5 生後1年
更に季節はめぐり、産まれてから大体1年くらいが過ぎた。
最近では立って歩くこともマスターし、割りと自由に喋れるようになってきた。ついつい、正確に喋りすぎてしまうこともある。さじ加減が難しい。
やはり、異世界の言語ということで喋るのは難しいが、シルフィ先生の教えのお陰で、今では共通語と呼ばれる大陸で最もポピュラーな言語と、精霊語、簡単な古代言語まで理解出来るようになった。
魔法も以前よりも精度が高くなり、今では四大元素の初級魔法を使えるようになっていた。火の魔法を初めて使った時はちょっとしたボヤ騒ぎになり、それ以来火の魔法の練習は控えている。…やっぱり男の子としては火の魔法って主人公っぽくて憧れるんだけど、当面は練習できない。
「今日は、遂に精霊魔法を教えよう」
(おー)
返事を返しているが、実際には言葉ではなく、テレパスを使って話をしている。流石に精霊と話をして、魔法を使っているところを見られるのはまずい。
「精霊魔法っていうのは、契約を結んだ精霊を召喚して使役するっていうのが王道ね。邪道は…力を使って有無を言わさず精霊を使役するって言うパターンなんだけど、実際にそんな方法で使役しても精霊の力を十全には引き出せないし、効率も悪い。だから、実際には後者の方法は邪道でもあるし、現実的ではない。そんな方法を使うくらいなら初めから自分の魔力を使って魔法を使えば良いだけなんだから」
(確かに)
シルフィは、両手を広げ、部屋を見渡した。
「ちなみに、今この部屋に私以外に精霊は居ると思うかい?」
言われて、部屋を見渡すも、精霊の姿は見えない。
首を横に振り、シルフィに否定の意思を示した。
「そうだろうね。君でもわからないだろうけど、今度は目を閉じて、焦らず、ゆっくりと調べてごらん」
目をつむり、瞑想するかのように、ゆっくりと息を吐き、周りの気配を感じる。目の前に一際大きな存在、シルフィがいる。…シルフィの気配が大きすぎてわからなかったが、確かに、何かシルフィに似たような存在が部屋の中に居る。
「お、分かったみたいね。そう、私が長い間居着いたせいか、この部屋には実は精霊の一歩手前の、小さい小さい精霊が居る」
その小さな精霊の気配がする方へ、目を向ける。
…やはり、存在は微弱。けれど、目を凝らすと薄い霧のように視える。形を持たず、ただそこに存在している。
「そう、まだこの子は精霊として存在が固定できていない。精霊となるにはある程度の力が必要だから。この子はその一歩手前ね。今日はあなたにこの子と契約してもらって、この子を精霊にしてあげようということね」
(そんなこと出来るの?精霊になる前に?)
「出来るわ。普通の精霊使いには出来ないけどね。君なら出来る。君ならこの子を精霊にしてあげる事ができる」
シルフィは聖母のように微笑む。
(どうすればよいの?)
シルフィは、目を細め一息吐いてから
「君が名前を付けてあげれば良い。それだけで、この子は精霊になる」
そんなことを言った。
(それだけで、精霊になるの?)
「なるとも。私にはわかる。思念じゃなくて、ハッキリ名前を口にしてあげるだけで良いわ」
(ふーん、そういうものなのか)
だから、深いことも考えずに、口にしてしまった。
「君の名前は、フェード。君を見て思い浮かんだこの名前を与える」
その瞬間、空気が爆ぜる。
無色で、ただ存在していただけの、存在が色を、空気を帯びる。
小さな、小さなその子は
「…お父様、ありがとうございます。産まれまして、フェードで御座います」
僕の目を見ながら、そういったのだった。
今回は短めです。すいません。