1 異世界転生
目の前が真っ白になった。
ふわふわと、空に浮いているかのような浮遊感。
地に足がついている実感さえ持てない。
ぼんやりと、薄い霧のような物が見えるだけで、視界にはなにも映ってこない。
「ここって、もしかして天国?」
意識を失う前のことを思い出す。
確か…いきなり凄い衝撃を感じて…いや、その前にちらりと見たはずだ。凄まじい勢いで突っ込んでくる車を。
そこで記憶は途切れている。
まず即死で間違いないはずだ。
「そうそう、君。死んじゃったんだよね」
ふわりと、モヤが僅かに晴れる。
その隙間に人の姿が現れた。
見た目は20代中頃だろうか。
超絶なまでに顔の整った金髪の男が現れた。
「…ふむふむ。しっかりと死を受け入れているようだね。感心感心」
男は何度も頷いている。
「あの…ここって天国ですか?」
「うん?あぁ…天国と言えば天国なのかな?君がイメージする天国というのがどういうものかは分からないけど、ここは君が死んだから来る世界だから、死後の世界という意味でならイエスに近いね」
男はハニカミながら答えた。
「なら…あなたは…神様か、天使ですか?」
「少なくとも地獄からの使者とかではないかな?しかし、死後間もないというのにえらく冷静だね、君。普通はもっと慌てるもんなんだけどね」
「はぁ…すいません」
一応、本当にショックは受けている。ただ、死んだということを受け入れてしまっているだけで。
受け入れすぎて、パソコンの中身を見られてしまう可能性があると冷や汗をかきはじめたくらいだ。頼むから家族にだけは見られたくないものだ。
「お、ようやく緊張から汗をかいてきたね。多少は吃驚してもらわないとこちらも楽しくないからね」
残念ながら金髪の男が望んでいるような理由から汗が出ているわけではないのだけれど。
「君には異世界に転生してもらう」
金髪の男は何故か得意げな顔でそんなことを言ってきた。
「異世界?」
「うむ。実はね、僕の造った世界なんだけど…色々と文明の発達とか遅れているんだよ…魔法があるというのは便利な反面、便利だからこそ、それに頼ってしまい発達が遅れてしまう。困ったものだよ」
今、魔法と言ったか?
「そうそう、魔法というのは本当に存在するものなんだよ。…まぁ、君たちの世界ではほとんど概念でしか残っていないけれど…魔法なんて、当たり前に存在するものなんだよ」
「なんと」
「で、君にはその世界に行って、好きに生活をしてもらいたいんだ。今の記憶を持ったまま、ね」
「記憶を持ったまま?」
「そう!君に何も特別なことは望まない。ただ、君の世界の知識をもったまま転生してくれればよい」
「でも、俺、大した知識だとか持ってないですよ」
「良いんだよ、それで。人間一人一人持ちうる知識ってのはたかだか知れているものなのさ。だから何人
か君の世界の人間をこちらに記憶を持ったまま転生させて、僕の世界の文明を少しでも早く成長させて欲しいのさ。何、極端な結果は求めていないし、好きにしてくれて良いんだ」
そうまで言うのなら悪い話ではないだろう。
俺もこのまま死んでしまうのも怖いし、記憶を持ったまま異世界に行けるというのは願ってもないチャンスだ。
「わかりました。異世界に転生させてもらおうと思います」
「受け入れるの早いねー!いいよいいよ!そういう人、僕すぎだよー!よし、今回は君にギフト二つあげちゃうぞー!!」
急にえらくテンションが上がったのか、金髪の男は急に大声で出し始めた。
「ギフトって、なんですか?」
「ギフトっていうのは才能だよ。ちなみに、僕の造った世界は君たちの世界のようにのほほんと生活が出来るほど、甘い環境にない。…羨ましいなぁ…ポテチとコーラを片手に深夜アニメを見れる生活…」
いや、俺そんな生活してないぞ…。というか、この男、世界を作り出すような力を持っている割に、そんなことに憧れているのか。
「憧れるよう!君たちは平和ということの尊さが分かっていない!!まぁ、君たちの世界が究極的に平和かどうかは置いといて、文明の水準は僕は非常に憧れを持っているのだよ」
この男、なんか言動が時々変態…いや、変わり者くさいなぁ。
「君は異世界に転生するなら、どんな能力が欲しい?」
転生をするならどんな能力が欲しい、か。これはなかなかに悩みどころだ。
「…もしかしてその世界って、魔法だけじゃなくてモンスターとか存在してるんですか?」
「してるよー。精霊に亜人、君たちがファンタジーだと思うような生き物が当たり前のように存在しているよ」
「なら…俺は…動物に好かれる能力が欲しいです」
「ほう、動物に好かれる能力?」
「はい。もし、異世界で転生して、人生をもう一度楽しめるなら…動物に囲まれて、楽しく暮らしたいです」
「ほぅ…君、ペットとか好きなの?」
「はい。猫とか犬とかに限らず、なんでも好きなんですよ。戦って英雄になるとか、魔法を極めて最強になるとか、そんなことには一切興味ありません」
現代日本において、史上最強を目指す人なんてほんの一握りだろう。血を見る生活よりも、動物に囲まれて楽しく暮らしていくほうが余程楽しいと思う。
「よし、わかった!君の望みどおりのギフトと、もう一つ、それと相性の良いギフトを授けよう!」
「ありがとうございます」
金髪の男は、親指をびっと立てて
「ようこそ、私の世界、箱庭世界ニューワールドへ!」
とびきりの笑顔で歓迎してきた。
久しぶりの投稿です。
ずっと書きたかった異世界転生ものに挑戦します。
面白そうじゃなねーか、と思った方は是非にブックマーク、評価、コメントの方よろしくお願います。
更新は明後日の予定です。