不思議な町.3
最初は眩しすぎて、周りの景色がよく見えなくなっているのかと思った。
しかし、そうではないらしい。
周囲に立ち並んでいた家々が、まるでスクリーンに映された虚像でもあったかのように
消えていく。
そして、僕の目の前に立つミーシャさん。
良く見えないからはっきりとは言えないんだけど、僕の見間違えとかでなければ、だんだん
顔が溶けていっている気がする。
あまりに異様な光景に、どういった反応を示せばいいのか分からず固まっていると、
ミーシャさんの影がゆらりと揺れた。
「ふーん、面白いねぇ。それ」
身体が傾いたと同時に、ミーシャさんの筋肉がぼとぼとと落ちていく。
しかし、肉が地面の上に溜まっていくはずなのに見当たらない。
みるみるシルエットは変わっていき、いつの間にか見知らぬ女の人がそこに立っていた。
「どういった仕組みか君は分かるかい?」
好奇心に満ちた、嬉々とした声。
消えてしまった風景も、いつの間にか見知らぬ部屋へと変わっている。
誰だろう、この人。それに、ここどこだ。
状況が分からないことと、他の皆がどこにもいない不安から、警戒度は否応なしに高まる。
僕は別に拘束なんかはされていないらしい。むしろ、何も持たない女の人の前で
剣を握っている僕の方が危険人物だと思われるに違いない。
が、それでも怖い。
僕が質問に反応しなかったからか、女の人は不満げな表情を顔に浮かべた。
そしてもう一度、分かるかい?と聞いてくる。
ふるふると首を振ると、今度はとても興味深そうな顔でもう光るのを止めてしまった
聖剣を見つめ始めた。
分からないと言ったら怒られるかと思ったけれど、そういうわけではないらしい。
「ふんふん、なるほど。不思議だねぇ。何か強い力は感じるのに、それの正体がさっぱり分からない」
でもそれが面白い、と上機嫌で女の人は笑った。
このままだと、剣を見やすいように持っているスタンド的な扱いしかされない気がする。
と、僕は思い切って質問をした。
「あ、貴女は誰ですか?」
僕が口を開いたことで、ようやく女の人の視線がこちらへと向く。
なぜそんなことを聞くのか。顔中にそんな言葉が書かれているような表情だけど、
何者なのかぐらい知りたい。
あぁ、でも自分から名乗らずに人へ名前を尋ねるのはやっぱり失礼だろうか。
だんだん質問を取り消したくなってきたが、女の人は別に答えるのが嫌だったわけではないらしい。
僕の表情の変化を楽しむかのようにじっくりと顔を眺め、そして笑みを浮かべてこう答えた。
「私の名前はイルム。しがない魔女さ。よろしくね、フミヤ君」
と。