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第22話 変態魔法VS変態魔法

「勝負ですわ! ちとえり様!」

「私と戦うからには覚悟するね!」


 2人とも珍妙なポーズで互いを威嚇している。


 魔術師同士の戦いか。そういえばこの世界へ来てから見たことがなかった。かなり興味ある。

 威力としては確実にちとえりのほうが上のはずだ。詠唱……そもそもあれを詠唱といっていいのか疑問だが、それもちとえりのほうが恐らくは早い。

 あの娘に勝ち目はなさそうだが、さすがにちとえりも本気を出したりしないだろう。


「少年。この勝負、どう見る?」

「そりゃまあ妥当にちとえりが勝つんじゃないか?」

「普通に考えればそうじゃろうな」

「ふむ?」


 あの娘に何かあるのだろうか。ちとえりを上回れるものが。


「ハンデとしてイニシアチブはくれてやるのね!」

「うふふっ、驚かせて差し上げるわ!」


 娘が手を前にかざし、魔方陣さんを出現させる。


「なっ」

「えええええ!?」


 俺たちは一斉に驚いた。ちとえりですら慄いている。

 なにせ娘は出現した魔方陣さんをおもむろに掴むと、引き伸ばし始めたのだ。


「うふふふふっ。驚いていますわね、ちとえり様!」

「あ、あんたなんてことしてるのね!」


 娘は散々魔方陣さんを引き伸ばすと、最終的にはスイカサイズの球状へと仕上げた。


「ではいきますわ!」

「ぐっ、ぐぬぬ……」


 ちとえりがくやしそうな顔をしている。魔方陣さんをあんな風に使うなんて考えもしなかったのだろう。自称天才には堪えているみたいだ。

 そして娘は息を吸い、詠唱を始める。


「『だ、駄目ですお嬢様!』『うふふ、ここじゃ私はただの女ですわ』『し、しかし僕は平民で……』『ふふっ、こんな硬く尖らせて、いつまで耐えられるかしら?』」


 途端、球状の魔方陣さんの四方八方から棘状のものが現れた。

 この娘、やばい。

 何がやばいって、俺との親和性が高すぎる。この性癖でお姉さまだったら俺は確実に処男を散らしていた。

 やつがロリっ子で助かった……いや、残念でならない。


「行きますわ!」


 娘は、えーっと……魔方陣球とでも言おうか、それをちとえりめがけて飛ばした。

 激しく回転するそれがちとえりの周囲で浮遊する。


「こんなもん大したこと……ぐっ」


 ちとえりが魔方陣さんを呼び出そうと突き出した手を、回転する魔方陣球の棘が叩き落とす。なるほど、詠唱以前に魔方陣さんさえ出せなければちとえりもただの人だということか。


「どうじゃね少年」

「まさかあのちとえりを圧倒するとはな……」

「そうじゃろそうじゃろ。とうとうあの痴の集合体ちとえりを葬るときが来たのじゃ!」


 葬るとか言ってるよ。どれだけ恨まれてるんだ?


「うふふふっ。ちとえり様やぶれたり!」

「甘いのね! 感度充填!」


 ちとえりが自らの体をまさぐり始めた。すると顔が紅潮し、目が虚ろになっていく。やべえ、こいつド変態だ。みんなが見ている前だから余計に興奮してやがる。


「うふふ、勝負あったかしら」

「舐め過ぎね、感度充填完了ね!」


 ちとえりが両腕を左右に突き出した。なるほど、魔方陣球は1つしかないため、どちらかしか潰せない。


「激甘ですわ!」


 相手がこうくるくらい想定済みだったらしく、魔方陣球が分裂し、それぞれの腕を狙う。


「激甘はそっちのほうね!」


 ちとえりの手に魔方陣さんが現れる。しかしその腕はすぐさま魔方陣球の餌食に。


「あぅんっ」


 魔方陣球を受けたちとえりは、何故か色……いや、エロっぽい声を発する。

 すると魔方陣さんからは光の弾が無数現れ、娘へ襲いかかった。


「きゃあああぁぁ!」


 これで勝負あった。娘はかわしきれず、光弾の餌食になった。


「ふむ、やはりまだ無理であったか」

「てかさっきから誰だよおっさん」


 ずっと俺の横で戦況を見守っていた謎のおっさん。いちいち反応するの面倒だから放っておいたけど、今なら聞ける。


「儂はドッピオ=シャ=セインじゃ」

「ああ、そんな気はしてたよ」


 一応敷地内だし、知らない人が勝手に入ってきたということはないはずだ。ならばいるのは使用人か本人くらいだろうからな。



「ふ、不覚ですわ……」

「考えは悪くなかったけど詰めきれなかったね。私の感度を充填させてしまった時点で終わってたのね」


「なあごくまろ。感度充填ってなんだ?」

「ちとえり様は感じて興奮が絶頂に達した状態になると、鞭ですら快楽を得られるようになるんです」


 なんだそれ、超ドMじゃないか。つまり相手に攻撃させて、その興奮で魔法を起動させたってことか。

 やはりこの世界の魔法は変態が勝つ仕様なんだなと実感させられた戦いであった。


「だけど魔方陣さんをあんな風にするなんて思わなかったね」

「いいえ、考え不足でしたわ」

「でもなかなかよかったのね。今日から『ごく』の称号を名乗るがいいね」

「ちょっと待ってください!」


 差し止めたのはごくまろの声だ。


「今年分のごくは私が頂いたのです! 彼女が名乗るのはいかがなものかと!」

「んー、まあそう怒らないね。とくまろ」

「私が降格してる!?」


 ごくまろがへなへなと崩れ落ちた。


「とくしま、どういうことだ?」

「『ごく』の称号は年間1人しか与えられないのです」

「なるほどな」


 他にごくを与えるには、今いるごくを降格させてしまえばいい。簡単なことじゃないか。


「そう落ち込むなよ、とくまろ」

「ゆ、勇者様まで……酷い……」


 泣き出してしまった。ちょっといじわるが過ぎたようだ。


「なあ冗談はそれくらいにして返してやれよ」

「だってとくまろって詠唱が異様に早い以外取り柄がないのね」


 ひっでぇな。だけど確かにとくしまと比べたら派手さがない。早さのごくまろ、力のとくしまって印象だ。

 ごくまろが早さで敵をかく乱し、その間にとくしまが詠唱を唱える。これが最高の組み合わせなんだが、ソロだとそれぞれの弱点が露出してしまう。セットで考えるならば同じ位でいいのかもしれない。


「じゃあなんでそもそもごくまろにごくをやったんだよ」

「私より早い詠唱を行えたものにごくをあげるだなんて言ったせいね」


 余興みたいなもので決めたのかよ。ごくまろが哀れで仕方ない。


「うふふっ。では本日より私がごくを──」

「勝負です!」


 涙目のごくまろが娘の名乗りを止め、前へ出る。


「うふふ、よろしくてよ。その勝負、受けますわ!」


 その瞬間、両者は手を前に突き出し、魔方陣さんを呼び出す。


「オートフォーカス!」


 ごくまろの魔方陣さんが分裂────10……いや、20ほどに増え、それぞれの六芒星ファインダーが娘を捉える。初っ端から全開かよ。


「えっ、ちょっ」

「チーズ!」


 無数の魔法弾が凄まじい速度で放出される。魔物の大群の足止めくらいはできる魔法だ。1人だったらたまったものじゃないだろう。

 結果、ボコボコになった地面に娘が座り込んでしまった。ちゃんと当てないようにしてたか。




「……お見それ致しましたわ、ごくまろ姉様」


 娘は頭を下げようとするが、それをセイン卿が阻止する。


「そこまでにしていただきましょうか」


 父親として娘の土下座シーンとか見たくないだろう。これは当然のことだ。娘大事っぽいし。


「やはりちとえり殿とそのお弟子さんには敵いませんでしたな」

「でもなかなか面白い勝負だったね。これで移動が楽になるね」


 移動は関係ないだろ。

 まさかこいつ、移動の最中暇だからって魔方陣さんをこねくり回すつもりじゃないだろうな。そんなことしてたら魔法陣さんに嫌われてしまうのではないだろうか。



「それでちとえり殿、本日はどのようなご用件で?」

「おっと忘れてたね。高速移動できる装置を貸して欲しいのね」


「なんと、それを手に入れたら早々に立ち去っていただけると!?」

「そんなわけないのね。この屋敷を散々凌辱してから奪っていくのね」

「きっ、貴様……っ」

「やめてやれ」


 俺はちとえりを蹴り飛ばし、2人の会話に割って入った。


「おおっ、あの悪痴非道のちとえり殿を蹴り飛ばすとは。少年は一体……っ」

「俺は一応勇者やってて、これから魔王を倒しに行くんだ。んで、なるべく早く行きたいから助力を乞いにやってきたんだ」

「なるほど、そうであったか。よろしい、では────」

「お父様、勇者様は私を連れ、見事魔王を倒してくださいますわ!」

「貴様なんぞには何もやらん!」


 ええっ、今の流れって貸してくれる感じじゃなかったの!?

 娘か! 娘のせいなのか!


「いやいやいや、待ってくださいよセイン卿。俺は────」

「ふざけるのもたいがいにしろ! 我が娘を連れ去り、股間の魔王をけしかけ『ほぉら退治してごらぁん』とか言うつもりじゃろ!」

「いわねえよ! それに俺は勇者だって言ってるだろ!」

「貴様ぁ! ならば我が娘の股が魔王だとでも言うつもりか!? 貴様の股間の勇者で退治すると!」

「だから言わねえっての!」


 駄目だ、こいつも下ネタで脳みそが埋まってる。ちとえりよりマシだと思っていた時期が恥ずかしい。


「と、とにかく貴様に娘はやれん!」

「ああ、別にいらんから」

「な、なんだと貴様! 責任も取らずやったらポイするつもりか!」

「俺はなんにもやってねえよ!!」


 なんでいつの間にか事後になっているんだ。てかさっきまで普通に会話できていたのに、娘が絡むとほんとロクでもないな。


「お父様、もう決めたことですわ。私はちとえり様と勇者様に付き添い、魔王を倒すと」

「なんてことじゃ……」


 セイン卿は膝から崩れ落ちた。手塩にかけて育てた娘が魔王退治などという危険な旅に出ようとしているんだ。普通の親だったら辛いだろう。


「でも俺たち別に娘さん連れて行くつもりはないから」

「ですね」

「もろちんね」

「ええっ!?」


 どうして驚いてるのか知らんが、なんで一緒に行くのが前提で話を進めているのかわからん。


「で、ですが私を連れて行けば色々と便利ですわ!」

「例えば?」

「勇者様が突然ムラムラしたとき、すぐさま鎮めさせていただきますわ!」

「悪い、俺は子供に欲情しないんだ」


 てか本当に色ボケかよ。ちとえりが言った通り、こいつは誰とでも寝そうだ。


「貴様! ふざけるな! うちの娘は今年で18歳になるのじゃ!」

「えええっ!?」


 俺は慌ててごくまろと見比べる。

 ごくまろ、目測でおよそ身長1メートル。娘、目測で125ほど。

 ごくまろ、胸残念。娘、ふくらみかけ。

 同じ17歳でもえらく違うな。これが種族の違いというものか。


 ちなみに俺が170前後でゆーなは恐らく155位だろう。もう年齢が無茶苦茶だ。


「勇者様、今すごく失礼なこと考えていませんでしたか?」

「ああ悪い」


 ごくまろが鬼の形相で俺を殴りだした。もちろん効くわけがないから放置だ。


「とにかく俺はセイン卿の娘に手を出すつもりも連れて行くつもりもないから安心してくれ」

「な、なんだと!? 貴様、我が娘を直接手を下さず、手下どもにまわさせた挙句、捨てると言うつもりか!」

「どうしたらそういう発想になるんだよ……」

「どうもこうも、そのちとえり殿のせいで娘がこんな風になってしまったのだ! 一緒にいた勇者殿が感染されていないはずがない!」


 やばい、言い返せない。

 ちとえり菌は強力無比だ。侵されたらもはや助かる見込みはない。


「いやもう反論はできないんだけどさ、だったら尚更俺たちをとっとと送り出してもらえないかな」

「くっ、それしかなさそうじゃな……。ついて参れ」



 ようやく移動アイテムゲットか。先が思いやられる。

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