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第42話 どうして勇者になったのか

「────で、結局何もできないでしかも数日休みってことか」

「まあ重力に慣れてもらわないとこれ以上進めないからな」


 学校の昼休み、俺とあいつのいつもの勇者会議。どうもあいつは俺の世界、重力の異なる星というものに興味があるらしく、色々と訊ねてくる。

 俺としてはあいつの世界のほうが魅力的だけどな。隣の芝生は青いってやつだ。



「やっと見つけた」


 俺とあいつの勇者談義に突然割り込む女の声。声質からして先生ではない。つまりメスガキだ。

 振り返ると搭屋の扉から、うちの学校の制服を着た女生徒が現れた。


 俺は基本的に女生徒と仲が良くない。そしてここには俺とあいつだけ。ようするにあいつが目当てだとすぐ推測できた。


「なんだよ、彼女か?」

「ふざけんなよ。高校生とかババアだろ」


 んだとこの野郎、だったらお姉様方はどうなっちまうんだよ。

 という喧嘩は日常茶飯事であるが、今はとりあえず置いておく。


「人違いだろ」


 あいつは女生徒にそう言う。だが女生徒はそんなこと聞いていないのか、俺たちのそばへ来てしゃがみこんだ。

 そして俺とあいつをじろじろと見る。こいつは視姦趣味のごくまろ系か?


 一通り見終わった女生徒は、俺たちの顔をみてにこりと微笑む。

 そして次に発した言葉は、俺たちを驚かせるのに充分なものだった。


「あたしも勇者なんだよね」





「いやさあ、このがっこにも勇者がいるらしいって知って探してたんだよねー。それが揃ってるなんてラッキーだわ」


 このアマ馴れ馴れしいな……。そういえば勇者カタログにも女が載ってたな。ほとんど興味なかったからちら見しかしてなかったけど。


「んで、俺たちになんか用かよ」

「2人とも勇者なんでしょ。そんでもってここで勇者会議。あたしも混ぜてよ!」


 なんだと?

 俺は決してゲイじゃないし、むしろ女好きだ。ただしそれはお姉様に限る。こんなメスガキに興味はない。それに今までガキの相手は散々やってきたんだ。だったら男と話しているほうがずっといい。


「断る」

「なっ、なんでさ!」

「うるせえババア」

「黙れガキ」


「……はぁ、ほんとうわさどおりだね、きみたち」


 女生徒は脱力した感じでほざいた。


「どんなうわさだよ」

「あいつ君はロリコン。んできみはフケ専」

「おう誰がフケてんだコラ」


 女性の完成はお姉様になってからなんだよクソガキが。この未完成品、出来損ないめが。


「ま、まあまあ私だって数年後には適齢になるんだからさ、そう怒らないでよ」


 う、ぬう。

 確かに今メスガキだからといっても、ずっとメスガキのままというわけじゃない。俺たちと同じ歳だとしたら17か。あと5年もすれば色気が増し、お姉様的になるかもしれない。


「……しゃあねえな。仲間に入れてやろう」

「やった!」

「おいてめえ!」


 あいつはロリコン、つまり未来がないんだ。だが俺には未来がある。やはりお姉さまが一番だよな。


「いいじゃねえか。元々この学校の勇者を集めるつもりだったんだろ?」

「まあそうだけどよ」

「集団に女が加わると和が乱れるって言うけどさ、俺もお前もこの女に興味がない。つまり問題ないってことになるし」

「ちょっとそれ酷くないー?」


 将来的に見込みあるかもしれないが、俺は未来だけではなく今も大切にする男だ。待つ気なんか更々ない。


「んで女勇者、お前の世界はどんなとこよ」

「えーっ、2人の世界を教えて欲しいんだけどなぁ」

「だって俺ら、もう互いの世界のこと知ってるし」

「今更聞いてもな」

「うー」


 新参者から話すのがここのルールだ。そして古参の世界のことは会話から把握するべし。


「わかったわよ。あたしの世界はもう9割以上が魔物に支配されてんの」


 おうふ、そりゃあなかなかハードモードでのスタートだな。まるでRPGみたいだ。

 町から一歩出た途端魔物に襲われるからなあれは。そんな感じなんだろう。


「きつそうだなそれ。魔王とかもいんのか?」

「魔王ねぇ。それっぽいのだったらいるよ。多分100くらい」


 ハードモードどころじゃねえじゃねえか。よくこんな世界で勇者やる気になるな。



 話を聞いた感じだと、種族ごとのリーダーが魔王扱いということらしかった。

 ゴブリンやホブゴブリンなどのゴブリン族の王がゴブリン魔王といった感じだ。

 ようするに魔王だから全て強いわけではないらしい。それでもやはり一般人の手に余るようだけど。


 しかしドラゴンの魔王とかシーサーペントの魔王とかはやばそうだ。俺たちでも倒せるのはちとえりくらいしかいないんじゃないか?


「俺だったらそんなとこで勇者やりたくねぇな。よくOKしたな」

「えーっ、だって登録して初めての勇者だし、折角選んでくれたんだからがんばりたいじゃん」

「まあそうだよな。俺も同じ感じだ」

「えっ?」


 登録? どういうことだ?


「なあ登録ってなんだよ」

「なんだよって、勇者登録して召喚されるのを待つのが普通だろ?」

「きみも勇者カタログで選ばれて勇者になったんでしょ? だったら登録してるんじゃない」

「いやいやいや!」


 なんだそれ、俺はそんなものに登録した覚えはないぞ。

 そういや俺だけ盗撮写真みたいだったんだよな。もしやあれが原因?


「多分俺のは誰かが勝手に登録してたんだと思う」

「あー、だからあんな盗撮みたいな写真だったんだ」

「おい、どんなんだったんだよ」


 そういやあいつは秋冬号だから俺が載っていなかったんだよな。つーことはこのコムスメも俺と同じ春夏号か。



 ここでひとつ、とんでもない仮説を思いついた。

 俺を選んだのはごくまろだ。そしてあいつには盗撮癖がある。更に俺のカタログ写真は盗撮されたものだ。これを総合するとつまり、ごくまろが何かしらの方法で地球にいる俺を盗撮し、登録したのではなかろうか。

 もしこの仮説が正しければ、全て辻褄が合う。あんな雑な写真と情報で俺が選ばれた理由、それは俺を選ぶために登録したことに他ならない。


 これは問い質さねばならない案件だ。

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