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第58話 やだこの2人デキてる

「おー、結構いい城じゃん」

「そうか? 俺とこの城のほうが豪華だぜ」


 俺のところ……というか、ちとえりたちの城は小さいからな。しょぼいとかじゃなく、人が小さいからそれだけ小さいというだけだ。

 スケールで言えば全体的に3分の2くらいだろうか。そのせいで作り物感がする。



「おかえりあいつ君……あーっ、来てくれたんだ!?」


 コムスメが嬉しそうに駆け寄ってくる。お前のためじゃないから来んな。


「そんなことどうでもいいから女王様との謁見はよ」

「来て早々それ!?」

「当たり前だろ」


 他にどんな目的があって来たと思ってるんだ。俺はコムスメのためなんぞに動かないからな。

 憤慨しているコムスメをよそに、衛兵らしき人物へ顔を向けると。その男は首を横に振った。どういうことだ?


「……女王様には休んでもらってるんだよ。夜になったらまた魔物がたくさん出ると思うから眠れないと思うし」

「それは仕方ないな」


 高々俺ら程度が来るくらいでその貴重な休養を阻害させるわけにはいかない。なにせ従者? らしき名も忘れたガキンチョが助けを求めに来るくらい疲弊してるんだから。


「なんて言ってるあたしもあまり眠れてないんだけどね。あいつ君いなかったらほんとやばかったよ」

「そっか。じゃあ俺たちは寝させてもらうわ。あ、飯と飲み物もらえるとうれしいんだが」

「なにしに来たの!?」


 そりゃあコムスメとあいつの勇者っぷりを拝ませてもらうために決まってんだろ。

 というのは冗談で、こっちも満身創痍のとくしまがいるし、夜通し移動してて眠ってないんだ。夜襲ってくるっていうならそれまで休ませてもらいたい。


 コムスメはまあ、そのとき寝ておけ。後は俺たちが片付けるから。



 コムスメが非難の目を向けるのを無視し、俺たちは食料と水分を貪り、豪華な客室を占拠し爆睡することにした。




「────ねえ、ねえ起きてよ」


 誰かが俺を揺さぶっている。声からしてコムスメだろう。声だけで判断できるようになったとは、コムスメとの付き合いも昨日今日じゃなくなったということか。


「……なんだよ」

「いつまで寝てんのさ」

「自発的に目が覚めるまで」

「……ほんっときみって自己中だね。もう女王様も起きてるし夕飯終わっちゃったよ」

「なんだと!?」


 はい、今目が覚めたよ。俺、目が覚めたよ。


「飯もそうだが女王様起きたなら俺も起こしてくれよ!」

「いやぁ、すっごいよく寝てたし、メイドの子から聞いたら夜通しこっちへ向かってたんだってね」


 ごくまろだな。余計なことを言いやがって。


「んなこたぁどうでもいい。他の連中は起きてるのか?」

「うん。メイドの子2人と偉そうな子がさっき起きたよ」


 全員起きてるな。じゃあ早速行くか。


「ちょっと、どこ行くの」

「そりゃ女王様に謁見だろ。あと飯。それから魔物を蹂躙だ」

「じゅ、蹂躙って……。どれだけ来ると思ってんの」

「知らねえよ。ただ1000万やそこらならなんとかなんだろ」

「せっ!? そ、そこまで多くないと思うけど、なんとかなんの!?」

「そのためにあのちんまいのがいるんだ。お前は寝てろよ」

「い、いやいやいや。そりゃ寝たいけどさ、それを鵜呑みにできるような状況じゃないし」


 ったく、面倒なコムスメだ。んじゃ第一波からどでかいのぶっ放して安心させてやるか。とくしまが。





「────あなたが異世界の勇者ですか?」

「は、はひ! そうでごじゃりまする!」


 俺は今、王の謁見の間で女王様の御前で跪いている。

 やばい、超美人だ。そして儚げだ。だけどスタイルいい。

 こんな美しい女性がコムスメ如きのために頑張っていたとか許せんにも程がある。


「私が不甲斐ないばかりに、他所の勇者様にまでご迷惑をおかけして……」

「そんな滅相もない! 俺が来たかったから来たんです! むしろ招いてくれたコムスメには感謝したいくらいで!」


 いやほんとマジでナイスだコムスメ。こんな女王様なら永遠にこの世界へ張り付くわ。


「世辞でもそう言って頂けるとありがたいです」

「冗談じゃないです! 女王様のような美しい人のために働けるなんて、これこそ男子の本懐というやつです!」

「んじゃそろそろ本題いいね?」


 そう言って女王様の椅子の裏から現れたのは、ちとえり。


「な、なんでてめぇそんなとこから出てくんだよ!」

「毎度毎度、勇者殿には学習能力がないね? これは仕込みね」

「…………は?」

「そんな都合よく美人な女王なんているわけないね。なんでこういつも簡単にひっかかるね」



 俺の目の前は闇に包まれた。

 また……まただよ畜生。なんでこういっつもいっつも……。

 いや騙される人間は被害者だ。つまり騙す加害者が悪い。よく騙されるほうも悪いとかいう頭の悪いことを言うやつもいるが、だったら騙されて逮捕されたやついるか? いねえよな。じゃあ悪くねえじゃねえか!

 つまり全てちとえりが悪い。あれは死すべき存在だ!



「……なんて冗談は置いといて、あとは私たちに任せて女王は寝てるといいね」

「あの勇者様はあのままでいいのですか?」

「いいのいいの。さっき散々私の体を弄んだのね。これくらい罰を受けていいはずね」


 ああもう結局どっちなんだよ!! てかてめぇの体なんて触りたくもねえわ!

 あいつをぶつけたこと根に持ってんのか? 知るか。そんなことより俺のやる気の行方はどうなんだよ!



 いやいい。女王様であろうとなかろうと、あれほど美しい人がいる世界を救う。これで納得しよう。


「つーわけでちとえり、行くぞ」

「相変わらず切り替え早いね。じゃあ早速作戦本部に行くね」

「さ、女王様、お手を……」

「女王は行かないね。さあさっさと来るね」

「は? じゃあ俺行く意味ねえじゃん」

「あんたなにしに来たね!」

「女王様が安心して眠れるよう横で見守るためだろ」

「私らが魔物を殲滅させるのが一番安心させられるね! ほらさっさと行くね!」

「後生だから! せめて、せめてもう少し谷間を……っ」


 相変わらずどこからそんな力を出しているのかわからぬまま、俺はちとえりに引き摺られ謁見の間から連れ出された。

 こうなったら武勲を上げ、せめて踏んでもらえるようがんばるしかないな。




「──あっ、やっと来た」

「おせぇぞ!」


 作戦本部とやらには、あいつとコムスメ、それにごくまろととくしま。後は兵隊長らしき人物と魔導師長っぽい人がいた。


「仕方ないだろ、女王様と謁見していたんだから。それともお前ら女王様が悪いって言うのか?」

「とかいって女王様に見惚れてたんじゃないの?」

「はぁ? 当たり前だろ。なに言ってんだコムスメが」


 なにか言いたげにコムスメは口をパクパクさせている。


「まあそれはそれとして話を進めよう……の前に、お前は到着早かったみたいだな」

「ん、そりゃま、込住の家から一緒に来たからな」

「ああ、お前らそういう仲だったのか」

「ちげえよ!」

「違うし!」


 ふたりが同時に否定する。別にどうでもいいじゃないか。俺から見ればコムスメだって充分ガキなんだからロリコンの範疇だろ。


「だ、大体ね、きみだって誘ったのに断ったんじゃない!」

「そうだっけか? でも仕方ないだろ、こいつらに一言断っとかないといけなかったし」

「……ほんっとそういうとこ律儀だよなお前」

「てかなんでお前は行かなかったんだよ。お姉さまがたに申し訳ないと思わねえのか?」

「うちんとこはほれ、例のドラゴンを倒してからかなり優勢になったからな。数日くらい空けても問題ない」


 あいつがボロボロになったときの話か。あれ以降は人間側が有利になって押し返している感じなんだな。


「んじゃいいや。だったらさっき言った通り今日はお前ら寝てろ。こっちだけでやっとくから」

「ああ、込住から聞いた。ほんとにあの数をなんとかできるのか見てみたいんだが」

「やめてやってくれ」


 とくしまは恥ずかしがりの変態だからな。そろそろ慙死するかもしれん。特にあいつ(ロリコン)とかいう社会不適合変態に聞かせようものなら、その場でリアル凌辱とか始まるかもしれん。とくしまはファッションMだから実際にいたぶったら泣くぞ。


「皆安心するといいね! 私がいる限り、この世界の魔物も殲滅させてやるね!」

「お前は大人しくしていてくれ」


 こいつ他所の世界だと本格的にリミッターが効かなくなりそうだからな。国の5つや6つ滅ぶくらいで済めばいいのだが、そうもいかないだろう。


「よっ、ちとえり様! さすが!」

「あんたは喋らんでくれんね!」


 あいつにちとえりは威嚇する。そんな姿もまたよしといった感じにあいつは笑顔を見せる。完全にちとえりの天敵だな。


「それでちったんはどんな魔法使えるのかな?」

「変な呼び方しないでね! あまりふざけるとムーンストライクかますね!」

「おやおやそんな物騒な名前付けちゃって。どんな魔法なのかなぁちったん」

「ぶ、ぶっ、ぶっころ!!」


 やっべ、ちとえりがガチ切れしそうだ。俺とごくまろは慌てて止めた。


「離すね! こいつ世界ごと滅ぼすね!」

「だからやめてやれよ! ここはコムスメんとこなんだぞ! おいとくしま、猿ぐつわ取って来てくれ!」


 なんとかちとえりを黙らせることができた。あとはあいつを近寄らせなければ大人しくなるだろう。


「ねえ、ムーンストライクってどんな魔法なの?」

「……以前あのアホな、魔物の群れにタウンストライクって魔法使ってな」

「うん?」

「町ひとつ召喚してぶつけやがった」

「……は?」


 コムスメは理解できていない風な顔をした。普通できないよな。

 おかしな表情のほうじゃなくて理解のほうだ。なんだ町を召喚って。言ってて俺もアホになりそうだ。


「つまり、町をひとつ地面ごと、キロ単位の直径をした岩を敵の群れにぶつけたんだよ」

「…………ちょっと待って、今色々頭の中整理してるから」


 今度は理解できても納得ができないって感じか? 理不尽だもんな。


「……今の話が本当だとして、つまりムーンストライクは月をぶつけてくるってこと?」

「まあそうなるわな。あのアホ、本気でやるぞ」


 コムスメは頭を抱えてしまった。少しは俺の苦労がわかってもらえただろうか。


「とにかく、あれを使うことはないだろうから少しは安心してくれ」

「少しは安心って、不安のほうが大きくない!?」


 キャンキャンと小型犬みたいにうるさいな。大丈夫、ちとえりにだってちょっとは理性がある。



 そんなわけでコムスメたちは待機。これからは俺たち(とくしま)のターンだ!

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