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岐路の道程④

エレーンて、本当に令嬢なのかな?そんな疑問が出て来る今回。ルーカスと仲良くしてる場合か?!な道程最終話。


結局、直ぐに女湯からエレーンの声がかかり、リンは元気に返事をして浴場から出て行ってしまった。

さながら番犬の様だ。


取り残された二人は、無言で湯船に浸かり直す。


「さっきの何だ?本気だったのか?」


上気した頬をパチパチ叩きながら、やや離れて浸かるルーカスに聞いてみる。問われた本人は物憂げに髪を掻き上げた。


「そんな訳無いでしょ~。ノリです、ノリ。あのノリが分かんないとは、王子もまだまだですよ?」


軽口にも反応せず、王子は行儀悪く顔半分湯船に沈めてブクブクと息を吐いたが、直ぐにパッと顔上げる。


「……何かさ。」


「何です?」


「エレーンて、恥ずかしがり屋なのか大胆なのか時々分かんないな。」


「あー……。」


「……俺らが思うより、ずっと育った環境が逞しいんですよ。きっと。」


ルーカスは空を仰いで呟いた。

露天風呂の上空には綺麗な月が浮かんでいた。


その後、待っていたロバートがウキウキと温泉を満喫して、大好評の唐揚げに舌鼓を打ち、マルシュベン領の見所や名物をリンに教えて貰い、夜も更けて行った。


いざどう寝るかと揉めるかと思ったが、奥にエレーンの布団を横向きにに、真ん中にリンも横向きに、入り口側に縦向きに3つ布団を並べて敷くので落ちついた。

凝縮しきりのエレーンに、王城組は心良く配置に納得した。


「そう、野宿と同じですってこんなの。」


リンはあっけらかんとしている。


「そうじゃなくて、殿下に扉の近くに寝て頂くなんて失礼でしょ?!」


エレーンは最後まで粘ったが、


「いいえ、紳士たるもの女性にその様な気苦労させる訳には行きません。坊にも良い勉強になりますので、お気になさらず。」


ロバートの鶴の一声で場は納まった。


皆気にしていた割に、旅と温泉の程良い疲れで直ぐに寝息が聞こえてきた。





朝、まだ日も昇って無い時間。


「……お嬢、お嬢。」


小声で起こされ、エレーンは声の主を確認する。

出掛ける準備万端のリンが、エレーンの肩を揺さぶっていた。


「……もう朝?リン行くの?」


こちらも小声で返す。


「はい。もうこの時間だからお嬢の身も大丈夫でしょうし。まだ日も昇ってませんから、跳ばせば朝の会議の時間迄に城へ着きます。」


ゆっくりと上体を起こし、リンの手を取る。


「元々私の身は安全なんだけど……リン大丈夫?手袋は持って来たの?」


リンはにかっと笑った。


「大丈夫ですよ、ちゃんと持って来ました。帽子も鐔の大きなのにしましたから。もう子供じゃないんですから、心配要りません。」


エレーンも少し微笑んだ。


「分かった。気をつけてね。」


「はい。お嬢もね。」


リンは音も立てずに部屋から出て行った。


見送り、すっかり目が覚めてしまった。朝風呂の用意をしてこっそりと浴場へ向かう。




「おはよー、エレーンちゃん早いね。」


後ろから声を掛けられ、体がビクッと反応する。ルーカスがダイナミックな寝癖頭を掻きつつ、向かって来る。手にはお風呂セットを携えて。


「お早うございます。すみません、お越してしまいました?気をつけてはいたのですが……」


ルーカスはんーと言いながらエレーンへ追い付く。二人は並んで歩き出す。


「いや、あの坊主が身仕度始めてる気配で起きたんだよね。こういう所だと眠り浅くてさ。」


全く気付かなかった手前、恥ずかしくなる。


「すみません……修行が足りず。」


「いや、エレーンちゃんには慣れた気配だから、安心して寝てたんじゃない?」


「そうでしょうか……いえ、気を引き締めます。」


決意新たな少女をルーカスは上から見下ろす。

「何で坊主は出て行ったの?一緒に行けば良いでしょーに。」


エレーンは少し考えて、口を開く。


「リンは凄く肌が白いでしょう?」


「?うん。」


「リンの一族は体の色素が薄いんです。髪も、肌も。瞳だって、あれは血の色が透けてしまって赤くなるそうなんです。それで日光にも弱くて、あまり浴びると肌が火傷みたいになったりもするんです。なのでリンは活動出来るのが夕方から朝方で、正直来てくれて驚きました。手袋や帽子で隠して、真昼を避ければまだ平気らしいのですけど……。」


「へー苦労してんのな、あの坊主。確かに、珍しい瞳の色だと思ったんだよね。」


ルーカスは頷いた。


「そういえば、部屋にお二人残して大丈夫なんでしょうか?」


「あー大丈夫。あのじいさん結構強いから。」


「じいさん……だなんて、ロバートさんに失礼です。」


「ぜーんぜん大丈夫。俺らの仲だしね。」


いたずらっ子の様に笑うルーカスを見て、エレーンは少し羨ましくなった。あの軽快なテンポに自分も混ざれるのだろうか?


「エレーンちゃんも早い所慣れちゃえば大丈夫。」


「えっ?!私今声に出してました?!」

考えていた事の返事を返された様で驚く。


一瞬間を置いてルーカスが笑う。


「あっはっ、何、以心伝心?」


「あっ……その……。羨ましいなと思いまして……。」

か~っと顔が赤くなる。


「は~っ、良かった。エレーンちゃんがそう想ってくれてて。」


「はい?」


「こっちに帰って来て、里心ついたんじゃないかとちょ~っと心配してたわけよ、先輩は。向こうは何か入城して欲しく無いみたいだしね。」


「えっ?!そんな訳無いですよ!私が決めたんですから!」


エレーンはむきになって否定した。その様子にルーカスが思いの外優しい眼差しを向ける。


「よし!じゃあやっぱりタメ口で俺らに突っ込める様になんないと始まんないから!」


「うっ……」


旅の初日しか言われ無かったのですっかり安心していたエレーンだったが、やはり言葉使いを変えなければこの先ルーカスにずっと言われそうだ。

王子も言うんだろうな……とうっすら憂鬱になる。


「仲良く一緒に王子を助けて行こうよ。あんなんだけど、付いて行く価値がきっと有るよ。」


真面目な顔に胸がドキリと高鳴る。


「そうすると俺が楽出来るしー♪」


直ぐにいつものおどけた雰囲気に戻り、ルーカスは男湯へと向かった。




一人廊下に残されたエレーンは、まだ胸が落ち着かない。


「価値を見つけて貰ったのは、私の方ですよ。」


小さく呟き、浴場へ向かった。






部屋へ戻ると、ルーカスは先に戻っていた。残りの二人も起きて仕度を整えている。

何だか王子の機嫌が悪い様な気がする。待たせてしまったかとエレーンも急いで仕度した。


「……二人して朝風呂なんてズルい。」


仕度を終えて朝食もゆっくりと取り、さあ出発……と言う時に王子がポロっと溢した。

それでご機嫌斜めだったのかと呆れを通り越して、笑ってしまう。ロバートもうんうんと乗って来たのは驚いたが。


リンの事はルーカスが説明してくれたらしく、ごたつく事無く四人は出発した。


これから、小さな町と村を経由し、夕方にはマルシュベン領貿易港イスベルに着く算段だ。ゆっくり出たからもう日が結構な高さに昇っている。リンは無事に着いただろうか。エレーンは心配しつつ、道を急ぐ。




昨日難所の山を越えたので、後は小高い丘やなだらかな平原を突っ切るだけだ。四人はひたすらイスベルへと向かう。

海へ向かうので、徐々に川も広がり大きくなる。

豊かに広がる田畑を駆け抜ける。



小高い丘の上から港を見下ろす。

日が落ちる前に、四人はイスベルへと到着した。


概要 説明


移動距離は一日(朝から夕方)馬を走らせ、100~160㎞移動していると過程してます。馬車だと凡そその三分の一~四分の一くらい。

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