宝剣返してくださいな.1
僕が皆に付いて行って良いか否か。
結局僅差で決まった結果は、『付いてきて良し』だった。
ミーシャさんとロワは渋い顔をしていたけれど、だって賛成側にミケさんがいたら...ねぇ?
というわけで約束の時間も近づき、
「ちょっと待って。やっぱりやめよう」
「何を今更そんなへたれたことを言っている」
今になって僕は行くのを渋り始めていた。
どこから出してきたの、ってくらい大量の衣装をミケさんにあてがわれた僕は、
最高級品という言葉がふさわしいような衣装に身を包み、髪はワックスのようなもので
セットされて、まさに衣装に着られているという状態だった。
貴族の所に赴くのであれば最低限の礼装は必要なのだろうけど、さすがにこれは恥ずかしい。
低身長、生まれながらの平民、といった僕にはこの衣装を着こなすのは無理だ。
しかも、
「距離感がまたおかしいッ...!!」
アイレがシュバルツさんの前でしていたように、自分の腕を僕の腕に絡め、
ぴったりと密着してくる。
僕と同様ドレスアップしたアイレは、その野性的な美しさに優美さまで揃え、
近くにいるだけでも気おされそうになるのに、こんなにくっ付かれると顔が燃えそうだ。
「馬子にも衣装...失礼しました。二人ともとても似合っていますよ」
「あぁ、よく似合っている」
『取り合えず爬虫類はどいて。フミヤが良く見えない』
三者三様の反応。
似合っているという言葉はお世辞なのだろうけれど、ここまで言ってもらえているのに
まだ渋るのは男らしくないだろうか。
考えてみれば僕の人生でこんなに良い服を着て、美人と一緒に並ぶことが出来るなんて
この先一生起きない事だろう。
それに付いて行きたいと言ったのは自分だ。
覚悟を決め、もうぐだぐだと文句を言うのは止めよう。
ただ、一つだけ、
「シュバルツさんのところに行くまで、こんなに密着しなくてもいいよね?」
待ち合わせしていた場所に着くと、シュバルツさんが出迎えてくれる。
昼間よりも更に華美になったその服は、やっぱりアイレに見てもらうためなのだろうか。
「お待ちしておりまし...?!」
おぉ、こんな一瞬で顔真っ赤になる人初めて見た。
優雅に礼をして、挨拶を述べようとしたシュバルツさんが改めてアイレをちゃんと見たのか、
絶句して赤くなっている。
一目ぼれ、と言っても好きな気持ちには変わりないのだろうし、
そんな相手がこんなにおめかしして現れたらこの反応も頷ける。
けど、少し意外にも感じたのは、こんなイケメンなシュバルツさんはもっと女性関係豊富で
ここまで初々しい反応を見せるとは思っていなかったから。
が、すぐさま隣に立つ僕にも気付いた。
やめて、せっかく貴族然とした立派な姿で暗殺者ばりに殺気のこもった視線を向けるのは!!
少し気が思いやられる。でも、ここからが勝負だ。
絶対に宝剣を取り戻す。