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決意②

武道一族の末娘エレーンが、王族としてはまだまだ

自覚が足りない年下王子に側役として誘われます。

真面目で鈍感、剣士として突っ走る剣姫と、どんな感情で剣姫を側役にしたいのかまるで分かっていない、これまた鈍感王子のラブストーリー。


まだラブが出て来ない第四話!

大会最終日。


やはり、ウェリントン国でも、一、二を争う大会は、そう易々と突破出来る訳が無い。


初戦の相手は武器の相性が悪すぎた。


片手斧では、受けて流す程の刃渡りが無く、まともに受けたらそれこそ剣が折れてしまうし、流してもすぐにずれて立て直されてしまう。

ジリジリと防戦一方に体力が削られる。斧相手の戦いも勿論経験が有ったが、荒削りの賊と鍛練した剣士では雲泥の差だ。


焦りは禁物だと分かってはいるが、隙が出来ない。


自分の実力はここまでなのか。

このまま、何も得ることも無く王子の期待も姉の思いも応えられずに、おめおめ家に帰って慰められて、果たしてそれで自分は良いのか。その後の日々を満足して過ごせるとでも言うのだろうか。



エレーンの頭の中が考えで一杯になる。



三階から眺めていたアレクシス王子は、エレーンの苦戦に気が気じゃない様子。


ロバートに落ち着く様に促されるが、それどころでは無い。入城など関係なく、エレーンが怪我でもしたらどうしようかそちらばかり心配で、なんなら試合中止を申し出たいぐらいだ。


始めは、女剣士の物珍しさに興味が湧いた程度だった。勿論腕前も充分だと思っていた。

しかし、初めて会ってからの二晩でエレーンの真面目さと直向きさに、きちんと納得を得るまでは今回の話しは無かった事にしても良いかな…と思ったのも正直な話しだ。これ以上、頑張っている彼女には無理をして欲しく無い。


アリーシャも、今回ばかりは王子の横でずっと立ったまま観戦していた。しかし、王子と違い落ち着き払っている。


「…殿下。あの子は、末っ子で甘やかされて来たのにとても真面目でしょう?昨晩の話しだって、あの子らしいなと思いました。でも、本人はまだ気付いて無いんですけど…。」


「?、何を?」

王子はソワソワしつつ、夫人を見返す。


「年齢で括るのは好きでは無いんですが…。あの子は兄や私を追い越そうといつも努力しているんです。裏を返せば守ろうと思ってくれてるからなんですけどね。でも、歳が離れているから重ねた経験が違うでしょう?それなのに、ですよ?」


王子はアリーシャの話しの方向を掴みかねて、怪我な顔をした。


「つまり、かなりの負けず嫌いなんですよ、あの子。私達兄姉と自分を比べて、まだまだだと自分自身を評価して謙遜するけれど、越える位強くなりたいって確固たる意志が有るんですもの。結構図々しい子なんですのよ?今日だってきっと勝って見せますわ。」


アリーシャはにっこり微笑んだ。


「きっと、貴方方兄姉を誇りに思い、目標にしているから更に努力する…そんな思いなのでしょうな。」

ロバートは微笑しながら、窓の外を眺めた。王子はそれでも心配そうにエレーンを見守った。





まだ結果は出ない。ずるずると長引けば、不利になるのは明らか。エレーンは相手の攻撃を紙一重でかわしながら考えていた。


このまま諦めて……皆にどんな顔をして会う?また来年頑張るからと、そんな腑抜けた言い訳を、送り出してくれた者達に果たして言えるのか。そんな自分なんて、剣士として恥ずかしくて出来ない!!



名が無いのならば、上げてみせる。


決意は固まった。



とにかく相手の動きを集中して見る。

チャンスは一度きりだ、失敗すればこちらが負けるだろう。

相手が突っ込んで来るのを待つ。

一振りを受けて、何とか耐えるもののエレーンは体がぐらつく。更に横から斧が迫る。素早く剣を走らせる。


カンッと言う音共に斧の先端があらぬ方向へ飛んで行った。斧を振りかざしていた手の力が突然重さを無くして、勢い良く相手の体が内側へとよろける。そこへ剣を握る手を勢い付けて後頭部へと目掛け、振り落とした。


相手の斧の柄を断ち切り、エレーンは一勝を勝ち取った。






その夜。


主催者と関係者、入賞者三十名で夜会が催された。

アレクシス王子の視察は関係者にしか知らせれていなかった為、会場は王子の登場にどよめいた。


第二戦も辛くも勝ったエレーンだったが、第三戦目に何の因果かルーカスと当たり、あっさりと負けてしまったのだ。

さすがに第二王子の側近をするだけ有ってルーカスは殊更に強かった。早さも、判断も、勘の良さも。どれを取っても経験の差が出る形になった。


恐らく、大分手加減をしていたに違いない。それは悔しいが、自身の力量を理解するのも大事な事だ。


結果、順位は二十七位。

見事、入賞して見せた。

因みにルーカスは五位。凄い事だったが、特別出場なのに三位迄に入らないとは…と王子に小言を言われていた。

普段弄られる王子の仕返しなのだろうか。



夜会では王子達への挨拶をを終えた後、他の入賞者達に囲まれてしまい大変苦労した。


飾り毛の剣士が少女だと噂になっていた中、本人を目前にして改めて認識した者。感心する者。ドレス姿のエレーンを褒め、ダンスに誘う者。戦い方があーでもないこーでもないと論じる者……何度かパーティーには参加して居たエレーンだったが、流石に対応する人数が多すぎて困惑する。姉達は主催者で挨拶廻りに忙しいし、主賓の王子達も同様に次から次へと挨拶の相手がやって来て、対応に追われている。


そんな中、挨拶に来た貴族の一人が教えてくれた。

「ご存じですか?貴女の通り名が決まったそうですよ。」

何の話しかさっぱり分からない本人に、貴族は高らかに続けた。


「『剣姫』です。細い剣で相手に打ち勝つ、自身がまるで一本の折れぬ剣の様だと。観客達がそう噂していました。」


まさか自分に通り名が付くなど思いもしていなかったので、驚いた。続けてダンスに誘われたので、それは丁寧にお断りした。



「『剣姫』どの。今宜しいか?」


耳馴れぬ呼び方に、エレーンは戸惑った。が、声の主に少しほっとする。どうやって周りを撒いたのか、王子が一人で向かって来る。

エレーンを囲んでいた人達は、アレクシス王子の登場にさっと道を開けた。挨拶をしようと声を掛けようとする者達を、笑顔で牽制する。


「すまない、挨拶は後で受けよう。皆、此度の大会入賞おめでとう。その技量を今後も遺憾なくこの国の為発揮して貰えると、私も嬉しい。まだ演奏も残っている様だ。今日は充分楽しんでくれ。……少し『剣姫』どのに話しが有るのだ。宜しいか、エレーンどの?」


畏まった挨拶に、こくりと頷く。


王子の申し出に、周りが二人に付いて来る事は無かった。王子自ら剣姫を誘い出した事で少しざわめいてはいたが。



バルコニーに出ると、会場内の熱気は届かず、冷たい風が入り込む。春先といえども夜はまだまだ冷える。エレーンが寒さに身震いすると、王子は自分のマントをエレーンの肩に掛けた。


「!、私は大丈夫です、王子。王子が御寒くなります。」


「良いんだ。俺の方が着込んでいるから。エレーンどのはドレスで肩も出ている、まだ夜風は冷えるから着ていて欲しい。それに、誘ったのはこっちなんだ。風邪をひかれたら申し訳ない。」


恐縮しきりだったが、有り難く着ている事にした。


会の始めに挨拶したとは言え、今後の事を詳しくは話していなかった。どう切り出して良いのか、考えあぐねていると、王子から切り出した。


「また改めてになるけど、入賞おめでとう。」


「ありがとうございます。」


「……本当に貴女は凄い方だ。今日……本当は心配しきりだった。俺の申し出のせいで、変に気張って無理をして、エレーンどのが怪我をしたらどうしようか、そればかりを考えていたんだ。」


「それは、お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありません。」


エレーンは慌ててパッと頭を下げた。


「違う!頭を上げてくれ!」

王子も慌てる。


「違うんだ。俺の方がエレーンどのに失礼だった。確かに一日目の戦いぶりを見て、剣術の技量を確信した筈だった。そして……貴女の意見も聞かずに入城を賭けの様に決めて、その癖心配で堪らなくなるなんて、貴女を尊重する所か、信用もしていないようで恥ずかしい。」


王子はエレーンに向かい合った。深く頭を下げる。

「本当にすまない。」


突然の事態にエレーンは慌てて王子の手を取る。

「おっ王子!頭をお上げ下さいっ。」


突然手を取られ、王子はエレーンを見る。


「心配なさるのは、私が…まだ自分がどうしたいか分からないまま、不甲斐ない戦い方をしたからです。王子のせいではありません。昨晩お話ししました、剣を取ったきっかけは皆を守りたい、ただそれだけでした。しかし、自分が思う様には出来ず、私は自分が考えていたよりも、何者でも無い自分自身が悔しかったんです。今日やっと分かりました。……王子が、名の有る剣士に成れば良いとおっしゃって、期待をかけて頂いたからこそ、初めて私は新たな決意が持てたのです。このままおめおめ負けて故郷に帰りたくは無い…と。今居る自分は王子のお陰なんです。」


エレーンは微笑んだ。


「私は、今日やっと生まれて始めて本当の意味で『剣士』に成れたのです。それに、信用は共に居なければ生まれなくて当然です。この先、共に居て王子の信頼を頂けましたら、私は幸いです。」


「それは…。」


王子はぐっとエレーンの手を握り返す。


「共に王城に行ってくれるのか?!」


「…はい。王子の御心がお変わり無ければ。」


「よっしゃー!!」「きゃっ」


王子は勢い良くエレーンを抱き締めた。


「……もしもし王子?こんな暗がりで何やってるんです。」

バルコニーの扉に、いつの間にかここ数日食事を共にした何時もの面々が勢揃いしていた。二人固まる。


「…いや、まずは離れません?まあ、そのままでも良いですけど。」

ルーカスに突っ込まれ、はっとする。パッと離れたがお互い顔が真っ赤だ。


「殿下…大人の階段昇るのはまだ早いかと…。じいは嬉しいですけど。」


「?!」

明後日な方向への注意?に二人は困惑した。


「ちち違う!これは、嬉しくてついっ!!」

「あああの、そうです!違うんです!」

「大丈夫です、殿下。求婚の了承貰ったんですね!そりゃあ熱い抱擁もするって話しです。おめでとうございます。」


「もうそのネタは良いっ!!」


もう場は大混乱。真っ赤な顔で王子は大きく咳払いした。


「今しがた、エレーンどのに入城の同意を貰ったんだ。早速王城に戻り、正式に手続きしたい。」

「あっそれはお待ち下さい。」

「?!」


突然の待ったに、王子は固まる。


「違うんです、あっいえ、入城はさせて頂きたいのですが、一度家に帰らなければいけません、私は近衛兵隊もお休みして今回参加していた身ですので。皆にきちんと挨拶をしたいんです。」


「殿下…。確かに嬉しいからって拐うのはいくら王子殿下でも許されませんよ…。」

ルーカスが呆れて呟く。


「ふむ、確かに。直ぐにとはおっしゃってましたが、流石にルーカスじゃないんですから、姫君を公爵どのに許しも得ず連れて行くのは頂けませんな。」


ロバートの言い草にルーカスはえぇ~と返したが、華麗に無視された。


「…………分かって居る。」


「えー、絶対入城してから後で書状で済まそうとか思ってたんですよ、この人。荷物だって後で送って貰えば良いとか。」


「殿下、軽率ですぞ。物事には順序と言うものが…」


「分かったわーかった!明日ラ・マルシュベン公へ挨拶に向かう!!」


「えっ?!」

エレーンは一人で帰ろうと思っていたので、驚いた。


「エレーンどのに心残りが有っては堪らないしな。疲れていると思うが、同行して構わないかな?」


「はい…。」



こうして、剣姫の華麗な凱旋が決定した。






夜会も終わり、エレーンは部屋で人心地ついた。


こんなに自分の環境が目まぐるしく変化するなんて、出場するまで思いもしなかった。ただ少しでも上の順位に行けたら良い。

そんなぼんやりとした目標しか無かった。


今は剣士として、期待に応えてそれに足るべく進みたい。覚悟を決めて、剣を握る。決意が固まるとこんなにも心は晴れ晴れとするものなのか。

少し興奮覚めやらぬ感覚が、今はとても嬉しい。



不意にノックの音が聞こえた。


「エレーン?私よ、入っても良いかしら~?」


アリーシャの声だ。

エレーンは直ぐに鍵を開けた。そう言えば、姉もバルコニーに来ていたのに王城組の騒がしさで話しが出来なかった。


「エレーン、入賞おめでとう。そして、決心したのね。姉さんとっても嬉しい。貴女の事だから、考え過ぎて入賞しても家に居るとか言い出すんじゃないかと、ちょっと心配だったけど。」


優しく微笑む姉に釣られて、エレーンも笑みが零れる。


「…最初のお話しの時に、王子を守るべき方は私ではなく他に相応しい方が居ると思ったし、私では守れないのでは無いか、お側に居ると迷惑がかかるのではないか…そればかりを考えてしまって、お断りしたの。けれど、私が王子を御守りするに足る剣士に成れば良い話しなんだと、王子と姉様とお話しをして分かったの。まだ私は経験も何もかもが足りないかも知れない。それでも、期待に応えたい。考えがまとまるまで時間がかかったけれど、今凄く清々しい気持ちよ。背中を押してくれてありがとう、アリーシャ姉様。」


アリーシャは妹の手を取る。


「そうね。決意が固まって、貴女とっても良い顔をしているもの。入城してからはまた苦労が有るとは思うけれど、エレーンの負けず嫌いな所が生かされると思う。貴女、きっともっと強く素敵になるに違いないわ。」


「……姉様、私そんなに負けず嫌いでは無いでしょう?」

エレーンは不服そうだ。


その様子に、アリーシャは大袈裟に驚いて見せた。

「あら!貴女まだ気付いて無いの?!マルシュベン一、二を争う程の負けず嫌いよ。」


ひどーいっとエレーンも怒った振りをしてみせたが、直ぐに二人は顔を見合わせ笑いあった。


「良かった。これで私安心だわ。もう1つ、嬉しい報せが有るの。あのね…」


アリーシャは妹に耳打ちする。

「!姉様、本当に??」

エレーンはパッと表情が華やいだ。


「お父様達には手紙も書くけれど、それと共に貴女から報告して欲しいの。」


「姉様、おめでとう!父様には私からきちんと報告します。」

二人の姉妹はまた笑いあった。


「そう言えば、エレーン。貴女はどうなの?」


「どうなの?って何の事?」


「殿下と仲がとても良いみたいだから。それともルーカス様かしら、貴女昔から強い殿方が好みと言って無かった??」


エレーンはみるみる顔が真っ赤になる。


「姉様!お二方は私の上司なのよ?!そそそんな不純な事、考えてません!!」


「しーっ!もう夜更けなのに、そんな大声出しては駄目よ~?」


「なっ……!姉様!」

口をパクパクさせる妹を余所に、アリーシャはさっと立ち上がった。


「明日お見送りするからね。お休みなさ~い。」




扉の鍵を閉めて、エレーンは赤い顔を隠す様にベッドへ勢い良くダイブした。


概要 説明


ウィンチェスト領は王都からやや東南に位置する。中々の広さで、商都アレスを首に商業が盛んな土地だ。気候も比較的穏やかなので、商業だけで無く、広大な農耕地帯も所有する。位置的に、南の国々、マルシュベン貿易港、東の国、王都からの流通の便が良く、様々な商人が集まる。

王都へは他領をまたぎ馬車で二十日程掛かる。


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