傍に居てくれた君へ
どうしてこんな事になったのか。
お前の隣に居るのは、今までも、これからだって、俺だけだと思ってたのに。
お前が笑うと、全てが鮮やかに見えたんだ。
「誠也!来てくれてありがとう。」
「おう、綺麗になって。おめでとうな。」
「ハハッ!なんや、新妻を口説く気?」
「そんなんや無いよ。幸せになりいや!」
目の前に立っているのは、誰だ?純白のドレスに身を包み、俺ではない他の誰かの為に笑う、俺の大切な幼馴染み。
「恭子!」
去ってゆくお前を思わず呼び止めた。
「へっ?…どしたん?」
「ほんまに…幸せになりや。」
「…うん。ありがとう。」その時、お前が流した一筋の涙。受け止めようと、手を伸ばしかけて、躊躇した。
後ろに立って居たのは…彰。
「恭子!そろそろ式が始まるで。挨拶は済んだか?」
「今行く!…誠也が来てくれててん。」
そして、彰は俺に気付いた。
「誠也!久しぶりやなぁ。来てくれてありがとう。」
「彰も、すっかりおじさんやなぁ。」
「お前に言われとうないわ!昔は、いっつも三人で遊んどったのになぁ。」
「そやな。」
その一瞬、三人が見つめていたのは、遠い過去の事だった。
俺たち三人は、生まれた時からの幼馴染みで、いつだって一緒だった。高校だって同じ所に入ったのに、途中で彰が抜け駆けして、恭子に告白したんだ。…いや、そう思うのは、俺にそんな勇気が無かったからか。
「病めるときも、互いに支え合い、共に歩む事を誓いますか?」
「…誓います。」
バージンロードを進んでくる恭子が綺麗すぎて。二人が並んだとき、あまりにも絵になりすぎていて。胸が痛くなった。
もう、どうあがいても取り返せないと…そう悟った。
式が終わった恭子と彰に、こう切り出した。
「お邪魔かもしれへんけど…久しぶりに三人で遊ばへん?」
「ええやん!なぁ、恭子?」
「うん、もちろんやん!」そんな二人の姿に、また胸を痛めながら、優しさが嬉しかった。
分かってる。ただ、昔の恋を引きずっているだけだと。それでも、お前の笑顔が俺の景色の全てだったんだ。
「ははっ!ほんま誠也は変わらへんなぁ。」
「そぉか?無駄に年とっただけや。」
「あー、あかん。ちょっと酔おてもうた。恭子!俺寝るから、後よろしくな。」
「分かった。居間に布団しいてるから。」
「おう。じゃ、誠也もお先にな。」
そう言うと、彰は奥の方に消えていった。
それから、恭子と30分くらい話した頃だろうか。俺に、昔の気持ちが蘇ってきてしまった。
そして、少しトーンを下げて切り出した。
「なぁ…。」
「急にどしたん?気持ち悪いなぁ。」
「昔さ、三人でおった時の事覚えてる?」
「…忘れる筈無いやん。ずっと一緒てゆうてたのにな。」
「ほんまに。…あの時の俺の気持ち…気付いてたよな?」
少しの沈黙があった。
「…うん。」
「やよな!俺アホやからさぁ、今まで気付いて無い思おててん。ほんま…アホや…。」
自分で言って、泣きそうになった。それを隠そうと、目の前の酒を舌の上に勢いよく滑らせた。
「まぁ、お互い忘れよ!」その瞬間、お前は泣き出した。
「ほんまのアホや!あの時のウチの気持ちも気付いてへんかったん?」
「…へ?」
「しかもなんや…今更言ってきて、忘れられる訳無いやん!誠也、ずるいわ!」それから、恭子はずっと泣いていた。その間、俺は何がどうなっているのか、いくら考えても気持ちの整理が着かなかった。
「…ウチも、ずっと好きやってん。」
「…えっ?けど…。」
「彰は…もちろん今は大切やけど、昔は…。」
なんとなくだけど、恭子の言おうとしている事が分かった。
「やめて!…言わんといて。今聞いたら、止まらんくなる気がする。」
「…あっ。ごめ…ん。」
「いや、俺の方こそごめんな。…けどな!今更俺がこんな事言ったって、過去の事やんな。だからさ…」
―未来は、彰に隣に居てもらえよ―
ちょっと、格好付けすぎた気がする。けど、このくらいの臭いセリフ言ってないと収まりつかなかったんだ。
昔の三人は、みんな不格好で、絵にならなかった筈なのに。結局成長しなかったのは、俺だけか。
「ね、誠也。覚えてる?」
目の前の景色はいつまで経ってもつかめなかった。
「私たちが、最後に約束してた事。」
鮮やかな絵の具の色も、いつしか滲んでいった。
「皆、傍にいなくても、」
それでも、微かな光に向かう俺たちは、
「ずっとずっと、忘れないからね!」
きっともう、次の舞台に走り出してるんだ。
「誠也の事…だぁーいすき!」