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   本日発売!

   【学校一の巨乳を探せ!】実測データで徹底検証だよ?

   一部五十円!




 現在、スポーツ新聞部の部室には全部員が集合して編集会議が開催されている。その全部員というのが、たった六人なのが悲しかったり寂しかったりするのだが、にもかかわらず室内には強烈な熱気がこもっていた。

 なにしろ八剣編集長の目が釣り上がり、唇が突き出ている。美人が激怒していると、普通の人よりいっそう怖く見えるから、これで緊張しない部員は存在しない。

「あなたたち、少しはましなネタはないのかしら? 例えば校長と教頭が仲良く手をつないでホテルに入っていくところとか、小野寺隆が辻斬りをやってるところとか、なんだこれ! と読者のみなさまが腰を抜かすような、とんでもない張り込み写真でも撮ってこれないものなの?」

 あいにく校長と教頭がホモのカップルという噂は聞かないし、さわやかなスポーツ青年である剣道部のキャプテンが千子村正を手にして深夜の街をうろつきまわるとか想像すら難しい。

 しかし、それを想像というか、妄想してしまう先輩が一人。

「私の脳内を画像化できれば教頭先生が校長先生を鬼畜攻めする写真が簡単に手に入るのに、とっても残念だなぁ……ああ、あの白くてムチムチと太った校長先生の肢体を縛って思う存分陵辱をくわえる教頭先生……いい!」

「色白のデブと、色黒のチビのオッサン同士が抱き合っている画像なぞ想像するだに吐き気がする」

「あら、もしかしたら部費が何万倍にも増える魔法のアイテムになるかもしれなくてよ。部室も手狭になってきたし……混沌、あなたフォトショップを使えたわよね。なんとかしていただけないこと?」

「脳内を画像化する装置はないし、存在しない写真で吐き気はしないし、合成写真は脅迫には使えませんねぇ――それでは議題を元に戻して、例えば体験モノはどうかなぁ? アイスクリームの当たる確率が好評だったから、その第二弾。あのコンビニで売ってるクジつきの商品はアイスだけではないんじゃないのぉ?」

 黒川部長がツッコミつつ、軌道修正のため特集の提案もした。ただし、基本的に部の運営は後輩にまかせているから、いかにもテキトーな提案であったが。

 だから、即座に却下するほどつまらなくはないが、採用したくなるほどおもしろいというほどでもない微妙な提案でもあるんだよな。二番煎じだし、アイスクリームについては俺が下痢になったという報告込みで記事になったから、読者は純粋に当たる確率の情報が知りたかったというより、スポーツ新聞部の新入部員(つまり俺)が八剣編集長にいじめられるネタ記事として喜んだところがある。

 ちなみに、スポーツ新聞部はスカウトで部員を集めてて、エリートしか入れないと嘘をついた連中もその記事を読んで笑い転げていた――騙された人を見て腹筋崩壊レベルの大笑いとか、人間としてどうかと思うよ、本当に。

 失礼にも俺の顔を指さして「おまえ、バカなのか、アホなのか、マヌケなのか、いったいなんなんだ?」と失礼な質問までぶつけてくるとなるとね、もう返すべき言葉もない。

 もし似たような企画をやるなら、当然前回より俺にとって辛かったり、厳しい内容でないと駄目だろうし、またあいつらに笑われるのかと思うと腹が立つ。

「体験モノというアイディアは悪くないけど……」

 八剣編集長は渋い顔をした。たぶん頭の中で部数を計算したのだ。前と似たような企画で、しかも面白味が薄い――となれば、部数は減。

 減は敵なのである。

 だんぜん増以外は認めない八剣編集長としては、絶対に避けたいはず。

 俺にしても、別に部数至上主義者ではないが、最初から部数が減ることが確実に予想される特集記事の取材は虚しいと思う。

 どーせなんかやらされるの俺だしさ。イヤなことをやらされた上に「今週は売れなかったわね」などと八剣編集長にため息混じりに愚痴られたら正直へこむ。

「奴隷、美舟さん、なにか体験したいものがあって?」

 美舟はみずからネコミミとシッポをつけた写真をスポーツ新聞部に提供して八剣編集長の信任と、売り上げに協力したので名字でちゃんと呼んでもらえる。それどころが、なんとびっくり『さん』までついてる。

 呼び捨てではなく『美舟さん』だぞ? ほんの一週間ほどとはいえ俺のほうが入部したのは早かったのに……なんとか挽回しないと。

 慌てて先に返事をする。

「体験ではなく、もっと広く考えてみたらどうでしょう?」

「例えば?」

 すかさず八剣編集長から再度の質問。

 いやいやいやいやいや、時間稼ぎに適当なことを口ばしってしまっただけだから。

 例なんて、一つも思い浮かばねぇ。

 それを察したのか、美舟がニュアンスの近い言葉をあげてくれた。

「実験、試験、検証、実証、実演、挑戦、冒険、実況、実測……」

「実験というのは、例えばインターネットで爆弾の製作方法を調べて、ホームセンターに売ってる材料だけで本当に作れるか実際にやってみるようなものね。ついでに時限発火装置も製作して校長室に仕掛けたらどうなるか調べるとか。試験や検証、実証も同じかな。実演は全校集会の最中に演台に駆け上がってストリップをやるような感じかしら……でも、それだと挑戦とか冒険でもおかしくないわね……しかし、実況とか実測というのは?」

「柔道部の部長と、ボクシング部の部長の異種格闘戦を実況する、みたいな。もちろん、新聞やから生中継というわけにはいかんとしても、試合内容をまとめて記事にしたり、迫力ある写真を掲載するのはできますし、なんなら部員の誰かが参加して体験記みたいな形にしてもええと違いますか?」

「スポーツ新聞部で天下一武道会を主催するわけね」

 ただの異種格闘戦が、なぜか八剣編集長の頭の中で校内最強を決定する壮絶バトルに変換されてしまったようだ。

 もちろん、上社副部長はエロい方向に変換される。

「寝技の競演、素敵だわ。汗まみれの雄が力の限り、相手を組み伏せようとするところを想像するだけでも漏れちゃいそう。パンツの中で漏らしちゃいますよ、私。ベタベタですよ……誰が一番かな?」

「たかが人間ごときに我輩が負けるわけないのだから、わざわざ試合なぞせぬとも校内最強は決まっておる」

「あら、それなら渾沌を優勝賞品にしましょうか。このわたくし八剣美琴が校内最強を決める大会のプロデュースをしてあげてもいいと思ったのだけれども、優勝者に出す賞金がね。しかし、これで問題はなくなったわ」

「我輩が賞品?」

「あなたが優勝するなら問題ないでしょう? もし負けたとしても名東高校最強の男性と交際できるのだから、どちらにしてもあなたにとって損のない話よ。このわたくし八剣美琴より落ちるのは当然としても、あなただって黙っていれば顔もプロポーションもまあまあだし、普段はスッピンだけど、本当は化粧も得意だし、乏しい部費を削ってつまらない粗品を買うよりマシなのではないかしら。校内の大会なのだから、どこかの企業にスポンサーになってもらって豪華賞品を出してもらうのも難しいと思うし」

「男性と交際? 我輩がか?」

「うわぃ! これはBLなんか書いてる場合じゃないよ。漏れる、漏れる、漏れちゃうよ! いまのうちに優勝候補を予測して、資料を集めておかないと。話題になっているうちに出したほうが売れるもんね。マッチョ男×渾沌のエロ小説か………………あ、あまりに漏れすぎて…………………………パ、パンツだけじゃすまない、太腿を伝うよ………………靴下まで濡れ濡れになりそう」

 ストレートなエロ小説ははじめてだ、と上社副部長が一人で盛り上がっている。

 一方で渾沌先輩は顔を真っ赤にして、椅子から立ち上がったり、また座ったり、八剣編集長に文句を言いかけ、上社副部長に抗議しかけたものの言葉にならず、ただひたすらオロオロしていた。

 なんとなーく想像できるが、どうやら恋愛経験の絶対値がほぼゼロで、下ネタもダメな人らしい。

「さすがに美舟さんはセンスいいわ。それに比べて、下僕のほうは……」

 八剣編集長に睨まれてしまった。

 ヤバい。

 なにか考えないと……例としてあげられた中で残るは実測のみ。

 手作り爆弾の爆破実験を校長室でやるなんておもしろすぎるし、全校集会中にストリップをやったら最低でも停学は覚悟しないといけない。ここは、なんとか刑法にも先生たちの逆鱗にも触れないが、『名スポ』の売り上げアップが確実に望める実測ネタを考えなければ……実測というと、なにかを実際に測るということだよな。

 なにを測る?

 実際に測ったら読者が喜びそうな物体とはなんだ?

「実測……」

「実測?」

 八剣編集長が聞き返す。

 どうしよう…………なにを測ろうか……?

 測るもの……。

 測るもの……。

 なにがある?

「実測………………名東高校で一番の…………」

「この学校一を決める?」

「……実測・学校一の巨乳を探せ?」

 神だ!

 いま神が降りてきた!

 巨乳のランキングだけでも人気が出そうなのに、その前についている『実測』の文字がキラリと光る。実際に測るんだぞ。

 男子生徒は全員買うよな。

 俺は買う。

 三部は買う。

 いや、二十部は買おう。さすがに、こんな特集をやってる号を教師が自分で買うのはハードルが高すぎる。しかし、男性教師なら絶対に欲しいはず。

 だから、あとから裏でこっそり……一部五百円のボッタクリ価格でもいけそうだ。いや、いっそ千円でもいけるんじゃないかな?

 新聞は売れる、オレも儲かる――最高のネタじゃないか!

「なるほど……聞いた瞬間、このわたくし八剣美琴の脳裏に『名スポ』が飛ぶように売れる光景が浮かんでしまったわ。ところで、自分で言い出したからには、エロ男がデータを集めてくるのかしら?」

 エロ男というのは俺のことだろう、もちろん大きくうなずいた。さすが八剣編集長だ。普通の女子高生ならドン引きしそうなネタでも、部数が出そうならレスポンスよく賛成&実行手順の確認。

「やらせていただきます!」

 測りたいか測りたくないかでいうなら、とても測りたい。ぜひ測ってみたい。

「天下一武道会は準備に時間がかかるわね。運動部をまわった参加者を確保したり、その参加者のスケジュールを調整する必要もあるから、とうてい次の締め切りに間に合わないし、今回はエロ男のほうを採用しようかしら?」

 いちおう八剣編集長は黒川部長のほうを見る。もちろん、黒川部長はにっこりうなずく。違法とか、よほどマズいものでない限り反対することはない。

 またしても学校側の評価を大幅に下げそうな雰囲気満点のネタではあるが、どうせ現在でもこれ以下はない最低の評価なのだからまったく問題なしなのだ。

 俺は二人に頭をさげた。

「ありがとうございます」

「ちなみに、どうやって測るのかしら?」

「ええっと……お願いする?」

「エロ男は学校中をまわって女子生徒ひとりひとりにバストサイズを測らせてくださいと、お願いしてまわるわけなのね。いま一年三組でもっとも変態な男として名を売っているようだけど、明日からは名東高校でもっとも変態な男と呼ばれるようになりそうね。エロ男がそこまで捨て身で『名スポ』のためにやる覚悟ができているとは、このわたくし八剣美琴も編集長としてうれしいわ。まあ、方法は一任するから、がんばってちょうだい」

「ま、待ってください……これは『名スポ』の取材ですよね?」

「もちろんそうですけど『名スポ』で『実測・学校一の巨乳を探せ』という特集をやるから協力して欲しいと頼んだとして、どれだけの女子生徒がすんなり測らせてくれるか、そのあたりが難しいところよねぇ……」

「……やっぱり、この企画は無理があるんですかね?」

「あるのかないのか、やってみなくてはわからなくてよ。もちろん、これより評判になりそうなネタがあるなら、そっちでもいいわ」

 八剣編集長が口を閉じた瞬間、渾沌先輩がUSBメモリーをさりげなくポケットから出して、ノートパソコンの横に置く。挿して中身を呼び出すこともできるけど、どうする?……という感じ。見事な連係プレーだ。

 もちろん、中身はいろいろな意味で大変危険な俺の名作や傑作の数々だろう。

 さらに、そのノーパソのキーをいくつか叩き、くるっとディスプレーを八剣編集長のほうに向けた。さっきまで賞品にされそうになってパニックを起こしていたくせに、もう立ち直ってやがる。

 しかも、八剣編集長がディスプレーに表示されたものを一瞥しただけで、ニヤリと笑ったのだ。

「ネットの通販で素晴らしいフィギュアをとても安く購入したみたいね。なんだかかわいい子だけど、これ、男なの? ふーん……そういうのが趣味なんだ。それなら『於野浦玄紀 男の娘の魅力を語る』という特集にでもしようか?」

「おっと、本当は於野浦くんもBLファンだったの? 水臭いな、なにも私にまで隠すことないのに……しかし、男の娘とはまだまだですな。やっぱりスーツの魅力を理解できないとダメね。スーツと眼鏡、思わずパンツの中で盛大に漏らしちゃう組み合わせよね、ヤバい、本当にパンツが濡れてる気がする。漏らした? 私、本当に漏らしちゃった? ここ学校なのに! 高校生にもなって、お漏らしですか? エロ妄想で、お漏らしですか?」

 上社副部長が上から目線で説教をはじめたと思ったら、派手にズレていって、おかしなところに着地する。スカートを押さえながら悶えているが――いつものことなので無視。

 それより――ち、ちょっと待て。なんでフィギュアのことを……あの暦原コトリちゃんの超絶リアルな萌える表情といったらね、これはもう最高なんだけど。

 ここにいるさっぱり萌えない四人のお姉さんたちにも少しは見習なってもらいたい、とってもかわいい表情なんだ。

 つーか、ぶっちゃけコトリちゃんと比較する意味がないけどな。スーパーコンピューターと電卓と、どっちが性能的に優れてるか、わざわざ実証実験をする無―人がいないのと同じだ。

 だから、俺がコトリちゃんのフィギュアが欲しくなっとしても、それは当然のことなのだ。スーパーコンピューターは買えないけど、関数電卓くらいの値段のフィギュアなら無理すれば買える――のだが、いまここで、それをどれだけわかりやすく説明したところで、この四人は理解してくれないだろう。

 しかも、これが『名スポ』の記事になってしまったら、全校生徒を相手に説明しなければならない。

 記事にならなければ、部室の中の出来事であるし、あまり友達がいないはずの先輩たちのことだから、学校中の噂になることはないはず。

 えとえと……言い訳、言い訳。

 なんかないか?

 あるわけねーよ!

「いえ、たまたまですよ……じゃなくて、間違えて…………そうなんです、かわいい女の子と間違えたんです」

「貴様の欲しいものリストも、過去にチェックした商品も、おすすめも、こんなフィギュアで埋め尽くされているようであるが?」

 な、な、なんでそこまで知ってるんだ?

 俺の盗撮画像だけでなく、パスワードなんかもすべてあのときUSBメモリーに吸い取られてしまったのか? あるいはスパイウェアのようなソフトでも仕込んだのか……と渾沌先輩の顔を見る。

 まったくの無表情で、ぼーっとノーパソの画面を見詰めていた。

 友達が一人もいない、完全無欠なソロプレーヤーだと信じて疑ってなかったのだが、じつはスーパーハカーの友達がいたりして……渾沌先輩の友達というものが、この世の中に存在しているのであるならば、スーパーハカーだって実在したっておかしくない。

 いやいやいや、いまはそんなことどうでもいい。それより言い訳だ。いますぐ俺に必要なのは説得力のある言い訳だ。

 それ以外のことは、すべて後回しにできる――のだが、さっきから脳をフル回転させて考えてるのに、さっぱり思い浮かんでこねえ。

 神は?

 さっきまで、そこらへんに降臨されてたっぽい神様はいまどちらへ?

「いや、ちゃんと女の子のフィギュアも買ってますよ? かわいい女の子のフィギュアは十個以上は買ってるはずです!」

「検索履歴のほうにも妙なワードが残っておるが? 例えば『こんな可愛い子が女の子のはずがない』というのは、いったいなにが知りたくてググったのやら」

「このわたくし八剣美琴としてはかわいい女の子であってもフィギュアを十体も二十体も集めている段階で変態認定しますけどね……それで、どうするの?」

 本当にどうするんだ、俺……。

 巨乳が好きなのと、男の娘が好きでフィギュアを集めてるのでは、どちらがよりいいのだろう? いや、ちょっと待て俺。よりいいほうなんか存在しないだろ、どっちも悪いぞ。

「なんとか測ってきます」

 と、俺は答えた。巨乳が好きなら男の尊厳は傷つかない……はずだ。

「とりあえず、ここにいるみなさんから測らせてもらっていいですか?」

「嫌だなぁ、最近の一年生は冗談ばっかりぃ」

 いきなり誰かがバシッと俺の肩を叩く。親愛の情みたいなものがまったく感じられない、容赦ない打撃。びっくりして振り返ったそこには……なーんか表情としては笑っているのに、いやに冷たーい目つきをした黒川部長がいた。

 そういえば、黒川部長は三年生なのに成長がとんでもなく遅い――あるいは残念なままストップしてしまっている。

「いや、部長。貧乳が好きだというマニアもいて、かならず一定の需要があります。なにも嘆く必要はありませんよ、じつは大人気ですから。みんな影では部長のことを合法ロ……おうおう」

「くだらない言葉を撒き散らしているのは、この口かな?」

 ニコニコとした顔のまま、俺の下唇をつかむ。意外と握力が強くて、まるでペンチでつままれているようだ。そして、そのままギューッと引っぱられた。

 しまった! 合法ロリとか、絶対の禁句を、もろ本人の前で言ってしまった……うーっ、唇が……こ、これ以上は無理……つか、現時点でも人間の皮膚が伸びる限度を超えちゃってる気がする。

「ち、ちぎれ……ちぎれ……」

「契れとは、なぜ古風にエロくて命令形? あいにく年下はあんまり好みではないなぁ。それからマニアに需要があっても、まったく嬉しくないからぁ」

 やっと手を放してくれたが、唇がジンジンとして熱を持っている。部長だから権力でもってスポーツ新聞部に君臨しているのだと思っていたが、握力もあれば、暴力とか腕力とか怪力とか戦闘力とか、他にもいろいろな力を持っていそうだ……さすが三か月戦争の唯一の生き残り。


 翌日から俺は巻尺をつねに携帯し、まずクラスの女子生徒に順番に一人ずつ、すごく丁寧に頼んでいった。

「ほんの一分だけ時間もらっていいかな? いま『名スポ』の取材をしてるんだけど、バストのサイズを測らせてもらえたらと思って……」

「早く死ねよ」

「むしろ殺されたいヒト?」

「……………………バチン(無言でビンタ)」

 こんな反応ばかりだ。

 せっかく携帯している巻尺の出番はまったくなく、かわりに俺のイメージが急速下降というか、変態なイメージが磐石になったというか、クラスがかわっても高校三年間は――いや、卒業後もみんなは俺のことを忘れないだろうな………………いろいろ悪い意味で。

 よく考えてみれば部員ですら協力してくれないのに、いったい誰が協力してくれるんだ?

 俺は美舟の席にいき、彼女に質問をぶつけてみた。生尻もパンツも撮ることなく、それどころか斜め上にちゃんと着地点を見出して、八剣編集長を唸らせたのはコイツだ。

「なあ、美舟。スポーツ新聞部の部員にも、同じクラスの連中にも断られて、ついでに部員でもありクラスメイトであるおまえにすら断られたわけだが、やっぱり無謀な企画だったのかな?」

「いろいろ無謀やったかもわからんわ。企画としても無謀やったし、八剣編集長にやると約束したのも無謀やったし、なんの勝算もなく教室内の女の子に順番に声をかけていくのも無謀やし……」

「ううっ……おまえ、学年でトップの成績だろ? その頭のいいところを活かして、なんとか俺を救ってくれないか?」

「こんなんテストで満点とるより、はるかに難しいやろ……まあ、そないなこといっても同じ部員でもありクラスメイトでもあるわけやから、頼まれれば救ってあげなくもないかなぁ」

「本当か?」

 外見はバカっぽくて、にゃーとか素で語尾につけてしゃべりそうな雰囲気なのに、いい意味でも悪い意味でも頭の回転が速く、どうにも腹の底を見せないところがある――が、こういうときには頼りになる。

「貸しにしておくから、いつか利息をつけて返してな」

「……なんかすごく高くつきそうだが、ちゃんと返すから俺にかわって、おまえが測ってきてくれ」

「それはイヤ」

「おっ、おい。なんだよ。手伝ってくれるんじゃあ――」

「そないな手伝いはようせんわ」

「いや、そこが一番手伝ってもらいたいところじゃないか……もう、いい」

 美舟がなにか言いかけたが、無視して自分の席に戻る。そうしたら、前の席の上田清偲がニヤリと不気味な笑みを浮かべて、俺に話しかけてきた。

「女子に胸のサイズを測らせろって、なんだか楽しそうなことやってるじゃないか、俺も仲間に入れろ」

「いいよ。つーか、これ、『名スポ』の取材だから。おまえも入部する?」

「俺は命知らずのチャレンジャーじゃないんでな。命はひとつしかないし、たった十五年でなくすのはもったいないし、大切にすればあと六十年や七十年は使えるだろうし。激痛が快感に自動変換されるドMでもないしな、もしどうしてもスポーツ新聞部に入部しなければならなくなったら、俺はさっさと退学届を出すね」

「部活で高校を中退とか、ありえねぇだろ」

「この世の中には取り返しのつかないことがあるって知ってたか? なにがあろうと、俺はスポーツ新聞部とだけはかかわらねえぞ。一生モノの恥をかいたら退学どころじゃすまねーだろ、自分で自分の命を絶たなければならないって状態になってしまったら、かなーり切ないと思うよ」

 そう言われれば、俺も『名スポ』に書かれたら命にかかわるダメージを受けそうなネタをいくつも握られている。いまのところ、それらは伏せられているし、普通でいけば今後も伏せられたままになるだろうが……例えばネタ枯れして、まったく書く記事がないという状態に追い込まれたら、どうなるか想像したくもない。

 つーか、こいつもスポーツ新聞部はスカウトされた部員のみで構成されるエリートのための部活だとか言って、俺を騙した一人じゃないか。あとで文句をつけたら、みんなで冗談を言い合っていただけで、それが冗談と気づいてないヤツが混ざっていたとは思わなかったという言い訳だったと記憶しているが、基本こいつは悪者だ!

 俺が暗い顔をしたせいか、心当たりがあるのかと上田が訊いてきた。

「ないよ、ないない。公私ともに健全健康な俺としては、あの二年生三人がどんだけ嗅ぎまわろうが一切ゴシップなんかないと断言できる!」

 全力で否定している俺の肩の上に、上田はやさしく両手を置く。

「…………どうやら手遅れだったようだな、かわいそうに……そういうことになると困るから、俺は頭を低くして、無名の生徒Aで三年間をすごすつもりだ。下手に目立つと狙われるしな」

「それなのに仲間に入れろ、と?」

「今回の企画だけだ。それに条件として俺の名前は出さない。絶対に秘密。おまえが一人でやったことにしろ」

「まあ、ニュースソースの秘匿はジャーナリストとしては当然というか、常識というか、絶対的なものだからな。……高校のスポーツ新聞部の編集員が前に自称とか後ろに(笑)をつけずに堂々とジャーナリストを名乗ったら、関係各所から猛烈なクレームがきそうだが、いちおう志としてはフォト・ジャーナリストでありたいと俺は思っているし」

「志が高いというのはいいことだ。ところで、俺には女の胸を見ただけでサイズがわかるという特技がある」

「ソレ、どんな超能力だよ」

「放送文化研究部をナメてるんじゃねえぞ!」

「俺は放送文化研究部でも、放送部でも、よその部活をナメたりしてねぇよ」

 放送部は校内放送を担当していて、昼休みに音楽をかけたり、いま話題のネタを紹介したりするラジオ番組みたいなものをやっている。それ以外に体育祭や文化祭など各種イベントでも実況中継や呼び出しなどの放送を担当する、わりと真面目な部だ

 ところが、似た名前の放送文化研究部というのは、放送文化を研究するという建前で、実際のところはアイドルの研究をするオタク集団なのである。

 アイドルの研究――つまり追っかけどころかストーカーみたいな、間違った意味で熱心な連中が揃った部活としても有名だったりする。

 しかも、どうしたって地元である名古屋が活動の中心になるから、追いかけるのもローカル・アイドルになりがちで、勝手に「俺が応援しなければ誰が応援するんだ!」と自分の中で異常に盛り上がっていたりするから始末が悪い。

 名古屋でもSKEのように紅白歌合戦にも出た全国的にもそこそこ知られるアイドルがいないわけではないのに、そういう「放っておいても売れるアイドル」には興味がなく、ひたすらマイナー路線。俺なんかだと名前も聞いたことないのが普通だもんな。

 冬は全員が年賀状配達のアルバイトに励み、活動資金のためだけでなく、アイドルの住所を調べるのにも利用しているらしい。配達中はもちろん、アルバイト終了後も郵便物をこっそり痕跡が残らないように開封して中身をコピーして郵便受けに戻すとか、棒つきアイスをクール宅急便で送りつけおき数日後にゴミ捨て場で棒を回収して嘗めまわすとか、たくさんの伝説めいた噂があった。

 俺としては真面目な放送部の活動には敬意を表すし、放送文化研究部の変態な活動についてはいろいろな意味でやっぱり敬意を表す。

 まあ、新聞部とスポーツ新聞部の関係に似てなくもないしな。

「その超能力で少しだけ俺に力を貸してくれ」

「いいよ。だが、一つ条件がある」

「……なんだよ?」

 と、俺は尋ねる。どんな要求であろうと、この状況であれば出された条件を黙って飲むしかないわけだが、交渉して値切ることはできるかもしれない。

「おまえのところの部長のグッズが欲しい」

「黒川部長の?」

「ああ、あの合法ロリ先輩の使った箸とか、口をつけたコップとか。もちろん衣類などでもいいが、最低でも一日は着たものだぞ。下に着たものだと、もっといい」

「……俺に黒川部長のところにいってパンツくださいと頼めというのか?」

「おまえならできる! なにしろクラス一の勇者じゃないか――いや、いまは学校一の勇者か? 最後にしか出てこない大魔王とかでも倒せる真の勇者なんだから、パンツでもなんとかできるだろう」

「いや、そんな熱血っぽく言われても困るんだが……しかし、いくらなんでもパンツは無理だろう。編集会議のときに差し入れを持ってきてくれることもあるから、ゴミ箱から割箸か紙コップを拾ってくるくらいなら可能だと思う。たこ焼きが差し入れなら、爪楊枝とかね」

「そ、そ、それでいい。箸くれ、は、は、箸、箸、箸」

「よだれを拭け。それに差し入れは毎回あるわけじゃないから、ちょっと時間を貰うぞ」

「じつは部のほうで身近なアイドルとして、うちの女子生徒のデータを集めるんだ。スカウトされたりオーディション受けて本当にデビューする可能性はゼロじゃないしな。で、そこにバストサイズもあるから、そのコピーをやる」

「いつ作った資料なんだ? 今年の一年生のデータはないだろう?」

「新入部員が先輩と組んで新入生のデータを集めるのが、うちの部の創部以来の新入部員歓迎の伝統行事なのだ。それにより新入部員は先輩から尾行や張り込みなどの技術はもちろん、身長体重からバストやヒップの正確な目測、ゴミをあさっての情報収集やコレクションの拡充方法などを教わるわけだ」

 それ、ストーカーの技術伝承じゃないのか? なのに、スゲー誇らしげだし。いや、ここは上田の機嫌を損ねるわけにはいかない。俺は大袈裟なほど褒め称えてやった。

「いやいや、人の役に立つというのは、なかなかいい気持ちがするものだな。おまえのほうも俺の役に立てよ」

「約束は守るよ」

 と、俺は上田からデータをもらった。

 あとは交換条件をはたす番だけど――あの黒川部長のところにいって「パンツください」と頼む勇気はない。

 しかし、盗むってのもなぁ……パンツはともかく体操着とかなら盗んで盗めないことはないと思うけど、それはやったらマズいだろう。

 やっぱり箸だな。

 うん、箸がいい。

 あとでコンビニのゴミ箱にでも拾いにいこうか。どうせ誰が使ったものなのかわかるわけないんだから。


 昼休みに部室を覗いてみると、三人の二年生が揃って昼飯を食べている。ちょうどよかった。俺は自信満々で上田からもらったデータを差し出したが、あっさり却下されてしまった。

 即決でダメ出しである。

「これでは話にならなくてよ」

 八剣編集長は興味なさそうに放送文化研究部謹製の全校女子生徒データ集をポイと投げ出した。故意なのか、偶然なのか、投げ出した先にあったのはゴミ箱。

 しかし、それには一瞥もあたえず、お重に箸をつける。見た目は豪華な印象だが、中身は卵焼きとか、唐揚げとか、あまりに普通の弁当だ。よく見ると、お重も木に漆を塗った高級品ではなく、プラスチックにウレタン塗装で、もしかしたら百円ショップで買ってきたのではないかと疑ってしまうようなもの。

「実測というタイトルをつけるからには、実際に計測したデータというのが前提条件であり最低条件でもあり必要条件でもあるのよ。もしこれが正確なデータだったとしても目測は実測ではないでしょう?」

「それはそうですけど……」

「自分で志願しておきながら、他人の収集したデータを持ち込むとは、貴様は根性が腐れておるのか」

 そんなことを言うのなら、自慢の九飛眼でデータを集めてきてくれればいいのに。渾沌先輩はアンパン一つに紙パックの牛乳という、名誉ある天上幻想騎士団のメンバーにしては大変しょぼい昼飯を食べていた。

 蓋に『腐』と食料品の容器にしてはどうかと思う文字の入った弁当箱は上社副部長だ。ちょっとした性癖を除けばスポーツ新聞部でもっとも良識のある彼女にも怒られた。

「手抜きはダメよ。精一杯やってダメならしかたないけど、いいかげんにやった仕事は認めないわ」

「いや、ぜんぜん手抜きしてないですよ。俺はクラス全員の女の子に頭を下げて、全員から断られて、このままだと教室に居場所がなくなるかもしれないくらいなんですけど。昼休みにトイレの個室にカギをかけて洋式便器に座って弁当を食べなければならなくなったらどうしてくれるんですか、便所メシですよ、便所メシ!」

 あの伝説の便所メシをリアルにやるところを想像すると、背中から変な汗が流れるし、目からも謎の水分が垂れてきそうになる。

 だが、三人の先輩たちは平気な顔をして言い放つ。

「あら、もし奴隷がこのわたくし八剣美琴に土下座して頼むのなら、この部室で昼食をとってもよくてよ。わたくしたちも昼食はいつもここだから」

「貴様に我輩たちの昼食の宴の末席を汚す栄誉を与えてやらぬこともないぞ」

「同じ部の先輩後輩だし、ここで一緒に食べるのも楽しいんじゃない? オカズが増えるのは大歓迎だし、於野浦くんはおいしそうだし」

 そういえば、この三人の先輩はリアルに教室に居場所のない人たちでした。いままで昼休みに部室にきたことがなかったから知らなかったが、だからここで昼飯を食べてるんだ。

 そうだよな、みんなが楽しそうに弁当を広げているところで、独りぼっちは居心地が悪いよな。

 適当に班になれとか、二人一組とか、好きなやつと組めとか、そういう言葉が授業中に教師の口から出た瞬間に心臓がキュンという感じになったり。特に体育の時間なぁ……いまのところ俺は仲間に入れてくれるやつらがいるが、この調子だといつまで友達でいてくれるものか。

 クラスの女子の好感度はゼロとかマイナスとか、そんなところだが、男子からはエロいバカなヤツということで評判はそんなに悪くはない――いまのところは。

 しかし、高校生の男子として、女子の嫌われ者と仲良くしているのは都合が悪くなることも出てくるだろう。いまでも彼女持ちからはちょっと避けられてるところがあるし。

 教師も仕事なんだから手抜きせず、ちゃんと責任もってグループ編成くらいしろよなぁ……。

 マズイ!

 なんか、またしても目から謎の水分が垂れてきそうになってるわ……。

 しかし、そういう気持ちを充分以上にわかってるはずなのに、なんで後輩を追い込むんだ? 一緒に部室で昼飯を食べようと誘ってくれるのはうれしいが、その輪に入るということは、一般人の輪から外れてしまうではないか。

 渾沌先輩がアンパンの最後の一口を頬張り、ノーパソを手持ちに引き寄せた。パソコンをいじるのが趣味みたいな人だから、特に理由があったわけではないのかもしれない。

 しかし、また俺に関する変なネタが出てくるかもしれなかった。

「締め切りは明日でしたよね、なんとか考えてきます」

 慌てて部室から逃げ出す。


 ただの土下座ではダメだと思う。

 それならどうするか?

 全裸……かな。全裸で土下座。

 ついでに床屋にいって頭を丸めて、ボウズにしてもらうのもいいかもしれない。

 ボウズで全裸で土下座。

 すべてが許され、ありとあらゆることが可能になる、無敵の三連コンボだ。

 つまり、さっきは手伝わないと宣言した美舟も、この三連コンボの前には手伝わないとは絶対に言えないはず――冷静になれ俺。

 ないから。無敵の三連コンボなんて現実にはありえないから。

 土下座は一度やっているし、ボウズはいいとしても、教室でいきなり全裸になったら……まあ、すでに変態の名を欲しいままにしている俺にとってみれば、またあいつがバカやってるで済むとしても、美舟は引くだろうな。頼みごとをするのに、相手を引かせてどうする?

 残る手は……買収?

 さすがに現金はどうかと思うので、お菓子にしよう。あと昼休みは五分くらいしかない。俺は全力疾走で校舎を走り抜け、学校の隣にあるコンビニに駆け込み、のりしお味のポテトチップスと、アーモンド入りのチョコレート、いろいろなフルーツ味を詰め合わせた飴を買う。

 まあまあ無難な選択だから、一つくらいは気に入るものがあるだろう。

 放課後になると、俺はさっそく美舟の机にお菓子を並べて頼み込んだ。

「なに言うてんの、こんなんなくてもちゃんと手伝うよ」

「本当か? でも、さっきは……」

「測らせてくれと頭を下げてまわる手伝いはせんよ。そんなんやっても、苦労と恥ばっかで、誰も測らせてくれんて。それより、誰かが実際に測ったデータがあればええんよ」

「それは、確かにそのとおりだが、目測はダメだと言われたんだぞ。あくまで実測。いったいどこのどいつが全校生徒を実測して、そのデータを保管してるんだよ」

「入学してすぐに身体測定があったの覚えとらん? あれは新入生だけでなく、毎年春に全校生徒を対象としてやっとるわけだから、保健室にいけばデータはあると思う――正確にはバストというより胸囲やけど、まあ、ええんちゃう?」

「……盗むのか?」

「はあ? ……なんかさあ、ジブン考えかたまで先輩たちに似てきとらん? 合法的にいける範囲なら、まず合法的にいこうや。それではどうしてもダメということになったら、はじめて違法な手段を考えるのが普通やと思うよ」

 いや、確かにいきなり盗むことを考えた俺もどうかしているが、合法的にやれないなら違法な手段を考えてしまうのも普通じゃないだろ。普通というのは合法的にやるのが無理だとわかったら、諦めるとか、少し落ちるが別の合法的な代替プランに切り替えるとか、そういうことを言うんじゃないのか?

 違うのか?

 俺の感覚がおかしいのか?

 しかし、ここは美舟の道徳観を糾弾する場ではないから、具体的にどうするのか尋ねた。

「そんなん保健室にいって校医の先生に取材を申し込めばええことやろ。ちゃんとした『名スポ』の取材なんやし」

「女子生徒の胸囲のデータをくれって? いくらなんでも無理だろ、ソレ」

「少しは言葉を選ぼうや。スポーツ新聞部ですが最近の高校生の発育についての記事を書こうと思うとるので、この学校の生徒のデータを見せてくれまへんか? と頼めばええんやないかな」

「高校生全体ではなく、女子高生限定の発育の記事だけどな。その発育も特定の場所に限る」

「まあ、それはそうやけど、まるっきりウソをついてるわけやないし……気に入らへんなら、他になんか自分で勝手にいい方法を考えたらええと思うよ」

「いやいやゴメン。別に文句があるわけじゃないよ。すごい感謝してる。さっそく保健室にいってみるから」

 俺が教室を出ようとしたら、美舟も一緒にいくとついてきた。アイディアを出すだけでなく、手伝ってやろうという態度がかなり嬉しい。

 最近、人に優しくしてもらった記憶がないからなぁ……。

 保健医に言うと、あっさりパソコンのデータを見せてもらうことができ、あつかましいかもしれないと心配しながらもプリントアウトしてくれないかと頼むと、これまたあっさり承諾してくれた。あまりにもうかつすぎるが、校内のみで使用するなら個人情報の流失にならないのか?

 まあ、なんでもいいや。とにかくデータはもらった。

 ところが、その印刷がちょうど終わるころに俺たちの担任である中村先生がやってきた。

 すると美舟は慌てて印刷したばかりの用紙をつかんで、さっさと部室にいこうとうながす。

「締め切りが近いもんで、すみまへん」

 締め切りが近いといっても、明日のことだ。それも明日の朝一番とかではなく、放課後に持っていけばいいのだから、ざっと二十四時間くらいの余裕がある。それでも間に合わないようなら、発売予定日は明後日だから、早朝の校門が開くのと同時に部室までダッシュして入稿、ちょっと怖いけど校正はパス、誤字脱字がありませんようにと神様に祈りつつ、即座に印刷、そのまま販売という荒業だってあるのだ。

 朝練をやってる運動部があるのだから、文化系の部活だって早朝から活動して悪いわけがない。

 なのに、美舟はかなり急いでいるようで、しかも保健室を出ると廊下を猛ダッシュ。

「おい、ちょっと待てよ」

「急げ、慌てろ、ぐずぐずすんな!」

 すごい勢いで廊下を駆け抜け、階段を二段飛ばしで転がるように降りていき、一階まできたところで床に印刷した用紙を並べ出した。

「カメラは持っとるよね? 早く撮って」

「なにを?」

「これ、早よせい!」

 印刷した用紙をバンバン叩く。

 せっかくプリントしてあるのだから、このまま部室に持っていけばいいのであって、わざわざ撮影する意味はないと思う。まったくもって写真に撮る意味がわからない。

 しかし、あまり美舟が真剣に言うから、しかたなくシャッターを切った。

「おーい、於野浦くん、美舟さん」

 階段の上のほうから保健医の声がする。

「バレてしもうたな。さっさと全部撮ってコンパクトフラッシュを新しいのと交換しとき」

 その指示通りにしたところで保健医が一階までやってきて、俺たちの顔を見ると、ちょっと怒ったような態度でさっきくれたプリントアウトをひったくる。

「いま中村先生に聞いたのだが、君たちは女子生徒の胸を測らせてくれと巻尺を持って追いかけまわしているそうじゃないか。これは没収だ」

 さすがは美舟。中村先生が保健室に入ってきた瞬間、こうなることを予測していたのだ。俺が首からさげたカメラまで調べるとは言わなかったが、調べられても問題ないし。

 さて、カメラで撮った画像データを部室のパソコンで調べるかな。上位五十人を拾い上げればいいんだけど、モニターで読むのがつらいのなら、プリントしてもいいし。なにしろ部室のプリンターは型は古いもののA三サイズまでフルカラー印刷できるんだ。

 俺たちは堂々と部室に向かった。

   

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