23.
大変お待たせいたしました。
お楽しみいただければ幸いでです。
今日は待ちに待った初めての班別対抗戦の日。
まずは学年、そしてそれが終われば各学年の代表による学校内での対抗戦が行われる。
今日明日の二日間かけて、あたしたち第一学年の班別対抗戦が行われる。
この学年は全部で二十班あり、トーナメント方式なので今日は詰め詰めのスケジュールで十試合行う。明日は一回戦を勝ち抜いた十班による五試合、さらに勝ち進んだ四班で二試合、それに余った班は決勝の総当たり戦に自動的に上がり、最後は残った三班で決勝リーグ戦が争われる。つまり二日目も計十試合行われる。
予定では、いわゆる決勝もこの日に行い、全日程を二日で終えるのが理想なのだが、強い班同士が戦えば時間が伸びるのも当たり前。二日で終わるのは珍しいらしい。そのため決勝は三日目に持ち越され、朝早くから試合が始まり、それを他の学年も観戦するというのがいつものことらしい。
「だから、面倒だからって試合をさっさと終わらせない方がいい。早く終わればそれだけ予定が順調に進むから、決勝が二日目にねじ込まれる。二試合やって疲れてんのに決勝とか、ヘロヘロにならないわけねーのに。その次の日は普通に学校あるんだから、その辺加減しろよ」
と経験者は語る。
そんなありがたいアドバイスを頂いたあたしは、他の班の試合を眺めながら、着々と遅延する予定にほくそ笑む。どうか明日も遅々として進まなければいいのに。
「お前ら最後なの? やったじゃん。ちょー目立てるぞ」
「ほんと?」
「じゃあ、うちで売ってる装飾品とかつけようよ」
「それいい! マイス天才!」
「売り上げ伸びたら、お父さんに服ねだろう!」
部屋に取りに行ってくる、と言い終わらぬうちに双子は走り出していた。
「フラウ…ヴァーナとマイスのこと、頼んだわ」
「うん、任された。ほどほどに、ね」
自分が元凶であることを自覚しているのか、窓から半ば身を乗り出した状態で、フィルは申し訳なさそうなオーラを出しながらフラウに頭を下げた。
「アッシュたち最後なんだな」
「そうなの。くじ運がいいんだか悪いんだか」
はぁ、とため息ついたあたしに、うーんと唸るウルは言葉を続ける。
「悪いだろ。最後は時間が空いてる奴は結構見に来るから、お前らの戦いっぷりはより衆目に晒されるわな」
「げ」
最悪だ。思う存分やれないストレスを日々抱えながら生活しているというのに、こんなところでばれてしまっては折角の努力が水の泡ではないか。
「ま、頑張れ。また観に来るから」
「別に来なくていいから」
窓越しに会話していたウルは、次の授業に向かっていった。
去って行った三人の後ろ姿を見つめるフラウも視界に入りつつ、あたしは三人が廊下を曲がって姿が見えなくなるまで目で追った。
ウルが余計なことを言うとよくないことが起こるんだよなぁ、とこれまでのことに想いを馳せながら。
試合は順調に進み、先ほど九試合目が始まった。
「あ、アシュリー、あと何試合ある?」
「これの次」
「本当? ナンサよかったね間に合って」
長々と人の試合を観てるだけというのも暇なものだ。こうやってナンサやナーシャ、ウルたちも授業の合間を縫ってやってきてくれていたので、時間の感覚だけは保たれた。
「どう緊張してる?」
窓越しではなく、授業が終わったからか外に出てきてナンサはあたしの隣に腰掛けた。
「ううん、早く終わらせて寝たいなぁ」
「アッシュらしいねぇ。私なんてガチガチに緊張して、ナンサたちに迷惑ばっかりかけてたのに」
ナンサの隣に座ったナーシャは笑いながら自分の失敗談を語ってくれた。
いつの間にかウルたちも来たようで、フラウと双子のところにはフィルがいた。
「アッシュたちは次?」
「そう」
やってきたウルは自然にあたしの隣に座り、そのウルの隣にウルの友人のオルマンが腰を下ろす。
午前中からずっとこの校舎の影になるところで試合を眺めているが、もうそろそろこの時間も終わるかと思うと気が逸る。
「結局お前は前目で戦うの?」
「まぁ、そうなる、かな。弓の仕様があまり飛ばないものだから、離れるよりは敵に近い方がいいし」
「結局弓使うのか。そもそも、この班別対抗戦で弓使う奴は少数だからなぁ」
「あんなの、実践のなんの役にも立たん」
オルマンが言うように、班別対抗戦での弓はいろんな意味も込めて何の役にも立たない。
この班別対抗戦では魔法の使用と共に武器の使用も認められている。木剣、木刀、弓矢、棒は授業でも習うので一応使用が許可されているが、ここでネックになるのが弓矢だ。
他の武器も当然武器である以上相手への怪我の心配は尽きないが、刃もないためほぼ鈍器的な扱いになる。攻撃に対してガードもしやすいし、殺傷能力は格段に落ちる。
しかし、弓矢はそうもいかない。小ぶりとはいえきちんと弦を引き絞れば威力も速度も出るので、いくら矢じりを丸くしたとしても危険度は高い。
そのため、矢には大幅な加工が加えられ、箆(矢の棒部分)は本来よりも太く、矢じり部分は丸めた布で覆われ、まるで先にてるてる坊主をつけれているようにも見えて、とても滑稽だ。
こんなものでは飛距離もスピードも出るはずがない。
実践に備えた学内実習だというのに、これでは実地で狩りや敵と戦う際に役立つわけがない。
班別対抗戦でもあまり役に立たず、そのせいでまともな実践の練習にもなっていないのが現状だ。
まあ、あたしはそんな状態だからあえてこれを選んだというのもある。
「お疲れ」
弓に関して、私とナンサとオルマンで語っていたところで、高等教育の方でもようやく授業が終わったのか、今日初めてアルスの顔を合わせた。
「これ何試合目?」
「九試合目」
「うそ、もうアシュリー終わっちゃった?」
「ううん、あたしたち最後だから次」
「そうか、まだ時間は…ありそうだな」
やってきたアルスは、今の九試合目の様子を見てまだ時間がかかりそうなのを見て取ると、ナンサに声をかけて二人でここから立ち去った。すぐ戻ってくる、とどこか嬉しそうに言い置いて。
「…うっとおしい」
「仕方ないよナーシャ。今が幸せな時なんだから」
「六年越しだろ? 浮かれたくもなるんだって」
「あの噂本当だったんだな」
オルマンの納得した声にあたしたちは深く頷いた。
先日ようやくナンサがアルスに結婚了承の返事をした。
10歳からのアルスの思いはようやく実ったわけだが、それはそれは幸せそうではっきり言って目の毒だ。こうなることはわかっていたとはいえ、いざ目の前でやられるといっそ怒りを通り越して呆れる。
手紙で父にはその旨を伝えたが、わかった、の一言しか返ってこなかった。覚悟していたとはいえ、かなりのショックを受けているようだと、母から半分面白がっているのがわかる手紙をもらった。こちらは気にしなくていいから、ナンサに気を使ってくれ、とのことだった。
「アシュリーたちは作戦会議とかしなくていいの?」
不思議そうに聞いてくるナーシャに、そういえばそうかと言われてから気づく。
「ヴァーナとマイスにフラウー。作戦会議とかする?」
呼びかけるとフィルとともに四人がこちらにやってきた。
「始まってすぐにやったけど、一応確認のためにもう一度やっておく?」
そうフラウが双子に問いかけるが、二人は互いに顔を見合わせると一つ頷き、あたしたちに向き直って首を振る。
「いい」
「いつも通り、ね」
それを聞いてフラウとフィルはため息をつくが、これもいつものことだ。
双子はあまり戦いとかが好きではない。
勝ちにはこだわり、負けるのは嫌いだが、汗水垂らして汚れて戦うことを嫌う。魔法もそれなりに優秀で運動も得意な方なのだが、その点は都会っ子とでも表現すればいいのか、色々と甘い。それに、末っ子気質と相まって甘えるのが非常にうまい。
「フラウ、アシュリー、ごめんなぁ。こんなんでも、仲良くしてやってくれると助かる」
普段軽い印象のフィルだが、双子のことになるとしっかり兄の顔になる。そこには諦めきった表情を浮かべていて、これまでの苦労が垣間見える。
そんな一件がひと段落するとアルスたちが戻ってきた。ずいぶん締まりのない顔をしていたが、誰もそれに触れることなく二人が合流したところで、行われていた試合が終わったようだった。
あたしたちの班が呼ばれ、ようやく腰を上げていよいよ試合だと、内心高まる興奮を感じていた。
フィルに真っ先に送り出され、ゆったりとした足取りの双子を先頭にフラウあたしと続いて運動場の中央へ向かおうとした。
すると、あたしが立ち上がったところで肩に手を置かれ振り返ると妙に真剣な顔をしたウルがいた。
「適度に頑張れ」
発せられた言葉は額面通りに受け取ればふざけた激励の言葉であるが、あたしはちゃんとその言葉に含まれた意図を感じ取ることができる。
適度に加減しろ、自分がしたいように頑張れ。
試合のように真剣になればなるほど、手加減するのは難しくなり、つい力が出すぎてしまうこともある。そうなってでも自分が勝ちたいなら、それでもいいんじゃないか。
そういう気遣いを掴まれた肩のぬくもりからひしひしと感じ、あたしは一つ頷いて踵を返す。振り向く必要はなかった。
相手の班は女子四人。全七十八人のこの学年は女子の方が若干人数が多く、男子が四人班が八つに三人班が二つに対して、女子は四人班が十ある。
見れば自分たちとは異なるクラスの子らのようで少しホッとした。知ってる子らと直接戦うのは少し気がひけるし、何よりバレる可能性が高くなるからだ。
両班が運動場の中央に並んだところで、主審役のバト師の声が響いた。
「第十試合、始めっ!」
声とともに両班距離をとったところで土埃が舞い上がり、一瞬視界が悪くなる。
あたしはその隙を見逃すことなく、フラウと双子の位置を確認して、敵班方向に向けて矢を放った。
大袈裟に驚く声が聞こえてきたので、意表を突けたのだろう。相手が体制を立て直さないうちに追撃に出たのは、あたしの意図をいち早く察してくれたフラウ。未だ舞う砂埃に紛れ、敵に追い打ちをかける。
「まっ、魔法!」
と知らない声が叫ぶように言うと、強目の風が辺りをさらい、さらに土埃が舞い視界をより悪くした。
慌てる声がさらに大きくなったところで、フラウがあたしの隣に戻ってきた。
「前衛の子の足抑えてきたから、後ろお願い」
「わかった。後ろについたら魔法で合図するから、二人に魔法の準備させといて。敵を囲うように」
「任せて」
小声で端的に会話を終え、互いにすぐ行動を起こす。
ヴァーナは相手のいる辺りに風を送り続け、小規模な砂嵐のようにして敵の視界を奪ってくれているので、あたしは楽に相手の背後に向かえる。
あたしはあえて土埃の中を動くようにしているからともかく、双子は自分たちで視界良好にしているはずなので、敵の位置確認については問題ないだろう。
ひたすら汚れるのを嫌がった二人は、土埃をいかに楽に上手く抑えられるかに力点を置いていたのだから。
ほどなくして裏に回り込んだあたしは、双子らに合図として水魔法を雨のようにして双子に降らす。
ちょっとした意趣返しでもある。汚れるのが嫌なんて、ガキ臭いこといつまでも言ってんなよ。
「えっ!」
さらに相手の班からは驚きの声が上がる。
ヴァーナが今度は勢いよく風を起こし、長々と舞っていた土埃を一気に振り払った。
突然視界が開けたことで、せっかくのチャンスを驚くばかりに使ってしまうのは非常にもったいない。しかし、残念なことにすぐには覚醒できないようで動く気配はなかった。
今度はマイスが火で相手の班員をぐるりと囲うように魔法を展開した。まるで相撲の土俵のように一まとめに捕らえられたことに気づき、少女たちは今度は恐怖に引きつった表情を浮かべた。ヒステリックに叫び出さないだけマシというものだ。
自分らを囲う火に釘付けになっているうちに、あたしは彼女たちの足元を徐々に泥状にしていく。十分すでに戦意を削ってはいるが、万が一に備え、足元から崩しておく。
火に囲まれ動くに動けず、視野も狭くなっているのか、火を使うのがマイスからヴァーナに替わったのも気付いていないようだ。
マイスが追い討ちとばかりに、タライの水をひっくり返したかのようにドバッと水をかける。驚きのあまり目を見張るしかできない彼女らのやる気をさらに削ぐために、あたしは後ろから矢でそれぞれの膝や腰を狙い、地面に転ばせたり尻餅つかせるように要所を責める。
地面に膝や尻をついたことで、ようやく地面が泥になっているのに気づいたようだ。
フォーメーション的に後衛に位置する二人の少女はすでに戦意喪失しているようで、泥の地面にうな垂れるように座り込んでいる。しかし、剣を持つ前衛の二人は未だ諦めていないのか、膝をついただけで剣は手から離していない。
再度囲む火がヴァーナからマイスに替わる。
フラウがゆっくりと敵の前衛二人に近づいていく。
大人びた雰囲気のフラウの真剣な顔は、さぞかし対面する少女らにプレッシャーを与えていることだろう。
ざっざっ、とあたしのところまで足音が聞こえてくるくらい辺りはしんと静まり返っていた。対面する少女らの緊張が伝わってくるかのようだ。
この班別対抗戦の勝敗は、審判が戦闘不能と判断した時点、あるいは自ら降参を言い渡すことで決する。
正直女の子たち相手に戦闘不可能な状況まで痛めつけるのは趣味じゃないし、やりたくない。となれば、相手の戦意を徹底的に折るしか方法はない。
結果、見えないところから攻めたり、視覚的に恐怖を煽りやすい火だったりを使うのが効果的なため、こうなった。
だが、未だ折れない少女らに対し、火の淵まですでにたどり着いてしまったフラウからどこか困ったような目を向けられてしまった。
どうしよう…。
そんなフラウの心の声がはっきり聞こえたような気がした。
ため息つきたい気持ちをぐっと抑え、あたしはヴァーナにこちらに来るよう合図する。
「どうしたの?」
「あたしたち四人でこの火の輪を囲うように立って。今あたしとフラウが向かい合ってるから、二人は逆で十字になるように。
で、そうなったら、マイスはもっと火を強くして、膝ついてる子の視界を火で隠すように。そのあとすぐ ヴァーナは風で上から押さえつけるようにしてみて。フラウは言葉で追い打ちかけるように。勝負が決まったらすぐ魔法やめてね。
二人は、やりすぎちゃダメだからね」
「はーい」
足取り軽く戻って行く様子からも、まだまだ余力はありそうで、安心すると同時にやりすぎないか不安だ。
あたしの指示通りに四人が火の輪を囲うように十字に立つ間、正面からフラウが睨みを利かせていたからか剣を持った少女たちも動くことはなく、つつがなく準備が整った。
ヴァーナとマイスが互いに頷き合ったことで、マイスが火力を上げた。やけどの危険に備えて、あたしは敵味方関係なく水魔法をヴェールのようにしてそれぞれの身体を包む。
視界が炎色に染まり、恐怖に染まった短い悲鳴が聞こえてきた。それを合図にするかのように、ヴァーナが風魔法で上から圧をかけ始めた。ううっ、と今度はうめき声が漏れだした。
「まだ戦いますか」
「ぅ…」
「火はまだ強くなります。上の圧力も厳しくできます。地面を沼のようにすることも可能です。
まだ、戦いますか」
「…参り、ましたっ」
状況の辛さか、あるいは降参する悔しさからか、絞り出すような声で負けを認めた。
「勝負あり! 第十班の勝利!」
バト師がそう宣言し、あたしたちの勝利が決まった。
まことに勝手ながら、更新を二週間に一度とさせていただきます。
次回の投稿は、12月9日になります。




