この生活にも慣れてきまして.1
今生に生を受けてから、あっという間に数年たった。
両親は優しく、村の人達もとても良くしてくれる。
今年で五歳になった僕は、だいぶ自由に行動できるようになった。
「あぁぁぁ、フミヤは今日も本当に可愛いでちゅねー!!」
「おとうさん、いたい...」
立派な親馬鹿になった父親は、毎朝飽きずに僕に頬擦りしてくる。
これ、地味に痛い。
彼は一般男性に比べたら確かに華奢だ。けれど、幼児の僕に比べたらもちろん力はあるし、
朝にはうっすらではあるが髭も生えている。
母親はというと、そんな僕らを温かい目で見ている。
出来れば見てないで助けて欲しい。
「おそといってくるからはなしてー!」
なんとか父親の腕から逃れようとしながらそう言うと、
やっと放してくれた。
うぅ、これから遊びに行くのにもうすでに疲れた...。
「気を付けてねー」
「あんまり遠くに行ったら駄目だよー?」
二人の声に返事をして、約束の場所に向かう。
相手はこの村の子供ではない。
いや、僕のコミュニケーション能力が絶望的だからとか、精神年齢が
かけ離れすぎているからとかで人間関係が上手くいっていない理由じゃなくて...。
この村には子供がほとんどいないのだ。
隣町、と言われているところがここから徒歩で十時間。
全然隣じゃない。
山奥にあり、何か売りに出来るものもないこの村は、絶賛過疎中なのだ。
いつもは穏やかなご老人達も、外に言った人達の話になると
若干過激になる。
僕と同年代の子供はほとんどおらず、そろそろ村を出る年頃のお兄さん達か、
まだ歩くのもままならない赤ん坊しかいない。
もちろん皆で仲良く遊ぶこともある。けれど、基本一緒の年代で遊ぶのが常だ。
そっちの方が気をつかう必要もないから当たり前と言えば当たり前。
が、しかしそのせいで僕はあぶれてしまった。
他の年代の子の間に無理やり入っていくのも気が引けた僕は、外に友達を作ることにした。
その友達と約束していた場所、森に着く。
キョロキョロと辺りを見渡すが、まだいないようだ。
泉の方でも探してみようか。
そう思い、歩き出そうとすると声が聞こえた。
『ちょっと、来たなら言いなよ』
後ろを見ると、当たり前のようにいる大きな獣。
これが僕の友達だ。
「よかった。いないのかとおもった」
そう言って僕が笑うと、頭をこすり付けてくる。
正直この体だと後ろに倒れてしまいそうなのだが、ふわふわな毛が気持ちよくて
なんとか踏ん張る。
角度を変えると銀色にも見える真っ白でとても綺麗な毛に、
ところどころ金色が混ざった青くて宝石みたいな目。
「ロワはほんとうにきれいだねぇ...」
そう言って撫でると、この美しい獣...ロワは鬱陶しそうにフンッと鼻を鳴らすけれど、
目が気持ちよさそうに細められている。