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第49話 コムスメ最強説

「なあコムスメ」

「なによ」

「年上の男って好きか?」

「は?」


 いつもの勇者談合の会。俺とあいつとコムスメはいつものように校舎屋上に集まっていた。そろそろ部活にしていいかもしれない。

 勇者部。うん思い切りパクリだな。異世界研究会辺りがいいところだろう。


「お前、なにを突然言い出すんだよ」

「いやまあちょっとな……てかお前にだって関係あんだろ?」

「は? 俺のどこに……ああいや、関係大有りじゃねえか! おい込住こむすめ、答えろ!」


 あいつはやっとことの重大さに気付いたようだ。

 あいつはロリコンだ。つまりメスガキが好きなわけで、メスガキからしてみたらあいつは年上の男になるんだから関係ないわけがない。


「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ全く」


 そしてあいつはちょっと興奮しすぎだ。ほんと自分の欲望に素直なやつだ。


「それくらい答えてやれよコムスメ」

「うー……。好きになったら年齢なんて大して関係ないと思うけど……」


「「だよな!」」


「う、うん」


 よし! 貴重な一般女子からの言葉質を取ったぞ! そうだよ、好きになったら年齢なんて些細なことじゃないか。コムスメのくせに良いこと言ってくれた。


 俺とあいつは吼えた。まだだ、まだ希望はある!


「だけど」


 そんな俺たちに水を差す不届き者がいる。コムスメだ。


「んだよ」

「好きになるきっかけがさ、好みの顔とかあるじゃん?」

「そうだな」

「その好みの顔が若い子だったら年上になびかないんじゃないかなって」


 ふむ。

 俺の好みは年上綺麗系。だからガキっぽい顔には興味が出ない。そもそも興味がないから恋愛対象として見ていないわけだ。

 つまりレクシー様が渋いダンディ系の顔が好みだった場合、俺は対象外となってしまうのではなかろうか。


「ば、馬鹿な……まさかそんな……」


 俺は膝を着き項垂れた。そんなことはないと言い切れない。なにせ俺はそういった理由でごくまろたちが恋愛対象にならないからだ。


「救いは!? 俺にワンチャンください!」


 だが俺は諦めない。恥を忍んでコムスメにすがる。


「うーん。じゃあこういうのはどうかな。きみは興味ないけどきみのこと好きだって子いるでしょ。その子のことを好きになるよう努力してみるとか」

「それじゃあ意味ねえだろ!」

「そうかな? 結局一緒だと思うんだけど」


 なにが一緒なんだよ。


 だが貴重な一般女子の意見。吟味しよう。

 俺は興味ないが、俺のことを好きな女子。仮にGKMRとしておこう。

 GKMRを俺が好きになるとしたら、まず容姿を無視する。そしていいところを探す。

 やがて意識し始めてそれが恋愛に繋がる可能性はあるかもしれない。


 つまりレクシー様に俺の容姿を無視してもらい、俺のいいところを感じてもらえばいいのか。意識改革というやつだ。


「サンキューコムスメ! なにか道が見えた気がする!」

「なんか勘違いしてそうだけど……まあいいや。それよりあたしの相談なんだけど────」

「あん? 自分で考えろよ」


 コムスメは無言で俺に殴りかかった。なにこいつ、滅茶苦茶強い。

 俺はプレフェミニストで、女には手加減する。だけどそんな余裕をかましていられないほどの実力をコムスメは持っていた。


「くっ、や、やめっ……がっ」


 ガードの隙間を貫手で突いてきやがった。これは気を抜いたらやられる。


「おーい、なに遊んでんだよ」

「おまっ、遊んでねーよ! このコムスメ、マジでつえーぞ!」


 あいつと俺は同じくらいの実力だ。つまり俺が負けるということはあいつも負ける可能性が高い。

 だからといって本気で返すわけにはいかない。これが女性差別だと言うならそれで結構だ。かわいい顔に傷つけるなんて俺が許さない。

 ……あれ?


「ちょ、ちょっと待て」

「あー? なによ」

「あのさ、お前って結構かわいい顔してたのな」


 思い切り後頭部を殴られ、目の前が真っ白になり気を失いかけた。


「な、なに突然変なこと言ってんのさ! バカ!」


 変なことじゃないだろ。女にとっては重要なことじゃないのか?

 まあ俺は綺麗系のほうが圧倒的に好きだけどな。かわいいなんて小動物と一緒だ。


「なんだよ突然。おまえひょっとして込住に……」

「バカ言うな。俺は一般論を述べただけだ。お前もよく見てみろよ」


「なっ!? ちょ、やめてよ!」


 あいつはコムスメをまじまじと見、大きく溜息をつき頭を押さえる。


「……あと10……いや、5年早く出会っていれば……」


 とても残念そうだ。


「あ、あのさ、あたしたちは勇者で、その、な、仲間同士なんだからさ、恋愛とかそういうの禁止!」


 コムスメは顔を赤くして手で×を作る。だけどなコムスメよ。この場にいる誰もお前に恋愛感情なんて持っていないんだぞ。空回りもいいところだ。


「思い上がるな込住。俺たちゃお前にそんな感情持っちゃいねーよ」


 あいつが俺の心のうちを読んだかの如く吐き捨てるように言う。当然俺もそれに便乗する。


「だな。クソガキめ」

「ババアめ」



 それから先のことは覚えていない。気付いたら俺とあいつは体中を痛めつけられ床に転がされていた。





「おや、おかえりね……って、どうしたね勇者殿、その姿は!」


 その晩、俺が馬車に入るとちとえりが驚きの声を上げた。

 あちこち傷と痣だらけだからな。驚くだろう。


「前にもあっただろ。修行だ、修行」

「もうあれから結構経ってたし、あのときよりも酷いね」


 コムスメはほんと容赦なかったからな。道場のほうがまだマシだった。


「まあでもこんな傷、ほっときゃ治……」


 なにかとてつもない視線を感じ、そちらを見る。するとそこにはうっとりとするような、エロ艶めかしいレクシー様が。


「あらぁ、勇者殿、そんな素敵なお姿になって」

「えっ!?」


 な、なに? どうなってんの?

 そんな俺の驚きを無視し、レクシー様は俺の隣へ座り腕に指をつつと滑らす。もちろん俺の勇者はフルパワーだ。


「いい、いいわぁ。男の体の傷……男傷。最高よねぇ」


 やばい。今俺、相当やばい。もうなんか色々出そう!


「この痣、なんていい色なのかしら……ふふっ」


 だめだもう、辛抱たまらん!



 全てを捨てて襲いかかろうとしたとき、レクシー様の手の先に魔方陣さんが現れていたことに気付いた。迎撃!?


 しかしその手は俺をそっと撫でるように動いていく。


「ああ、痣が治っていく。なんて美しいのかしら。素敵…………残念、もう消えてしまったわ」


 ま、まさかレクシー様は回復フェチ!?

 歴戦の戦士が好きってのは、体にあちこち刻まれた傷を治したかったからなのか!?


「ほら、もっと私に傷を見せて。治させなさい」

「は、はい!」



 俺は色々と納得できないまま、全身から痛みが全て失われていた。

 魔法陣さんを使っているということは魔法な気がするんだが、どうもちとえりたちにこれはできないらしい。魔法とはまた違った魔法陣さんの使い方だそうな。



「あ、ありがとうございました」

「ふん、つまらない男」


 レクシー様は治療が済むと冷たい目で俺を一瞥した。傷がない男には興味がないってか?

 待ってろレクシー様。今ナイフで傷を!


「ゆ、勇者殿! はやまるのはやめるね!」

「放せちとえり! 俺にはもう、こうするしか道が!」

「ごくまろ、とくしま、そしてシュシュも勇者殿から刃物を取り上げるね!」


「やめっ。こ、こいつらどこからこんな力が……っ」



 俺は日本に帰るまで簀巻きにされてしまった。

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