王の徴集は強制イベントらしいです.1
穏やかすぎる母親を持ったためか激しい反抗期に突入することもなく、
僕はいつの間にか16歳になっていた。
声は小さい頃に比べれば低くなり、もちろん身長だって伸びた。
筋肉だってムキムキだ。
「フミヤはあなたそっくりに育ったわねぇ」
「そうだねぇ。僕に似て背も低めだし、筋肉も付かなかったし...。
ってフミヤ!!そんなジトッとした目で父さんを見ないでくれ!!」
...別に気にしてない。あと二・三年もすれば筋肉ムキムキの大男になる予定なんだ。
バリトンボイスのナイスガイになる...はずだ。
大樽をお手玉のようにポンポンと回し、低音の美声で高らかに歌を歌う未来の自分を
夢想していた僕は、無遠慮なノックの音で一気に現実に引き戻された。
「まぁ、なにかしら」
母さんが外に返事をすると扉が壊れてしまうのでは、と心配になるほどのノックがやっと止んだ。
かと思うと、扉が開かれて無骨な顔をした男が立っていた。
一瞬自分の未来の姿が具現化したのかとアホなことを考えたが、どうやら違うらしい。
「フミヤ殿、勇者を選定する儀に参加していただきたい」
開口一番、威圧的な声でそう言われ、思わずポカンとする。
勇者ってあの勇者...?と呆けたまま呟くと、
「申し訳ありません、フミヤ殿。いきなり無骨な男が来て、さぞ驚いたでしょう。
私達は騎士団に所属するものです」
まるでその大男を制するように、横から出てきた糸目の男の人が優しげな声で言った。
細めで、筋骨隆々の男の隣にいると見劣りしそうなものだが、しかしそんな感じは全くしない。
むしろ超絶強そうだ。
あれか、前世に読んでいた漫画なんかでお馴染みの、穏やかな雰囲気の糸目は最強キャラ...的な。
話によると、各地域から若者を集めているらしい。
と言っても、年齢を限定していたためかこの村では僕以外には候補がいないらしく、
断られると困る...と本当に困ったような顔をして言われてしまった。
糸目の人はミケさん。この人は敵だ。なぜかって?美形だからだ。
蜘蛛の糸みたいに細くてキラキラした銀髪を伸ばして後ろで縛っているくせに、
それが全然いやみっぽく見えないし、顔も全体的にバランスが良い。
どうせモテモテなんだ。それで女の子千人振りとかやってのけてるんだ。
筋肉が立派な人の方は名前を教えてくれなかった。
出来ればその筋肉をどうやって付けたのかご教授を受けたいし、ミケさんよりは
話が合いそうだと思う。
...なぜかすごい睨まれてるけど。
王都に行ってちょっと勇者の資格のお試し的なことをやったら帰ってもいいらしい。
つまり、僕が勇者になる可能性はそもそもないということ。
楽な仕事だ。せっかくの王都だし、母さんにお土産とか買ってあげたいな。
そう思っていると、その母さんが心配そうな顔で呟く。
「あれ、でも王都に行くとなると十日ぐらいかかるのでは?
フミヤはこの村から出たことなんてほとんどないのに...」
そうだ、往復二十日ほどの長旅になるんだった。
大して遠出したこともない僕が行っても大丈夫なのだろうか。
急に不安になり父さんの方を見ると、もっともだという顔で頷く。
「それに関しては心配無用です。フミヤ殿は我らの威信にかけてお守り致します」
美形なミケさんに真摯な目で訴えられたのが効いたのか、母さんがポッと顔を赤らめて頷く。
僕を守るなんて宣言された上、妻までときめかされて、父さんは歯軋りしている。
いつも温厚な父さんをここまで怒らせるなんて...ミケさん、できるな。