空中散歩な帰り道.1
極少数の人々だけが集められた『勇者の称号』の授与式は(残念なことに)
何の問題も起きずに済み、僕は一度自分の村に帰ることになった。
「あ、結局お土産見れてない...」
呟くように言ったその言葉に気付いてくれたのは、なんと大臣だった。
「ほぅ、それは大変ですな。王都などなかなか来れぬでしょうし、
今日は一日、土産など見てはいかがでしょうか。
勇者様が明日すぐに出発できるよう、私が手配しておきましょう」
頷きそうになるのをグッと堪えて、首を振る。
きっとミケさんが許してくれないだろうし...。
「...ミーシャと約束もしていたようですし、ちょうどいいですね」
しかたない、と顔に書いてあるような表情だったけれど、ミケさんは確かにそう言った。
思わず目が点になる。
見た目や印象だけでその人のことを決め付けたら駄目だって、ミーシャさんのことで
学んだのに...。大臣、ミケさん、すみませんでした。
ちょっと申し訳ない気分になりながらも、今度こそ力強く頷いた。
「うわぁ、あれもこれも村で見たことないものばっかりだ...。
ちょっと、あっち見てきてもいいですかッ?」
ミケさんとミーシャさんに付き添ってもらって城下に来た僕は、
さっきから無数に並べられた珍しい商品に大興奮している。
あの食べ物はどんな味がするんだろう。あの髪飾りは母さんに似合いそうだな。
「フミヤ殿!そんなに走ったら転びますよ!!」
「16歳相手に言っているとは思えませんね...」
大声で注意しているミケさんと、苦笑いしているミーシャさんを完全に無視して、
しっかりと城下を堪能した僕はすっかり満足してお城に帰った。
昨日は色々あって疲れたのか、城の豪華すぎるベッドでもぐっすり眠った僕は、
大臣に呼ばれて城の中庭に来ていた。
愛らしい天使の姿を象った像や、柔らかい香りを振りまきながら咲き誇る花々に
目を奪われる...余裕などなかった。
「勇者様にふさわしい乗り物を、と思い、特別に準備させていただきました。
どうぞお乗りください」
大臣はにこやかに笑っている。が、僕はとても笑う気にはなれない。
彼がそう言いながら紹介してくれた乗り物は、僕の認識が正しければ、
生き物と分類される。
ついでに、僕が知っている言葉だと確か『ドラゴン』という生き物...。
いや、こっちの世界では馬とかと一緒の種類かもしれないし...。
僕のすぐ隣で植木が一瞬で炭になったのはきっと気のせいだ。うん。