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第56話 いらない勇者の称号

「……こりゃ酷いな」

「そうですね」


 上空から見た城らしき場所は酷い有様だった。

 城の周りを町が囲い、その町を壁が囲っているのだが、その周囲を大量の魔物が囲っている。

 なんとか抵抗しているらしいけど、それも時間の問題に見える。今まで耐えてきたのはもっと戦力があったからなのだろうが、疲弊し倒れていってしまったのだろう。満身創痍といった感じだ。


 魔法使いの集団もそこそこいるが、魔法があまりパッとしない。威力でもごくまろのほうが高そうだ。


「よしとくしま、どこか防壁の上に降りてくれ。加勢するんだ」

「わかりました!」

「ちとえりもいつまで膨れてんだ。戦だぞ!」

「あんなもの、私のメギドストライクで全滅させてやるのね」

「やめてやれよおおぉぉ!」


 星ひとつ丸ごと焼き尽くすってやつだろ? そんなもの放たれたらコムスメから一生恨まれる。

 別にコムスメから嫌われたってどうでもいい。いいはずなんだが……。


 ────友達ががんばってるからあたしもがんばってるんだっ!


 ……いやいや、本人から直接聞いたわけじゃない。今のは俺の妄想だ。

 だけどそんなこと言うようなやつを助けないわけにはいかないだろ。くっそ、損な性格だ。




「な、なんだ貴様らは!」 


 降り立った俺たちに、防壁の上にいた兵士らしき人たちが槍を向ける。こうなる気はしていた。

 メスガキ3匹に大人になりかけの男がひとり。どう見ても怪しい組み合わせだ。


「私は偉大な大魔導士ちとえりね! 仮性に来てやったね!」


 こうなる気もしていた。そんな名乗りをしたところで、この世界じゃお前なんて誰も知らないから。


「ここは女子供の来るところじゃない! すっこんでろ!」

「な、なにおぉぉ! 剥いてやる! ズボン降ろすね!」


 もちろんこうなることくらいも想定していた。めんどくさいやつだ。


「仮性……じゃねえや。加勢に来たのは本当だ。俺たちは転移勇者だ!」


 そう言うと、兵士たちは顔をよせ話し合い、バカにしたような眼をこちらへ向けた。


「うそこけヘタレ」

「ばぁーか」

「勇者は美少女だって話くらい知ってんだよ! 嘘つくならせめて女装してやり直せや!」


「てめぇらから全滅させてやろうかごるあぁぁ!」

「お、落ち着いてください勇者様!」


 ごくまろに止められた。くそう、これじゃいつものちとえりポジションじゃないか。


「勇者様、ここは魔物を倒して実力を見せたほうがいいと思います」


 とくしまの言うことも最もだ。こちらが味方で戦力になるとわかればきっと手のひらを返してくれるはずだ。


「よしとくしま、いっちょかましたれ!」

「はい! 『フン、いやらしい娘が』『て、帝王様! 私をもう帰して下さい!』『戯言を。貴様はもうこれなしじゃ生きていけぬだろ?』『あうぅっ、その長くて熱いので叩かれたら私、あああああぁぁ!!』」


 とくしまの詠唱と共に、火に包まれた巨大な龍……炎龍えんりゅうと呼べるものが城壁の外で暴れまわった。 

 そしてその光景に兵士たちは驚愕の顔を向ける。


「どうだ?」

「お、恐ろしい……」


 さっきから見ていたこちらの魔法とは天と地の差だからな。だけどこれで俺たちの実力が────。


「年端もいかぬ幼女に卑猥な言葉を言わせるなんて……っ」

「貴様は鬼か!」

「なんという恥知らず! なんと恐ろしい男だ!」


 えええ!?

 お、俺はなにも言わせてねえぞ!

 …………あっ。


 『よしとくしま、いっちょかましたれ!』


 ああああああああああああ!!


「ち、違うんだ! あれは卑猥な言葉を言えと命令したわけじゃない!」

「貴様ぁ! いたいけな幼女に大人でも言えぬようなこと言わせた挙句、責任までなすりつけるとは!」

「誤解だ! お、おいとくしま! こいつらになんとか言って……」

「勇者様、とくしまなら人前で呪文を唱えたせいで恥ずかしくて気を失ってます」


 使えねええぇぇ!!


「ぐすっ。こ、このお兄ちゃんに、言わないとお尻の穴の中を指で磨くぞって言われて、ぐすっ。し、仕方なく言ったのね……」

「てめぇちとえりぃ! おめーなにもやってねぇじゃねえか!」


 くそぉ! ちとえりも見た目幼女だから俺より信頼されている! 

 兵士たちは槍を構え剣を抜き、俺を囲いはじめる。


「冗談が通じない相手ね」

「100%おめーのせいだからな! 責任取れやぁ!」


 この世界に来て2度目の万事休す。そう思っていたところ、数人の兵士が慌てて走って来た。



「た、大変です! 燃える巨大な蛇が城壁の周りに!」

「なななななんじゃこれはぁぁ!!」

「お……終わりだ……この世の終わりだ……」


 今ごろとくしまの炎龍に気付いた兵士たちが腰を抜かし驚いている。


「落ち着いてくれ。これは魔法だ。証拠に周囲の魔物だけしか焼いてないだろ」

「なっ……。で、ではあなたは本当に勇者……っ」


 やっとわかってくれたみたいだ。少し緊張がほぐれる。


 程なくして逃げ惑う魔物まで全て焼き尽くした炎龍は消滅し、周囲には香ばしい匂いがたちこめた。



「なるほど、勇者……」

「あんな幼子にいやらしい言葉を言わせるのもある意味勇者だな」

「……俺はそんな勇者にゃなりたくないな」


 ああ久々だな、ある意味勇者。ちとえりたちのせいでひどい目に合いっぱなしだ。

 まあいいや。この世界じゃ通りすがりの勇者だ。どう思われてもいい。


「それはどうでもいい。この世界の勇者がどこにいるか教えてくれないか?」

「なっ!? き、貴様、勇者が美少女だって知り、手籠めにしようと……」

「同じ世界の友人なんだよ! だから手を貸しに来たんだっての!」


 全く、この色キチどもめ。

 人口が減っているから増やしたいという気持ちはわからないでもないが、周りのみんながそうとは限らないんだぞ。


「まあ一概に信用できぬが、助けて頂いた手前、無下にはできんか」

「ここもあれだけ魔物を倒せば暫く大丈夫だろ。だけど次また来る可能性もある。それまでに立て直してくれよ」

「かたじけない。どうやら魔王も数匹倒して頂いたようだし、ここも安全になったと言えよう」


 そういや魔王いっぱいいるんだっけか。あっけない最後ではあったが、頭さえ潰せば有象無象はどうにもできないだろう。


「勇者はここから東へ1000ジオほど行ったところにあるヒクサメン王国にいるらしい」

「1000ジオってのがどれくらいかわからんが、東だな」


 1000キロと仮定して、とくしまなら5時間ほどか。夜明けごろには着くな。


「というわけでとくしま。5時間ほど飛んでくれ」

「そっ、そんな! 5時間も責められたらバカになっちゃいます!」


 天才とバカは紙一重というが、お前は行ったり来たりしているから大丈夫だ。今さらなことじゃないか。


「やはりこいつ、小さな子供にとんでもないことを」

「はいはいわかってるわかってる。じゃあ俺たちはもう行くぞ。とくしま」

「えっ? あのー、ですがー……」


 とくしまがまだぐずっている。いいじゃないか、ある程度バカになったほうが子供として可愛げがあると思うぞ。


「がんばったらまろまろしてやるから」

「……やります!」


 さてまろまろがなんなのかはっきりさせないといけないな。


「幼女にまろまろ……だと……?」

「なんとうらやまけしからん!」

「お、俺だって彼女とかいればまろまろしているのにっ」


 こいつら知ってるのか!? まろまろってなんだ!?


「お、おいちょっとそこらへん詳しく────」

「勇者様、捕まって下さい! イキますよ!」



 そしてとくしまはまた卑猥な寸劇を残し、飛んでしまった。

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