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第41話 娼館への渇望

 俺たちは宿に着きごくまろたちを寝かせた。重力負けして血液が脳に回らないという状態は、体を横にすれば大丈夫なはずだ。これで暫くは放っておいてもいい。


「これでよしっと」

「じゃあ勇者殿、早速謝罪するね」


 こんにゃろ、覚えてやがったか。

 だがこれだけの時間があれば正式な謝罪というものが見えてきている。これで多分大丈夫だ。


「申し訳ございませんでした。以後気を付けますので何卒お許しください」

「う、ぬう。仕方ないのね。これからは注意するね」


 どうだ、100点までとはいかないだろうが、及第点くらいはもらえそうな謝罪だ。これで駄目だったら謝りようがなかった。

 じゃあこの件は終わったとして、次だ。


 さて優先順位をつけよう。まず1番はお姉様とのアバンチュール……じゃなくて装備だな。勇者っぽい武器が欲しい。

 んでもって2番目がお姉様とのときめきのひとときだ。だが生憎金がない。ちとえりも渋ってるしな。


 しかし俺は金を作る方法を知っている。

 やり方は簡単だ。装備は買ってくれるというちとえりに、ちょっといい装備──但しアクセサリ的なやつ。それを追加で買ってもらう。

 その後自由行動をし、そいつを売りさばく。もし追求されたら落としたことにしておけばいい。


 俺はこれをチョイ悪中学生方式と呼んでいる。良い子には真似しないで欲しい。


「んじゃ、早速装備を買いに行こうぜ」

「切り替え早いね。まあいいんだけど」


 いいんだったら謝罪もさせなくていいじゃないかと思いつつ、俺とちとえりは宿を後にした。




「いらっしゃ……あん? 超小人族?」

「普人族ね」

「そりゃお前らの国での話だろ。んで何の用だ」


 装備屋のいかつい筋肉親父はちとえりを見た途端、種族の違いを当てた。どこで見分けられるんだ?


「この坊やに装備を見繕って欲しいのね」

「……はっ、ひやかしか? こんな青瓢箪に装備させるようなモンはここにゃあねえぜ」


 青瓢箪ってことはないだろ。ムキムキではないにせよ、それなりに筋肉はついているほうだ。

 武器だろうと素手だろうと、無駄に付き過ぎる筋肉は動きの妨げになる。俺の体が理想とは言わないが、それなりによくついているはずだ。


「どうするね勇者殿」

「この店は駄目だ。見る目がねえ」

「んだぁこの小僧……って、ちょっと待て。今勇者つったよな?」


 ちとえりが俺を勇者だと言った途端、店員の見る目が変わる。いわゆる品定めといった感じだ。


「なるほどなぁ、こいつが今回の。ってこたぁあんたがあのちとえりか?」

「そうね! 私こそが性器の大魔導師、ちとえりね!」


 ちとえりがない胸を張り、偉そうにしている。


「そうかそうか。勇者が俺の店で買うなら箔が付くってもんだな」

「悪いけど俺、青瓢箪なんでここの武器は使えねぇわ」

「なっ」


 俺は心の狭い勇者なんだ。謝るまで許さねえよ。


「ちとえり、この町に装備屋って何軒あるんだ?」

「さっき調べたところあと2軒あるね」

「よし行こうか」

「ま、待て待て待て!」


 俺たちが店を出ようとしたら、店員が引き留める。


「なんだよひやかしの客引き留めて何か得あんのか?」

「悪かったって。そう言うなよ」


 悪かったからなんだとさっきの俺が心の中で文句を垂れる。しかもなんか馴れ馴れしいのが嫌だ。


「ったく、しょうがねえなあ」


 だがここは俺が折れる。店員は少しほっとした感じの表情を見せた。


「なんね、そこで退くとは思わなかったね」

「俺は大人なんでな、しつこく言うつもりはないんだよ」

「ギギギギギ」


 ちとえりが悔しそうにしているだけで俺は満足だ。

 大体こんなことで土下座とかさせてみろ。ブログやトイッター大炎上だぞ。俺はああいうアホなチンピラまがいと違う。


「だけど当然色を付けてもらうけどな」

「すまん、俺は雇われ店長なんで勝手に値段をいじれないんだ」

「……だったら最初から客を追い出すようなこと言うなよ」

「装備屋の店長になったら言ってみたかったんだよ」


 ああわかる。俺も隠居したらバーの店長になって、若い客が来たらミルク出して「ここはガキの来るとこじゃねえ」とか言ってみたいからな。

 これはある意味ロマンだよな。仕方ない、許そう。




 というわけで俺は基本装備である剣と盾、それに細身の短剣を2本購入。更にブーツを手に入れた。


「後は……アクセサリ類だな」

「ちょっと勇者殿、そんなオシャレなんかにお金は使わせないね」

「そういうんじゃなくってさ、なんつーか、装備すると防御力が上がるとか、素早さが上がる的なアクセサリだよ」

「高いんだから、ああいうのはもっと大人になってからするね」


 なんだその小学生に言い聞かせるみたいな台詞は。こっちは命がかかっているんだから出し惜しみしないでくれ。

 そう、俺はこれから命がけの戦いへ赴かなければならないのだ。魔法装備なんてその踏み台でしかない。


 だが踏み台がなければ飛び出せないのも事実。だからこそ必要なんだ。


「なー頼むよちとえりー。俺だって不安なんだからさぁ」

「そんなん私たちが守るから大丈夫ね」


「今のごくまろたちが役立つとは思えないし、お前だってこないだはぐれただろ」

「あ、あれは勇者殿が……くっ」


 俺が悪いとでも言いたかったのだろうがそうじゃない。ひとを散々からかっておもちゃにした報いであって、俺の責任なんて微々たるものなんだ。それをわかっているからちとえりは口を閉ざしたわけだ。


「俺だって死にたくないしさ、お前だって俺に死なれたら困るだろ?」

「……わかったね。ただし渡すのはこの町から出てからね」


 なんだと!?

 そんなことをしたら結局文無しじゃないか。俺とお姉様方のハートフルライフが遠のいてしまう。


「いやいやいや! 町中だって危険だから!」

「勇者殿、怒らないから正直に答えるね」


 くっ。

 正直に答えたとしてどうだろう。絶対に反対され、挙句俺の立場が悪くなるに決まっている。

 だからといって嘘にはどうしてもほころびが発生する。見抜かれたときの立場は更に悪いため、正直に話すか黙るしかない。

 しかしこの場で黙るというのも悪手だ。


「ちとえり」

「なんね」

「俺はなんつーか、まだガキなんだよな」

「そうね」

「だからもっと大人の男になりたい。そのためには金が必要なんだよ」



 どうだ、この言い回しならぐうの音も出まい。


「勇者殿、異性と性交渉をしたら大人だというのは子供の発想ね」


 ぐう、確かにその通りだろう。

 だがひょっとしたらすることによって何かが見えるかもしれない。それが見えたとき、俺はきっと大人になれる。


「どうしても駄目か?」

「そんなもん私かごくまろで満足するね」


 そんなもので満足できないからこうして頼んでいるんだ。


「なぁー、一回だけ! 頼む!」

「仕方ないね」


 おっ、マジで!?


「その代わり私も同伴で見学させてもらうね」



 俺は野望を諦めることにした。

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