表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/71

第44話 愛の合体魔法

「な、なんだぁ!?」


 突然聞こえてきた爆音に、俺は慌てて窓の外を見た。くそ、こっち側からは見えない。

 ドアを開けると、ちとえりが窓の下辺りで呑気に寝転がっていた。そして窓からは灰色の煙が立ち上がっているのが見える。


「ちとえり、おいちとえり!」

「な、なんね」

「寝てる場合じゃねえよ。なんか防壁から煙が出てるんだ」

「ぬっ、それは大変ね」


 ちとえりは立ち上がり、とくしまの部屋に入ろうとして、足を止めた。

 そして苦虫を噛み潰したような顔を俺に向ける。


 とくしまを連れて行こうと思ったが、まだ動ける状態じゃないことを思い出したんだろう。


「ほんっと、使えない子ね」

「ぶっちゃけお前らの中で一番使え……あっ」

「ん? なんね勇者殿」


 前回これで謝罪させられてたんだった。どうもこいつは自分の弟子以下と思われるのが一番嫌らしい。

 事実としてちとえりは今まで全くといっていいほど戦闘に加わっていないし、魔法だって水ベーターだっけ? あれのときくらいだ。

 そういやこいつたまに飛んでるけど、あれも魔法なんだろうか。

 あっ、大切なことを忘れていた。こいつ敵の群れに町ひとつぶつけたんだった。ありゃあ酷かったな。


 っと、そうじゃない。今はあの煙の正体を確かめることが重要だ。


「ちとえり」

「わかってるね。ったく、ごくまろもほんと役に立たないね」


 魔方陣ドローンを飛ばせばすぐ確認できたもんな。だけどあいつもまだ動けない。仕方なしといった感じにちとえりは窓を開け、飛んでいった。


 さてちとえりが戻ってくるまで、俺は俺でやらないといけないことがある。


「おいシュシュ」


 ごくまろの部屋に戻り、シュシュを呼ぶ。


「どうでした? 勇者様」

「なんか防壁辺りで爆発があったみたいだ。煙が上がってる。今ちとえりが様子を見に行ってるが……」

「わかってますわ。いざというときの戦力ですわね」


 今頼みの綱はシュシュだ。後は────。


「とくしま、起きてるか?」

「あっ、勇者様」


 とくしまの部屋に入ると、やはりまだ動けないのかベッドで横になったまま返事をしていた。


「まだ駄目そうだな」

「あの、勇者様」

「なんだ?」

「えっと、私はゴーカンしてくれないんですか?」


 なんでこいつそんなこと知ってるんだ!?

 いやそうじゃない、誤解だ。俺はそんなことしていない。ただ服をひん剥いただけだ。


「そんなことしてねぇよ。てかどこ情報だよそれ!」

「ちとえり様が教えてくれましたよ」


 あんのガキババア、廊下でずっと倒れてたと思ったら、一度とくしまに吹聴してから戻ってきてやられたふりしてやがったのか。

 他にどんなデマを流したか気になる。あとSEKKYOUしつつ問いただそう。


「それについては後で尋問する。それより────」

「尋問してくださるんですか!?」


「……言っておくが、俺の尋問は痛いぞ」

「何を言ってるんですか。女性相手なら恥辱的なほうが効果あるに決まってます」


 お前に効果ないことはよくわかってる。

 てか尋問するのはちとえりだ。それに今はそんな話をしている場合じゃない。


「そんなことより魔物の襲撃があったかもしれない。動けないだろうが手を貸せるか?」

「えっと、魔法を使うことくらいならできるかもしれません」


 それで充分だ。あとは現場までとくしまを連れて行き、手を持ち上げてやれば多分大丈夫なはずだ。


 よし準備は整った。ちとえりがどんな回答を持ってきても対応できるようにはしてある。




「勇者殿、魔物の襲撃ね!」

「おけ、任せろ」


 俺は早速とくしまを背負う。俺の装備はシュシュが既に持っている。


「準備早いね」

「お前が戻ってくるまでに終わらせてるよ。さて行くぞ」




 門に辿り着くと、門は今にも開けられそうなほど激しい攻撃を受けていた。


「ちとえりと弟子と、あと勇者っぽい人の登場ね! 仮性に来たね!」


 勇者っぽいじゃねえよ勇者だよ! お前が呼んだんだろ!


「おお、あなたがうわさの変態魔導師の……」

「まずこの町を更地にするところから始めるね!」


 またかよ。本当のこと言われて怒るんだったら、まずその行為自体をやめろよ。

 とりあえずいつものようにぶん殴り、怒りの矛先を変える。


「いたっ! なにすんのね!」

「おうコラ、だれが勇者っぽい人だ」

「それは言葉のあやね!」

「どうあやねるとそうなんだよ」

「ここで勇者殿が勇者だとバレたら周囲の女どもが股を開くことになるから気を使ったのね!」


「我こそは勇者なり! 魔物どもめ! 覚悟しろ!」


 俺は大声で啖呵を切った。背中にとくしまを背負ったままだが、これで恰好がつく。

 そして同じタイミングで門は破られ、魔物がなだれ込んでくる。


「よしとくしま出番だ……とくしまあぁぁ!」


 とくしまは泡を吹いて失神してた。背負って走ったから揺さぶられて脳が酸欠になったのだろう。

 これはまずい。とりあえず土色になったとくしまを横に寝かせた。


「シュシュ! 時間稼ぎを!」

「よろしいですわ! 『お、お姉さん! 僕は!』『うふふ。坊や、焦っちゃダメよ』『で、でもっ。はうっ』『やっぱ若い子はいいわね。もうこんなに熱く固くなっちゃって……。それにおっきい』『ああっ、お姉さん、僕はもう! あああっ!』」


 シュシュの魔方陣さんから太くて長く、燃えるように真っ赤な鉄柱のようなものが飛び出し門から入ってきた魔物をあっという間に押し戻す。こいつの魔法もなかなか凄いな。

 そして俺の妄想を捗らせる。俺もそういうシチュエーションは大好きだ。


 っと、そうじゃない。早いところとくしまを起こさないと。


「おいとくしま、起きろっ」

「あぅあぅあー」


 駄目だ、完全に頭へ酸素が回っていない。

 脳に酸素を送るためには血液が必要だ。多く送るには血圧と心拍数を上げるしかない。

 酒は……駄目だ。あれは血管が広がるから効果が薄い。だとしたら……。


 俺はとくしまを抱き上げ、あぐらをかくように座りとくしまをその上に座らせる。


「ほぉらとくしま、ハイメンザイだぞ。犬みたいにキャンキャン吠えろよ」


 耳元で囁いた途端、とくしまからもの凄い鼓動を感じた。そして肌は紅潮し、力がみなぎってきている。

 俺が考えた心拍数を上げる方法。それは興奮だ。とくしまは今、大興奮して妄想を脳内で練り上げていることだろう。


「いきます! 『フン、雌犬め。犬は犬らしく四つ足で立て』『そ、そんな。こんな恰好では、み、見えてしまいます!』『見せろと言っているんだ頭の悪い駄犬が』『は、はい……はぅっ! 帝王様、な、何を入れているんですか!』『ご褒美のミルクだ。嬉しかろう』『いやああぁ、そんなに入れちゃ駄目! でちゃうううぅぅ!!』」


 とくしまの魔方陣さんから、なんとも形容し難い液体が噴出。それはごぼごぼと泡立ちながら門の外へと流れ出し、それに触れた魔物はたちまち溶解していった。

 魔物どころか触れた草や木も溶け、液体が消えるとそこには何もない死んだ土地だけが残っていた。


「勇者様、これ凄いです! よくわからない属性の魔法が出ました! 合体魔法ですよ! 愛の結晶です!」

「いやよかったのか悪かったのか……とりあえず助かったというべきなのか?」


 町の前にあった森の一部が焼失し、1キロくらい先までが砂漠のようになっていた。


 折角武器を手に入れたというのに使えなかったなぁ。だけどあの数相手は流石に無理だし、またの機会にしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ