表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/71

第18話 勇者トレード

 結局巨人族の町まで辿り着けなかった。せめて見ておきたかったのだが。

 明日来てもまた夜だ。町を散策することなんてできやしない。


「ぬ、ぐ……へっ!?」


 がっかりした感じで転送ゲートをくぐると、部屋に巨大ミノムシが2つあった。

 ……ちげえ! これとくもりととくさつじゃねえか! 首吊ってるのか!? なんでこんなことに!?


 まさか、俺が無理やりベッドで寝かせたせいか!? なんてことしちまったんだ……。


「あっ、勇者様、お帰りですか?」


 これは幻聴だ。心の中であいつらの死を認められないせいで、ありもしない声が聞こえる気になっている。


「お、おかえりなさいませ……」


 とくもりには特に悪いことをしたな。あいつなんでちとえりの弟子なんてやって……いや、もう過ぎたことだ。

 そういやとくさつはまだ10歳だったか。まだ人生これからだっていうのに。


「勇者様ーっ」

「ああもううっせえな。ひとが悲しみに耽っているとこになんだよ」

「あの、そろそろ降ろしていただけるとありがたいのですが」

「ほいよ」


 俺はロープを解き、2人を降ろしてやった。知ってたよ生きてたことくらい。



「んで、なんであんな真似をしたんだ?」

「もちろん驚いていただくためです!」

「俺を驚かしてどうするんだ?」

「おしおきしていただくためです!」


 だよな。とくさつはとくしまより直接的なほうが好ましいらしい。ほんととんでもないガキだ。


「とくもり、なんでお前まで一緒になってんだ」

「も……申し訳ありません……」


 今にも泣きそうな顔をするとくもりにはこれ以上言えない。なんでこの子はちとえりなんかの弟子をやっているんだろうか。


「まあいいよ。どうせとくさつに無理やりやられたんだろ?」

「勇者様! なんでとくもりには甘いんですか!」


「だってお前、変態じゃん」

「へ、変態じゃないです!」

「いいや変態だ。逆になんで変態じゃないか聞きたいくらいだ」

「だってお姉ちゃんだってそうじゃないですか!」


 とくしまあああぁぁ! お前のせいかああぁぁぁ!


 わかった。よぉくわかったぞ。とくさつは何も悪くない。見本とくしまが全て悪い。


「いいかとくさつ。お前の姉(とくしま)を見本にしちゃ駄目だ。ありゃあ悪い変態だ」

「そ、そんなっ」

「代わりにとくもりを見習え。かなりまともになるはずだ」

「それってつまり、勇者様がここで脱いだ下着の匂いを嗅いだりしろってことですか?」

「なっ!?」


 なにそれどういうこと!? もしやとくもりは匂いフェチ!?


「と、とくもり、そんなことをしてたのか……!?」

「も……申し訳ありません……」


 とてもすまなさそうな顔をしている。だがもう騙されないぞ。


「なんでそんなことをしてたんだよ」

「その……、男の人の匂いの誘惑にどうしても逆らえず、つい……」


 やっべぇ、こいつもガチだった。

 信じた俺が馬鹿だったんだ。ちとえりの弟子という時点でまともなはずがないとわかっていたのに、夢を見てしまったようだ。

 しかも妄想だけで済ませられる他の連中よりもやばい気がする。絶対自分の意思でここに残ったんだ。


「とくさつ、やっぱりさっきの話はなしだ」

「ええーっ」


 なんでそんなに嫌そうな顔するんだよ。お前そっちの属性じゃないだろ。


「とにかくとくもり、お前は俺の衣類に触ることを禁止する。ガチでひくから」

「……申し訳……ございません……」


 だからその辛そうな顔やめてくれ。俺が悪いみたいじゃないか。

 少しくらいなら……いやだめだ、こいつらに甘い顔はできない。


 とにかく帰ろう。そう思って風呂場の戸を開けようとしたとき、ふと気付いた。


「なあ、こっちのゲートは何かを所持しての出入りができないけど、そっちの世界では服着たまま移動できるよな」

「あっ、はい」

「てことは、ここで食い物とか用意すればちとえりたちに届けられるんじゃないか?」


 それができるのであれば食糧問題は解決する。

 だがその提案にとくさつは首を振る。


「こちらの移動にも制限があります。勇者様が身に纏っているもののみです」


 ルールをつけて制限することで、他の必要な機能を無制限にしているとかそんな感じなんだろう。

 俺が必要としている機能で一番重要なのは、多分距離だ。この星のどこへいようと城まで帰れるようになっているはず。


「そうです勇者様! 勇者様が食糧を纏っていればいいんです!」

「なるほど。だけどどうやって?」


「体に薄切り肉を巻きつければいいんです。それで通れるはずです!」


 ちょっと想像してみた。なんだこれ、肉巻きじゃねえか。俺はアスパラガスじゃない。通った瞬間焼かれて俺ごとおいしくいただかれそうだ。

 というよりもかなり変態チックだな。女体盛りに通じるものがある。ちとえりあたりが貪りそうだ。


「やっぱなし」

「ええぇーっ」


 だからなんでそんなに残念そうなんだよ。こいつの属性がいまいち掴めない。

 本気で相手するだけ無駄だ。帰ろう。





「俺最近勇者やってんだぜー」

「うっそでー」

「なんのゲームだよ」

「いやマジマジ、リアルで」


 そんな会話が聞こえ。休み時間に目が覚めた。

 えーっとあいつはクラスメイトの……誰だっけか。駄目だわからん。

 だけど俺以外にもそんなことやってる奴いるのかよ。なんとなく俺だけ特別感が薄れる。


「でもよぉ、その世界の姫とかメイドとかがみんな20過ぎくらいのババアばっかでよぉ。行くたび萎えちまうわ」

「んだとゴルアァァ!」


 叫んだのは当然俺だ。なんだその素敵な世界は。ふざけんな!

 俺なんかずっとエロガキの相手させられてんだぞ!


「な、なんだよお前」

「うっせえ! 謝れ! ガキンチョしかいないような国で勇者させられてる俺に謝れよ!」

「ああん?」


 そいつはこめかみに血管を浮き出させ俺を睨んだ。


「てめぇこそ俺に謝れ! ロリショタだらけの国だと!? ふざけんな!」

「あんなエロガキどもなんの魅力もねえよ! それより素敵なお姉さま方がお出迎えで文句とか頭おかしいんじゃねえのか!?」

「え、エロガキだと!? この野郎、やりやがったな!」

「やるかぼけぇ!」


 俺はわかった。こいつは一生相容れない存在であると。つまり、敵だ!


「「決闘だ!!」」


 俺とそいつは屋上へ駆け上がった。



「さぁて、どうしてくれようか」

「それはこっちの台詞だ!」


 互いに構える。

 こいつの構えは素人じゃないな。空手か?


「てめぇ、何かやってんな?」


 俺の立ち姿を見てそいつは気付いたようだ。だが何をやっているかまではわからないはず。


「教えるほど親切じゃねえけどな。そっちは空手だろ」


 そいつの肘がぴくりと動いた。図星らしいな。

 まあ空手なんていうメジャーな武道、見抜かれて当然と言える。敵を知り己を知れば百戦危うからず。相手の情報が少しでもある俺にアドバンテージができた。


「いくぞおるぁ!」


 そいつの正拳が俺の顔面へ打ち込まれる。

 だがそれを難なくかわす。腕の力だけで打たれる、速度は多少あるが体重の乗っていない威力のない拳だ。

 体重が乗っていないせいでその勢いを利用し投げることはできないが、これで相手の力量がわかる。こいつ雑魚だ。


 しかしそいつは俺を見てにやりと笑う。


「見たぞ。その足運び、お前、古武術使いだな」

「なっ!?」


 今の腑抜けた正拳はフェイクだったか! わざと体重を乗せないことで俺の投げを警戒しただと? 訂正だ、こいつできる!


「これでイーブンだおるあぁ!」

「やんのかヴォクェェ!」





 どれくらい時間が経過したか、俺たちはぶっ倒れていた。


「くっそ、てめぇ強ええな」


 そいつは息を切らしながら言う。


「てめぇもな」

「くっそ、これでも俺、空手でインハイ出てんだぜ」

「マジで!?」


 インハイ出場者相手でも俺の武術が通じるってことか。意外と俺やるのかもしれない。



「……しっかし世の中うまくできてねぇな……」

「何がだよ」

「わかんねぇか? お前、熟女好きだろ」


 ぎくり。

 見抜かれてしまった。だが俺にもわかることがある。


「そういうお前はロリコンだろ?」

「ちげえよ! ショタも仲間に入れてやれ、かわいそうだろ!」


 悪い、俺はショタ好き男とホモの区別がつかないんだ。

 てかこいつも変態かよ。なんでこうまともなやつがいないんだ俺の周囲は。


「……まあそれは置いておこう。どっちを選ぶと言われたらロリだしな」

「ああそうか、世の中うまくできてないってそういうことか」


 こいつはロリコンなのに年上のお姉さま方に囲まれる素敵世界で勇者やってる。逆に俺は年上のお姉さまが好きなのにガキンチョの世界で勇者か。

 互いの芝が青く見えてしまっている。というかその芝が心底うらやましいわけだ。


「なんでこう、うまくいかないんだろうな」

「俺の行ってる世界では、なんでもロリコンの勇者を呼び出したらメイド連れて逃げたらしいんだ」

「そいつのせいか!! ああぶん殴りてえぇぇ!」


 そいつがやらなくても多分こいつがやってただろうな。


 こんな感じでクラスメイトに初めて友人ができた。




 その日の夜、俺は珍しく自分の世界での出来事をちとえりたちに話した。


「────ってなわけでさ、そいつと俺、入れ替えられないかな」

「ふざけるな」



 ごくまろととくしまは泣き、俺はちとえりにSEKKYOUされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ