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決意①

武道一族の末娘エレーンが、王族としてはまだまだ

自覚が足りない年下王子に側役として誘われます。

真面目で鈍感、剣士として突っ走る剣姫と、どんな感情で剣姫を側役にしたいのかまるで分かっていない、これまた鈍感王子のラブストーリー。


自覚を持つって難しいよね。な、第三話!

大会2日目の朝。


エレーンは思いの外ぐっすり眠れ、今日も試合では充分に動けそうだ。まだ自分がどう在りたいのか良く分からないが、先ずはやれる事をやれば良いのだ。

昨晩姉に言われた事を思い出す。


「普段の仕事の様に…。」

確かに、大会だからと無駄に肩に力が入っいたのは認める。お互いにあまり怪我をしないようにと意識し過ぎていたのも分かる。しかし、自分だって『あの』領内で近衛兵を勤めて来たのだ。



マルシュベン領は大きな港街を有する。

街の裏には豊かな畑が広がっているが、その奥は鬱蒼とした森が生い茂り高い山へと続いている。


山や街道には盗賊が。海には海賊が。追い払っても何処から集まるのか、年に数回は捕り物や争いが起こってしまう。

領民も慣れっこで、男も女もそれはそれは勇ましく助け合って街を守っている。大切なものは自分達で守るのがモットー。そんな領の主たるラ・マルシュベン家一族が大人しい訳が無く、先立って領民を守るべく戦って来た。


そうだ、戦いの場数は少なく無い。


朝食を済ませた後、王子達に挨拶を済ませて開場へ向かった。




何だか肩の力が取れたせいか、その後の試合は昨日と変わり、体が軽かった。

エレーンの剣は出場者の中で一番細い型だったのも有り、対戦相手は一様に剣を折ろうとする。その力を上手く受け流し、力が流れて態勢が崩れる隙を狙う。勿論、容易な事では無かった。


剣のみではなく、蹴られたり小突かれたりするのを身軽さでかわし、力が足りない分好機を逃さずに一撃をお見舞いしなければ、小柄なエレーンに勝機は無い。




最後の対戦相手の顎を剣の持ち手で狙い、高く打ち上げる。束ねた長い髪が、また優雅に揺れていた。

苦戦しつつも、2日目全ての試合を勝ち残った。


開場は大いに盛り上がりを見せた。何せ、小柄な少女が2日目も突破してみせたのだ。しかも噂によると、かの『舞姫』の妹君と言うではないか。

剣技麗しい新たな姫の誕生に、通り名はどうするのかと観客の話題は持ちきりだ。今宵は、いつもの年より商都の街は夜中迄大騒ぎだろう。




その晩、アレクシス王子のご機嫌がこの上無く良かったのは言うまでもない。


しかし、今日は敢えてなのか、最終日に一勝すれば入賞すると言うのに入城についての話題は出てはいなかった。どう受け答えしたら良いのかと構えていたので、王子の配慮に助かる。


食事中、王子が尋ねた。


「エレーンどのは、剣を手に取ろうと決めたのは何か理由が有るのだろうか?」


エレーンは暫し食事の手を休め、王子を見据えた。

「…自分の手で守るべきものを守りたいと思ったからです。」


「ふむ。」

「マルシュベン領は豊かですが、その実、内外からの賊の侵入に悩まされております。しかし、領民は男も女も関係無く皆力を出し合って助け合います。恥ずかしながら、私は幼い頃迄さほど武道に興味は有りませんでした。あれは…まだ私が幼い頃です。街道沿いの盗賊退治に父と近衛兵の大半が出払っていた時に、海賊迄もが港に侵入してしまったのです。私の母や兄が街の人達と討伐に当たったのですが、兄が脚に怪我をしてしまって…」


一気に話して、エレーンは一呼吸おく。


「それでも、兄は軽く手当てをしてまた港に向かうと言う。私は兄の体が心配で、泣きながら行かないで欲しいと頼んだのです。そうしたら兄は、『領民を守るべき時に守らないで、何を持ってこの先領主だと言える?領民居てこそのマルシュベン家だろう。エレーン、戦っているのは私達だけでは無いんだ。皆、戦って傷付いているんだよ。』と飛び出して行ってしまって。結局、討伐を終えた父達も加わり、兄も皆も軽い怪我で事なきを得たのですけど…。私はその時は兄の言っている事が良く分かっていなかったんです。甘えていました。でも、その件から誰も傷付いて欲しく無いと強く感じましたし、私にも出来るならば守りたいと思ったんです。マルシュベンで生きる者として。それで少しずつ剣を習いました。今なら、兄が言っていた事が良く分かります。」


エレーンはにこっと笑って見せた。


「長くなってしまい、申し訳ありません。」


「…いや、エレーンどのの人となりが良く分かった気がするよ、話してくれてありがとう。」


王子も優しく微笑んだ。


こんなに人に自分の心の内を説明した事など無かったからか、何だか気恥ずかしさを覚え顔が熱くなる。


「殿下~。なーに良い雰囲気醸し出してるんですか、ずるいですよ。」

こちらも、試合を順調に勝ち進んだルーカスが割って入る。


「…お前は口を開けばそんなのばっかりだな。」

ジロリと睨むが、王子も心無しか顔が赤い。


「そんな事言ってるから、殿下はいつまで経っても社交界での女性の対応が下手くそなんですよ。あっそれより俺の活躍も勿論見て貰えたんでしょうね?!」


「下手くそとかお前……知らん!見て無い!むしろ見るかそんなもの!!」


またもや二人のやり取りに、エレーン始め使用人達も吹き出さない様に必死に堪えた。まるで兄弟喧嘩の様だ。


「エレーンどのは十歳の頃にそんな決意をされて…。」

静かにロバートが会話に入る。


「坊…もとい、殿下も見習って欲しいですな。エレーンどのの爪の垢でもお飲みになったら如何です。そうしたらじいの苦労が少し減ると言うのに…。」



「……二対一とは、今日は部が悪いな…。」



叱られた仔犬の様に悄気る王子を目の当たりにして、エレーンはまたもや口許が決壊した。


登場人物 説明


アリーシャ・ウィンチェスト

エレーンの姉。兄姉では第二子。16歳でアレスの大会に出場し、マルシュベン家の令嬢らしく活躍する。通り名は『舞姫』。大会を主催していたウィンチェスト家に見初められ、色々有りつつ18歳で嫁いだ。おっとりに見えるが、かなりの切れ者な25歳。


身長165㎝、髪の色・金色、髪の長さ・腰当り、瞳の色・明るい青色、好き&得意な食べ物・チェリーパイ



リチャード・ウィンチェスト

商都アレスを有する現ウィンチェスト領主。男爵の位。21歳の時に、主催者側として剣術大会を観戦し、アリーシャに一目惚れする。何度も猛烈アタックした後にやっと23歳で了承を得る。自身も剣術は中々の腕だが、あまり披露する場が無い30歳。


身長185㎝、髪の色・濃い茶色、髪の長さ・短髪、瞳の色・濃い緑色、好きな食べ物・アリーシャが作る物なら何でも

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