれて、親を殺されたのよ。」
「先生達も、シスター達も、連れ去られて。」
女性たちが、話した。
「それを忘れないでほしい。」
長老が言った。
「私達、」
女の人が言った。
「私達、苦しんで、死ぬ思いをして、やっと、キャンプに来たのよ。」
「それを壊さないで!」
「殺さないで!」
言う、女の人たち。「
「マリアとデーブ。見た?」
「ここに来た時は、あと何時間ってとこだったのよ。」
「それが、今では、走り回って、いたずらをして、」
「夜中、出ていって。」
笑う女の人たち。
「聞こえるのよね。デーブの笛が。マリアの唄が。」
「私達の子守唄にもなっているのよ。」
言う、女の人たち。
「じゃ、キャンプの人達の行動を知るのは、」
隊員の前で、隊長が、アリスに言った。
「マリアとデーブからということでいいな。」
「あのふたりが動けるようになるまで、アリス、頼みます。」
女兵士が言った。
翌日も、次の日も、マリアとデーブは、アリスに会いにいった。
「あいつら、何だよ。仕事もしないで!」
怒る子供たちが。
先生達が見ている。
「いいのよ。それとも、あなたたちが行ってくれる?」
「なにをしに?」
「ただ、話をして、聞いていればいいのよ。」
ドクターが来た。
「話たこと、聞いたことを、先生に教えててくれたらいいのよ。」
「それって、もしかして、スパイ?」
「大人の言葉。知っているのね。」
ドクターが、注射器を見せた。
「でも、マリアとデーブに言ってはダメよ。」
注射器から、液体が飛び出した。顔色をかえてうなずく、子供たち。
「何、しているのよ! ドクター。先生。」
女の子たちに手を引かれて来たかもシスター。
「アッ、いいとこに来た。」
シスターのお尻に、針が。
「ヒッ!!」
声を上げる、シスター。崩れ落ちた、シスター。
「ベッドに運んで!」
子供たちが、青くなって見ている。男達が、シスターを運び出した。
「変なことしたら、天上の母上に言うから。」
止まった、男達。そして、うなずいた。
壁の上で、マリアとアリスが話をしている。デーブは、アリスの中で、寝ている。
「ねぇ、今日、コックさんと、警備の人、見てないけど?」
「町に買い物行ったって。先生が。」
「そうなんだ。」
昼間、軍隊の近くに、通信器が、壊されて置かれた。
マリアとアリスが話をしている。
そして、ベッドに運んだ、アリスと仲間達。
昼間、トラックの周りで歓声が上がった。
デーブと、隊長が、レスリングをしている。
片足を取ったデーブが、回り出した。
派手に倒れた、隊長。
「デーブは強いな!まいったよ。」
頭をなぜながら、言う隊長。
デーブの手を上げた。隊員達が、デーブの勝利を称える。
「デーブ。いい物をあげよう。」
隊長は、チュッパチャプスを見せた。
「これ、なあに?」
「チュッパチャプス。キャンデーだ。」
「コーラに、ストロベリー、ミルク……。」
言う、隊長。
「初めて会った時は、あんなに恐がっていたのに。」
マリアが言った。
「隊長。子供好きなのよ。」
言う、女の兵士が。
「本当? 初めて聞いた。」
アリスが。
同じテーブルに座っている兵士達が聞いている。
「隊長。元政府軍でね。」
「内戦が始まった時、子供が病気でね。」
「それで、隊長。薬を買いに行った時、政府軍が来て、奥さんと、子供たちを殺されたの。」
「あれだけ、国の為に戦ったのに…。」
「そうなんだ…。」
マリアが言った。
「私。言ったこと、内緒だよ。」
言って離れた。
「マリア!」
デーブが、走ってくる。
ついさっきまで、マリアの後をくっついて、追いかけた、デーブが、走っている。
隊長も、来た。
「強いよ。デーブは!」
「もらったよ。これ!」
マリアがお礼を言った。デーブも、マリアの真似している。
「キレイね。髪飾り?」
マリアも初めて見る物に、驚いている。
「マリア、貸して。」
フクロを開けて、コーラ味のチュッパチャプスを、デーブの口に。
「オー。オー!!」
声を上げる、デーブ。
マリアの口には、ストロベリーのチュッパチャプスが。
「おいしい!!」
涙が出た、マリア。見ている、アリスに、隊長。多くの隊員が。
多くのチュッパチャプスを袋に入れた、アリスたち。
「マリア。友達にあげてね。」
食べ終わった、マリアとデーブが、喜んでいる。
アリスが唄った。
とうさん どこに
かあさん どこに
わたしは ここです
おとうとも いるよ
「これ、誰の唄。」
アリスが聞いた。
「知らない!」
デーブが、紙に絵を書いている。
「そう…。誰が作ったの?」
「マリア。」
デーブが言った。
「マリアが?!」
マリアを見る、アリス。
「マリア。あなたが。」顔を赤らめて、うなずいた、マリア。
「できた!」
隊長に渡した。
「これ! 俺か?」
うなずく、デーブ。
「見ろよ。そっくりだ!」
3つ、4つの子供の絵に、褒める、隊長。
見ている、マリアたち。
「俺の宝物だ!」
話す、隊長が。
「どうして作ったの?」
デーブと隊長を見ている、マリアに、聞いた。
「デーブが寝ないから。」
「ねむれるように。」
「そうなんだ。」
「マリア。一緒に唄いたいな。」
とうさん どこに
かあさん どこに
わたしは ここよ
おとうとも いるよ
アリス。ノートに書いている。
「わたしね。これでも、ピアニストだったんだ。」
みんなが、アリスの話を聞いている。
「外国の学校に行かせてもらって、初めて、コンサートを開いたのよ。」
「でも、コンサートホールに、軍隊が来て、火が噴いたの。」
「パパも、ママも、姉さんも、死んだ。」
「私の為に聞きに来てくれた人々も。」
「わたしの上に、ママが。」
「生きて…。」
「言ってくれた。」
アリスが、泣きながら、言った。
涙を拭いた、アリス。
「唄。できないな。」
「マリア。まってて。少し考えるから。」
言うと、ノートをカバンに直した。
隊員ふたりが、歩くことができるようになった。
朝。
教会に、アリス達、女の兵士達が現れた。
マリアとデーブは、アリスに抱きついた。
子供たちは、集まって、見ている。
先生達は、シスター達は、どうするか、考えている。
長が、キャンプの人達が、廊下から、外から、見ている。
「マリア。デーブ。お別れに来たよ。」
アリスが言った。
「えっ! いやだ!!」
デーブが…。
「行くの!」
マリアが。
「うん。もうすぐ、行くよ。」
アリスは、膝をついて、マリアとデーブに話した。
アリスは、首にしている、チェーンを引いた。
それを、デーブの首にかける。
「これは?」
「わたしの宝物だよ。咥えてごらん。」
口に押しつける、デーブ。
「フー、って。」
ブォー
デーブが驚く。
「今後は、吸って。」
ぷーー
アリスは、デーブを抱いて、ハーモニカで歌った。
「すごい!」
マリアも、子供たちも、手を叩いた。
「デーブ。お前に預けるよ。私の宝物。」
「いいの?」
笑う、アリス。
「いつ来る?」
「そうだな。デーブが、ハーモニカ、うまくなったら、来るよ。」
デーブを立たせて、胸のポケットに入れた。
「いいなー。デーブは。」
子供たちが言った。
「マリア。」
マリアとデーブの手を持って、ピアノに座った。
「ハイ。」
マリアを見る、アリス。
「マリアの生きている、国には、多くの人が生きているの、知っている?」
アリスが聞いた。
「どれくらい…?」
「そうだな? マリアは、百の数字、わかる?」
「うん。わかる。」
「じゃ、千の数字は?」
「……。」
「千は、百を10コ集めた数。」
「このキャンプを、100コ集めて、そして、10コ作るの。」
「……。」
「そんなに?」
マリアは考えて言った。
「そう、そんなに多くの人が、生きて、生活しているの。」
「だから、話す言葉もちがうの。」
多くの人が聞いている。
「言葉が同じなら、憎しみ合わず、殺し合わずにいられるのに。」
アリスは、マリアとデーブを抱いて話をした。
カバンから、ノートを出した、アリス。
「これね。マリアの唄を書いたの。」
ノートを見せる、アリス。
五線譜に、記が。下に、マリアの唄が書いている。
「唄。歌うか!」
マリアを膝に乗せて、ピアノを引くアリス。マリアと、アリスが、歌っている。
ピアノの上には、ウォークマンが。スマートフォンが。録音している。
「どう、マリア?」
「すてき!」
喜ぶ、マリアが。
「よかった。」
笑う。アリス。
「じゃ。次ね。」
ノートをめくる、アリス。
「これは?」
「国の人達が話す言葉。」
「この言葉で話したら、みんな、聞いてくれるから。」
ノートを見ながら、何回も、何回も歌うアリス。
鉄砲 持つひとと
花 持つひとの
願いは 同じ
平和の 明日
とうさま どこに
かあさま どこに
わたしは ここです
おとうとも います
マリアも、アリスと歌っている。
何回も、何回も、歌っている。
多くの大人が、子供たちが、聞いている。
ふたりの歌を。
「おい! 時間だ!」
呼びに来た兵士に、夢が壊された。
「マリア。覚えた。」
うなずく、マリア。
「解らなかったら、シスターや、先生に聞くのよ。」
笑う、アリス。
マリアも、デーブも、笑った。
教会のトビラまで、歩いた、マリアと、デーブと、アリス。
「ここでいいよ。」
手を離す、アリス。
その手を、握る、デーブ。
マリアの涙が、手にこぼれた。顔が…。
マリアとデーブを抱いた、アリス。「私も、マリアとデーブの姉妹よ。」
うなずく、マリア。
「マリア。あなたは、銃を取らないで。生きていくのよ。」
「アリス。ここに戻って来て。」
「必ず!」
「待っているから!」
シスター達にうながされて、手を離した。
シスター達は、マリアを、デーブを、掴まえている。
キャンプの出口。
マリアとデーブが。
多くの人が現れた。
走り出した、ジープに、トラックに、手を振る、マリアとデーブが。
見えなくなった、難民キャンプをみている、アリス。
「ひどい休暇になったね。アリス。」
兵士のひとりが、言った。
「本当! みんな、押しつけるもの。」
トラックの仲間達が、笑った。
「でも、よかったよ。あの歌。」
「さすが。アリス。」
アリスを褒める、多くの仲間が。
スピーカーにウォークマンをつなげた。
マリアとアリスの歌が、流れる。
聞きながら呟く、アリス。
「生きていてね。」