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第48話 他人の苦しみを知る

「あ、あの、今なんて?」


 聖女様の言葉がよく聞こえなかった。さっきのはきっと幻聴だから、ちゃんと何を言ったのか確かめたかった。


「勇者様って聞いたから歴戦の戦士、オジサマだと思っていたのに、まさかジャリガキだと思ってなかったわ……」


 ……聞き間違いじゃなかった!?

 ふと周りを見ると、先ほどと打って変わっていやらしい笑みを浮かべるちとえり、そしてごくまろとシュシュがいた。


「なんね、お弟子さんは年上がお好みね?」

「ええ。男は40過ぎないと価値なんて出ませんから」


 なんだとぉ!?

 男の価値は……男の価値は年齢なんかじゃ……くうぅ。


「やー、お弟子さんとは仲良くやっていけそうね! 私のことは気軽に呼んでいいね」

「はいちとえりさん。では私のこともレクシーと呼んでください」


 聖女様の名前はレクシー様というのか。くっそぉ、男は歳じゃないってことを知ってもらわなくては。


「勇者様」

「なんだよごくまろ」

「私の気持ち、わかってもらえましたか?」


 おぐぅっ。

 考えてみりゃ全く逆の立場なのか。これはなんということだ。


 ……ごくまろ、大変だったんだな。


「……なんだか急にごくまろがかわいく見えてきたよ……」

「それはなによりです」


 ごくまろはにっこりと微笑んだ。

 なんだろう、ごくまろをぞんざいに扱うと俺がレクシー様からぞんざいに扱われる気がする。

 それはそれで……いや、ないな。やはりお姉さまからはエロエロしく絡んで欲しい。


「宜しくお願いします。私はごくまろです」

「あら可愛らしい。宜しくね」

「わ、私はとくしまです!」


 くそお、女性陣だけでわきあいあいとしやがって。どうにかしてレクシー様をなびかせなくては。

 だけどそれは同時にごくまろが俺を攻略するのに等しい。攻略されたくないが、同志として応援したい気持ちもある。

 俺は一体どうすればいいんだ……。



「勇者殿、苦悩してるね」


 ちとえりがすっごい嬉しそうな顔をしている。本気でイラッとした。


「……どうせこれもお前の仕込みなんだろ? 先に行ってこうなるよう仕向けてたんだろ?」

「そんなことしてないね。正直うれしい誤算ってやつね」


 うれしかねえよ!

 チクショウ、折角の、しかもド直球ストレートなお姉様だってのに、全く俺に興味がないとかどんな拷問だよ。


 はっ、そうだ! 戦闘だ!

 歴戦の戦士が好きということは、強い男が好きなのかもしれない。ならば俺が活躍しているところを見れば『ステキ! 抱いて!』くらいあるかもしれない。


 いやまてまて。考えを固定してしまってはいけない。先人はこれでミスを犯す。代案を用意するのが賢い生き方だ。

 あとはなんだ? 自立した男が好きなのかもしれない。でもこれは具体的にどうというものがわからないため保留。

 他には……自分の考えをしっかり持っている男とか? 歳を取ると考えが凝り固まって偏屈になっている印象があるからな。そういったものに惹かれるのかもしれない。


 よし考えはまとまってきた。あとはどうすればいいかを考えよう。



 うむ、全然思い浮かばない。どうすりゃいいんだか全く案が出て来ない。

 こういうときは女性に聞くのがいいわけだが、年齢的に近いであろうちとえりが役に立つとは思えない。次点でごくまろとシュシュか。

 だけどシュシュは逆、つまりショタ好きだから参考にならんだろう。つまりごくまろしか選択肢が……いや、ここはとくしまだな。

 とくしまはガキンチョだが年上が好きっぽいし、それならばレクシー様と同じなんじゃないかな。


「とくしまとくしま」

「はい、なんですか?」

「お前って年上の男が好きだよな?」

「ええそうですね」

「同じ歳の男に興味は?」

「ないですね」

「なんでだ?」


 俺の質問にとくしまは少し見上げるように考えた。


「そうですね……。子供だからじゃないですか?」


 お前もだろ。

 つってもざる知識だが、子供のうちは女の方が肉体も精神も早く成熟するんだっけな。だから同じ歳の男が幼く見えるのは仕方ないのかもしれない。


「具体的には?」

「私くらいの年齢の男って、やらしいっていってもせいぜいスカートをめくるとか胸を触る程度じゃないですか。股間をこすり付けてきたり耳元で卑猥な言葉をささやくとかできないと思うんですよ」


 う、ううん。

 なんだろう、俺が望んでいた答えと違う。やはりとくしまに聞くのは間違っていたのか。


「あ、あとあれが小さいのは嫌ですね」


 あれがどれのことを指しているのかは触れぬようにしておこう。

 だけどそういう考え方もあるかもしれない。歴戦の勇士ってことはそれなりに性的な経験も歴戦なのだろう。若さに任せて力押しするよりも技巧の優れたおっさんのほうが好みという考えもあるわけだ。

 ううむ、これは一朝一夕にはできそうもない。クールを装ってもいざというときには暴れまわってしまう可能性が大だ。


「勇者殿、そんなところでぶつぶつ言ってないでさっさと馬車に乗るね」


 考える暇はないか。仕方ない、こうなったら思考と実践を両立させるぞ。




 なんて粋がってみたものの、何も浮かばない。

 それもこれも全て馬車のせいだ。馬車の揺れのせいでレクシー様のぷるんぷるんがたゆんたゆんしている。目を逸らせようとしても心が拒否する。それを見ないなんて勿体ないと。


「それでちとえりさん。これからまっすぐ巨人族の国へ?」

「山巨人族ね。できれば急いで行きたいところね」

「そうですか。それまでに馬車を新しくしませんか? ごくまろちゃんたちを寝かせる必要はもうないでしょうし」

「んー、サイドベンチシートは乗りづらいし、考えてもいいと思うね。でもなんでね?」

「先ほどからそのオスガキが私の胸ばかり見て不快だからです」


 ぐっ、バレてる!?

 そんなバカな。なるべく見てないよう工夫したのに。

 やはり女性は自分への視線に敏感というのは本当だったようだ。


「勇者殿、あんた……」

「ち、違っ。誤解だ! お前らもそんな目で見るな!」


 ごくまろやとくしま、シュシュまでもが能面のような顔で俺を見ている。


「勇者様はほんと、大きなお胸がお好きなのですね」


 違う、いや違わない。

 そうじゃなくって、男はみんな巨乳が好きなんだよ。好きじゃない奴は男じゃない。あいつみたいな変態ロリコン野郎だ。


「男はそういうものなんだ。仕方がないんだよ」

「勇者殿は特にそうというだけね。やっぱどこか大きな町に寄って3列シートの馬車を探すね」


 そんな、3列シートなんて座ったら見えなくなってしまうじゃないか。

 あまりにも酷い仕打ちだ。泣きそうになる。


 悲しみに打ちひしがれる中、本日のタイムリミットを迎えてしまった。

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