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またまた  作者: よだか
第二章
48/73

7.

大変お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


「あ、ナーシャとナンサもいたのね。久しぶりー」


 一番上に見えた少女と姉たちは知り合いらしい。


 しばらくぶりの再会だからか会話に花が咲き、少女ら三人はまだまだ話し足りないようで、このまま文具屋での立ち話ではなく、早々に近くの軽食屋へと向かった。

 アルスも意地でナンサについて行き、彼女らにはお目付役としてターニャさんがついて行った。流石に父もあれにはついていけないと判断したようだ。



 嵐の去った後のような静けさの中、ようやく文具屋には穏やかな空気が戻ってきた。


「お騒がせしてすみません」


 人の良さそうな店主のおじいさんに頭を下げるルスティムさん。優しい店主に皆で頭を下げ、あたしたちは文具屋を後にする。


「あ、ウル、このあとヒマ?」

「ん、特に何もない」

「じゃあ、俺も一緒に行っていいー?」

「うん」


 よっし! と大袈裟なほど喜び、フィルと呼ばれた少年は、一緒に来た少女二人を店内に残し一緒に出てきた。


「よかったー。ねーちゃんと妹らに無理やり連れてこられたんだよねー」

「荷物持ちじゃん」

「そうなんだよー」


 友人と仲良さげに話すウルから少し距離を取り、あたしは父たち大人の方に身を寄せる。



「あ、ちょうどよかった。ジル、手伝って」

 

 すると一人別行動をしていた祖父マチェイが喧騒の仲から現れた。


「色々いいもの見つけた。ボク一人じゃキツイからさ。もう年だし」

「んな訳ねーだろ。そう言って俺だけに持たせる気だな」

「いいからいいから」


 トウカン家に婿入りする前、バリバリ商人として大陸中を渡り歩いていた祖父は、我が家一の目利きであり、金に関することは祖父の他に右に出るものはいない。我が家における家畜の売買、食料の仕入れなどは祖父の仕事で、お金に強い祖父母が我が家の財布を握っている。


「ルス、お前も手伝え」

「いいけど…、あの子らどうする?」

「あ、あー……」


 友人も犠牲にしようとしていた父だが、あたしたちを見て考え始めた。そんな深刻そうな顔をさせるようなことをした覚えがない。


「俺が見てるから、ルスティムはついて行っていいよ。ついでにいいものがあったらうちにも買って来て」



 ナツァグさんのご好意を受け、父たちはさらに賑わう人ごみの中に消えていった。


「さて」


 あたしたちに向き直り、ちょいちょいと手で招かれナツァグさんの元に寄る。優しい表情なのに、有無を言わさぬ圧を感じる。


「君はフィルヴェルケリ君だね。ウルから聞いてるよ。私はウルの祖父でナツァグといいます。皇都は広いし、人も多いから、君たちについて行くけど、好きなところを回るといい。

 ただし、余計なことはするんじゃないよ」



 笑顔が怖い。

 じじさまそっくりの顔で、探るような瞳、そしてばばさまのような圧倒的な存在感。

 普段生活を共にするウルでさえ表情を強張らせているのに、あたしや全く接点のなかったウルの友人など恐怖に固まっていた。


「子供はやんちゃなものだけど、度が過ぎれば目に余る。君たちは特に、自分を知りなさい」


 はい、と三人のかすれた返事を聞いて、満足そうに頷けば、その表情からは先ほどの威圧感は消え、普段の人畜無害そうな穏やかな表情に戻っていた。


 真っ先に気を取り直したのはウルで、少年と二人でどこに行くか話し始めた。




「よし、じゃあそうしよう。

 アッシュ、俺ら武器屋と魔法具屋に行くんだ。お前他に行きたいところは?」


 そうか、あたしが一緒に行動するのは決まりなのね。監視役の大人が今一人しかいないのだから、当然と言えば当然だろう。


「特にない。ついてく」

「わかった。じゃあまずは魔法具屋か?」

「そう、ここから一番近いからさー」



 ウルと外友達が並んで前を歩くと、自然とあたしはナツァグさんと肩を並べることになる。


「まるでお揃いみたいだね」

「へっ」


 あまり話したことのない人なので、どうしたら良いのかと考えあぐねていると、ナツァグさんから話しかけられた。


「それ」


 ナツァグさんは穏やかな表情で自分の首を指指していた。


「その首巻き、うちの母の手作りだね。ウルとお揃いだ。ウルの首巻きはアシュリーのおまけだろうけどね」

「はい。あたしの入学祝いで頂きました」

「大っきくなったねぇ。生まれた頃は随分小さくて心配してたから。無事学校に通えてよかったよ」


 生まれた頃? そういえば、あたしが生まれた年も越冬にタクバク家にお世話になった、なんて話を誰かに聞いた気がする。

 湊の記憶を思い出してからというもの、毎日が珍しいものに満ちていて、記憶が定かでないことも多い。


「アシュリーは生まれた時から変わらず真っ白だね。それについても心配されてたんだ。肌や髪、そして瞳の色素が薄いと、どうも強い日差しや、大気に存在する魔力に負けやすい子が多いからね」

「そうなんですか」

「アシュリーはそんなことないみたいでよかったよ。ただそういう子が多いのは事実で、実際皮膚が真っ赤になったり、湿疹や被れたりするらしいよ」

「ふわぁ、そうならなくてよかったです」


 地球での症状のように皮膚の異常は存在するようだ。日本のように皮膚科に気軽に行けるわけではないので、そうでなくてよかったと心から思う。


「アシュリーの場合は体内の魔力量が多くて外に漏れだしてるみたいだから、それが体と外気の壁になってるのかもね」

「え」


 その言い方では、あたしは自分のことながら獣人さんたちに指摘してもらって初めてわかったというのに、ナツァグさんにはわかっていたということか。


「俺ね、魔法も武術の才能も両親には遠く及ばないんだけど、魔力量や魔力の有無の感知が得意なんだ」

「はぁ、そういうことなんですね」

「そう、昨日会って驚いたよ。もう全然漏れてないよ」


 頑張ったね、と帽子越しだがナツァグさんに頭を撫でられた。

 どうやらここにも心配をかけていた人がいたらしいと分かって、あたしは不謹慎かもしれないけれど、頬が緩むのを抑えられず、恥ずかしいふりをして俯いた。




 

 その後すぐ目的の魔法具屋に着いたので、あたしのだらしない顔は見られずに済んだ。


 ウルたちに続いて入った店内は想像とは異なり、とても明るく随分光を取り入れた造りになっていた。淡い朝日にあふれた店内に足を踏み入れただけで、心が軽くなるようだった。


「いらっしゃいませ」


 店の奥のカウンターに腰掛ける男女はそこから動く気配はなく、声をかけてきただけだった。


 誰も気にする様子がないのでいつものことなのだろう。ウルたちは思い思いに店内を見て回り始めたので、あたしも弾むような気持ちで店内をうろつく。

 店は日本の大型ショッピングセンターの一店舗ほどの大きさで、壁一面の棚に並べられた魔法具のせいか、店内はどこか狭く感じる。



 魔法具というのは、いわゆるそれぞれの要素の魔力を込めた魔石を動力にして活用する道具のことだ。火の魔力を込めれば火の魔石となり、着火や火の調整、消火のできるコンロのようなものも火の魔石があって初めて使える。


 一般に最も普及したのが冷蔵庫もどき。これは持ち運びしやすい箱に水と風の魔石を用いて中を冷やすというものだ。冷風箱(れいふうばこ)とも言われる。

 これのお陰で食生活の改善と食料保存が進み、まさしく寿命が伸びた要因だろう。どう考えても、これがなければ特に遊牧民の栄養不足は否めない。



 魔法具というのは、比較的大型のものが多い。魔法の効果を発揮するために小型のものでは、そのもの自体が魔力に耐えられないかららしい。

 その分値も張るので、あたしたちのような子供が手を出せるようなものではない。


 こんなもの見に来ても買えないだろうと思いつつ着いてきたが、少年たちは一体なにをしに来たのだろう。

 彼らの会話を盗み聞きできるポイントまで、ウルたちに近づく。



「うーん、やっぱ厳しいな」

「そっかー、俺本気でほしかったんだけどなぁ」

「これはムリだ。三人の金をかき集めても全然足りない」

「だよなー。これ部屋に置いとければ絶対便利なのになー」



 少年たちが熱心に見ていたのは冷風箱だった。

 会話から察するに、どうやら寮部屋に置くために買うつもりだったようだが、一番小型のでも子供の小遣いを貯めたくらいでは買えるような優しい値段ではない。



「あ、アッシュ。何か欲しいのあった?」

「ううん、なんにも。そもそも買えない」

「だよなぁ」


 とウルと会話していたところですぐ側から驚きの声が上がった。


「え、この子が噂のアッシュ?」


 噂の? 不思議に思ってウルを見るが、敢えてなのか気づいていないのか、あたしがウルの視界に入ることなく会話が進んでいく。



「ああ、この子は俺の友達のアシュリル。俺らの二つ下」

「へぇー! てっきり名前の響きとかウルの話とか聞いて男だと思ってたわー。

 まさか、こんなかわいい儚げ美少女だったなんてなー」


 色白いなー、目も薄い灰色だー、結構小さいねー、なんて口々に言われているみたいだが、その気の抜けた口調のせいか全く褒められている気がしない。

 そんなことよりも、どういうことだと、さらに胡乱な目でウルを睨むが一向に目が合わない。こいつは一体どんな話を友人にしてくれたのだろう。


「あ、俺はウルと同室で悪友その一、フィルヴェルケリ・コート。よろしくねー」


 いかにも将来軟派になりそうな見た目と雰囲気で、社交性も兼ね備えているらしい。

 垂れた目と左片目を隠すように伸びた前髪が鬱陶しいが、後ろ髪をハーフアップにしていたりして、この国ではありがちな伸びっぱなしの髪を単に纏めただけとは違うようだ。あまりこれまで出会ったことがない人種で、いかにもお洒落さんには初めて会った。


「はじめまして。アシュリル・トウカンです。ウルのともだちです」


 軽そうな人だろうが挨拶されれば返すのが大人。少し顔が引きつって、表情が抜け落ちてしまったのはご愛嬌だろう。


「うんうん、ちょーかわいいじゃん。俺もアッシュって呼んでいい?」

「だめ」

「…なんでお前がこたえんだよー」

「アッシュは俺の親友なの。アシュリル、アシュリー、シュリー、好きなように呼べ」

「あー、はいはい。

 じゃあアシュリーちゃんかな、よろしくねー」



 結局普通の呼び名に収まった。

 あたしとしては彼にどう呼ばれようとどうでも良い。

 このフィルヴェルケリとそんなに仲良くすることもないだろうし、呼び名などあたしが呼ばれていると分かれば良い。



 そんなことよりも、今ウルがまるで当然のことのように言ったことの方が、あたしにとっては重要だ。

 親友の定義はよくわからないが、ウルにとってそうならそれでいい。自分が誰かにそう思ってもらえる人間なのだと、そう実感できることが何より嬉しい。


 あたしにはこれほど重要なことだが、ウルはそれをいとも容易く乗り越えて、周りに無意識に手を差し伸べられる。そういう人間なのだ。

 あたしは素直じゃないし、恥ずかしがってそういったことを面と言える心の強さはない。


 片やウルはあっさりとそんな(しがらみ)や垣根を越えてしまう。口に出すことを憚らず、己がどれほどすごいことを言っているのか自覚がない。

 ウルにとって些細な言葉が、どれほどあたしの心を歓喜に震わせているか、ウルは知る由もない。知られたくもないけど。



 心が温もりに包まれていることを他人に知られてしまえば、きっと身悶えるほどの羞恥にかられるだろう。

 そうなりたくないからこそ、必死になってポーカーフェイスを気取って、フィルヴェルケリに向かって社交辞令を返しておく。



「こちらこそ、よろしくお願いします。

 今年入学なのでわからないことも多いです。先輩たちを頼りにしてます」



 当たり障りのないことを言ってこの場は終わり。

 そう収めるつもりが、外の騒がしい音が聞こえ、あたしたち三人は競うように店の外に出ていた。

 後ろから、少し遅れて制止の声が聞こえた気がするけど、誰も止まらなかった。




「ああん? これの買取り価格が100パルだとぉ。頭おかしいんじゃねぇのか」

「いや…、最近はよく出回ってるものだから、あまり高値がつかないんだよ」


 店を出て少し離れたところに並ぶ露天商の数々。その中でどうやら香辛料のようなものを取り扱っている店に、クレーマーらしき男ら二人のうち一人が大声をあげて詰め寄っていた。


「それにしちゃあ安すぎなんじゃねえの。店主さんよぉ」

「いいや、正当な買取り価格だね。数年前ならいざ知らず、近頃はこの皇都でも栽培が始まったからな。年々取り引き値が下がっているんだよ」

「てめぇ、スカした顔しやがって。まともに俺らと話す気あんのかオラ」

「ある。だからこんなに丁寧に対応してやっているじゃないか」


 大声で喚き散らす大柄の男らと、それになじられる店主のどちらかといえばお年寄りのお祖父さん。


 どう考えても店主の言い分が正しい。

 恐らく男らが仕入れてきたのはテレという香辛料、地球の胡椒に似た見た目がオレンジ色をしたものだ。これまでは南のタルーマ王国でしか採れなかったが、近年では他の国々でも栽培事業が積極的に行われていて、我がイファー皇国でも栽培が本格的に始まった。

 その情報を知らないなど、それこそ愚の骨頂。バカ丸出しである。


 ついにバカどもは、自分たちの言い分がまかり通らないと悟ったのか、実力行使に乗り出した。


 遠巻きにそれを見ていた人からはか細い悲鳴と、抑えた声で警備隊を呼ぶよう指示する声が聞こえ始めた。

 バカどももそれに気づき、警備隊呼びに行こうとする人に向けて睨みを利かせてこう言った。


「警備隊なんて呼ぼうと思うなよ。この店主と同じ目に会いたいか!」


 まさしく恥の上塗りだ。

 こてこての小物な台詞にあたしは不謹慎にも吹き出しそうになった。



「ぶっ」


 …あたしは我慢した。

 その声は隣から聞こえてきた。


「誰だっ!」

「ごめんねおじさんたち。笑っちゃった」


 野次馬根性的に見にいたのはあたしも同じなので文句も言えないが、もう少し空気を読め、とこのバカには言ってやりたくて仕方がない。


「本当だよー。おじさんたちさ、情報収集を怠ったらダメじゃん。商売人舐めんなよなー」

「おいガキども、大人にたてつくなんていい度胸だなぁ、おい」

「お兄さんたちが直接体に教えてやろうか、ん?」



 標的が変わったようで、店主の首元を掴んでいた手を放し、彼らはこちらに向き直った。

 店主のおじいちゃんが無事なのは良かったが、あたしはこの悪童二人の後ろに隠れて小さくなっていた。


 悪漢がこちらを見たことで、その様子が見て取れた。

 店主に掴みかかった方はガタイもよく随分身長もあるようで、どっしりとこちらを睨むその姿は商人というよりどこかの兵士のようだ。一方、その後ろで文句だけ口にしていた男は連れの男に比べれば、身長は高いが体つきは細身でどことなくなよっとした印象を受ける。

 しかし、どちらも腰には剣を刺している。外套に隠れてはっきりとは見えないが、己の身一つで行商を行っているならば、それなりの腕でもおかしくはない。



 そんな観察をしつつ、恥さらし二人組のあまりの見苦しさに、さらにはこの悪ガキ二人のトラブルの引きの強さに、どうしようもなく呆れたあたしは深いため息をつく。

 あたしは悪くない、そう心で言い訳しながら、あたしも一緒に怒られる姿がありありと目に浮かぶ。


 あたしは必死で、自分だけは言い逃れできるような言い訳を考えていた。


お読みくださりありがとうございました。


来週以降も日曜日に更新したいと思いますが、何分私生活の方も忙しいので、更新日に変更がある場合には活動報告の方で連絡させて頂きます。



今回貨幣単位がさらっと出てきます。今後詳しく説明する予定ですが、

1パル=1円 程度だと思ってくだされば結構です。

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