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意思表明①

一筋縄ではいかないマルシュベンの公爵に初体面。王子は果たして、上手く振る舞えるのか?マルシュベン編です。

高く聳え立つ外壁をくぐり、一行はイスベルの街へと足を踏み入れる。日が山側へ沈み、辛うじて残った夕日が紫色に輝き空は夜の黒へと移ろうとしている。


白色の石で立てられ、白で統一された街並みが薄暗い中でも美しく映える。

道は意外に狭く、一行は馬を降り手綱を引いて一列に歩く。

後ろで外壁の門が閉まる音がした。


「良かった、閉門に間に合って。」


一番先頭でエレーンはほっとした。続くロバートが尋ねる。


「何とも道が狭いですな、蛇行もしていますし。賊対策ですかな。」


興味深く辺りを見回す。


「そうです。街全体が広場へ出るまで細い路地が続きます。上から対応出来る様に、わざと建物も密集してますし。」


ふむ。とロバートは頷く。


「しかし、それでは貿易港なのに大量の荷物が通らないのでは無いのですかな?」


「海側にそのまま街道へ出る道が続いています。もちろん、通り抜け出来ない様に関門場所が二ヵ所設置しておりますので、大丈夫です。街への荷物も、一応小型の荷馬車が通りますから問題有りません。」


何とも堅牢な街の造りに、ロバートは感心する。


「でも、街自体が真っ白だからあんまり殺伐感出ないね。」


ルーカスも珍しげに街を眺める。


「そうそう、実に美しい街ですな。」


二人はイスベルの景観を気に入った様だ。




「坊、どうしました。」

街に入って暫く経つのにさっきからずっと黙っている。


「いや…。」


「…まさか、マルシュベン公爵に会うのびびってるんじゃないですよね?」


「!違う…」

弱冠図星を突かれて、王子は内心慌てる。


「いやいや、バレバレですって。」

ルーカスが列一番後ろから突っ込む。


「ここまで来たら、きちんと納得する様に説得するしか無いですよ。」

ロバートの助言に、むー…と声にならない相づちを打つ。

先頭のエレーンは後ろを振り向く。

「私が自分自身で決めた事です。父様に文句は言わせません。」


「…そんな簡単な御仁には思えないけど…ま、成るようになるでしょ。」

ルーカスは鈍く光る海を見やった。後少しで日没になる。何とも美しい景色は、いつまでも見ていたくなる。


一向の様子を他所に、正味な話し、王子はイスベルの美しい景観を眺める余裕は無かった。

何と説得して、納得を得るか。

交渉術は習っているとは言え、公爵相手に上手く出来るか分からない。兄から半ば無理矢理送り出されて、まさかこんな大舞台が待ち構えていたとは。自分の判断に後悔は無いが、不安が募る。




長い間坂道を歩き、狭い道を通り抜けると大きな広場へ出た。ちらほら人通りが有る中、見覚えの有る人影を見つける。


「お嬢~!!お帰りなさい!!」


大きなレオナルドが、大きく手を振る。声も大きい。何事かと通りの人達が振り向く。すると気付いた者からガヤガヤと集まって来た。


「エレーン様、お帰りなさい!」

「聞きましたよ、何でも、大会で入賞したんですって??」

「いやはやアリーシャ様同様頼もしい。」

「噂だと『剣姫』ってあだ名が付いたとか。」

「さすがイザベラ様の娘だよ。」

「いやいや、マルシュベン家らしい逞しさじゃないか?」


皆それぞれに話し出す。


すぐにエレーンは人垣に囲まれてしまった。その外から王城組三人は見守る。


「これは…エルさんは街の方々に大人気ですな。」


「連れてくとか言ったら、大騒ぎどころじゃすまないかもね…。」


「…。」

王子は呆然と、目の前の光景を見守る。



「おいおい、お嬢は長旅で疲れてんだ。その辺で勘弁してくれよ。」

レオナルドが人垣を分け入る。


「な~に言ってんだい!録にエレーン様の送迎もしないで!」

「全く、隊長が聞いて呆れるっての!」

女性陣にやいのやいの言われ、レオナルドも苦笑する。



「皆、出迎えとても有り難いのだけれど、今日はお客様と一緒だから、また後日ね?」


エレーンは埋もれながらも、頑張って脱出を試みる。

「お客人て…。」


エレーンを囲んでいた大勢が、王城組を発見した。


『!!!』


三人が身構える。


一斉に此方へ駆け寄って来る。


「あら嫌だ、良い男じゃないの!!」

「まあ、それに可愛らしい坊っちゃんまで!!」

「まあ!まあ!まあ!なんて素敵な紳士だろう!貴族様か何かかい?」


あっと言う間に女性陣に囲まれた。

きゃあきゃあ言われながら、王子は女性の勢いに固まる。


「ちょっと、皆、それぐらいに…。」

「おいおい、勘弁してくれよ…。」


皆を引き剥がすのに時間がかかった。




やっと騒ぎが収まり、一路マルシュベン公爵邸宅へと向かう。



「皆が失礼しました…。」


揉みくちゃになり、一同は疲れが出ている。ガタイの良いレオナルドすら、何だか縮んだ様に見える。


「いや、女性が元気な街は良い街の証拠らしいから、とても良いことじゃないか…。」


疲弊の色が一番濃く出ている王子に言われても説得力が無い。


「俺が一言も発せられ無いなんて…」

ルーカスは別の意味でショックを受けている。


「いやぁ、幾つになっても女性から声が掛かるのは良いものですよ?」


「「?!」」


「ロバートさん…どんだけ元気なんだよ…」

レオナルドは敬語も忘れて、紳士のタフさに驚愕した。




一同はとぼとぼと歩き、やっと奥まった小高い場所へと到着した。大きな門が開いている。奥にこれまた白く輝く五階建ての建物が見える。高い外壁に囲まれ、門も鉄格子で作られている。衛兵も上から見張り、守りの堅さが伺える。

城と言うよりどっしりとした要塞の様だ。


門をくぐると、また朝見た以来の顔が出迎えてくれた。


「お嬢~!!お帰りなさーい!!」


リンが駆け寄って来る。またむぎゅっとエレーンを抱き締める。だが王子にはもう反応する元気は無かった。それよりもその光景に更に気力を失った様だ。


「ただいま。」


向かい合って、顔を向ける。注視してみたが、火傷は無い様だ。


「こら、抱き付き過ぎ。」


リンの横へ背の高い青年が並ぶ。


「ロイ!!ただいま。」


ロイと呼ばれた青年は、こくりと頷く。さらさらとした明るい茶色の前髪が目元を隠す。


「お帰りなさい、お嬢。無事で何よりでした。」


言いながら、ぽんぽんとエレーンの頭に手をやる。

この街の兵士は、皆気安すぎでは無いだろうか?

王子は黙ってはいたが、何やら心中に苛立ちが渦巻く。


「俺らこれから海側の巡回なんですよ、皆と飯食べれなくて残念です。」


リンはちょっと不満そうにしている。エレーンは心配そうに、リンの顔を見詰めた。

「朝戻ったばかりなのに…大丈夫?」


「何かね、沖で怪しい動きが有るらしいんで…たぶん大丈夫でしょうけど。夜中には交代なんで俺は大丈夫ですよ!!昨日温泉にも入ったし!」

心配を他所に、リンは元気に親指を立てた。


「本当、温泉とかずるいよね。」

ロイはリンの頭をぐりぐりする。やめろーとリンはじたばた手足を動かす。


「良いから、とっとと行ってこい!王子様方がさっきから待ってるんだぞ!!」

レオナルドが堪り兼ねたか、しっしっと手を払う。


「何かレオの旦那疲れてません?」

「何か昨日主に怒られたんだよね?大丈夫すか?」


「あーもうウルセーな!早く行けっての!」


レオナルドは煩わしそうに手を顔にやる。レオナルドの様子も我関せずに、リンはくるっと軽快に王子に向き直す。


「じゃあ、王子!無事に着いて良かったです。一緒に遊びたかったけど俺行きますんで。兄ちゃんもロバート様も後でねー!」


そのまま走って門へと向かう。ロイもペコリとお辞儀して行ってしまった。



「……何かもう色々すんません…。躾がなって無くて…。」

走り去った二人のせいなのか、レオナルドは更に疲れた様だった。


「いえいえ、元気でよろしいのでは無いですかな。」

ロバートはレオナルドの気苦労が分かるらしく、優しく労る。


「…遊ぶって何だ。何を?」

「あの子、面白いよね~。」

ロバートの気苦労の根元二人はお気楽そのものだった。




門中の広場を抜け、城へと入ると左右並んだ従者に出迎えられる。その奥で金髪の青年と、青年のやや後ろに控え目に立つ淡いグリーンのドレス姿の女性が待っていた。


「クロード兄様!!セシル姉様!」

エレーンは思わず駆け寄る。


「エレーン、客人の前で端ないぞ。落ち着きなさい。」

クロードは毅然とした態度で妹を窘めた。


「あなた…エルさんが折角帰って来たのに、その様な言い方されなくても宜しいじゃありませんか…。」


セシルがエレーンの元へ向かう。

「エルさん、お帰りなさい。無事で何よりでした。」

優しく微笑む。エレーンもほっとして、微笑む。

「申し訳ありません、兄様。ただいま戻りました。」

うむと頷き、クロードは王子の元へ向かう。


「御初にお目にかかります。アレクシス王子。ラ・マルシュベン嫡男クロード・ラ・マルシュベンと申します。本日は御多忙の中、遠路はるばるお越し頂きまして誠に有り難う御座います。」


ロバートが進み出る。


「これは丁寧な挨拶有り難う存じます。連絡も無く突然の訪問、大変失礼致しました。加えての温かいお出迎え痛み入ります。私は王子付き側役のロバート・オルクと申します。公爵どのにも御挨拶させて頂きたいのですが、お時間はおありでしょうか?」


「それは有り難う御座います。しかしその前に、長旅でお疲れでしょう。部屋と着替えを御用意させて頂きましたので、先にそちらへお通しさせて頂いても宜しいですか?」


ロバートはにっこり微笑む。


「それは何から何まで誠に有り難う御座います。お言葉に甘えさせて頂きます。」




クロードの先導の元、廊下を移動する。



城の中も真っ白で、夜なのに明るく感じる。丁寧に織られた絨毯の赤が照明に照らされて綺麗に映える。絵画の発色も心なしか明るく見え、廊下に施された細工の鮮やかさに目を奪われる。


「御用意が整う頃に使いを出しますので、それまでゆっくりと旅の疲れをお取り下さい。何か有りましたら、廊下で待機している従者にお申し付け下さい。」

言い終えて、クロードは出て行ってしまった。エレーンも自室へと戻ってしまい、王城組はどっかりとソファへと座る。



「はー…堅苦しい。」


王子は上を仰ぎ溜め息を吐く。


「何を言ってるんですか、こんなの王城で当たり前だったでしょうに。」


ロバートが王子の外套を片付けつつ、答える。


「あの真面目さ。さすがエレーンちゃんのお兄様。」

言いながら、ルーカスはブーツを脱ぐ。


「…とにかく、隣は浴場みたいだし早いところさっぱりして支度するか…。」


王子は立ち上がった。




一方その頃、自室へと戻り手早く支度を整えていたエレーンは、セシルに髪を整えて貰っていた。部屋のソファに、七歳になる甥っ子が横ですやすや寝てるまだ赤ちゃんの妹の頬をプニプニつついて遊んでいる。


「セシル姉様、すみません手伝って貰って。」


鏡越しに姉を見る。


「いいえ、エルさんが怪我も無くて無事に帰って来てくれて本当に良かった。あの人、王子様の手前あんな態度だったけどエルさんが不在の時にすごい心配していたのよ?もうあの時笑いを堪えるの辛かったんだから。」


まあっと言いながら顔を見合わせ二人は笑う。


「アリーシャさんはお元気だった?まさか、大会にまた出場してないわよね?」


実はアリーシャは結婚した後も大会に度々特別出場していたのだ。時にはアレスを離れて、各地の大会にどさ回りする程で、いつ落ち着くやら…と、家族は心配していたのだった。


「それが、これから報告に行くのだけど、実は…。」

「まさか、おめでた?!」

言うが早いかセシルはズバリ言い当てた。


「やっぱり分かります?」

エレーンは嬉しそうに笑った。


「そりゃあ、分かるわよ!あーあのお転婆舞姫も母親なのね~。凄い逞しい子を産むわね!きっと!」


セシルはそう言いながら、楽しそうに髪を編んでくれる。



長兄のクロードと結婚して、マルシュベン家に嫁いでかれこれ八年一緒に居るセシルはエレーンにとって二人目の姉だ。

五年前にアリーシャが嫁ぐまで、三姉妹の様に過ごしていた。ピンクブロンドの少しくせのかかった美しい髪を綺麗にまとめ、グリーンの瞳がとても魅力的なこの姉は、見た目の可憐な感じと裏腹に性格は明け透けで面倒見が良い。

アリーシャ同様、エレーンはセシルが大好きだ。



支度も整い、いざ父に会いに向かおうとした時。座って居た甥っ子が居ない。話しが盛り上がって扉の開閉音に気付かなかった。


「何処へ行っちゃったのかしら…。」


「外には出ないから大丈夫よ。この子を預けたら探すから、貴女はお父様にお会いした方が良いわ。クロード同様…ううん、それ以上に心配されていたから。」


エレーンは後ろ髪引かれつつ、姉の申し出に従った。



「んー?誰、キミ?」


王城組の部屋の扉にひょこっと男の子が顔を出す。三人は準備も整い、ソファで寛いで居た。

たたっと部屋へと入って来る。


「坊主、従者はどうしたー?廊下に誰か居たでしょ。」


ルーカスは男の子の頭をガシッと掴んで尋ねる。


「余所見してる間に走って来た!」


男の子は掴まれてるのも気にせず元気良く答える。


「へーっ、それは中々素早い事で。将来は隠密にでもなるのかな?」


がしがしと頭を撫でる。柔らかなピンクブロンドの髪がぐしゃぐしゃになる。


「ルーカス、もう少し優しく撫でなさい。」

乱暴さに見過ごせず、ロバートは注意する。


「お兄ちゃんは王子様?」

ルーカスをキラキラした緑の瞳で見つめる。


「……王子様に見えるー?」

気も無くからかう。男の子はじっとルーカスを観察する。


「んー…見たこと無いから分かんない!!」


「えーっ俺王子様見たいでしょ~?こんな男前掴まえて何言ってんの。」


「お前な…。」


見守る姿勢を取っていた王子は、さすがにルーカスの悪ふざけに突っ込んだ。


「王子様に会ってどうするんだ?」

男の子を覗き込む。


「んー、妹を見せる!」


「妹?」


「うん、この前生まれたの。僕お兄ちゃんになったから!!」


王子はじっと男の子を見る。

「妹が生まれて嬉しいのか?」


「うん!」


「そうか、『嬉しい』を見せたいんだな。よし、後で見せてくれ。」



男の子は零れんばかりに、目を見開く。


「王子様なの?」

男の子のテンションが一気に上がった。





父の居間へ入ったエレーンは、今迄あまり見たことの無い相当の怒りを纏った父に言葉が出ない。

アリーシャの手紙もまだ封を切って貰えていない降着状態だ。


『……。』


「……何故勝手に決める。お前はこの私を差し置いて、一人で何でも決められる自立した身分なのか?」


迫力に息を呑む。


「…私も十七です。剣士としては自立しても良い年頃かと思っております。」

ぐっと腹に力を入れて答える。


『……。』


睨み合いが続く。


「よりによって、王城とは。お前の兄も西の砦で騎士を勤めて居るとは言え、結局一人で行かねばならないんだぞ。お前は役人だらけのあの環境が如何に息苦しいのか知らぬから、軽々しくその様な振舞いをするのだ。女が側役など、更に苦労しか無かろうに。」


公爵はギロリと睨む。


「……王子は私に剣士としての矜持を持たせて下さいました。王城がその様な息苦しい所ならば、尚の事私が仕える事で王子の心が少しでも軽くなる手助けをしたいと考えます。」


真っ直ぐ父を見据える。


「王子を慰めるなど、お前は嫁にでも行くつもりか!」


公爵が大きく机を叩く。


「は?!一体何を…。私は剣士としてお仕えするんです。」


「剣士など、王城に沢山居るだろう。この地を離れて、わざわざお前が行く必要も無い。」


「!」


あまりの言葉にエレーンが対抗しようとした、その時。


バーン!!


「はーい!そこまで~!!」


勢い良く扉が開いて、小柄な女性が入って来る。金髪の髪が照明の火にキラキラ輝く。つかつかと公爵の前に躍り出た。


「エレーンをマルシュベンで剣士として仕えるのを許して居たのは何処のどなたなのかしらー?剣士に、他に剣士が掃いて捨てる程居るなどと言う馬鹿者が何処にいます!!」


小柄故に公爵と並ぶと親子程の身長差が有るが、そんな事など気にならない程の迫力で公爵を睨む。


「…掃いて捨てる程とは言って無いだろう。」

公爵は憮然と答える。


「同じ事です!確かに娘を心配するのは分かります。でも、エレーンは既に剣士です。名も上げました。王城勤務など誉められこそすれ、責められる覚えは無いでしょう!」


突然の援護にエレーンはうっすら涙ぐんだ。


「母様…。」


「遅れてごめんなさいね。お父様が最初は二人で話したいと仰るから。でももう我慢出来ません。」


「しかし…。」

「しかしも案山子もありません!!」

取り付く島も無い。


「それになんですか、この様な名誉なお話し、そのまま王城へ行ってしまっても良かったくらいなのに帰って来て挨拶までしてると言うのに。労いもしないとは…。これがマルシュベン家当主の礼儀ですか?」


「挨拶は当たり前だろう!近衛兵隊も休んで居る状態で投げ出して行けないだろう。」


イザベラは一瞬驚いた顔をした。

「貴方は…。」


溜め息を付く。

「娘扱いなのか剣士扱いなのかどちらかはっきりなさったらどうなんです!そう言う時だけ都合良く変えないで下さい。」


「……。」


正論に、ぐうの音も出ない。


「それに、何かアリーシャからの言付けも有りますでしょう?お読みになって、少し落ち着いて下さい。」



すっかり場は母親のペースになった。

公爵が仕方なく、手紙の封を開け、手紙に目を通す。すると、ノックの音がしてクロードが部屋へと入って来た。


「話し合いは終わったんですか?」

場に居る母に問う。


「もう、今小休止中なのよー。アリーシャの時も苦労したけど、本当に過保護で困るったら。」


「お前な…。」


公爵は妻を見やる。勝ち気な妻は、返事もしない。


「俺は、エレーンが決めるなら別に良いよ。成りたくても成れない奴の方が多いからね。…小休止なら丁度良いや、ちょっと面白いの見れるから来てよ。」

クロードはすたすたと先に行ってしまう。


「…あの子があんなに聞き分けが良いなんて…明日時化るわね。」


「母様…。いくらなんでも兄様が可哀想です。」


女性二人は話しながら付いていく。公爵もしぶしぶ間を開けて続く。


クロードに連れられて、着いたのは王子達に渡した部屋の前だった。


「あら、挨拶もまだなのに部屋へと訪ねるなんて、良いのかしら?」


「……。」


公爵は黙って見守る。


「しーっ。良いから、こっから見て。」


「なんだか端ないわね~。」

言いながら、母イザベラは扉の隙間から様子を伺う。


中に可愛い孫と娘がお邪魔して居る。

この前生まれた赤ちゃんを囲んでわいわいと楽しそうだ。


「まあ…。」


「俺もさっきお邪魔したんだけど、ダニエルが王子様気に入っちゃってさ。クリシュナを見せてやるんだって聞かなくて。何回か部屋を出るよう言ったんだけど、王子様も側役の人も良い人でさ。」


「……。」

公爵は息子を睨む。


「失礼なのは重々分かってるよ。でも本人に良いって言って貰ったんだから、大丈夫でしょう?」


エレーンは部屋を覗いて微笑した。


「父様、もう遅くなります。皆様でご飯にしましょう。」


いきなり話を振られ、公爵は戸惑った。


「しかし、まだ挨拶も済ましていないしな…。」


エレーンは首を振る。


「いいえ、その方が良いでしょう。そういう方達ですから。なんなら、今聞いてみましょう。」


公爵の返答も聞かず、エレーンは勢い良く扉を開けた。


ダニエルに乗っかられ、髪がぐしゃぐしゃになった王子が扉を見て固まる。

セシルがあらまぁ…と呟いた。


「アレクシス殿下。こちら私の父、サイラス・ラ・マルシュベンと母、イザベラです。突然部屋へと連れて申し訳ありません。」


王子はダニエルを抱えたまま、立ち上がった。


「こちらこそ、この様な姿ですまない。挨拶もせず大事な御息子を預かって居た事、何と言ったら良いか。」

ロバートがサイラス公の元へ向かう。


「挨拶が遅れて申し訳ありません。私、王子付き側役をしておりますロバート・オルクと申します。大事な御息子を断り無く部屋へと連れてしまい、申し訳ありません。」


娘の行動に呆気に取られて居たサイラス公が、はっとする。


「は、いいえ…」


「して、どうされましたか。エレーンどの。」


ロバートの問いかけに、エレーンはにっこり笑顔だ。




「皆様、お食事に致しましょう!」


登場人物 説明


クロード・ラ・マルシュベン

マルシュベン家嫡男。中身は心優しいお兄ちゃんだが、嫡男らしく毅然とした態度を心掛ける29歳。


身長179㎝、髪の色・金色、髪の長さ・短め、瞳の色・金に近い明るい茶色、好きな食べ物・セシルの作った物なら何でも


セシル・ラ・マルシュベン

クロードのお嫁さん。エレーンやアリーシャと仲が良く、面倒見の良い姉御的存在。クロードとは家同士の関係で幼なじみ。自分の方が惚れていたが、クロードに求婚させた強者な27歳。


身長158㎝、髪の色・ピンクブロンド、髪の長さ・背中の真中くらい、瞳の色・緑色、好きな食べ物・魚介たっぷりペスカトーレ


ダニエル・ラ・マルシュベン

クロードとセシルの息子。元気はつらつ、何事も興味津々な七歳。リンに良く遊んで貰ってる。


身長120㎝、髪の色・ピンクブロンド、髪の長さ・短めの坊っちゃん刈り、瞳の色・緑色、好きな食べ物・ホットケーキ


クリシュナ・ラ・マルシュベン

クロードとセシルの半年前生まれたばかりの娘。


髪の色・金色、瞳の色・明るい茶色

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