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ポイント入ってるもの

傭兵の矜持

作者: 末吉

ジャンルが戦記かファンタジーか悩みます

「なぁなぁ」

「あ?」

「明日俺達戦場の真っただ中だろ?」

「だろうな」


 自分が使う武器の手入れをしていると、同じく手入れをしていた同僚が話しかけてきた。

 一体何の用だと思いながら話を聞いていると、「絶対俺達最前線で捨て駒のようになるんだろうな」とある意味では間違っていないことを言ってきた。


「確かに」

「だろ? 死んだところで俺達には名誉らしい名誉ないだろうし」

「だったらなんで志願したんだよ」


 現在の戦況からしてまだ徴兵する必要性がないらしく、志願者を募るだけにとどまっているようで。

 とりあえずお零れでもあずかろうかと思い参加してみたが……俺より若そうなやつがあっけからんとここに来ることを否定する発言をしたので、思わずつっこみを入れた。


 それに対し、そいつは「金が欲しくて。一番手っ取り早いだろ?」と答える。


「だったら士気を下げるような言い方するなよ」

「誰も聞いてないからいいだろ。あんたみたいな、古強者以外」


 「あのな……」そう言って説教しようとしたところ、もう一人手入れしていた奴が「で? お前みたいな若い奴が金が欲しいと言って志願兵になってこうして前線で戦う破目になっている。何をする気だ?」と作業する手を止めて睨みながら訊いてきた。


「そうそう。俺達前線で戦うことになるだろ? となると死ぬ確率も高くなる。だからさ、今この場にいる中で一番最後まで前線に居られた奴が報酬を一番多くもらえるって賭け事しないか?」

「……若造が」


 思わず吐き捨ててしまった。

 それをあざとく聞いたらしく、睨んできた奴も俺に同意した。


「戦争を舐めてるとしか思えんな」

「ひょっとして、最後まで残れる自信ないの?」

「バカを言うな」「まったくだ」


 だったら……と続けようとするのが分かったので、俺は「いいか若いの」と遮り、今度こそ説教をすることにした。


「戦争ってのはな、自分の命を賭けて国を守るために起こるものなんだよ。俺達傭兵はそんなところに漬け込む卑しいハイエナだ。だから死のうが生きようが、どれだけ功績を立てようが、関係ないんだ。死ねば終わり、生きてたら契約した時の金がもらえる。ただそれだけだ」


 だから生き死にで賭け事をするってのは意味がないんだよ。金貰ったら俺達は次は敵として会うかもしれないからな。


 そう言いながら武器の点検を終えた俺は、焚火の火に背を向けて寝ることにした。









 翌日。


 最前線へ来た俺達は、それぞれの得物を持って戦っていた。

 俺が愛用しているのは銃剣という、その名の通りの武器と、ただの片手剣の二刀流。前線は基本的に特攻隊長みたいな存在なので、俺はいち早く飛び込んでそいつらを片端から切り伏せる。


 が、ある程度切り伏せてから俺は手を止めた。


 理由は単純。相手がの連携がお粗末な上に、人を殺す覚悟が全く見えなかったからだ。目の前で人が殺されて足がすくんでいる奴らの方が多いし。


「…………」


 後味悪いな、これ。流石によ。

 こちとら長年傭兵をやってきて色々なものを見てきたが、ここまで最悪な戦場はなかったな。

 はぁとため息を漏らす。そして剣を鞘に収め、魔力を左の拳に集めて放つ。


 シュッ、と空気を切った拳。だが、俺の前方にある崖辺りから盛大な音がして崩れた。


 これで義理は果たしたかと思いながら、俺は近くで吼えている昨晩睨んできた奴に対し「金はいらねぇから欲しいならやる」と耳打ちしてこの戦場を後にすることにした。



 戦場からある程度離れて。


 俺は持っていた煙管に火をつけてふかしながら歩いていると、不意に人の気配がした。どうやら後をつけられていたようで、見事な気配の消し方だと感心しつつ「問題はないだろ、別に」と鞘から片手剣を抜きながら投げかける。

 先程の後始末をやってなかったので血で濡れているが、それでも人が斬れないわけじゃないので拭くことはしない。


「……」


 少しその場で待っていたが姿を現さないので、警戒心を残しながら前へ進むことにした。


「待てよ」

「あ?」


 が、昨晩聞いた声で呼び止められたので声がした方へ振り返る。

 そこは茂みだったが、そこから昨日俺に話しかけてきた若い奴と俺と同じような年齢みたいな奴が顔を出した。


 ひょっとしてこいつらも抜けだして来たのかと考えていると、「どこ行こうってんだ、お前」と睨んできて奴がため息交じりに聞いてきた。

 俺は「また流れる。今度はマシな戦場に出会うだろう」と答えると、そいつは「やめとけよ。もうここらに戦争は残ってない。あるのはただの虐殺だけだ」と返して来た。


 俺はたまらず反論した。


「ここらへんじゃなくともいい」

「俺は別なところから来たが、もう戦争なんてなかった。もう『平和』になったんだよ」

「じゃぁ魔大陸で傭兵でもやるか? あっちは未だに騒ぎ続けてるだろ」

「それがそうでもない。情報屋曰く平定されたそうだ」

「マジか……」


 どこへ行っても『戦争』がある場所がなくなっていることに驚いた。

 確かに俺がいた方でも『戦争』というより『私利私欲の虐殺』しかなくなったが……まさか。


「『戦争』が無くなったのか……」

「だろうぜ。まったく、年を食った傭兵にはきつい現実だよな」

「ああ。何もすることがない、ただの『殺人者』になるからな……って、そういやなんでこの若造も一緒に居る?」

「あぁそれは……」


 睨んできた奴が説明しようとしたところ若造が遮り、「俺が説明するよ」と勝手に説明を始めた。


「俺は異世界から来た」

「頭沸いてるのか若造。それとも死体見て気が狂ったか?」

「気が狂ったわけでもないし、死体なんて俺は見慣れてる。それで、だ。昨日俺はあの場にいた志願者全員に『賭け事(・・・)』の提案をした。二人が説教した、あの賭けを。ちょっと試したかったんだ。俺達の世界に来て大丈夫な奴かどうか」

「それとこの状況と何の関係がある」

「大丈夫だと俺が判断したからさ。あんた達が俺達の世界に来ても」

「……」


 とても上から目線なのがとんでもなく気に食わない。今すぐにでも殺そうと思うが、生憎快楽殺人者ではないので自制する。


 俺は『傭兵』だ。『戦争』時に『雇われる』『(つわもの)』。血と血を流し、骨と骨を削り合い、精神と精神がぶつかり、命果てるまで戦う存在。

 戦争で散れば本望。闘争は戦争の中に。生きれば儲けもの。そんな考えで渡り歩く、ある意味での負の遺産であり、ある意味での救世主。


 ここまでこの人生を貫いたのだから今更変えられん。そんなことを思いながら沈黙していると、「まだ戦争(・・)したいだろ?」と問いかけられた。

 ふと沈んでいた顔を上げてみると、その若造がにやりと笑って「やっぱりあんた達は大丈夫だ。俺達の世界で立派に余生を過ごせるよ(・・・・・・・・)」と確信めいた言葉を吐く。


 いまいち意味が分からんと首を傾げながら鞘に納めると、「今から来る? 俺達の世界に」と笑顔でロクでもないことを言ってきた。

 何を言ってるんだこいつ警戒させてなんて思っていると、睨んできた奴が「お前も来るか?」と問いかけてきたので思わず、なんで、と問い返した。


「なんでって、まだ戦えるんだぜ? だったらどこでもいい。戦える場所さえもらえればって思うだろ。たとえ罠だと分かってても」

「罠はないって」


 「それに」若造の言葉を無視して、そいつは俺に突き付けてきた。


「この若造の話を聞いた時のお前、喚起に震えてたように肩を震わせていたぜ? それでもいかないのか?」


 …………ったく。


「分かった。行けばいいんだろ。若造の世界に」

「話が分かるじゃねぇか」

「おっ、分かった。それじゃ、二人とも俺の手をつかんでくれ」



 ――――俺がその世界に連れて行くから。


 これ以上ない笑顔で言ったので俺達は若造の左右の手を握った、その瞬間。



 世界が、ぶれた。

















 ――――これは、妙齢の傭兵二人が理由が存在する戦争で変わらず傭兵として参加する話の前章である。

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